毎年、フームの誕生日会が開かれる度にププビレッジは人が殆どいなくなる。
そんな人気の無い街道に、少年の声が響く。
「いやだって!!俺は絶対に行かない!!」
嫌がるブンを、散歩から帰ってきたカービィが無理矢理連れて行く最中だった。
「ぽよ!ぽよぽよよーよ・・・・・・・・・」
「分かってるよ!姉ちゃんの誕生日会に出席しろってんだろ!?でも今は仲が悪いんだ。誰が何と言おうと絶対に行かない!!」
今朝ああ言った手前、姉の前に何食わぬ顔で行くのも気が引けていた。
「むう~!!」
それでも連れて行こうとカービィは引っ張り続ける。
「・・・・・・・・・やだよ、今更姉ちゃんと仲直りなんて・・・・・・・・・」
ブンが何か呟いたのが聞こえたカービィだが、気にも留めず城へ歩き続けた。
「あなた、出番よ」
「ああ・・・・・・・・・」
フームとブンの険悪な関係を、どう修復しようかで頭が一杯だったパーム。
椅子に腰掛けていたパームはステージ上に登り、マイクを手に握った。
『えー、皆様。今夜は私の愛娘の誕生日会に来て頂き、まことに有り難うございます・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フームはメームのすぐ隣の席に黙って座っていた。
隣は本来、ブンが座るはずだった席。
「ねぇ、フーム。ブンはまだ戻ってこないの?」
重い空気の中、メームが訊いた。
「知らない。」
フームはぶっきらぼうに答えた。
「・・・・・・どうしてこんな日に喧嘩なんかしちゃうのかしら・・・・・・」
メームがため息をついた。
「いいのよ、ママが気にすることじゃないわ。ブンが自分の身の程を知らないだけ。こういうのは自分で分かるまで放っておいた方がいいのよ」
「・・・だけども・・・・・・」
やがて、プレゼントタイムの時間がやって来た。
文字通り、誕生日プレゼントを用意してきた村人達がステージ上に立ち、フームにプレゼントの箱を渡すというものだ。
村人達によって中身は十人十色。
ボルン署長は警察官の制服、タゴは自分が経営するコンビニで使える商品割引券一年分、レン村長は羊の毛を編んで作ったパーカー。
どれもそれぞれの個性が、良くにじみ出ていた。
やがて、大トリのデデデがプレゼントする時間に。
フームとは犬猿の仲であるデデデは毎年、何かと手の込んだイタズラを仕掛けてはしっぺ返しを喰らっている。
村人達はそれもまた一興として楽しんでいたが、今年はいつもと様相が違うことに驚いていた。
「デデデ!?」
デデデカーに引っ張られ、植木鉢に収まった例の巨大な妖花が運ばれてくる。
勿論、プレゼントの箱を結ぶリボンに巻かれて。
「今年は陛下も機嫌が良いので、お前にとびっきりの誕生日プレゼントを用意してきたそうでゲスよ!」
エスカルゴンと共に車から降り、ワドルディの持ってきたマイクを手に取り自信満々に言い放った。
『でゃーっはっはっはっは!!ワシも今年ばかりは真面目にプレゼントしてやるぞい!』
妖花はワドルディ達に持ち上げられ、ステージ上に運ばれる。
相当重いらしく、植木鉢の周囲にヒビが入ってしまっている。
「あの陛下が真面目にプレゼントを・・・・・・」
「やーねぇ、今に恐ろしい災いでも起きるんじゃないの?」
『聞いて驚くでゲス、人民共!!』
『これは図鑑にも載っていない、新種の植物ぞい!!』
「ええ~~~~~っ!?」
「新種だって!?」
村人達から驚きの声が上がった。
「どうせ嘘だろう?」
「嘘じゃないでゲスよ!!これは本当に偶然だったんでゲス!!」
『今年のワシは大盤振る舞い故、フーム!特別にお前が名前をつけても良いぞい!!』
「え?!わ、私が・・・・・・・・・?」
こんな巨大な花を貰って、しかも命名権まで与えられた。
意外と言えば意外すぎるサプライズ。
デデデの気まぐれは今回のパーティーで、一番の盛り上がりを見せた。
そもそもデデデのプレゼントなので裏があるだろうと疑いつつ、フームは戸惑いを隠せなかった。
