ガルクシア話:番外編

 

 

 

 

 
 
 
 
ガルクシアは、抜きん出た変わり者であった。
 
 
薪割りで傍に斧があるにも関わらず、自分のサーベルで斬ろうとしては刃毀れを引き起こす。
牛乳の買出しを頼まれれば、牛一頭を引っさげた誇らしげな笑みと共に帰ってくる。
普段着、寝巻き、正装はもちろんのこと、夏物も冬物も全て同じデザインの軍服。
就寝時もハンモックでなければ落ち着いて眠れない。
娘が転んでは大変だからと、途方もない数の小石を手作業で取り除こうと試みる。
自分の趣味で買ったものをろくに使わない、等等あげていくとキリがない。
 
彼の、ともすれば「奇行」と評されかねない行動の数々も、実際は故意や悪意によるものではない。
ただ「不器用」なだけなのだ。
決して形式的なマニュアル思考に捕らわれる事なく、持てる知識と勘だけで自分なりに目的を達成しようとしているのである。
 
勿論、ガルクシアの全てが不器用という訳でもない。
得意分野においては頭の回転も速く、時には奇策が功を奏する事だってある。
彼が他者から「不器用」と指摘される原因は、いつも慣れない事に挑戦する無謀な自信だけでなく―――
 
 
 
 
自身が知らなかったり、想定しなかったような状況にあった。
 
 
 
 
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ある日の夜。
いつものように、ガルクシアが自室のハンモックによじ登ろうとした時だった。
 
 
「!!」
 
 
体重をかけた途端に網が切れ、最早ハンモックとして機能しなくなってしまったのである。
 
「・・・・・・参ったな・・・」
 
彼にはハンモックが無いと、どうしても困る事があった。
寝床が無い。
ベッドも「慣れなくて眠れない」という理由で撤去した為、このままでは屋敷の中で雑魚寝せざるを得なくなる。
流石に一家の父である手前、そんな情けない姿を妻と娘に見せられるはずが無かった。
 
無論、だからこそ二人どちらかの部屋に入れてくれるよう頼むのも気が引けた。
シリカも自身のプライバシーを気にする年頃で、ようやく念願の一人部屋を手に入れたばかり。
部屋に押し入って親子の関係を崩しては、今後の生活にも差し支える。
 
 
「・・・・・・いや、ガールードならきっと・・・」
 
ささやかな希望を信じ、ガルクシアは火の灯ったカンテラを携え、廊下に出た。
 
 
時刻は丁度0時を回ったばかり。
普段は妻と娘が11時前後に、当の自身は暇を持て余しながら12時以降に就寝する、というのが当たり前の光景であった。
ただ、実の所ガールードの場合は意外と遅く、書斎で読書に耽っている事も珍しくは無かった。
どうせ今夜もまだ起きているだろう、とガルクシアは踏んだ訳である。
 
 
「・・・・・・・・・はぁ」
 
 
しかし、彼女は書斎に居なかった。
昨日まで置いてなかった本が卓上にあるのを見るに、先程までここに居たという事なのだろう。
 
一足遅かった。
いや、もしかしたら就寝前に浴室へ向かったのかも知れない。
少なくとも自分よりは断然、身だしなみにこだわる彼女の事だ。
有り得なくは無いと考え、今度は浴室を目指して歩き出した。
 
 
 
「いない・・・か」
 
隣接している洗面所がほのかに温かく感じるものの、浴室に人影らしきものは全く見当たらない。
念の為に名前を呼び、数回ノックしてから扉を開けてみたが、誰も居ない。
またしても一歩遅れる形となってしまったのだ。
 
「という事は、まさか―――」
 
 
予感は見事に的中。
ガールードの部屋に寄ってみれば、特に物音は聞こえない。
注意深く扉を観察するが、明かりが漏れている様子も見当たらなかった。
 
「寝て・・・しまったのか・・・・・・」
 
これは困った事になった。
今更起こすのも気が引けるし、他人の眠りを邪魔したくは無い。
別の部屋で眠るという手も考えたが、そのような所を目撃されてはやはり恥ずかしい。
 
その上、暗い。
土地はこれといって何のいわくも無ければ、屋敷自体も此処へ移り住んできた際に新しく建てられたものだ。
だから、いわゆる「幽霊」の類など存在するはずが無い。
そう信じているにも関わらず、彼は不安を拭い去る事が出来なかった。
愛用のハンモックが臨終したせいもあり、安らげる寝床を失った彼はいつになく恐怖に怯えていたのである。
 
