仲違い:前編

 

 

 

 

 
 
 
真夜中
 
 
デデデ城 屋外通路 
 
 
「・・・・・・・・・という訳でして、デデデが事ある事に騒ぎを起こす以外は至って正常のようです」
「バックにエヌゼット大財閥がついているようですが、特にそれを利用して悪事を行う様子も見られません」
「相手が親友だけあってか、その辺りは遠慮がちのようで」
 
真夜中のデデデ城にて、ダークトリオは秘密裏にディガルト帝国への近状報告を行っていた。
 
『了解した。―――最近BBBの活動が活発化した事もあって、帝国もそろそろ動き出している。その時はこちらから連絡しよう』
「分かりました。・・・・・・・・・で、カービィの事なんですが・・・・・・・・・」
『どうした?協力体制を敷かないつもりか?』
「いや・・・・・・帝国に対してまだ半信半疑の奴がいて・・・・・・」
『・・・そうか。いずれ彼らも、現実を嫌というほど思い知らされる。・・・引き続き、任務を続行せよ』
「了解」
 
そう言うと、リムラは無線を切ろうとした。
 
『待て』
「何すか?俺ら眠いからさっさと――――――」
 
 
 
『実は、特殊部隊のコードネーム:Pが休暇でプププランドを訪れている』
 
 
 
「げぇ!!!?」
 
トリオの顔色が青ざめた。
 
「あいつが!?うっわ最悪だ!!」
『もし、彼が眠りについているようであれば・・・・・・起きるまで放置してやれ』
「うわっちゃあ・・・・・・」
『正しい起こし方を実践せず、下手に物理的な攻撃で叩き起こしたらどうなるか、分かっているはずだ』
「あんな奴死んでも起こすか!!」
『ではこれで失礼する。ブツッ!・・・・・・・・・・・・』
 
 
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~『姉弟の仲違い』~
 
 
 
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いつもの朝を迎えるププビレッジ。
ただ、今日は普段と違う事が起きていた。
 
 
 
「ああ?オレ様の家に泊めて欲しいだぁ?」
「そうだよ。後お前の家じゃなくて、カービィの家な」
 
怪訝そうなトッコリ。
普段からカービィの家を自分のマイホーム扱いしている彼にしてみれば、非常に不愉快な事であった。
 
「他にも泊めてくれる所あんだろ?イローとか、ハニーとか、ホッヘとかさ・・・・・・」
 
話し相手のブンが背中に背負っているのは、明らかにピクニックとは思えない大きな荷物。
さすがにカービィも怪しみ始める。
 
「ぽよ~?」
「・・・ちょっと待てよ、その荷物はどう見てもただのお泊りには見えないぞ!!」
 
背中の荷物を不思議そうに眺め、トッコリが問い詰める。
 
「ちゃんと本当の事を言えよ!!何がしたいんだ、お前は?」
 
 
 
「俺、今日からここに住むんだよ」
 
ぶっきらぼうな態度で言ってのけた。
 
 
 
「はあ!?ど、どうしたんだよ、いきなり?!」
「・・・喧嘩したんだ、姉ちゃんと」
「喧嘩って・・・・・・何が原因で?」
「ぽよ?」
 
 
 
 
「どっちが強いか、だよ」
 
 
 
「はぁ・・・・・・・・」
 
理由を聞き、呆れるトッコリ。
何か深刻な理由があるかと思えば、ただの家出。
緊張して損だった。
 
「よくもまあ下らねぇ事で・・・・・・」
「下らなくなんか無い!!」
 
腕を伸ばし、トッコリを直接手で握り締める。
 
「最近、やべぇ奴らもいっぱいやって来ているだろ。このままじゃ駄目だと思ったんだよ!!」
「分かった、分かったから放せ!!・・・・・・で?強くなる秘訣でもあんのか?」
 
「無い!!!」
 
ブンはキッパリと言い切った。
 
「駄目じゃねえかよ!!」
「だけど、もう後戻りできないんだ!今から必死に考えないと・・・・・・」
 
トッコリを放し、腕を組んで考え始める。
どうも此処へ来るまでの一連の行動は、かなり行き当たりばったりだったらしい。
 
「やれやれ・・・・・・・・・先が思いやられるぜ・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
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「なにぃ?フームとブンがぁ?」
 
