温泉パニック:後編

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
「・・・・・・ねぇフーム、鳥の鳴き声みたいなのが聞こえなかった?」
 
女湯ではしゃいでいた時、彼女らは異変を感じ取っていた。
 
「・・・・・・・・・・・・?確かに、何かが聞こえたような・・・」
 
静かに耳を澄ますと、何処か遠方からフクロウのような鳴き声が聞こえる。
だが、フクロウというには少しおどろおどろしい声質だった。
 
「鳥の声とは思えない・・・・・・まるで、怪鳥――――――――」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
くぉらあああああああああああああああああっっ!!!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
突然、ずんぐりとした大きな体躯の怪鳥が空より舞い落ちた。
男湯と女湯を仕切る壁が壊され、境界線が取り除かれた。
 
「な、なんなのコイツ・・・・・・・・・!?」
 
ダイナブレイドより少し大きめの怪鳥。
フクロウにタヌキの尻尾が生え、頭には小さな炎が燃え盛る。
太い眉毛を生やした顔は珍妙の一言に尽きた。
 
「姉ちゃん、大丈夫か!?」
 
怪鳥の下敷き寸前だったブン、足の隙間から顔を覗かせる。
 
「ブンこそ!・・・・・・・・・って、まさか・・・」
「覗いたりしてたんじゃないでしょうねぇ?」
(((ギクゥっ!!!!)))
 
別の壁の向こうでは、ダークトリオの背筋が凍っていた。
 
「誤解だよ姉ちゃん!!ただ俺は・・・・・・ハッ!!」
あわてて手で顔を覆った。
 
 
黙らっしゃい!!まずは儂の話から聞かんか!
 
 
「そこのタヌキフクロウは黙ってなさい!!」
『タッ・・・!!!』
「ブン、覗いたのか覗いてないのか、正直に答えてちょうだい!!」
「見てない!!」
ブンは顔を覆ったまま叫んだ。
 
『ええい!!見たの見てないとやかましいわ!!だから儂の話をk』
う  る  さ  い!!!!
 
 
 
 
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・その前に、一言』
「何よ!!!」
『服を着ろ!!!』
目を瞑ったまま怪鳥が叫ぶ。
よくよく考えれば、シリカはバスタオル一枚。
だが、彼女にバスタオルを取られていたフームは―――――――
 
 
「!!!!」
 
 
すっかり赤面したフーム、バスタオルを取り返し、急いで脱衣所まで駆け足で戻った。
 
「ぽよ?」
「とりあえず、皆着替えてからにしましょ。話の続きはそれからでいい?」
『ま、まあよかろう・・・・・・・・・そういえばここへ飛んでくるとき、そこの壁の向こうに真っ黒な奴が3人ほどいた気が・・・・・・?』
(((!!!!)))
 
あの馬鹿タヌキ、余計な事を。
リムラが舌打ちするが、彼女が次に発した一言の後には身体を焼かれていた。
 
 
・・・・・・へえ・・・・・・・・・」
 
 
 
身の安全を怠らないシリカ。
ダークトリオは知らなかったが、湯船に浸かっていた彼女は常に改造銃を携えていた。
 
 
 
 
 
 
―――――――――――――――
 
 
「シリカ!!さっきの爆発は何なの!?その怪鳥の仕業!?」
「ううん、私がやった」
 
シリカが視線をやった先には、ミサイルを喰らって黒焦げのダークトリオが倒れていた。
相当キツい一撃を喰らわされたのか、意識が朦朧としている。
 
「ふーん・・・・・・」
腕を組み、ダークトリオを軽く睨んだ。
 
「後で事情でも聞かせてもらおうかしら」
「「「ひぃっ!!!」」」
 
顔を地面に押し付け、怯える。
 
「で、誰なんだよ、おっさんは?」
 
ブンが訊く。
だが、答えたのは怪鳥ではなかった。
 
 
 
「そいつは会長ボーボーぞい!!」
 
 
 
デデデ達も露天風呂に駆けつける。
遅れてエスカルゴン、キュリオも参上。
 
「本当はだいぶ前より待機していたが、空気を呼んで今登場したぞい!!」
「会長じゃなくて、怪鳥でゲしょうが・・・・・・」
「ボーボー?」
「聞いたこともない魔獣ね・・・・・・」
「ぼーぼー?」
 
 
『いかにも、儂は魔獣・・・ではなく、このポップスターの遥か地底に存在する“地下世界”の炎の神、ボーボー!!!
 