 
扉の前で立ち往生すること数十分。
次第に身体の熱が奪われ、寒さに震え始める。
 
それもその筈、ガルクシアは彼女を探すのに必死で忘れていたが、現在の屋敷外の天候はなかなかの大雪である。
とても廊下に居られたものではない。
直ぐに自分の部屋へ帰還したい所だが、生憎ながら暖炉用の薪が底をついていた事を思い出す。
よく考えたら、今日(正確には先日の出来事)薪の補充をしなかったのは自分だけだ。
まさに自業自得。
このまま引き返したとして極寒地獄を耐え抜ける手段は、有りっ丈の自分の服に埋もれる事だけ。
倉庫へ向かおうにも、一旦勝手口から外を経由するほかに道は無し。
かといって就寝中に薪を分けてもらおうとして押し入るのだけは勘弁したい。
 
 
「このままでは凍え死んでしまう・・・・・・・・・はぁぁ・・・」
 
 
最早、他の方法を考えてなど居られない。
目の前にある温もりを求め、意を決したガルクシアは取っ手を捻り、ガールードの部屋に入ると即座に扉を閉めた。
 
 
助かった。
声を出せる状況であれば、第一声は間違いなくそれ以外に無い。
 
意味無く這いつくばりながら暖炉を見やると、やはり残りの薪に余裕があるようで、結構な本数の放り込まれた形跡が在った。
これだけ大きな灯火になるのも頷ける。
要領が良いのだろう、自分の部屋のそれよりも断然暖かいものがあった。
 
 
問題は、これから何所を仮の寝床とすべきか。
普通に考えれば妻の眠るベッドを妥当と見るべきである。
しかし相手の気持ちになって考えてみると、朝目覚めたら身内の者が断りもなく横で寝ているのは、決して気分が良いものとは言えない。
 
「・・・まあ、寛容だから許してくれるだろう・・・・・・」
 
ガールードが絶対に怒らないという保障は出来ない。
だが、流石に床上で眠りたくは無かった。
早く横になって眠りにつきたいという気持ちがはやり、最終的にベッドを選ぶ。
どこか優先事項を間違える事の多い彼は、いつも背中の鞘に収めたサーベルを外すという事を考えなかった。
 
 
(・・・・・・・・・な!?)
 
 
ところが。
本格的にベッドの上で横たわり、ガールードの方を見やると、彼にとって衝撃的な光景が広がっていた。
 
 
 
 
(冗談だろう・・・・・・暖炉もあるとは言え、この季節に、全裸・・・・・だと・・・!?)
 
 
 
 
よりにもよって彼女は、何も羽織っていない裸のままの姿で、至って気持ち良さそうに眠っていたのである。
 
 
(し、信じられん・・・・・・)
 
 
彼女自身に恥らう気があまり無いという事は、これ以前にも何度か耳にしていた。
また、本人から「寝る時はいつも脱いでいる」という類の話も聞いたこともある。
しかし流石に、着替えるために脱ぐ事すら躊躇するこの季節、この悪天候の中でも平然と裸でいられる彼女の姿を見たことは、殆ど無いといっても良い。
 
(こういう環境には慣れているんだろうな・・・・・・恐らく)
 
なにせ一流の戦士だ。
自分には想像もつかない、劣悪な環境下を生き抜いてきた結果とも言えそうである。
そういう事にしておこう、とガルクシアは深く考えない事にした。
 
それにしても毛布すら掛けずに、というのは流石にどうだろうか。
ガールードの為にクローゼットから毛布類を取り出すことを思いついたが、些細な事で目を覚ましてしまうと色々都合が悪い。
さして苦でも無さそうに見える事からも、余計な気遣いは不要であろう。
 
自分だけ毛布を被り、ガルクシアは彼女に背を向けて目を閉じた。
 
 
(・・・・・・・・・・・・)
 
 
しかし。
自分の真後ろに妻の裸体が横たわっていると思うと、気が散りすぎて眠ろうに眠れない。
心の平穏の為、なるべく見まいと己に言い聞かせるものの、つい後ろを振り返ってはあられもない姿に鼓動が高まってしまう。
胸だけでなく、とうとう下腹部にまで目が行った時は、自身の頭を激しく掻き毟るほど平常心を乱されていた。
煩悩を掻き消そうと別の事を必死で考えるが、上手く行くはずも無い。
少しでも視界に妻の身体が映り込む度に、全部押し潰されてしまうのであった。
 
 
 
それから1時間が経ち、ガルクシアはある事に気がついた。
 
 
(・・・・・・無防備すぎる)
 
 
安らかな眠り顔のガールードは、明らかにどこをどう見ても隙だらけだった。
何かを警戒している時は常に殺気を放っており、実戦経験の薄い自分でもハッキリと感じ取れる。
最も、まさか寝床と暖を失った夫が部屋に転がり込んでくるなど、普通は予想もつかない事だが。
 
 
(・・・触っても、気付かれないか?)
 
