HR-Hの実況

 

 

 

 

 
 
 
“プププランド”まで残り2km。
指令内容の再確認開始。
 
 
目的地。
“ポップスター”南半球に位置する辺境国“プププランド”。
軍部より与えられた指令内容。
新世代の星の戦士「カービィ」の戦闘データ採取。
危険レベル「SSS」と判断した場合の抹殺は軍部より許可。
本件の遂行に当たり、全種類の随伴兵装の援助受取可。
万が一、民間人が遂行の障害となるようであれば可能な限り鎮圧せよ。
暴徒鎮圧用兵器の使用許可も承諾済。
可能な限り、任務遂行に全力を発揮。
 
 
「着いたぞ、HR-C」
 
 
帝国軍ステルス機パイロットの声紋確認。
プププランド上空に到着したものと判断。
 
「“奴”が我ら帝国にとって福か害か、しっかり見極めて来い」
 
了解。
HR-C、直ちに降下作戦を開始。
降下開始時点での高度は3000m。
残り1000mを切った時点で対衝撃機構を起動。
着地後は次の段階「カービィ」捜索に切り替える。
「カービィ」を発見次第、直ちに戦闘行動を開始。
ただし、ターゲットは居住区へ逃げ込む恐れ有り。
その場合は武器の使用を極力控え、民間人への被害を最小限に留めよ。
 
 
現在残り高度2000mを切った。
落下地点周辺には草原が確認できる。
「集落」レベルの居住区との距離は4.24km。
民間人へ被害を与える確率は0.9%。
クイックスラスターによる落下地点変更の必要性は低いとして、降下を続行。
 
 
残り高度、1000m以下。
対衝撃機構、対G機構を全て起動。
本体への損傷を最小限に食い留めよ。
残り高度、500m以下。
 
 
落下地点より半径10m以内に桃色の球体の飛来を確認。
データベース検索結果、ターゲット「カービィ」と判明。
「カービィ」が飛来した方向の60m先、5人の児童を確認。
内1人は4人の児童とは離れた、木の根元で単独娯楽に勤しんでいた様子。
第2段階行動をオミットし、着地と同時に戦闘態勢への移行に変更。
 
後5秒で落下地点に着地。
戦闘態勢の前段階として集音機能を強化。
 
 
「カービィ!!そっから逃げろぉ!!!」
 
 
着地、成功。
機体損傷率、0.001%。
戦闘態勢に移行。
 
 
 
 
戦闘データ収集、開始。
 
 
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~『最強の機械兵』~
 
 
 
 
 
 
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ターゲット、着地時の風圧が原因で吹き飛ばされた模様。
体重は風船並と推定。
児童ら4人、ターゲットへ逃走を促している。
影響率、皆無と判断。
戦闘、開始。
 
 
ライトアーム、開放。
マシンガン攻撃を選択、発砲。
命中精度は現在60%。
全弾、ターゲットに命中せず。
 
 
レフトアーム、開放。
高熱圧バーナー砲を選択、発射。
射程距離は10m。
ターゲット全速力で逃走、本機との距離は40m以上。
 
 
「みんな!あの魔獣を食い止めるんだ!!」
 
 
先程の児童4人の方角より、数個の小石が命中。
機体へのダメージは0%。
児童4人、全て視界内にセット。
データベース検索開始。
使用武器は「パチンコ」と呼称される、活発傾向の子供達の間で人気の玩具と判明。
 
≪児童らに警告する。直ちに本機への妨害行為を自粛せよ≫
 
敵対意思、健在。
危険性を取り除くため、威嚇射撃を開始。
 
「ブン!何か撃って来るって!!」
「げぇっ!に、逃げろぉ!!」
 
機体後部の随伴兵装より中型催涙弾、発射。
催涙弾は児童らの周辺に着弾、催涙スモーク放散。
これ以上の妨害行為を行う確率は激減したものとし、「カービィ」捜索に切り替える。
 
 
 
 
「カービィ」との距離、1000m。
小型サテライトを10基射出、索敵範囲を拡大。
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
 