「いきなりそんな事言われても・・・何て名前つけたらいいか・・・」
「げっ!!何だよあのでけぇ花は!?」
カービィに無理矢理連れてこられたブンは非常に驚いた。
とても個人のプレゼントとは思えない。
「・・・・・・ますます行きづらいじゃねえかよ・・・・・・やだ!絶対行きたくない!!」
「ぽよ!ぽよ!!」
カービィに背中を押されるも、必死に踏ん張る。
その手に握られているのは、フームが常時着用しているのと同じ形をした、新品の髪飾り。
正直、高価でも何でもないし、特に意味があって買った訳でもない。
予めブンが買っておいたプレゼントだが、あの豪勢なプレゼントの後では興醒めも甚だしい。
益々恥を掻きたくないという気持ちが募り、ブンは頑なに拒否し続ける。
その横を、全身を黒いローブで纏った一人の男が通り過ぎた事には気づいていない。
同じ頃、村人達と一緒にパーティーを楽しんでいたダークトリオは妖花に注目し始める。
「ん?でっけぇなあの花・・・・・・」
「観葉植物にしてはでっかいよなぁ・・・・・・」
突然、リムロがスプーンをくわえたまま絶句。
口が震え、スプーンが小刻みに揺れている。
「どうした、リムロ?」
スプーンの先端で、妖花の収まった植木鉢を指した。
側面にはトリオにとって、一番なじみのあるものが描かれていた。
「・・・・・・あれって、うちの帝国のシンボルマークだよな・・・・・・・・・・・・?」
だが、ここにいる村人の誰もシンボルマークなど気にしていなかった。
「なあ、昨日の夜の事思い出してみろよ・・・・・・・・・お偉いさん、“あいつ”がバカンスに来たって・・・・・・」
リムラは昨晩の、無線による会話を思い出していた。
正しくない起こし方を実践すると、恐ろしいことが起きると言われる生きた植物。
じっくり妖花を観察した時、彼らは確信した。
あの花こそが、ディガルト帝国軍のプラントマターだと。
トリオは目の前の食事を後回しにステージ上へ乱入。
一時騒然となった。
「みんなそいつから離れろぉ!!!」
『な、何ぞいお前ら!?』
「どうしたのよいきなり?!」
妖花からフーム達を遠ざけよう誘導する。
「そいつはただの植物じゃねえ!生きてるんだ!!下手に大きな刺激を与えると恐ろしい事になるぞ!!!」
村人達からどよめきが上がる。
『貴様、ワシに恥をかかせるつもりか!?』
「うるせぇ!!そういう怒鳴り声もこいつを起こしかねないんだ!!!」
何がなんだか分からないまま、デデデはリムラにマイクを取り上げられた。
「ダークトリオ?どういう事なのか、説明してちょうだい!!」
『説明する必要はない。すぐに分かる』
ステージ上の一同が声のする方向を向くと、黒いローブを纏った謎の人物が立っていた。
ローブを脱ぎ捨て、意外な姿を明かす。
「なんでゲスかありゃあ?」
「ちぃっ!BBBの回し者か!!」
敵を睨み付け、舌打ちするリムラ。
正体は人では無かった。
ドクロマークのついた爆弾に、足が生えたような姿。
歩く爆弾という言葉が最も相応しい。
「あれは、魔獣ボンバー!!!」
「メタナイト卿!?」
例の如く、メタナイト卿が登場。
驚くダークトリオをよそに、冷静に敵の解説をし始めた。
「自らの体を着弾させることで爆発を起こす、捨て身型の魔獣だ」
「けどよ、爆発力は標準的な火薬量の爆弾よりちょっと強い程度」
「それにボンバー、高いところから落とされなきゃ真価を発揮できないはずだぜ」
「なんでわざわざそっちで魔獣化したんだ?ばっかじゃねぇの?」
悪態を突くリムラだったが、直ぐ異変に気づいた。
「見ろ!!あのボンバーは、足の筋肉が通常のものより強い!」
確かにこの場合のボンバーは、通常の個体と明らかに異なる。
足の筋肉の付き具合が尋常ではなく、筋骨隆々であった。
「じゃあ、こっちへ飛んでくるって事だろ!?」
リムルが叫んだ。
「全員退避ぃ!!」