 
ハッと気付き、若干伸ばしかけた片手を力強く抑え込んだ。
何を考えている自分は。
果たしてそんな一方的な行為が許されるとでも、本気で思っているのか?
答えはNOだ。
運悪く目覚めようものなら、確実に険悪な空気が流れる事だろう。
 
 
それでも彼は悲しいかな、一人の男に過ぎなかった。
遂に眠る事を放棄し、膝立ちで彼女の体をじっと見つめ続けるようになったガルクシア。
悶々とする彼の脳内では、淫らな妄想の数々が入り乱れていた。
胸を鷲掴みにする。
太股を撫で回す。
身体中を舐めまわす。
拘束。
愛撫。
そして本番。
喘ぎ声が漏れそうになりながらも必死に我慢して堪える、そんな彼女の姿を想像しただけでガルクシアは頭がおかしくなりそうだった。
 
 
「う・・・・・・んん・・・・・・・・・」
 
 
ガルクシアが壮絶な葛藤を繰り広げているとも知らず、熟睡中のガールードは無意識に声を漏らす。
思わず飛び退き、鼓動の高まりも最高潮に達しかけた。
 
(まずい・・・起きるか!?)
 
流石に起きてしまうだろうと覚悟を固めたが、その後の彼女の反応があまりにもよろしくなかった。
 
「・・・あ・・・・・・あ・・・んっ・・・」
 
僅かながら身を捩じらせ、喘ぎ声を発し始めたのである
これがまた大変色っぽい声とそそられる表情で、ガルクシアの妄想を一層加速させるには十分、むしろ手に余りすぎた。
 
(や、や、止めろ・・・・・・そんな声を出されたら、俺の理性が・・・・・・!!)
「や・・・・・・んぅっ・・・・・・あ・・・あ・・・・・・」
 
何なんだコレは?
一体どういう夢を見たらこうなるんだ?
それとも実は起きていて、俺をからかう為にわざとやっているのか?
だとすれば、こればかりは非常に不愉快だ。
 
(俺は真剣に眠れないというのに!!)
悶々とした気持ちが怒りに押し流され、無理矢理起こそうと手を伸ばした時だった。
 
 
 
 
「・・・やあっ・・・・・・嫌・・・・・・あ・・・」
 
 
それまでと一転し、喘ぎ声が段々と悲痛に満ちたものに変わっていくのが目に見えて分かった。
手を止める。
 
 
「止めて・・・放して・・・・・・やっ、ああっ・・・・・・」
(・・・・・・・・・・・・)
 
ガールードの頬を、一粒の滴が伝っていく。
涙だ。
 
「お願い・・・・・・穢さないで・・・嫌っ、嫌あああああ・・・・・・」
 
 
何かが、いや全てが冷めたのだろう。
無表情でベッドを降りると、床に置いたカンテラに再び火を灯す。
呻き、身をよじらせ続ける彼女の身体に、自分が包まっていた毛布を掛ける。
 
「誰か・・・助けて・・・・・・やだっ、やだっ・・・出さない・・・で・・・あっ、うあぁ・・・」
 
涙を流し、尚も悲しい声を出す彼女を背に、振り返る事も無く扉を閉めた。
 
 
それからガルクシアは一言も発さず、カンテラ片手に屋敷を飛び出した。
膝ぐらいにまで達する積雪をものともせず、全速力で森の奥へ、奥へと走り続ける。
どこを目指すわけでも無く、一切の思考を捨て、只ひたすらに雪を踏みしめ、走った。
やがて街を見渡せる崖の前で立ち止まり、叫んだ。
 
 
 
 
 
うあああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!!
 
