『星のかけら』のレグルス様にリクエストさせて頂いた七夕小説。
デデデが七夕を禁止するというトンでもないことを言い出し、おまけに天の川を独り占めしようとしたので
不在のカービィに代わってジョリカが目論みを打ち砕く・・・という話です。
いや、星を独り占めするなんてデデデならやりかねないでしょう。
ゲーム版の話ですが、過去3回に渡って夜空の星を奪った前科がありますから。
さすがデデデ大王、俺たちに出来ないことを平然と(ry
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『Panic of the Milky Way』
(天の川の大騒動)
年に一度の七夕祭り。
ププビレッジは七夕祭りで賑わいを見せている。
それをぶち壊すような前代未聞の出来事が起きようなどとは誰も予想だにしなかった。
「「はあっ!?七夕を廃止っ!?!?」」
大臣令嬢フームからの報せにジョーとシリカは目をむいた。
最初は悪い冗談かと思っていたが、どうやら本当らしい。
フームは困り顔で続けた。
「デデデの奴、今まで自分のお馬鹿な願い事が叶わないからって腹立てちゃって、七夕を廃止にするって言い出したのよ!!ほんとバカでやんなっちゃう!!カービィもメタナイト卿も留守にしているのに・・・」
ナイトメアとの激戦の後、まだまだ子供なカービィには修行が必要だと考えたメタナイト卿は銀河戦士団とも相談の上でカービィを修行の旅に連れて行くことにした。
しかし、以前独自に魔獣を製造しようとした事もあるデデデ大王をそのまま放っておく訳にはいかない。
そこでメタナイト卿とカービィが修行の旅に出ている間、銀河戦士団からナックルジョーとシリカの2人がププビレッジに監視役として派遣されていた。
旅立つ間際、メタナイト卿から「デデデ陛下の動向には充分注意しろ」と散々言われていた2人だが、予想の遙か上を行くとんでもなさに開いた口が塞がらなかった。
「なんというか・・・」
「よくまあ今までカービィのためとはいえ、あのバカ大王に我慢して仕えていたわね。メタナイトも・・・」
今更ながらにメタナイト卿の苦労が忍ばれて、改めてメタナイト卿の度量の大きさに感心する2人だった。
思わず三人が大きくため息を付いたその時、部屋の電気が点滅したかと思うと消えてしまう。
ちなみにそれはこの部屋に限ったことではなく、城全体、いや村全体の灯りが消えてしまっていた。
「なんなの?停電?」
「いや、非常電源さえつかねえってことは・・・。ただの停電じゃない。誰かが電気を止めてかき集めてるんだ!!」
「なんですって!?じゃあ・・・」
ジョーの言葉にシリカは思いついたように声をあげる。
この村にそんな無体な横車を押すような暴挙をしでかせる者はたった一人しかいない。
ジョーとシリカは頷きあうとすぐさまデデデの部屋へと向かった。
デデデ城の屋上にはいつの間に用意されたのか、巨大な機械がおかれている。
これこそが村中の電気、非常用電源までもを吸収していた根源だった。
機械の覗き窓らしきものから機械の内部が見える。
その中身を見てデデデはご満悦だった。
「だいぶん集まってきたゾイ。天の川の星を全部集めて、七夕は特権階級だけのものにするゾイ。愚かな人民には許されない特権行幸にしてやるゾイ!ダハハハハハ!!」
「でも、陛下。いつまで続けるんでゲスか?私の開発した『天体収拾機』は何分消費電力がハンパじゃないから、回収中はずっと他の電気が使えないでゲスよ」
「天の川の星を全部収拾するまで稼働させるゾイ!!終わるまでは大王権限で電気供給はストップさせるゾイ!!」
「へ?じゃあ、天の川の無数の星を集めるまで全く電気が使えないわけでゲスか!?」
「当然ゾイ!!」
さも当たり前のように言われてエスカルゴンは大きくため息を付く。
かれこれ1時間近く稼働させているが、まだまだ半分にも及ばない。
この調子だと夜明けまで作業が続いて、最悪徹夜にもつれ込む可能性がある。
もちろん、その総責任者はエスカルゴンに他ならない。
ワシはもう寝る、と無責任にも放り出したデデデ。
その後ろ姿をようやく原因を突き止めたジョーとシリカは見送った。
「やっぱりデデデのオッサンが余計な事してたのか!!」
「星まで強奪するなんて、どこまで欲張りなのよ!!」
怒りも露わに文句をぶちまける2人。
メタナイト卿の忠告はしっかり受け止めていたが、それでも認識はまだまだ甘かったらしい。