 
 
50m後方にて会話を確認。
集音機能、最大レベルに設定。
 
 
「ブン!あいつは一体何者なの!?」
「分からねえ!けど、カービィを倒そうとしていたのは確かだ!!」
「何ですって!!」
 
 
 
サテライト、情報収集開始。
現在会話を繰り広げる2人の児童の詳細をデータベースに登録。
 
一人は髪の毛、肌の両方ともクリーム色。
桃、黄緑の2色デザインの衣服を着用。
帝国軍データベース要注意人物リストの検索結果、「フーム」と判明。
「カービィ」の乗り物、ワープスターを使役する潜在能力の持ち主。
過去幾度も繰り広げられた「カービィ」と魔獣の戦闘において、基本的に全戦全勝。
その際、強敵クラスに属する魔獣との戦いではワープスターの召喚を機に戦局を逆転させ、勝利に導いている。
戦闘時の危険ランクはAと判断、攻撃可と判断。
分類上は民間人につき、殺傷は許可しない。
 
もう一人のサスペンダー付きズボン着用の少年は、リストに該当人物存在せず。
放置しても問題の無いものとする。
 
 
最優先行動の順番を整理。
現時点での最優先は「カービィ」との戦闘およびデータ収集。
次点に「フーム」を物理的に拘束し、戦闘妨害を防止。
 
サテライト、「カービィ」の居場所を探知。
市街地中央より北東に潜伏。
スラスター稼動、直ちに現場へ急行し居住区外に誘導せよ。
 
 
 
 
「うわっ、何なんだありゃあ!?」
「すごい変な形のロボットだぞ!!」
「コラーッ!!そこの不審車両、止まりなさーい!!!」
「あれは魔獣よぉ!!」
 
 
 
 
市街地に突入。
民間人は次々に逃走、避難。
秘密結社BBBがヘビーロブスター3機を送り込んだ事から、民間人は本機を同系統のメカ魔獣だと見なしている様子。
不必要な不安を招かない為、速度7km誤差2km以内での捜索を続行。
 
「うげっ!てめぇ、HR-Cじゃねえか!!」
 
視界にリアル系統ダークマター族が3人。
いずれもディガルト帝国軍兵士リストの「ダーク・リムラ」、「ダーク・リムル」、「ダーク・リムロ」と判明。
親密ランク「友人」。
 
≪ダーク・リムラ。現在本機は軍部より通達された指令を遂行中。貴官の協力を仰ぎたい≫
「何だって?」
「リムロ。こいつぁまさか・・・・・・」
 
 
「そのまさか、だな。お偉いさん達とうとう本格的に始めるつもりだぜ」
 
 
「おいおい、よしてくれよ・・・・・・フームから憎まれ口叩かれるの俺なんだからさ・・・」
≪協力意思は無いものと判断。失礼≫
「あっ、ちょっと待てよ!!てめぇんトコのエミジが迷惑かけたそうだからさぁ、軍法会議にかけたってくれや!!」
≪上層部への陳情としてボイスレコーダーに記憶。カービィ捜索を再開≫
「ったく・・・・・・相変わらず無愛想な戦闘マシンだぜ・・・・・・」
 
 
 
ターゲット、今度は北西へ横断中。
進路変更。
小石命中、飛来を確認。
「フーム」を含む先程の児童ら5人、再び妨害行為を開始。
 
 
「さっきはよくも家のブンをやってくれたわねぇ・・・?」
≪これは2度目の警告である。直ちに本機への妨害行為を中止せよ≫
「冗談じゃないわよ!!あなた一体、何が目的でカービィを狙っているの!?」
「さっさとこの村から出て行けぇ!!!」
「「「そーだ、そーだ!!!」」」
 
 
妨害は収まる気配なし。
スタングレネード弾、10発発射。
「フーム」は回避行動に成功。
他4人は爆風に巻き込まれ、身体が麻痺。
 
 
「こうなったら!来て!!ワープ・・・
 
 
WARNING!!WARNING!!
 