ボンバーはその場で少し屈むと、予想通りの恐ろしい跳躍力で宙を舞い、妖花めがけて落下。
その瞬間、小規模の爆発が妖花の目前で発生。
周囲が煙に包まれ、何も見えない。
「うわわわわわわ!やばいよ、やばいってこれは!!」
「言われなくても分かってら、リムル!!」
「これで起きてなきゃいいけど・・・・・・!!!」
その願いは早くも絶たれる。
煙が消え失せ、視界が晴れた其処には、逆鱗の妖花が怒りを滾らせていた。
『誰じゃあああああああああああああああああああ!!!!このワシを起こしよったんはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???』
身の毛もよだつ怒号の前に、トリオの表情が固まる。
起きていた。
しかも、機嫌の悪さが並大抵ではない。
「何?あの花の中心・・・・・・目だったの!?」
「正確には、顔なんだけどな・・・・・・もうこの国はおしまいだぁ!!!」
怯えるリムラ、臆病にもフームの後ろに隠れてしまう。
「え!?この国が終わるって、どういう事―――――」
『何じゃぁぁあ!!!てめぇか、ワシを叩き起こしたんはぁ!!!ワシの眠りを妨げるたぁええ度胸やのぉアマぁ!!!!!!!!!!』
「何ですってぇ!?もう一度言ってみなさいよ、あんた!!!」
侮辱されたように感じたフーム、怒りに満ちる妖花に食って掛かった。
「やめろ!これ以上怒らせるなって!!こいつマジ危険なんだよ!!!」
『こんガキゃあ!!!このディガルト帝国軍特殊部隊イチの参謀、プラントマター様を怒らせたらどうなるか・・・』
『その体にきっちり刻みこんだるわああああああ!!!!!!!!!』
プラントの周囲にうごめく4個の蔓のつぼみが開花。
フームに矛先を向けた。
「逃げろ!!アレはただの花じゃねえ、ミサイルやレーザーを発射する偽装砲台だ!!」
リムラが叫ぶ間にも、開花した花びら達は4つの光弾を一斉に発射。
「っ!!」
すぐ傍に着弾し、爆風に吹き飛ばされるフーム。
まだ寝起きなのか、プラントの狙いはそれほど正しくない。
光弾が周囲へうまく外れた隙にその場から逃げだそうとする。
『んがぁ~~~!!??どこいくんやぁてめえ!!!ぶっ飛ばしたらああああああああああ!!!!!!!!』
「お前の相手は、俺だ!!!」
『あぁ!???』
プラントの目の前に、ブンが立ちはだかる。
『なんじゃぁ!!!そいつの仲間かいなぁ!?!?!』
光弾を発射しようとしたプラント、一旦砲撃を止めた。
「あら、ブン。特訓の成果でも出たのかしらぁ?」
フームは皮肉のたっぷり詰まった台詞で挑発する。
元はといえば、今朝のきっかけを切り出したのはブンだ。
ならば見せてもらうしかない、彼の実力とやらを。
「そ、そうだよ!!!」
『んあぁ??!?ヒューマノイドの分際でワシを倒すってかぁ!!?食物連鎖に逆らうとか、何様じゃワレぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!』
更に理不尽な怒りをぶちまけ、怒り狂うプラント。
大量の光弾が天に向かって撃ち出され、飛来する。
対するブンは何も準備が出来ておらず、爆発で破片と化したテーブルや椅子を投げつける事ぐらいしか出来なかった。
『ふざけおって!!!!こっちは真剣なんじゃああああああああああああ!!!!!!!』
プラントは背中側にある2つの花びらを回転させ、花の中心からガトリング砲のように熾烈な銃撃を浴びせる。
「きゃあっ!?」
「うわっ!!」
「ぽよ~~~!!!!」
これまた理不尽に狙われたカービィ、地面をえぐりながら向かい来る銃弾から必死に逃げ回る。
「何やってるんだよカービィ!!俺が何とかするから、引っ込んでろよ!!」
目先の事に捕われるあまり、冷たい言葉を浴びせかけるブン。
目玉を狙えば良いだろうと思い、再び木の板の破片を投擲。
『おわあっ?!!』
見事に直撃し、思わず怯むプラント。