我が子らの仲違いに頭を悩ますパーム夫妻。
今朝起きた一連の出来事を話し、解決法を求めるべくデデデ大王にダメ元で相談していた。
 
「そうなんです、陛下。それでブンが家出してしまいまして・・・・・」
「母親としては心配なんです!」
「どうするでゲスか、陛下?」
 
「でゃっはっはっはっは!!子供同士の喧嘩など放っておけぞい!そのうちほとぼりも醒めるだろうに・・・」
 
まるで相手にしないデデデだが、二人にとっては一大事だった。
 
「そういう訳にもいかないのです、陛下!!実は・・・・・・」
「実は?」
 
メームが重い口を開く。
 
 
「今日は、フームの誕生日なんです・・・・・・!!」
 
 
 
「あららぁ、タイミング悪いでゲスな・・・・・・」
 
姉弟の仲違いに危機感を顕わにしていた、一番の理由。
二人の関係を改善しなければ、ブンが不在のまま誕生日を終える事となる。
 
「子供たちの親としては、何としても和解させないと・・・・・・!!」
「でゃっはっはっは!だったらワシが高価なプレゼントでも送り、機嫌を取ってやるぞい!!」
 
非常に単純な思考のデデデ。
典型的な「金の力で解決する」タイプだった。
 
「いえ陛下、こればかりは物で機嫌をとるのは非常に難しく・・・・・・」
「ええい、分かっておる!!ちゃんと考える故、貴様らは下がれぞい!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
「だから、陛下になんか相談するのが間違いだったのよ!!」
「まあまあ、メーム。何もしてくれないよりはマシじゃないか・・・・・・」
適当な応対に憤慨するメームを、パームが必死になだめる。
 
「そもそも!!魔獣はカービィに任せておけば安全なのに、どうして二人とも馬鹿な事を・・・・・・」
「うんうん。自分の力で勝てない敵を相手に逃げることは、決して恥ではない。二人にそう教えてあげなくては、な・・・」
 
 
 
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「しかし、あの2人が仲違いとはな・・・・・・悪事を働く絶好のチャンスぞい!!」
「何バカな事言ってるんでゲスか。我々の浅知恵なんかじゃ、カービィだけ相手でも勝てないでゲスよ!」
「では、本当にプレゼントを用意しなければならないのかぞい・・・・・・・・・」
 
がっくりと肩を落とすデデデ。
金の力で解決する旨を豪語しておきながら、やはり金の事にはがめつい。
 
「だけど、ただ高いだけのモノ買っても喜ばないでゲス。何か別の手を・・・」
「となれば、自力調達ぞい!!エスカルゴン、何か良いものが取れる場所はないか?」
「・・・・・・前に図書室で読んだ植物図鑑だと・・・」
「うんうん!」
 
 
 
 
 
「西の森のどこかに、気持ちを和らげるとてつもなく貴重な花があるそうで・・・・・・」
 
 
 
「それは真かぁ?!」
 
貴重な、というワードを聞いて興奮し、思わずエスカルゴンの首を締め上げた。
 
「記憶があいまいだから、あまり期待しないでゲス!!それより放しておくれでゲス!放せー!!」
 
我に返り、デデデは彼の首から手を放す。
むせ返るエスカルゴン、そのまま話を続けた。
 
「確かその“ピースローズ”、どんなにギスギスした気持ちになってもその花の匂いを嗅げば、どうでもよくなる気持ちに・・・・・・」
 
「それぞい!!」
玉座から降り、叫んだ。
 
「その花でフームのご機嫌を取ってみせようぞ。早速、西の森に向かうぞい!!」
「へ?今すぐ?」
「当たり前ぞい!早く支度をするぞい!!」
 
扉を乱暴に開け、走り去る。
 
「ああ、はいはい・・・ったく、行動だけは早いんだからよ、あのオッサン・・・・・・」
 
愚痴を零しつつ、玉座の扉を施錠。
しっかりと鍵を書けた上で後を追うエスカルゴンだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
城の一角、相変わらず人気の無い図書室。
フームは一人、本を読んでいた。
 