 
 
 
 
警戒ワード発言を確認!!
警戒フェイズから危険フェイズへ引き上げ!!
直ちに此れを妨害せよ!!
 
 
「きゃあっ!!?」
 
 
「フーム」、ライトアームで捕獲完了!
警戒ワード防止のため即効性麻酔を注入!
 
 
「あっ・・・・・・」
 
 
麻酔注入成功。
「フーム」、睡眠状態につき拘束を解除。
 
 
 
 
「ね、姉ちゃん!?この野郎、俺の姉ちゃんに何しやがった!!!」
 
 
 
 
 
危険フェイズ、警戒へ引き下げ。
 
 
 
「カービィ」の捜索、続行。
 
 
 
 
 
 
 
 
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現在の時刻、午後9時。
天候は曇り。
現在地、プププランド外れの荒野。
 
 
 
作戦開始から10時間が経過。
サテライト索敵結果、ターゲットは前方右45度100m先に潜伏しているものと判明。
生体反応、ターゲット以外にヒューマノイド2人の存在を確認。
現場へ直行。
 
 
 
「何てこと!まさか見つかるなんて!!」
「畜生!!」
「ぽよ・・・・・・!!」
 
 
 
中央に「カービィ」、両脇に市街地で対峙した少年少女が二人。
ターゲットを庇うように位置。
 
 
 
「カービィには指一本触れさせないわ!!」
「そもそも、お前は何者なんだ!!」
「ぽよ、ぽよ!!」
 
 
 
本機への質問を確認。
無視する選択も在るが、「フーム」及び少年の情報収集を兼ねて“思考人格プログラム”を只今より起動。
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プログラムの最終起動日は現在より50年前にも遡る。
元々好き好んで入れたものでは無いだけに、戦闘マシンに搭載する事の必要性に疑問を感じていた。
 
 
抽象的な言い回しを含ませ、対等な会話でフームと少年に事情を説明する。
本件の目的上、あまり民間人を巻き込むのは好ましくない。
 
 
 
 
 
≪私はディガルト帝国軍最強の戦闘マシン、“HR-C”。カービィの戦闘データ収集の指令を受けている≫
 
 
 
 
「戦闘・・・データ・・・・・・?」
≪そうだ。軍部は新世代の星の戦士「カービィ」の未知なる力に興味を抱き、また危険視もしている≫
「それって、どういう事だよ?」
「ぽよ?」
 
 
 
 
≪帝国軍は秘密結社BBBに対抗できる力を求めている。上層部はカービィが福か害かを試すべく、私を送り込んだ≫
 
 
 
 
「秘密結社BBB・・・・・・・・・」
≪フーム達にも心当たりがあるはずだ。先日プププランドを襲撃した3機のヘビーロブスターは全て、BBBのロゴ入りマークが刻まれていた≫
「ちょ、ちょっと待てよ!!何で姉ちゃんの名前を知っているんだよ!?」
≪帝国軍データベース、要注意人物リストにその名は刻まれている≫
「・・・まるで指名手配犯みたいな言い方ね」
≪気分を害する表現は自ら詫びる。後、そこの少年はデータベースに登録されていないので、名前も知らない≫
「えーっ!!!」
≪名前は≫
「ブンだよ!!今日何度か俺と会っているだろ!?」
 
 
≪警戒する必要が無かったのでメモリー(記憶)から消去した。少し待っていろ、ボイスレコーダーを復元・再生する≫
 
 
 
 
 
『そこの不審車両・・・・・・』
『お偉いさん達、とうとう・・・・・・』
『軍法会議・・・・・・』
『一体何が目的で・・・・・・』
 
 
 
 
3人は次々と再生される音声に驚きを隠し切れない。
文明の遅れた「ド田舎」と評されるだけあり、この手の技術は大変珍しいのだろうか。
ダークトリオの調査では、既にテレビジョン等の情報受信機器が民間人に配られたと聞く。
それ故に特段驚きはしないだろうと予測していたが、読みは大きく外れた。
 