ボーボーは空中に浮かぶと、決めポーズらしきものを取った。
 
「そいつは200年に一度、この温泉に浸かるために地上へやって来るんじゃ!」
「少々お待ち下さい!この施設はすぐに取り壊すでゲスから、どうか怒りをお静め下さいでゲス!!」
『ならん!200年ぶりに来て見れば、何だこの有様は!!ここは儂と愉快な動物達だけの秘湯スポットなんじゃ!!』
 
眉間にしわを寄せるボーボー。
彼の怒りの所為か、突然お湯が沸騰し始めた。
 
「ですから只今、施設の取り壊しを始めますゆえどうか・・・・・・」
『ならんものはならん!!貴様らがこんなものを建てたせいで、動物たちは皆どこかへ行ってしまったわ!!』
 
更に怒りを顕わにし、地面が揺れる。
 
『儂は動物たちと一緒に湯治するのが楽しみだったんじゃ!それをよくも台無しにしてくれたな!!!』
「おわあああああ!!どうか怒りをお静め下さいぞい!!!」
 
必死に頭を下げるデデデ達だが、最早ボーボーは怒りを収める気配が無い。
 
責任者は誰だ!?火口に放り込んでくれるわ!!!
 
「ワワワワシじゃないぞい!!こいつぞい!!!」
 
エスカルゴンの後ろに回り、責任をなすりつけた。
 
「酷いでゲスよ陛下ぁ!!第一温泉で一儲けしようと言ったのは陛下でゲしょうが~!!!」
「余計なことを言うなぞい!!!」
 
『なあにぃ~~~~~!!!!』
眉間のしわが更に増える。
 
ならば二人とも火口に放り込んでくれる!!!
「「ぎゃあーーーーーーーーー!!!」」
 
二人を鷲掴みにすると、ギラウエア火山の火口に向かって飛んで行った。
 
 
「カービィ!!」
 
残されたキュリオ、直ぐにカービィ達の所に駆け寄る。
 
「ボーボーを止めてくれ!!」
「どういう事なの、キュリオさん?」
 
今一つ事情の分からないフーム。
少しはデデデ達も頭を冷やすべきだと思っていたが、事情が違った。
 
「このまま放っておけば陛下達が危ないだけでなく、ギラウエア火山が大噴火する!!!」
「何ですって!?」
 
 
「ボーボーを力ずくで気絶させるなりしなければ、怒りのパワーで大規模な噴火が起きる!そうなってしまえば、プププランドは滅びる!!!
 
 
 
 
「・・・・・・・・・!!!」
 
フーム達は開いた口が塞がらない。
まさかこんな展開に転ぶとは、誰が思っただろうか。
 
「フーム、今すぐワープスターを呼ぶんじゃ!!」
 
「分かった!!来て、ワープスター!!!」
 
お決まりの台詞を叫び、ワープスター召喚の合図を出す。
 
「それとここは危険じゃ!!地下水脈を通じて、今にマグマが噴き出すかもしれんぞ!!!」
 
温泉は尋常ならざる沸騰ぶりを見せていた。
確かにこの沸騰ぶりは普通ではない!
 
「何ですって!?みんな、早く逃げましょ!!ダークトリオは・・・・・・知らない!!」
「「「!?」」」
 
 
 
___________
 
 
「待ってくれぞい!!話せば分かる!!」
「お願いだから落とさないで~!!」
『黙れ!!炎の神を怒らせた罪は重いぞ!!!』
 
デデデが火口を見下ろすと、溶岩のかさが溢れんばかりまで上昇していた。
この様子ではいつ溢れてもおかしくない。
 
「そんな事したらワシの国が滅びるぞい!!」
 
 
 
『心配ない、この国は2000年前に一度滅びた身だ!!さぁ、あの世で反省するがいい!!!!
 
