彼らがハーフムーンから脱出してから、数時間後の事・・・
宇宙船は無事銀河戦士団本部に到着。
そしてまずは始めに、自分とナックルジョーの傷の手当てが始まった。
シリカの方は負傷したのは左腕だけだった為、手当はすぐに終わった。
一方のジョーは傷がかなり深く、少しだけ時間が掛った。
それから15分経った辺りで、無事に手当は終了。ドクター曰く傷は深いが、命に別条は無く、
当分の間安静にしておけば大丈夫との事だった。
そしてそれ同時に彼は「しかし、こんな傷を負って長い時間あの星にいて、良く熱を出さず無事でいたものだ」と少々不思議がっていた。
その後、動けるようになったシリカは、オーサー卿に今回起きた事を報告。
無論、ハーフムーンで自分が体験した不思議な事についても、ちゃんと報告した。
それから、逃げ出したヒッティーやハーフムーンの魔獣、そして偽の情報を流した彼の協力者の捜索要請を出した後、
オーサー卿に今日はもう遅いから寝た方がいいと言われた。
確かにそう言われてみると、本部のあるこの星はもう深夜の時間帯だった。
その為シリカは空き部屋を借りて、寝る事にした。
何処か暗い表情で、ジョーの事を考えながら・・・
次の日の朝・・・
「うーん・・・は!ここは!?」
目を覚まして早々、ガバっと体を起こすジョー。そして辺りを見渡すと、そこはハーフムーンの洞窟ではなく、何処かの病室である事に気が付いた。
「あれ?確か俺は、ハーフムーンの洞窟でキリサキンと戦っていて、それで・・・あ!」
寝起きでボンヤリしている頭の中を整理して、昨日の事を思い出した。
「そうだ!俺は確かキリサキンを倒したんだ。それで・・・あれ?どうしたんだっけ・・・?」
ジョーはそこから先の記憶が無かった。そう言えば、自分はシリカを庇って傷付いていた。
まさか、キリサキンを倒した直後、意識を失ったのでは?
それ以外に考えられなかった。
じゃあ、自分をここに運んだのは誰だろうか?
・・・まさか、シリカ?
いやそんなはずはない。彼女も傷を負っていたし、
だいいち自分同様魔獣との戦いで疲れていた彼女が、あの距離をしかも自分を担いだ状態で宇宙船に戻り、
ここまで連れ帰ったと言うのだろうか?
しかし、あの星にいたのは自分と彼女だけ・・・
・・・いや、ヒッティーもいた。
奴もどうなったのだろうか?気になる事が沢山あったその時、誰かがジョーの病室に入って来た。
「あら。もう起きてたの・・・?」
それは彼にとって大切な存在、シリカだった。
そしてその姿を良く見てみると、左腕には昨日の傷を手当てしたものと思われる包帯が巻かれていたが、
当の本人は大丈夫そうだった為、ジョーは安心する。
だが、先程のシリカの声は何処か暗そうに聞こえたのは、気のせいだろうか?
「ようシリカ!元気そうだな」
「ええ・・・ジョー、アナタも元気そうで何よりだわ・・・」
「・・・?」
今度は気のせいじゃない。確かにシリカの声は何処か暗かった。
それに、良く見ればその顔も何だか暗かった。
「(いったいどうしたんだ?)」
ジョーは分からなかった。
自分がこうして意識を回復させたと言うのに、嬉しくないのだろうか?疑問に感じるジョーをよそに、
シリカはベッドのそばに置いてあった椅子に腰かける。
そして、自分が意識を失っていた間に出来事を全て話したのだった。
「・・・なるほど、それで俺は銀河戦士団本部の病棟のこの部屋に運ばれたと?」
「まあ、そう言う事ね・・・」
「そうか・・・しかし、ヒッティーを逃がすなんて惜しかったな・・・
あのふざけたピエロ野郎め、もしこの傷が治ったら見つけ出して叩きのめしてやる」
「・・・・・・・」
「ん?」
やっぱり今のシリカは何だか暗い。本当に何があったのだろうか?