「えーと、相手をけん制する上で必要なのは・・・」
 
中身は武術や身を守る護衛術に関するものが主。
 
「恐らく泣き目を見るのは、次に魔獣が襲ってきたとき・・・・・・それまでに、何としてでもブンを見返さないと!」
 
傍から見れば、今朝の一件を相当本気にしている様子が伺える。
そんなフームの後ろから、声が掛かる。
 
「随分と読書熱心なのだな」
 
 
落ち着いたこの声と口調の主は、言うまでもない。
 
「メタナイト卿!!」
本の内容を頭に叩き込むのに集中していたため、メタナイト卿の存在に気づいていなかった。
 
「今朝ブンと喧嘩をしたと大臣殿が申したが・・・・・・何があった?」
「えっと、それが・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
「・・・・・・なるほど。それでお互い、強くなろうと・・・・・・」
「ええ。一人で戦う私の理論としては、身体能力が低くても戦術でカバーできると思っているの。力だけが全てじゃなのは明白だし」
「・・・・・・・・・・・・・」
「私はブンなんかに負けないわ。いい加減な考えは身を滅ぼすだけよ!」
 
彼女の言い分を真剣に受け止めるメタナイト卿。
少し考え込んだ後、彼なりの意見を発した。
 
「フーム」
「何?」
 
 
 
「・・・・・・無理をするなよ」
 
 
 
 
それだけ言うとメタナイト卿は、図書室から出て行った。
 
「・・・・・・言われなくたって!」
 
 
 
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「おい、ブン」
 
床で寝転がるブンに、トッコリが声を掛ける。
 
「特訓とかしなくて良いのかよ?」
「えー?いいんだよ、結局は実戦でモノを言うんだから。何だかんだで最後は、臨機応変に対応できる奴が勝つのさ」
「なはははは!!そんな大口叩くんだったらオイラにも出来るぜ!せいぜい大恥かかねぇこった!!」
「・・・・・・・・・!」
 
 
 
_____
 
さかのぼること少し前、カブーの谷。
 
「カブー!!実はかくかくしかじかでさ、もしかしたら、俺がカービィの新しいパートナーになっちまうかもよ!?」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
 
カブーは口を開かない。
 
「それで訊きたいことがあるんだ。俺にもさ、姉ちゃんみたいに“来て!!ワープスター!!!”なんて呼べるのかな?」
『無理だ』
 
即答のカブー。
あまりにもキッパリと言われ、ブンはへこんでしまう。
 
「・・・・・・え?」
『ワープスターを呼べるのは カービィを心から愛する者だけ。更に ワープスターを呼べる者は一人しか認められない』
「じゃあ、俺には無理だって言うのかよ!?」
『方法は ある』
「ホント?教えて、教えて!!」
 
 
 
 
 
 
『カービィを 愛する者の命が 失われる事だ。』
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・」
すぐにブンの顔が青ざめた。
 
「・・・・・・う、嘘だろ?まさかぁ、そんなわけ――――――」
『カブー 嘘つかない。』
 
躊躇うことなく、平然と答えた。
 
「・・・それじゃ何だよ!!姉ちゃんを殺せってか!?」
『カブー そんな事は言っていない。どうするかは ブン。お前次第だ』
 
カブーはそれきり、一切口を開かなくなった。
 
「・・・・・・・・・・・・・・・ちくしょう!ワープスターが呼べなくたっって、どうにでもなる!!」
 
 
 
 
_____
 
 
 
トッコリは困り果てていた。
彼は今日が、“誰か”にとって特別な日であることを知っているからだ。
それ故、ブンがその事を忘れた上でこんな愚考に及んだのではないかと心配だった。
 
「なあブン。今日は何の日か、知ってるか?」
「え?・・・・・・・・・・・・知らない」
「ケッ、そうかよ」
 
呆れたトッコリ、窓の外へ飛び出す。
フームへの誕生日プレゼントを拵えておくためだ。
 
「オイラ散歩に行ってくるから(ったく、呆れたモンだぜ!いくら仲違いしてるからって、自分の姉ちゃんの誕生日も忘れるのかよ!?)」
「ぽよー!」
「分かったよ、お前も行くか?」
「ぽよ!」
 