 
≪該当する声紋を発見した。ブックマークに登録、再生を開始する≫
 
 
その言葉を再生した途端、ブンの顔が赤らむ。
何故これを選択したのかと咎められたら、単なる偶然としか釈明は出来ない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
この野郎!!俺の姉ちゃんに何しやがった!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「っ・・・・・・・・・・・・・・!!!」
 
相当恥ずかしがっている。
 
俗に言う「シスターコンプレックス」と誤解される事を恐れているのだろう。
だが当のフームは、姉を大切に想う弟の気持ちに感激している。
特にマイナス要素は見受けられないものと思われるし、一般の姉弟関係としては大変喜ばしい事である。
 
 
≪成程、あの時の少年か。把握した。・・・・・・システムエラー、不必要な再生開始≫
この野郎!!俺の姉ちゃんに何しやがった!!!
 
 
「・・・・・・お前なぁ・・・・・・・・・!!!」
 
 
≪話の軌道を戻す。温和な表現で言えば、帝国軍はカービィに協力を求めているようなものだ≫
「協力、ですって・・・?」
≪秘密結社BBBの戦闘員は然したる問題ではない。だが、幹部クラスは一介の兵士では太刀打ち出来ない≫
「それでカービィを・・・・・・」
「ぽよ」
 
 
≪これは実力試しだ。帝国はカービィが、私を打ち負かせるぐらいの力を発揮できる事を望んでいる≫
 
 
「・・・・・・・・・・・・」
≪そして帝国は、この勝敗とは関係なしにプププランドとの同盟を望んでいる。理由は、共に平和を目指し、BBB打倒を目指すため・・・≫
 
 
 
 
 
「ちょっと待ちなさい!!」
 
 
 
 
 
フームが静止をかける。
見るからに不服を訴えている表情だ。
 
 
「悪いけど、私は軍隊の肩を持つのは御免だわ!!」
「姉ちゃん!?」
「ぽよ?」
≪何故≫
 
 
「軍隊を持った国なんてロクな国じゃない!!そんな奴らと協力なんかしたくない!!」
 
 
どうやらフームという少女は、軍隊の存在そのものを嫌う偏った平和主義者であると推測。
帝国への捻じ曲がった偏見も否めない。
対等な交渉は臨みにくい。
 
 
 
「そもそも、BBBの連中はあんた達の中にも紛れているんでしょ?だから、私は絶対に信用しない!!」
 
 
 
これは困った。
確かに同族だけあって、BBBのスパイが帝国軍に紛れ込んでいるのは周知の事実。
本機は確実に帝国側の人物。
だが、今のフームの思想からして信用を得られるものとは考えにくい。
 
 
 
≪・・・・・・・・・帝国と同盟を組めば、99.9%の絶対的安全が保障される。意地を張らない方が良いと忠告する≫
「うるさい!!自分勝手なことばかり言って、平和を脅かす軍隊なんて大キライ!!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
≪・・・・・・ダークマター大佐の言葉を引用。「無知から来る実の無い主張は、己を滅ぼすぞ」≫
 
 
 
 
 
 
 
 
「!!!」
 
もはや、これ以上の対話は無駄と判断。
任務に戻り、指令を遂行するまで。
思考人格プログラムは起動したままでも支障は来さないため、シャットダウンを省く。
 
 
 
 
 
 
 
≪直ちに、カービィとの戦闘を開始する!!!!≫
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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FAQ
 
 
Q:前半と後半の語りが妙に違うんだけど
A:人格プログラムを起動させると、人並みの柔らかい表現を含んだ話し言葉を使うようになる
 
Q:HR-C自身って何かの主張は持っているの?
A:戦闘マシンなので本来は余計なことを考えない。でもカービィの実力に対する探究心は持っている。メカのくせに
 
Q:フームの性格がちょっとヘン
A:井の中の蛙状態だから。長らく平和に浸っていたが故に、軍隊など不要の存在、害悪だと思い込んでいる
 
 
Q:指令は誰の差し金?
A:知らん