 
 
 
 
声も枯れそうなほど長い絶叫の後、ガルクシアは自らの愚かしさを恨んだ。
 
彼女は常に、戦いの世界に身を置いてきた。
今までも、今も、これからも。
血気盛んな男ばかりの、不条理で殺伐とした世界に。
 
自分はガールードの事を、全部理解したつもりで生きていた。
しかし実際はどうだ。
あの声を聞くまで、彼女が過去に凄惨な仕打ちを受けてきたかも知れないと、そう考える機会は無かった。
確かにやさぐれていたあの頃、初対面の彼女に向かって処女か否かを尋ねた時、否定こそしなかったが答えを濁しているようにも見えた。
その裏には、想像もしなかった重い意味が含まれていたのだ。
 
あれは只の寝言でも何でもない。
紛れも無く、脳裏に潜在的トラウマとして刻み付けられた、過去からの悲痛な叫びそのものだった。
論理的に考えれば既に昔の出来事。
だが、彼女の心は未だ救われていなかった。
 
どうしてもっと早く気付いてやれなかったのか。
部屋から抜け出した時も、もっと適切な選択肢があった筈なのに。
何も思いつかなかった。
何も大した事をしてあげられなかった。
 
嗚呼。
俺はこんなにも、救いようのない、不器用な男だったのか。
 
 
 
「・・・・・・帰ろう」
 
自分自身を徹底的に哀れみ、蔑む。
来た道を引き返し、再び歩き始めた。
 
 
自分自身への失意が圧し掛かる、重い足取りの帰り道。
苦しむ妻の傍に居てやる事すら出来ず、あまつさえ逃げ出した。
ガルクシアがこの数年で最も、己の無力と無理解をひどく痛感した瞬間であった。
 
 
しかし、落ち込んでばかりもいられない。
ガールードの悲しき一面を知った以上、これからの自分に求められるのは「夫」としての自覚である。
何時までも支えられるばかりではない。
自分も彼女を支えてあげよう。
例え不器用でも不器用なりに、彼女の為になる事は出来るはずだ。
それが、生涯のパートナーとしての義務なのだから。
 
完全に立ち直ったとは言い難いが、表情は先程よりもやや明るさが戻っている。
少なくとも、自分なりのけじめをつけたようであった。
 
 
 
「・・・・・・・・・?」
 
屋敷の近くまで戻ってきた所で、異変に気付く。
 
正門の前に、4人ぐらいの厚着の男達が屯していた。
顔も知らない連中だ、しかも典型的なほど人相が悪い。
これはどう考えても不審者と見て、間違いないだろう。
 
(・・・で・・・・・・)
(・・・・・・ああ・・・・・・)
 
どうやら何か話し合っているようで、此方が自然体で歩いて接近しようが気付く気配は無い。
処理するか否かは、この男達の会話内容から判断する事にした。
 
 
「・・・なるほど。しかしまぁ、それにしてもデカイ屋敷だ」
「相当金持っているんだろうよ。こいつぁ稼ぎ甲斐がありそうだぜ」
「けど見つかったらどうする?」
「なに分かりきった事を。いつものように皆殺しでいいだろ」
「・・・」
「そういや噂で聞いたんだがよ、ここに住んでいる一家の奥さんはけっこうな美人だって話だ」
「へぇ、つまり?」
「犯っちまおうぜ、俺達で」
「おっ、そう来ましたか。やべぇムラムラしてきたぜ」
「・・・・・・」
「大丈夫か?揃いも揃って武術に精通してるみたいな話も聞いたことあるんだが」
「平気、平気。数ではこっちが勝っているんだ、力ずくで輪姦そうや。ついでにその娘さんもな」
「良いねぇ、処女も犯れるなんてサイコーだぜ。おっと、もちろん口封じで最後は殺さないと」
「それはそれで勿体無いよなぁ。拉致っちまおうぜ。そんで夜な夜な性処理の道具になってもらうんだ、ヒッヒッヒ」
「・・・・・・・・・」
「ならプラン追加だ。まず金品をありったけ攫ったら、人妻の部屋に乱入する」
「そして皆で犯しまくる、だろ?」
「そう。次は娘の方もおいしく頂こう。後はどっちをお持ち帰りするか適宜判断して、要らない方は殺す。旦那は・・・」
「どう考えても要らないだろ。出くわしたらすぐに始末しねぇと」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあよ、まずは人妻の方だが俺はオッパイ貰うぞ。ちなみに口は布でも何でも突っ込んで喋れないようにしておく」
「へへ、じゃあこっちはケツを頂く。突くぜ~突きまくるぜ~」
「あっずりぃぞ。俺もケツがいい」
「そんじゃ、俺は下のお口でバッコンバッコンヤらせてもらいますか。おい、お前は?」
「俺か?そうだな、俺は――――――」
 
 
 
 
全部頂こうかッッッ!!!!
 