カービィも一緒に家を出て、村へと向かって行った。
彼らが遠くに離れたのを見計らい、彼は独り言を呟いた。
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・知ってるよ、姉ちゃんの誕生日だろ?だからって、今更・・・・・・」
 
 
 
 
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「・・・・・・・・・・・・陛下?」
「どうしたぞい?」
 
大勢のワドルディを引き連れ猛然と突き進むデデデ。
突然エスカルゴンが呼び止めたので、仕方なく振り向いた。
 
「何だかこの森、様子が変でゲスよ・・・・・・」
「こんなにワドルディが居れば、動物共も寄り付かないに決まっておる!」
「いや、そりゃそうでゲスけど・・・・・・」
 
 
「鳥の囀りも、何も聞こえないでゲスよ・・・・・・!」
 
最初は気にしなかったデデデだが、ふと立ち止まると、試しに耳を澄まして聴覚を尖らせた。
どれだけ長く耳を澄ましても、動物の鳴き声は聞こえない。
無風という条件も重なり、更に恐怖を掻き立てられる。
 
 
 
「た、確かに・・・・・・・・・こうまで何も聞こえないと、不気味ぞい・・・・・・・・・」
 
気味が悪いと思いつつ、デデデは先へ進む。
本当は直ぐにでも帰りたいと思いつつも、ピースローズのためにも引き下がる訳にはいかなかった。
 
「しかしエスカルゴン。本当にこの方角で大丈夫かぞい?」
「はい。図鑑によれば確かにこの道でゲスが・・・・・・なにせ大変貴重な花なので、運が悪いと、既に絶滅してる可能性が・・・グェッ!!」
「何故それを早く言わんぞい!!」
「城で最初に言ったでゲしょうが!!」
「聞いてないぞい!!」
「聞けよ!!」
 
此処でも喧嘩を始めた二人組が居た。
日没が迫る中、ワドルドゥが制止をかけた。
 
「陛下!このままでは、日が暮れるであります!!」
「分かっておる!!急ぐぞい!!!」
 
 
 
 
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「・・・・・・あーあ、よく考えたら今日は私の誕生日じゃない・・・・・・」
図書室から自室に戻ったフームは、今日が何の日かを思い出し、ささいな後悔の念に駆られていた。
 
「どうしてそんな日に喧嘩なんてしちゃったんだろう・・・私の馬鹿・・・・・・・・・・・・・・・!」
 
フームも同様に、一度言い出した手前ここで引き下がるわけにはいかなかった。
ここで前言撤回するという事は、自分が非力であるという事を認めるのと同じ事。
 
「・・・だけど、ここで引き下がれば姉の面目が立たないわ・・・!」
 
窓越しに中庭を見下ろす。
村人達が自分の為に、バースデイパーティーの準備に勤しんでいた。
既に城中には沢山の飾り付けが施されており、箱詰めの花火の弾を運んでいくワドルディ達の姿も其処かしこに見られる。
 
 
 
 
部屋の中から見える中庭の一画では、ボルン達が立ち話を繰り広げていた。
 
「署長さん、今年もやってきたね!」
「そうだな。今年はわしもとびっきりのプレゼントを仕入れてきたんだ!」
 
足元に置いてあるプレゼントボックスの中身をタゴ達に、周りに見えないようこっそり見せた。
 
「はぁ・・・・・・」
タゴ達の反応は複雑だった。
 
 
「・・・・・・これまた署長らしい・・・(ごにょごにょ・・・・・・何で警察官の制服なんですか!?)」
「はっはっは。そうだろう、そうだろう!(ごにょごにょ・・・・・・いや、正義感の強いフーム殿にぴったりかと思って・・・)」
「ふっふっふ、俺はもっとすごいプレゼント用意したぜ!」
「へえ。ガスの事だから大体予想つくけどね。車か何かだろ?」
「ああ。でも実のところ、今日までに完成して無くてさ・・・・・・だけど、待たせた分を取り返すだけの質は保証するぜ!!」
 