 
 
ボーボーは情け容赦なく、二人を火口めがけて投げ落とした。
 
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
「おっかさーーーーーーーーーん!!!!」
 
真っ逆さまに火口へ落ちていく。
もはやこれまでかと覚悟した時――――――
 
 
 
 
「ぽよ!!!」
 
 
 
 
ワープスターに乗ったカービィが2人をキャッチ。
あわや溶岩へダイブという、ギリギリの所だった。
 
 
「カービィ!!」
「地獄に仏でゲス!!」
 
益々気に食わないボーボー、カービィをキッと睨み付ける。
 
『さっきの温泉に居たピンクボールの小僧か・・・・・・よかろう、炎の神の力、とくと見るがよい!!!!』
 
ボーボーの尻尾が激しく燃え上がった。
尻尾を振り回す度に炎の塊が打ち出され、カービィを襲う。
 
「あちぃっ!!!」
「危険でゲス~!!!」
 
四方八方から炎が襲いかかり、身を焦がす。
カービィはそのうちの一発を吸い込み、ファイアーカービィに変身。
 
『儂の真似事か?こざかしい!!!』
 
ボーボー、さらに炎の魂を撃ち出す。
カービィも負けじと炎の塊を撃ち出し、互いの炎が相殺し合う。
 
『うぬれ!!』
 
痺れを切らしたボーボーが高速で突進。
足の指を開き、掴み掛かろうとする。
 
『貴様らまとめて、火口に放り込んでくれるわ!!!』
 
突進のスピードは速かったが、難なく避けたカービィ。
 
 
『え?』
 
 
勢いをつけすぎたために自分で止まれなくなってしまったボーボー。
逆に自分が火口に身を落としてしまった。
 
 
 
『あづううううううううう!!!沸騰させすぎたあああああああああ!!!!』
 
 
墓穴を掘ったボーボーに対し、カービィは大技でけりをつける準備をしていた。
 
「おわっ、カービィの奴、ワープスターから飛び降りたぞい!!」
「今度はカービィが火の玉になったでゲス!!」
 
燃え盛る炎を纏い、高速で落下。
火だるまスピン。
体勢を立て直したボーボー、更に激高。
 
 
『おのれええええ!!炎の神を馬鹿にしおってぇーーーーーーーーー!!!!』
 
 
 
意地を見せたボーボーは溶岩を身に纏い、カービィめがけて再び突進。
両者共に激しくぶつかり合い、押し合いに持ち込む。
身体の大きさではボーボーが一枚上だと思われていたが、力が一点に集中するカービィの攻撃力に耐え切れず、遂に押し負けた。
 
 
 
『あれえええええええええええ!!!!』
 
 
 
吹き飛ばされるボーボー。
先程の“でで☆すぱ”に墜落し、大爆発を引き起こす。
建物を跡形も無く吹き飛ばし、更地に変えた。
そして――――――
 
 
 
 
「姉ちゃん!!」
「さっきの温泉が・・・・・・・・・本当に・・・・・・!!」
 
 
温泉から遠くに逃げたフーム達。
遠方に見える、噴水のように吹き上がる真っ赤な溶岩を見て唖然としていた。
一方の墜落したボーボー、吹き上がる溶岩に押し上げられ立ち往生。
情けない姿であった。
 
 
 
『お・・・・・・お願いですから、溶岩さんどうか怒りを静めてください・・・・・・・・・・・・』
 
 
 
 
_____________
 
 
 
「ええ!?あなた炎の神じゃないの!?」
 
溶岩の噴出が収まり、ようやく戻る事が出来たカービィ達。
彼らの前には、すっかり意気消沈したボーボーが座り込んでいた。
 
『はい、そうなんです。怒りで火山を噴火させるなんてのは大ウソで、実際は力をコントロールできないだけなんです』
 
さっきまでとは一転して弱々しい態度のボーボー。
話は続く。
 
『そもそもどうしてここの温泉に浸かりに来るようになった課と言いますと、話せば長くなります。
儂・・・じゃなくて私の故郷である地下世界の火山地帯、“ボイスボルカノ”の魔獣達と日夜戦いを繰り広げているからなんです』
 