 
 
 
「ばべるぅ」
「んばふぁろぉっ」
 
下賎な強盗のうち2人の頭部に、亭主の強烈な鉄拳が命中。
残りの2人もそれに巻き込まれ、雪の上に吹き飛ばされた。
 
「くそ・・・・・・さり気なく溶け込んでいたから油断した・・・・・・」
「な、何だてめぇはっ!!」
「お前らが狙っている人妻とやらの・・・・・・夫だ」
「ゲェッ!?」
 
殺意にみなぎる瞳のガルクシア。
その怒りにオブラートする不敵な笑みを見せつけ、背中の鞘から2本のサーベルを引き抜く。
 
許さない。
ガールードの苦しみも知らずに、こいつらは野蛮な下心をたぎらせている。
この性欲に飢えた野獣共に肉体を蹂躙される姿など、想像しただけで吐き気がする、怒りが収まらない。
絶対に許すものか。
妻に愛される者として、妻の弱さを支える夫として。
今ここで叩き潰す。
 
 
「先に言っておこうか。俺に仏の顔は一度も存在しない」
 
 
さぁ、地獄を見せてやろうか。
 
 
「覚悟はいいか、下種ども」
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
「怯むな!!相手は一人だ、俺達の敵じゃねえ!」
 
起き上がった強盗達も懐から、それぞれ形の微妙に異なる普通の刃物を取り出し、臨戦態勢に入る。
 
「遅いッ!!」
 
だがそれよりも早く、一人の腹部にガルクシアの膝蹴りが命中。
屋敷の鉄柵と挟まれて喰らった男は、その場で崩れ落ち悶絶。
 
「うぎゃっぽぉぉ・・・」
「まず一人」
「くそ、ふざけやがってェ―――!!」
 
逆上した一人にも追い討ちをかけるかの如く、彼はサーベルの柄で顔面を抉るように殴りかかる。
ナイフを振るい弾き返すも、間髪入れずにもう片方の柄と拳が飛来。
 
「あぶね!!」
「チィッ・・・・・・」
 
柄と言っても、ガルクシアのそれは棘の付いた特注品。
辛うじて男はそれを避けたが、掠めた頬の切り傷からは血が流れ出る。
直撃すれば顔の一部が吹き飛ぶどころでは済まない。
剣にも匹敵する凶悪な武器だ。
 
 
「うらぁ!!」
「でぇじゃびゅっ」
 
棘の鋭利さに戦慄している間にも、また蹴りが一人に向けて喰らわされる。
反撃で振り回される刃物を片手で受け止め、続け様にエルボー、頭突き、止めに目潰しのフィニッシュ。
男は一人目よりも更にのた打ち回り、苦悶の表情を浮かべた。
 
「ぎにゃあああああ・・・・・・」
「二人。暮れのゴミ掃除も早く済みそうだな」
「ば、馬鹿にしやがって畜生ぉっ!!」
「よせ、早まるな!!」
 
まだ倒れていない一人が、挑発に乗せられる様にガルクシアへと襲い掛かる。
闇雲に刃物を振り回し、近づく隙を与えまいとするが、思いつきの策など彼には無意味だった。
 
 
「・・・ふん」
 
 
集中力を高め、一瞬の隙を突いてナイフ「だけ」を弾き飛ばす。
 
「えっ!?」
「馬鹿――――――」
 
唖然としている間に素早く接近し、再び膝蹴り。
ではなく、渾身の力を込めたラリアット。
男の身体は宙に浮き、一回転して頭から墜落。
そのまま気絶してしまったようだ。
 
「・・・・・・・・・」
「3人。これでお前だけだ。どうする、殺り合うか?」
「・・・何てこった。あんたのすること滅茶苦茶だ・・・・・・」
「滅茶苦茶で結構。実戦は応用とアドリブとフェイントに限る」
「ああ。でもそれって要するに・・・・・・バカだよなぁ!!?」
 
最後の一人、戦意を失ったと見せかけガルクシアに奇襲。
しかし―――
 
 
「違うッッ!!!」
 
 
 
