他愛のない短編集

 

 

 

『子供』
 
 
 
自宅にて
 
「ねぇ、クロストル」
「ん?」
朝からリビングで朝刊に目を通していたクロストルの前に、マリアはコーヒーを注いだカップを置いた。
「何だ、マリア?」
クロストルは朝刊を片手に持ち、置かれたコーヒーを飲んだ。
 
 
 
 
「子供、何人欲しい?」
 
 
 
 
「は!?」
口に含んだコーヒーを思わず吹き出し、朝刊がぐしゃぐしゃに濡れてしまった。
クロストルはしばらくむせ続けた。
「何でいきなり、そんな事を聞くんだ?!」
健全すぎる教育を受けてきた彼にとって、その類の話はご法度であった。
「ご、ごめん!私が言葉足らずなせいで・・・・・・もしもの話よ、もしも、の!!」
「何だ、もしもか・・・・・・」
字のインクが汚れて読めなくなった朝刊をゴミ箱に捨て、クロストルは再び椅子に座る。
 
「そうだな・・・・・・一人っ子というのも少し不安だ。多いほうが良いだろう」
「うーん、でも多すぎるのも大変でしょ。」
「養育費なら心配ない。こればかりはセバスチャンに頼むのも気が引けるが、コンツェルンの方から出してもらう」
「いいの?会社のお金を横領しちゃって」
「大丈夫だ。むしろ資金が余分にありすぎて逆に税金を多く取られかねない。少しでも減らしたほうがいい」
「でも仕事柄、あなたがいつも面倒見ることは出来ない」
「いや待て、そもそも俺の仕事がバレたら大変だぞ。殺し屋家業なんて子供に知れたら・・・・・・」
「この街にはいられなくなるわね・・・・・・」
「なおかつ、丁度友達が増え始めてきた時にそんな事が起きたら?」
「・・・かわいそう・・・・・・」
 
 
「・・・今のが、もしも、の話で良かったと思う。マリアが本当にその気なら、俺はこの家業から足を洗わねばならなかった。それに・・・・・・」
「それに?」
 
 
「・・・・・・それに・・・・・・・・・・・・」
なかなか口に出せない。
健全すぎる彼の事だ、彼女には容易に想像がつくはずだったが──────
 
「・・・・・・分かった。もしかして・・・・・・・・・」
「うっ!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「セバスチャンさんがいる自分の会社に戻らないといけないから、嫌なんでしょ?」
 
 
 
「え・・・・・・?あ、ああ。そんな所だな・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
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『心配』
 
 
ある休日 自宅リビングにて
 
「なあ、マリア」
彼女を呼んだクロストルは心配そうな表情だった。
「どうしたの?」
「今度セバスチャンに頼んで、この家を改築しようと思う。俺が留守中の間お前を護ってくれるセキュリティーシステムを搭載して」
「それはありがたいけど、余計なお世話よ。あまり私をみくびらないでくれるかしら」
「だが、万が一・・・・・・」
 
 
 
「だいじょーぶ!自分の貞操は自分で守るわ!」
 
 
「なっ!!」
最も心配していたことを当てられたクロストルは思わずどきっとした。
「ば、馬鹿!そういう言葉は軽々しく口に出すものでは・・・・・・」
「やっぱり。クロストルが一番心配していたのはそこだったんだ」
「う・・・・・・」
 
 
 
 
 
「確かにそうだ。俺はお前を、誰にも奪われたくないと思って・・・・・・」
「・・・ありがと」
 
 
 
 
「やっぱり私のこと、愛してくれてるんだ」
 
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「歯ァー磨ケヨォォォォォォォォォ・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
『ハーデー』
 
 
 
 
ポップスター某所上空
 
 
「・・・アー、かーびぃノ奴ニ吹キ飛バサレテ結構ナ時間ガ経ツナァー」
トルネイドカービィによって空の彼方まで吹き飛ばされたデンタル魔獣ハーデー。
彼は今、ひたすら空を飛び続けていた。
「テイウカ、一体ドコマデ飛バサレレバ地上ヘ落チルンダ?ズーット雲ノ中、青空ノ下!!」
トルネイドカービィが発生させた竜巻に飲み込まれ、飛び続けてもう数日が経過する。
このままポップスターの衛星と化すのだろうか、ハーデーがそう思ったときだった。
 
 
 
ガクン
 
 
 
「オオ!重力加速ガ始マッタ!!」
ハーデーの体が地上へ段々近づいていく。
「頼ムカラ落下ノ衝撃デばらばらニナラナイデクレ~!!」
彼を包んだ竜巻は不思議な力を持っており、最初に竜巻の中に巻き込まれたものが致命的なダメージを受けることはない。
ハーデーを無害な魔獣だと判断したカービィのちょっとした情けだろうか。
デンタル魔獣は今か今かと、地上への到着を待ちわびる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その先で起きる悲劇を知らずに。
 
 
 
 
 
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おまけ
 
『若き日のパーム』
 
 
 
 
「アレはパパがとっても若い頃だったかなぁ」
 
 
当時の私はバリバリのサラリーマンでね、日々会社のために尽くして働いていたものさ。
業績も右肩上がり、給料も普通の平社員よりずっと多かった。
そのうち社長の座に登りつめるのも遠くないとまで言われたほどだ。
 
だが、そんなある日の事だ。
 
事件は朝の満員電車で起きたんだ。
 
 
 
 
 
 
 