プラントはがむしゃらに両腕を振り回し、益々怒る。
『かぁ~~~~~~!!!うっとうしいやっちゃのぉ!!!!』
地面に植物の腕を突き刺すと、栄養を吸収し始める。
先程のボンバー爆発で傷ついた体が、見る見るうちに修復されていく。
『ワシをただの植物野郎思うとんのか?甘いのぉ、ボウズ!!!!!』
「げっ!?」
「奴の言う言葉そのままだ」
傍にメタナイト卿が駆け寄る。
「どういう事だよ!?」
「あれだけ巨大化した植物であれば、一度に吸い取る栄養分も半端ではない!!」
傷が完全に修復し、不敵に笑うプラント。
ジリジリとこちらへにじり寄って来る。
「そんな・・・・・・・・!!」
「馬鹿ね、ブン」
「なんだと!!」
ブンは怒りを隠せない。
「だったら、次は姉ちゃんの番だ!」
「いいわ。どんなに強い相手でも作戦次第で勝てるって事、教えてあげる!!」
『ぬあにをゴチャゴチャ話しとるんじゃあ!!?男なら拳一つで勝負せんかい!!!!!』
「私は女よ!それにそっちはミサイル撃ってきたくせに!!」
『口答えすんなやぁ!!ワシを無理矢理叩き起こしよった分際でぇ!!!』
プラントが凄まじい剣幕で怒鳴り散らし、思わず耳をふさいだ。
『そろそろ本調子なってきたから、ちょいと本気出させてもらうわぁ!!!!!』
プラントの居座る、というよりも根付いている植木鉢の下部分から、四輪の大きなタイヤが出現。
植木鉢を支えるように定位置に付くタイヤは前輪、後輪に二輪ずつ分離。
タイヤの高さも相まって、プラントがより一層大きく見える。
「げ!?こいつこんな機能持ってたのかよ?!」
『さあ、第2ラウンドといこか!!!!!!』
タイヤが一斉にキュルキュルと猛回転し、プラントは猛スピードで走り出した。
『ワシをただの植物野郎思うとったらあかんでぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!』
タイヤのスピードを保ったままカービィ達に突っ込み、散り散りに吹っ飛ばした。
「こんな移動手段を持っていたなんて、信じられない!!」
通り過ぎたプラントは大きなドリフトで旋回し、フームに狙いを定める。
「カービィ!!ここはひとまず、お城の中へ!!」
2人はそのまま城の中へ逃げ込む。
『また逃げる気かぁ!!!!ってうぐふぁ!!??』
プラントは追いかけようとしたが、あまりにも体が大きいので入り口を通り切れず、激突。
顔を押さえて悔しがる。
『くっそぉーーーーー!!!』
「いい、カービィ?作戦はとっても簡単よ。私があの植木鉢を引き付ける」
フーム達は一階上の屋外通路まで避難し、プラントを倒す作戦を立てていた。
近くに飾られた甲冑から剣が損失している。
誰の仕業かは言うまでもない。
「今のあなたはソードカービィ。剣でタイヤを切り落とせば、あいつの機動力はガタ落ちよ!!」
「ぽよ!!」
フームがふと中庭に目をやると、ブンと逃げ惑う村人達の姿。
後ろからプラントが猛スピードで追い上げる。
『おらおらおらあああああああああああああ!!!!!!』
「あとは、どのタイミングで・・・・・・・・・」
フームが色々思案していると、プラントは曲がり角でドリフトを試み、失敗して城壁に激突した。
『おわっ!??落ちる、落ちるぅうううううううう!!!!!!!』
城壁を貫き、その勢いで崖から転落しそうになったプラント。
タイヤを逆回転させ逆走することで難を逃れ、冷や汗を拭う。
そのままブン達の後を追うべく、走行再開。
「これだわ!!」
フームが突然閃いた。
「あいつが崖から飛び出すように誘導して、ブレーキをかける前に切り落とすの!!」
「ぽよ?」
「あいつはかなりのスピードで暴走している。勢いを保たせたままタイヤを失くせば、そのまま崖から転落する!さっそく準備よ!!」
―――――――――――――――――――
『どこ行きおったぁガキどもおおおおおおおおおおお!!!!!!』
未だに爆走を続けるプラント。