避けるか、斬り返すか。
この二択だろうと思っていた男は、まさかドロップキックが飛んでくるとは予想もしなかったであろう。
思わぬ行動に油断した男は、無防備に喰らうと吹き飛ばされた勢いで鉄柵に衝突。
起き上がろうとしていた別の男の頭に折り重なり、仲良く気絶した。
 
「ぐりぃんしゃっぽぉ・・・・・・」
「バカと天才は、紙一重だ」
 
 
難なく勝利を収めたガルクシア。
彼らから刃物を押収すると、何を思ったかそれで自身の髪の一部を唐突に切り落とし始める。
髪の毛を何本か束ねて一つの紐に結い上げ、更に別の紐を作っては繋ぎ合わせる作業を繰り返した。
途中、隙を見て襲ってくるしぶとい強盗を足蹴にしながら。
 
「よし、こんなものか」
そうして完成したのは、即席にしてはよく出来た一本の長い縄のようなものだった。
 
「くっ・・・俺達を警察に突き出す気か!」
「直々にそうしたいんだがな。生憎この天候だ、いちいち下るのも面倒臭いし屋敷に戻りたい」
 
強盗達をぐるぐる巻きに堅く縛り上げ、実に雑な扱いで横倒しにすると何処かへ引き摺り運ぶ。
 
「おい・・・・・・まさか・・・・・・」
「その、「まさか」だ。 く た ば れ
 
彼らの予想通り。
次にガルクシアが取った行動は、麓へ続く下り坂の上で強盗共を蹴飛ばす事だった。
 
 
「ちょ、そんな古典的なアッーーーーーーー!!!!・・・・・・・・・・・・」
 
絶叫と共に、勢い良く坂道を転がり落ちて行く強盗達。
情けない最後であった。
 
 
「・・・・・・さて、と」
 
 
 
 
______________________
エピログ
 
 
 
 
翌日
食堂にて
 
 
「・・・・・・・・・・・・」
 
誰かを待っているかのように、一人椅子に座り待機するガルクシア。
と、其処へ丁度良いタイミングで起床したてのガールードが訪れてきた。
 
「おはよう。珍しく早いのね」
「ああ。ところで、少し言いたい事があるんだが・・・・・・」
「何?」
 
 
 
「何でも自分ひとりで抱え込むな」
 
 
 
「・・・・・・?悪いけど、言っている意味がよく・・・」
「本当にそうか?・・・俺はな、お前自身から昔の心の傷について、聞かされたことが無いに等しい」
「!!」
 
「・・・やっと、俺が何を言わんとしてるか気付いたみたいだな」
「・・・・・・誰から聞いたの?」
「誰も何も、お前自身からさ」
「はぐらかさないで頂戴。まるでもう一人の私がいるかのように―――」
「そうだ」
 
 
「あれは寝言・・・・・・と言えるものじゃなかった。まるで昔のお前が、助けを求めているかのようだった」
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・隠したつもりだったけど、やっぱり嘘はつけない道理、ね」
 
 
「そうよ。かつて銀河戦士団で駆け出しの頃、私は無実の罪で遠い宇宙の巨大監獄に連れ去られた」
 
 
「そこは・・・未だかつて経験した事のない地獄だった。個人の尊厳も容易く踏み躙られる、この世の底辺と言っても過言では無かった」
 
 
「しかも只の監獄じゃなかった。其処は各地で手に負えなくなった、名だたる元賞金首や凶悪犯罪者が集められる施設」
 
 
「そんな所に放り込まれた私は、一体どんな目に遭わされたと思う?」
 
 
「捕まったら、乱暴されて、陵辱されて、ひどい時は危うく殺されかける。周囲は同性ですら敵ばかり、安らげる場所なんて一つも無かった」
 
 
「絶望的な状況の中、私は決意したの。生き延びてやると。何がなんでも此処から脱出してみせる、と」
 
 
「それから、私を虐げた連中への逆襲が始まった。戦いの中で確実に力をつけ、捻じ伏せられても何度も立ち上がって、諦めなかった」
 
 
「1ヶ月続いたか、或いは3ヶ月か、今となってはどうでも良い事だけども、ようやく銀河戦士団の助けが入った事で監獄から解放された」
 
 
「結果的にあの場所で、私はそれまで以上に強靭な精神を鍛えることが出来たわ。・・・・・・それで、この忌まわしい心の傷も克服できたと、思ったのに」
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・そうだったのか」
「ごめんなさい。私が貴方の思っているよりも、弱い女で・・・・・・おこがましいわよね。こんなのが、貴方やシリカを支えている気になっていて」
「どうして謝るんだ」
「え・・・?」
 