「ふぅ・・・・・・相変わらず朝の出勤は辛いなぁ・・・・・・」
 
 
私はいつものように、出勤ラッシュで人が溢れかえる満員電車で会社へ向かっていた。
 
 
だが、その日だけはいつもと違っていてね
 
 
 
目の前に薄紫色の美しい髪を持った女性が立っていたんだ。
 
 
 
後ろ姿しか見えなかったが、私が見とれてしまうには十分な魅力だった。
 
 
 
何よりも、髪から漂う甘美な香りが疲れていた私の心を癒してくれた。
 
 
 
・・・・・・だが、そんな一時もすぐに終わった。
 
 
 
 
「おい」
 
 
 
一人の男が、私に声をかけてきたんだ。
 
 
 
赤い髪が目立ち、黒いスーツに身を包んだその人はとても会社員には見えなかったんだが・・・・・・
 
 
 
「この野郎・・・・・・」
 
 
 
気がついたら私は、右腕を思いっきり捻られていた。
 
 
 
どうやら眼前の女性は、その男の彼女だったらしくてね・・・・・・
 
 
 
「俺の彼女を汚すなぁっ!!!!」
 
 
 
着いた先の駅のホームに放り出され、喧嘩になった。
 
 
 
そう、私は・・・・・・
 
 
 
「この痴漢野郎!!二度とマリアに近づくなぁっ!!!」
 
 
 
痴漢と間違われていたんだ!!
 
 
 
 
 
もちろん、それは彼の大きな勘違いだった。
彼女が彼の頭を握り拳で力強く叩きつけ、その場で謝罪してくれたから大事にならずに済むと思ったんだが・・・・・・
 
何が原因か、この事は間違ったカタチで会社中に広まってしまったんだ。
そのうち社長から呼び出しをくらい、このままでは社の威信に関わるなどと言われ、パパは退社せざるを得なかった。
 
 
職を失い、街をさまよい歩いていた時、私は一人の女性がゴロツキ達にからまれていたところに遭遇したんだ。
パパも当時は武術を習っていたものでね、襲い来るゴロツキ達は全員コテンパンにのしてやったものさ。
 
 
 
そして、その時助けた女性こそが・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
「今のママって訳か」
 
「そういう事だ。奇しくもあの時起きた誤解によって、結果的にパパはママと結ばれたって訳さ」
「そしてその後は、このアルバムに載ってた通りの生活を過ごしていたのね」
フームが手元のアルバムを指差す。
「ああ。だけど正確には、都会の狭苦しい生活から抜け出したいという事もあって、それにはプププランドに移り住んだ後の写真も混ざっているんだ」
「へぇー」
 
「パパを誤解してた男の人、今はどうしてるのかしら・・・・・・」
「さあね。少なくともあの街の住人では無さそうだし、おそらく他所から来たんだろう」
「もしかしたら、他の星からやってきたのかもな!」
「ブン、いくら何でもそれは無いわ。当時は宇宙船すら普及してもいなかったのよ?」
「ちぇ・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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つまんないあとがき
 
 
とりあえず、マリアさんは大胆な性格でもあるという事で(汗
一本目で最後に、クロストルが柄にも無い事やってますね、すいません。
平たく言えば普段は恥ずかしがりやと言うか何と言うか・・・・・・
 
 
おまけのエピソードですが、よく見ると若き日の大臣に突っかかった人物は・・・・・・?
 
その際、「クロsあいつらの年齢どうすんの?」という話が出るかと思われますが
とりあえず以下の設定で納得していただければ(汗
 
 
 
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メックアイ
 
地表の大半が機械で覆われた産業惑星。
性別を問わず全住民に労働が義務付けられており、お役人だろうが大統領だろうが肉体労働は当たり前である。
未成年でも小学校の授業には「仕事」という必修科目が定められており、生徒達は職業体験として参加する。
これは中学、高校と段階を踏んで「労働」というハードなものとなる。
大学にしても「工業大学」「商業大学」の2つに1つであり、普通の大学は存在しない。
 
 
この星は科学技術のレベルも頭一つ抜けており、今も昔も宇宙3大文明惑星トップの座を決して譲らない。
メックアイ住民の最大の特徴は、メックアイ政府の主導により労働効率を保つべく、幼い頃に特殊な細胞「メックス」を注入されていることだ。
この「メックス」は注入された生物の老化を遅らせる、むしろ薬のようなもので、よほどの年月が経たなければ体の機能が衰えることはまず無い。
それ故、メックアイの人々は宇宙の一般的かつ全種族の基準として指定されている種族「ヒューマノイド」の寿命を大きく超えている。
現在に至るまでこの細胞は何度も改良に改良を重ねられ、ついには宇宙で最も長命とされる体を持つ「星の戦士」にまで近づいたとされる。
 
具体的には、ヒューマノイドの10年はメックアイ人の半年、いや、それにすら満たない。
惑星間の交流が盛んになると真っ先に「メックス」の存在が注目され、宇宙中の金持ちが欲するようになった。
だが悪用を恐れたメックアイ政府はこの細胞を門外不出とし、研究者や学者、メックアイ人以外に決して分け与えることは無かった。
かの軍事大国「ディガルト帝国」と同盟を結んだ現在、メックアイ政府は「メックス」の不正な輸出に目を光らせている。
 
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細胞の名前はまんまDS初期に出た落ちモノパズルゲー「メテオス」からですwww
ゲーム中に出てくる惑星の名前から取りました。
 

 

 

 

 

 

 

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