見たことのある人物を見つけ、急ブレーキで停止。
『!!!―――あん?今はあの憎たらしい小僧どもを叩きのめすのに精一杯なんじゃ!!てめぇは後、後!!!!』
先程自分が壁に開けた穴の中に立っていたのは、フームだった。
「へえ、自分を叩き起こした私が憎くないの?」
『アホぬかせぇ!!んなわけあるかぁ!!!!』
「だったら、かかってきなさいよ!!!」
どうやって突撃を誘発させるか。
考えた末、フームは単純な挑発でおびき寄せる事に決めた。
『何を――――ははぁん、分かったぞ??てめぇの後ろにあるのはさっきワシが落ちそうなった崖!!!ワシを挑発して崖から落とそうって魂胆じゃなぁ!!??』
「どうかしらぁ、さっさと突撃してきたら?」
『やかましや!!!そんな見え透いたワナに誰が引っかかるかいなぁ!!!!!撃ち落したる!!!!』
「あっ、そう。ワナなんて一言も言ってないのに、落ちるの怖いからわざわざミサイルで私のこと撃ち殺すんだぁ?」
『ぬあにぃ!?!?!』
「臆病ね。私を突き飛ばしてもあなたは逆走すればいいじゃない。何のためのブレーキなの?」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!』
プラントは今の状態が状態なので、どんなに単純な挑発でも引っかかる。
即興でうまく相手の琴線に触れる言葉を捻り出せないフームにはそれが幸いだった。
「あなたのタイヤはか・ざ・り!?それともポ・ン・コ・ツ!?」
フームは畳み掛けるようにでたらめな挑発を仕掛けていく。
相手が怒れば何でも良い。
『・・・・・・こ・・・この・・・・・・・・・な・・・・・・!!!!』
「ああ分かった、私が怖いんでしょ?情けないお花」
クスクスとフームが笑う。
『な・・・・・・な・・・・・・・・・!!!!!』
「失礼、お花じゃなくて雑草だったわね」
『なめんなやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!』
再び怒りが最高潮に達したプラント、再びタイヤを高速で回し始める。
「(来るっ!!!)・・・ほら、いらっしゃい」
余裕の笑みでフームは軽く手招き。
タイヤの擦れる音が更に激しくなる。
『あの世で一生後悔しろやぁ!!行くぞぉ!!!!!』
怒号と共にプラントが突進。
恐らく突進を誘発させたとしても、そこですぐ逃げてしまえばさすがの向こうも作戦に気づく可能性が高い。
こちらの作戦がバレないように、フームはギリギリの所まで引き付けなければならない。
いわゆるチキンレース。
どこまで接近を許せるか、どれくらいの距離まで詰められたらカービィに合図を発するか。
全てをコンマ一秒ほどの瞬時の判断で決める必要があった。
(まだ・・・・・・もう少し・・・・・・・・・・・・)
時間の流れが極端に遅くなったかのような錯覚。
それを利用し、フームは全てのタイミングを図る。
プラントの巨体は更に接近し、距離を縮めていく。
(もうちょっとだけ・・・・・・・・・)
そして、その時は来た。
「今よ、カービィ!!!」
合図を発し、フームが左へ跳ぶ。
同時にソードカービィが身体を回転させ、掲げた剣でタイヤを切り裂くように突撃。
スイングソード。
『!!!!』
プラントも馬鹿ではない。
相手の策にはまったと分かった途端、急ブレーキを入れ始めるが、既に遅かった。
タイヤはズタズタに引き裂かれ役目を奪われ、プラントの体は勢い余って崖下へ転がり落ちていく。
『ああああああああれええええええええええええええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
とうとう完全に崖から転落し、辺りには気の抜けるような叫び声が響いた。
「・・・・・・・・・・・・やった・・・・・・!!!」
間一髪で突進を避けたフームは、己の勝利を確信。
「それにしても、随分あっけない敵だったわ・・・・・・」