「何だ、てっきりお前さん、火山のヌシとでも思っておったのだが・・・・・・」
キュリオは少しがっかりした。
 
「考古学者としては興味深いテーマだったのに・・・」
『今は火山のヌシです。しかし他の火炎魔獣達との縄張り争いが激しく、寝首を掻かれかけるなんてザラです。そこで200年に一度、傷ついた身も心も癒すために――――――』
「毎回ここの温泉に訪れているのね」
 
シリカが先の台詞を言った。
 
『そう。日夜戦い続ける私にとってここは心のオアシスでもあったんです。だのに、いつの日からか周囲に作られた集落から炎の神と崇められたり、欲しくもない生贄を捧げられたり・・・・・・』
「そこで2000年前の悲劇という訳でゲスか?」
『その通りです。もう後戻りできないと思った私は仕方なく、自分を炎の神と名乗るようになったんです。威張りたくも無いのに、神様を気取って・・・・・・もうこんな生活嫌だ!!』
 
今まで溜まっていたものが爆発したボーボー。
とうとう泣き崩れてしまった。
 
『・・・しかし、そんな時もとうとう終わりを告げました。時の流れと共に温泉の周りからは人がいなくなり、やっと普通に浸かることができるようになったんです!』
「だけど今年という今年に限って、このデデデが馬鹿やらかして、あなたが怒って・・・・・・」
『はい、まあ・・・・・・』
「お前らだって温泉入ったくせに!!」
 
フーム達を指差し、責任を負わせようと悪あがきをするデデデ。
 
「わ、私達はただ厚意に甘えただけよ!!」
『もういいんです』
 
ボーボーは静かに首を横に振った。
 
『そろそろ別の、新しい温泉でも探そうと思っていた所でしたから。次はもっと人が寄り付かない秘湯を探します!!』
 
すっかり気分が明るくなったボーボー。
カービィ達に一礼すると、大空へ飛び立った。
 
『あ、そうだ!お詫びといっては何ですが、この石を!!』
 
ボーボーの口から、小さな赤い宝石がカービィの手元に転がり落ちた。
 
「ぽよ?」
 
宝石はカービィの手の上で真紅に輝く。
 
『その石はボイスボルカノで極稀にしか採掘できない、貴重な石です!身内の話によれば、周りの炎を全て吸収する不思議な力があるとか・・・・・・』
「ありがとう、ボーボー!!いつかその時が来たら使わせてもらうわ!」
『ええ、どうぞ遠慮なく使っていただいて結構です!』
「またな、ボーボー!!」
 
『ウチにはコレでもかと言うほど大量に余っているので、少しでも減れば良いかなーと思って!!』
 
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
『それでは皆さん、また200年後に!!!』
 
大空を舞い、山の向こうへと飛び去って行った。
 
 
 
「あいつが寝首を掻かれる理由、なんとなく分かった気がするよ。姉ちゃん・・・・・・」
「そんな石を沢山持っているから、周りの魔獣に目の敵にされるのかもね」
 
「あー眠いぞい、城に帰って寝るぞい!!」
「じゃあ私もこれにて~♪」
 
元々は自分らが事の元凶だったのに、あたかも他人事のように振舞うデデデとエスカルゴン。
歩いて城に帰って行く。
乗り付けていたデデデカーは、溶岩に呑まれて行方知れずとなった。
 
 
「じゃ、そゆことで~」
二人に便乗し、ダークトリオもその場を去ろうとする。
 
 
ガッ!
 
 
「あんたたちぃ~?」
 
フームの伸ばした手は、確実にリムラの頭を捕らえた。
 
「「うっ!!」」
「なななななななな何でしょうか?」
 
「あの時露天風呂で、あんた達は何を覗いてたのかしら~?」
指に力が入り、リムラの頭に食い込んでいく。
 
「ごごごごごごごご誤解です!!俺達は覗き魔がいないかどうか見張っていただけで・・・・・・」
「じゃあシリカ?あの時私達の入浴を覗いていたのは誰だったかしら?」
 
シリカは無言で、ダークトリオを指差した。
 
「このアm」
 
 
 
 
朝、ギラウエア火山の麓。
欲望で自ら破滅した、哀れな男三人衆の悲鳴が響き渡ったのは言うまでもない。
 
 
 
 
 
 
 
 
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