ガスは自信満々に宣言。
口だけなら何とでも言えると、ボルンは可笑しそうに笑い飛ばす。
 
「はっはっは、大口叩いてがっかりさせんでくれたまえ!」
 
 
 
 
 
ボルン達の会話が耳に入ったフーム、今朝の出来事とデジャヴを感じる。
 
「ボルン署長の言葉、私がブンに言ったのと同じ・・・・・・」
 
後悔の念ばかりが押し寄せる。
 
 
 
フームは部屋の片隅で一人、佇んでいた。
 
 
 
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「んん?この辺りだけ草が踏み倒されているでゲス・・・・・・」
 
エスカルゴンが注意深く足元を観察すると、少し前まで誰かが通っていったような跡が確認できた。
 
「まさか、すでに先取りされたか!?」
デデデが慌てて跡を辿り、駆け出す。
 
「ま、待っておくれでゲス、陛下!!この先に例の花があるとは限らない――――――?」
 
しかしそれは、足跡というにはあまりにも不自然すぎた。
普通の人が通っていったのであれば、こんなに大量の草が踏み倒されるはずが無い。
躊躇無く危険へ突っ込んでいきそうなデデデを引き止めるため、エスカルゴンもワドルディ達も慌てて後を追った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「陛下!!これはもしかしたら魔獣―――んぎゃっ!!」
 
急に立ち止まり、その後ろからエスカルゴンが衝突。
ワドルディ達も急ブレーキを掛けるが、立ち止まらず次々と玉突き事故を引き起こす。
 
「も~、陛下!急に立ち止まって・・・?」
「あ・・・・・・あれ・・・・・・!!」
 
デデデは驚いた表情で、正面にある“それ”を指差した。
 
「!!――――――まさか、これが“ピースローズ”!?」
 
広場のようになっていた、日当たりの良好な森の一画。
これこそがローズピースだと、デデデは信じて疑わない。
ただ、そのローズピースのような花は、見るからに周りの景色にそぐわぬ不自然な植木鉢に収められている。
4つの毒々しいつぼみに囲まれた中心には、より大きなつぼみを支える茎から巨大な花が垂れている。
 
 
「私は写真で見たことも無いでゲスが、多分そうじゃないかと・・・・・」
「はぁ!?多分とはどういう事ぞい、はっきりせい!!」
 
黄色の手袋を嵌めた両手が、エスカルゴンの首根っこを掴んだ。
 
「だってこの図鑑、かなりボロボロで肝心の写真が載っていないんでゲスよ!!無理言わないで欲しいでゲス!」
 
片手の植物図鑑の該当するページを開く。
確かに所々破れており、“ピースローズ”に至っては写真が丸々無くなっていた。
 
「うーむ・・・・・・だが日も暮れてきた。止むを得ん、これを城に持ち帰るぞい!!」
「ええっ!?危険でゲス!こんな得体の知れないものを!!」
「だったらそういう前に図鑑で調べろぞい!!」
目の前の妖花について載っているかどうか、改めて図鑑のページを次々と捲る。
だが、該当するものは何一つとして見つからなかった。
 
「載ってないでゲス・・・・・・それに、この毒々しさ!あきらか――――――」
 
 
 
「ならば新種という事か!!なおさら持ち帰りたくなったぞい!!!」
ひたすら楽観的思考のデデデ。
 
 
「・・・・・・やっぱり、持ち帰るんでゲスか?植木鉢に入ってるって事は、誰かの――――って言っても、どうせ聞かないんでゲしょうね。」
「当たり前ぞい!兵士、これを持ち上げろ!!急いで城に帰るぞい!」
 
ワドルディ達は植木鉢を取り囲み、一斉に持ち上げる。
この時デデデは、植木鉢の置かれていた跡に少しだけ目を向けていた。
そこには一輪のぐしゃぐしゃになった花があったが、気にも留めず帰路に着く。
 
誰も知るはずがあるまい。
それこそが、デデデが求めていた“ピースローズ”の残骸だった事を。
 
『ZZZZZZZ・・・・・・・・・・・・』
「な~んか、この花からいびきが聞こえるのは気のせいでゲしょうか・・・・・・?」
 
 
 
この妖花こそが、世界で一番危険な植物だという事を。
 
 
 
 
 
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