「むしろこっちが謝りたいぐらいだ。お前の悲しい過去を知ろうともして来なかったんだからな、俺は」
 
「・・・・・・けど」
「何も言うな」
 
 
 
 
「ガールード。あの時お前は、俺の悪い所も何も一切合財ひっくるめた上で、愛してくれた。だから、俺もお前の心の闇を全部ひっくるめて―――愛してる」
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう・・・・・・」
「おい、娘に見られたらみっともないぞ。そんなに涙をポロポロ流して、非常にお前らしくない」
「ごめんなさい・・・でも、少しだけ我がままを聞いてくれないかしら。今は・・・・・・泣かせて」
「・・・・・・ああ。好きなだけ泣け。気が済むまで泣いていい」
 
 
 
 
 
「・・・・・・今日は俺が朝食を作るから、ゆっくり休んでくれ。良いよな?」
「・・・・・・ええ」
「・・・父さん」
「!ああ、何だシリカか。待っていろ、今ウデによりをかけて“スクランブル・ゼボンエッグ”を―――」
 
 
 
 
最  ッ  低   !!!!!!!!
 
 
 
「シリカ!?」
「ぐわあああっっ!!?け、剣で叩くなぁ!!角度を一歩間違えていたら縦にスライスされ―――」
「うるさいっ、このバカ父親!!!」
「待て、待て!!一体どういう事だ、説明してくれ!!」
「説明も何も、私は昨日の夜に聞いたのよ!!」
「え?」
 
 
「お前にいじめられて、母さんが泣いている声を!」
 
 
 
「・・・・・・それって・・・」
「けがさないで、って!助けて、って!!あんなに母さんが嫌がってたのに、お前ときたら!!!」
「・・・どうやら、部屋の外で聞いていたみたいね・・・多分、貴方が部屋から飛び出した所も・・・」
「!!!ご、誤解だ!!本人に聞けば分かる!!あっ、その時は寝てたか・・・」
「うるさい!私だって知っているのよ、父さん昔は相当なワルだったって!!どーせ「夜」もそうなんでしょ!?」
「だぁぁぁぁぁっ、違わないが違う!!!というより年頃の娘がそんな思わせぶりな言葉使うな!!」
「もう許さないんだから!お前なんか、ガールード家の誇りにかけて成敗してやる!覚悟しろぉッ!!!
 
 
 
「待てぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
「た、助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!」
「・・・そうしたいけれど、今日はお言葉に甘えて、母親のお仕事を休ませてもらうとするわ。親子でじっくり話し合って、解決してね」
「そ、そんなひどい――――――痛ぁっっ!!」
「このサディストォォォッ!!!」
「違わないけど違ーうっ!!」
 
 
 
こうして、ガールードの心の闇を少しでも晴らすことに貢献したガルクシアだったが―――
1週間ものあいだ、シリカと壮絶な修羅場を繰り広げる羽目になったのはまた別の話。
 
 
 
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しょうもないあとがき
 
 
突発的に思いついた妄想を元に、リハビリがてらに書いてみたんですけどね、うん。
まぁ自己採点すると色々残念なクオリティーになっちゃいましたね(^q^)
今回のお話を要約すると
 
寝床がナーイ
ガールードの部屋にお邪魔
妻のまっぱ見て悶々
でも実は苦しんでいるそんな姿を見て自己嫌悪
自分なりに何とかしてあげようと考える
ちょうど強盗一味に遭遇
「ちょ、こいつ家内犯す気かよ・・・」ということで成敗
ガールードの過去話を聞いてあげる
やったねガルちゃん!彼女の心が解れたよ!
しかし娘との間に亀裂が・・・/(^0^)\
 
という事になります。笑・・・えないオチ
「愛してる」と言うまでの過程、これちゃんと濃い目に書けたのか自分では微妙なところですが
その何というか、周りから見て「淡白だな」と思われるような部分もひっくるめて不器用のうちなんですね。ガルクシアという男は。
ちょっとたまにカタかったりする喋り方も、目的に遠回りしがちな行動も、全部。
都合のいい言葉だなんて言わないで(^q^)← そういうキャラなのです。なのです。
 
 
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
 
お帰りはこちらから。