「姉ちゃん!!」
安堵に浸るフームとカービィの下に、ブンが駆けつける。
「ブン!!」
「・・・・・・・・・本当に倒しちまったんだ・・・!」
「そうよ?何か文句ある?」
フームは自慢げに胸を張った。
「・・・・・・・・・ごめん」
「?」
「・・・・・・俺が馬鹿な事言ったせいで、姉ちゃんに無理させちまって!」
「良いのよ。私だってこの勝利は、カービィの力を借りて掴んだようなもの。・・・・・・全っ然、強くなんか無い」
「そんな事無いって!すっげぇ頭良かったよ!!・・・俺は逃げるのに必死で、何も良いとこ見せられなかったし・・・」
「・・・・・・凶暴な敵に自分から立ち向かって行っただけでも、十分強いわ」
「!!・・・・・・・・・ありがとう、姉ちゃん。・・・今更言うのも恥ずかしいけど、その・・・仲直り・・・しても、いい・・・・・・?」
「・・・・・・私も意地張って悪かったわ。ブンとなら、喜んで―――」
『このまま終わる思うたかぁ!!?こんのガキどもがぁ!!!!!!!』
崖下に落ちたはずのプラントが、再び姿を現した。
植木鉢の底の穴からのジェット噴射で上昇し、地上のカービィ達を見下す。
「ぽよ!!!」
「こいつ、まだ生きてやがったのか!?」
「そんな!!まだこんな力を隠していたなんて・・・・・・・・・」
『だから言うたろがぁ!!!ワシは特殊部隊やぞ!?手の内は常に一つぐらい隠しておくものやで!!?』
プラントは花の砲身をカービィ達に向ける。
「くそ・・・・・・・・・!!」
「カービィ、吸い込・・・」
フームの口が止まる。
見ればジェット噴射の勢いが、突然途切れた。
『おろ?』
「「あ」」
「ぽよ」
異変に気づいたのか、ようやく目が覚めたのか。
先程の威勢がまるで感じられない口調に変わり、目つきも大分大人しくなった。
『そういえば燃料補給を忘れてたでヤンス。おまけに目覚めが悪いし、もしかして皆さんにご迷惑をお掛け・・・・・・・・あ』
気づいた時には再び、崖の下へ垂直落下。
二度と城へ這い上がる事はなかった。
『あひぇえええええええええええええええ!!!!』
崖の上から様子を見る一同。
まだ暴れるのではないかと心配したが、結局何も起こらなかった。
「何がしたかったんだ、あいつ・・・・・・・・・?」
「何でもいいわ。これで一件落着ね、後でデデデの奴にガツンと・・・・・・」
「あ、そうだ!!」
「どうしたの?」
「・・・・・・・俺さ、一応プレゼント持ってきたんだ。ほら、これ・・・・・・あっ!!」
姉のためにと密かに買っておいた新品の髪飾り。
気がつけば、プラントとの戦いで何時の間にか酷く汚れてしまっていた。
「・・・・・・ああ・・・そんなぁ・・・・・・・・・」
ショックを受け、へたり込むブン。
こんな汚いプレゼント、一体誰が欲しがるのか。
もうダメだ、自分だ大恥掻いて誕生日が終わってしまうんだ。
しかし、次に姉が取った行動にブンは驚愕せざるを得なかった。
「姉ちゃん!?」
あろう事かフーム、土に汚れた髪飾りを自ら手に取り、自分が付けていたものと取り替えた。
「何やってるんだよ、大事な髪が・・・・・・!」
「全然気にしてないわ。むしろたまには、こういうのも悪くない」
「・・・本当はさ、もっと高価なもの用意したかったんだけど・・・こんな安っぽいの、しかも汚れて・・・」
「ううん、十分立派なプレゼントよ。私はこんな弟を持って幸せだわ」
「!・・・・・・・・・姉ちゃん」
「何?」
「・・・・・・・・・誕生日、おめでとう」
「・・・・・・ありがとう、ブン」
_________
「くぅう、いい話だなー」
物陰よりその様子を見つめるダークトリオ。
「ブンも良い姉貴を持って、さぞ幸せだろうに」
「普通は誰も付けたがらないのに、率先して自分から!」
「すげぇよな。なあ、リムラ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・そうだな」