序章

 

 

 
某惑星 屋敷の一角
 
 
 
「・・・・・・用件は以上だ。この男を抹殺して欲しい」
高貴な椅子に座った、いかにも役人顔の男はテーブルの上に置かれた一枚の写真を指差す。
「政府のトップであるこいつさえ居なくなれば、この国を俺が乗っ取ることができる!あんたの腕を見込んでの依頼だからな」
「分かった。もし失敗したら、報酬は払わなくて結構」
向かいに座っていた赤毛の長髪の男はそう言うと席を外し、部屋から立ち去ろうとした。
「あんたも甘ちゃんだな。この世界じゃその程度で済まないってのは、分かっているだろ?」
「・・・その台詞は何べんも聞いた」
赤毛の男はドアノブに手をかけながら、後ろを振り返った。
「俺が失敗すると思うか?仮に失敗したとしても、俺にたてついた連中は生きて帰ってこなかった。ここまで言えば、そっちも分かるな?」
「・・・・・・やられたらやり返す主義ってか。おとなしく期待させてもらうぜ、殺し屋さん」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
クロストル。
惑星メックアイ生まれ。
表向きは大企業クロストルコンツェルンの現社長。
その真の姿は、裏社会では名の知れた一流の殺し屋である。
 
なぜ彼が殺し屋であるのか。
ひとつは、幼少の頃から静かにたぎらせていた正義感を活かすため。
それがどんな形であろうとも。
 
 
だがそれも表向きの理由に過ぎない。
実際は、社長という肩書きに囚われ自由を奪われることを一番嫌っているからであった。
当時、彼は社長として活動することを拒否し、一人で裏家業の道へ進んでいこうとしていた。
 
 
この考えにはさすがの執事も反発するかと彼は内心不安だったようだが、意外にも執事はすんなりと受け入れてくれた。
ただし、クロストル側が生活面でのバックアップを全面的に受け入れることを条件として。
結局、彼は完全に自由とまではいかなかったものの、不自由の無いまま現在へと至る。
 
 
 
端からは一匹狼としか思われていない彼にはただ一人、彼を心から支えてくれる一輪の花のような存在があった。
それが─────
 
 
 
 
 
 
ポップスター とある国の都市郊外の住宅
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『今日未明、惑星・・・・・・のヴァルファリア公国官邸でスロクトモ国王が何者かによって射殺───』
 
 
「またか・・・・・・さしずめ、クロストルがやったんでしょうね」
 
 
 
 
 
 
 
マリア。
クロストルの彼女にして、彼の数少ない理解者。
元々は単なる一般市民に過ぎなかったのだが、あるきっかけから彼についていくことを決心した。
もちろん、彼のいる世界があまりにも危険であることを承知の上で。
 
 
この両者は共に愛し合っている関係なのだが、いかんせん問題があった。
と言うのも
 
 
 
 
クロストルは女性がやや苦手である。
 
 
 
 
幼い頃から全く持って健全な教育を受けてきた彼にとって、異性と体を触れ合うだけでももってのほかである。
そのため、両者の仲は今も進展が見られない。
 
 
キスすら出来ないクロストルは現状維持を主張するが、当然マリアが黙っているはずが無い。
本当に愛しているのか、と問い質しても毎回はぐらかされるばかり。
彼女の苛立ちは頂点に達していた。
 
 
 
 
 
「今頃これが報道されているって事は、そろそろ帰ってくる頃ね・・・」
 
 
 
そこで今回、彼女はある手段に出た。
 
 
 
「何が何でも、クロストルと・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

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