まず、当面の目標として、機械を止めてこのくだらない企てを阻止しなくては・・・。
機械が星を全部回収してしまってからでは手遅れになってしまう。
「シリカ、今何時だ?」
「午前一時三十分、夜明けは午前5時だから残り三時間ちょっとしかないわ」
「くそっ!!プログラム調整と解除じゃ間に合わねえ!!」
機械を止めようにも捕らえられた星を解放できなくては意味がない。
強欲なデデデのこと、機械さえあれば懲りずに回収作業を続けるかも知れない。
残る選択肢は・・・。
ジョーは握り拳を固めて進み出る。
それを見たシリカは慌ててジョーを止めた。
「ちょっと!!やめなさいよ!!ジョー!!」
「うるせえな!!もうあの機械ぶっ壊すしか方法ねえだろ!?」
ジョーの言うとおり、デデデのくだらない陰謀を打ち破り、時間以内に星達を解放するにはあの機械を壊すことでしか方法は残されていない。
だが、シリカは必死でジョーを止める。
「無茶よ!!さっき言ってたでしょ!?あの機械、村中の電気を集めて消費しているって!!下手に触ったり壊したりしたら、ショートするか最悪爆発するかも知れないのよ!!」
「じゃあどうするんだよ!!」
そうしている間にも星は着々と集められている。
このまま時間が過ぎれば過ぎるほどデデデの思うつぼに事は進んでいってしまう。
難しい声をあげたシリカの目に機械の配線が飛び込んできた。
無数にある配線のうちひとつ、それ全部にエスカルゴンが注意を払っているように見えない。
シリカは急いで手頃な配線と同じコンセントに自分のコンピュータを繋いだ。
「何するつもりだ?」
「あの機械に繋いでる電源だけは生きてるわ。だったら電力線通信でハッキングできる!!それで一時、機械を止めてその間に破壊するのよ!!」
「ほんとか!?」
思いもかけない光明にジョーの声が弾んだ。
だが、シリカの難しい声音は変わらない。
「でも、もしエスカルゴンがセキュリティに最新版のAES暗号使っていたら時間的にお手上げだわ。DES暗号タイプならまだいけるかも知れないけど・・・」
「どれぐらいの時間で出来る?」
ジョーの声にも緊張が走る。
時間との戦いは一番厄介で難解なのは承知の上だった。
シリカは操作したまま続ける。
「AES暗号だったら一日以上はかかるわ。DES暗号なら三時間位かかるかも知れないけど・・・」
言いかけたその時、コンピュータに検索結果が出てきた。
その結果を見たシリカの表情が明るくなった。
「やった!!DES暗号!!これならギリギリ間に合うかも知れない!!」
午前三時、間もなく四時になろうとしていた。
エスカルゴンはあくびをかみ殺しながら機械の様子を時々見ている。
星は半分以上集まってきている。
この調子だと夜明けまでには全部回収できそうだった。
ジョーはその様子を虎視眈々と見つめている。
機械はまだ作動している。今はまだ攻撃できない。
反対側ではシリカが必死で作業している様子が映っていた。
ジョーの脳裏に数時間前、シリカと打ち合わせたときの記憶が蘇る。
『勝負の時は一瞬よ。ハッキングがばれたらエスカルゴンは機械の通信をスタンドアローンにしてしまうかも知れない。そうしたらもう繋げないし、ハッキングも出来ない。ハッキングで機械を止められるのもほんの僅かしかできないわ』
コンマ1秒でも攻撃するタイミングを間違えば、攻撃するジョーの体は膨大な電力で消し炭になるかも知れない。
そう言ったシリカの表情はひどく苦悶に満ちていた。
本当はやりたくないのだろう。
だが、ジョーは迷わず頷いた。
『わかった。でも、それしか方法はないんだったらやってくれ。俺が機械をぶっ壊す』
『でも、もしジョーが・・・』
言いかけたシリカをジョーは止めた。
『大丈夫だ、俺は死にやしねえ。シリカはシリカのやることに集中してくれたらいい』
『なんの根拠があってそこまで言い切れるのよ』
『根拠はないけど、根性で死なねえ。絶対にシリカには後悔させないって泣かせないって約束する』
そう言ってようやくシリカは渋々ながらその提案を飲んだ。
時間が過ぎるのがいつもよりも早く感じる。
ジョーは込み上がってくる緊張を抑えるように拳をいつになく強く握りしめた。
サインは機械の上部、ランプが消えたその一瞬だ。
『パチッ!!』
機械が重たげな音を立てて停止した。
シリカのハッキングが成功したサインだった。
「なっ!!何事でゲスか!?」
(今だ!!)
その間を逃さず、ジョーはその場に飛び出すと勢いを付けて機械に向かう。
それを見たエスカルゴンはジョー達の目論見にようやく気がついた。
「ライジングブレイク!!」
「そうはさせないでゲス!!」
シリカが考慮したとおり、エスカルゴンは機械のメインコンピュータに触れる。
そしてスタンドアローンの状態にしようとした。
ジョーのライジングブレイクがヒットした瞬間、同時に機械からも白く見えるほどの電力が迸った。
ドン!!
機械が破裂したと同時にそれまで捕らえられていた無数の星達が夜空へと舞い上がっていく。
まるで無数の流れ星の巻き戻しを見ているような不思議な光景だった。
その様子に慌てるエスカルゴンだが、シリカはそれどころではない。
「ジョー・・・、まさか・・・」
機械は破壊できたがジョーの姿はどこにも見あたらない。
破裂した瞬間の激しい光芒でジョーの姿は完全に見失ってしまった。
嫌な予想にシリカは思わず肩を落とす。
「嘘でしょ・・・、約束したくせに・・・」
シリカの目に涙が溜まっていく。
美しく元に戻った天の川も涙でにじんで見えもしない。
シリカは大音量の大声で叫んだ。
「ジョーの大バカ者!!」
「・・・誰がバカだって?」
いつもの生意気な言い回しが機械の瓦礫の中から聞こえた。
振り返ったシリカの目の前で機械の残骸の山が音を立てて崩れていく。
瓦礫の山からはい出してきたジョーは所々火傷をしているようだが、命に別状はなさそうだった。
どうやら、破壊したときに砕けた機械の破片が盾代わりになって無事で済んだようだ。
「人がいないと思って言いたい放題言ってくれるんじゃねえか、シリカ」
「・・・嘘つき」
精一杯それだけを振り絞って呟いたシリカの目からボロボロと涙がこぼれていく。
珍しい仕草に焦るジョーを尻目にシリカは続けた。
「泣かせないって言ったくせに、約束したくせに、大嘘つき!!大バカ者!!心配したんだからね!!」
「悪ぃ・・・。本当にごめん・・・」
泣きやむ様子のないシリカにさすがのジョーもすまなそうに顔を曇らせる。
そして、あやすように慰めるようにそっと肩を撫でた。
「うるさいゾイ!!何事ゾイ!!ああっーーーーーーーーーーーー!!」
ようやく異変に気がついて起きてきたデデデはその場の光景に目をむいた。
破壊された機械とデデデに怯えたように震えているエスカルゴン、そしてその場にいたジョーとシリカに寝ていた間に起こったこと全てがわかったようだった。
「おのれ~~~!!お前達、許さんゾイ!!」
「「は?」」
振り返った2人の眼光の鋭さにデデデはハンマーを振りかぶったまま、硬直してしまう。
お互いを悩ませ、苦しませ、悲しませた諸悪の根源の登場にジョーとシリカの怒りは納まらない。
ジョーの手元で握られた拳から物騒な音が聞こえる。
シリカも無言で愛用している銃を取りだした。
「ようやく来やがったな。この極悪大王が・・・」
「銀河戦士団としてこんな暴挙は許されません」
明け方。
いつもの鶏の鳴き声に代わって、その日はデデデとエスカルゴンの悲鳴が村中に響き渡った。