思い切って聞いてみようと思ったその時だった・・・
「・・・・・バカ!」
「へ!?」
「ジョーのバカ!何で・・・何であんな事したのよ!!」
いきなり罵声を飛ばされたかと思えば、今度は怒鳴りながらポロポロと大粒の涙を流し始めるシリカ。
「え?え??」
余りの事態に戸惑いを隠せないジョー。普段気の強い彼女が涙を流す事は滅多にない。
よっぽどの事が無ければ絶対に泣かないのだ。
しかし、彼女は今泣いている。しかも先程の口振りからして、原因は自分にあるようだ。
何とかしたかったは、女心に余り詳しくないジョーは、どうすれば良いのか分からなかった。
いや、それ以前に何故彼女を泣かしてしまう事になったのか、全く心当たりがなかったのだ。
「お、おい・・・シリカ?」
心配そうに声を掛けるジョーだったが、そんな彼に対してシリカはこう言い放った。
「ジョー!どうして私を庇ったの!?私を庇わなかったら、そんな怪我しなずに済んだのに・・・!」
それを聞いたジョーは、
ようやく彼女がキリサキンにトドメを刺されようとした所を、庇った事が泣かせた原因だった事に気付いた。
それと同時に、ジョーはカチンと来た。
確かの彼女の言うとおり、あそこで庇いさえしなければ、自分はこうして寝込まずに済んだかもしれない。
だが、あの状況を野放しにしていたら、彼女は殺されていたはずだ。
そんな事を言われるような事はしていない。
そう思ったジョーは、シリカに言い返した。
「おいシリカ!せっかく人が助けてやったのに、何言ってるんだ!あそこで俺が出なかったら、お前殺されてたんだぞ!?」
「分かってるわよ、そんな事!」
「なにぃ!?」
ジョーは腹が立って来た。どうして分かっているはずなのに、そんな事を言うのだろうか?
訳が分からない・・・彼がそう感じた時、シリカは相変わらず涙を流しながら、また口を開いた・・・
「分かってる・・・でも、もうこれ以上大切な人を失うのが嫌だったの!私の母のように・・・!!」
「!?」
その言葉を聞いたジョーは、ハッと何かを思い出したような表情を見せる。
その一方で、シリカは静かに話し続ける。
「ジョーには前にも聞かせたでしょ・・・?私の母がメタナイトと一緒にギャラクシア奪還の為にキリサキンと戦い、
ギャラクシアを手にして勇敢な死を遂げたと・・・」
「あ、ああ・・・」
「そしてそうなったもっともの原因は、キリサキン・・・
アイツのせいで、私の大切な母は死んでしまった・・・
だから、今回もあの魔獣のせいでアナタが犠牲になるのが、とても嫌だったの・・・とても・・・」
「シリカ・・・」
そう語るシリカの涙の量はより一層増した。そしてそれを聞いたジョーは、罪悪感を覚えた。
自分が善意で行ったはずの咄嗟の行動が、図らずとも彼女の心の傷を刺激してしまったのだから・・・
「そうだったのか・・・悪い事しちまったな。その・・・ゴメンな」
謝罪の言葉を述べるジョー。これに対し、シリカは首を横に振りながら答える・・・
「私の方こそ、ごめんなさい・・・あの時助けてくれたのに、こんな自分勝手な理由で怒鳴ったりして・・・」
「いや、悪いのは俺の方だ。俺が無神経に、お前のおふくろの事思い出させるような事しちまって・・・
だから、もう泣くな」
「ジョー・・・」
ジョーの優しい言葉に、
今度はうれし涙が出そうになったが、これ以上彼を心配させてはいけないと思いそれを堪えた。
そして、自分はジョーのこう言う所にも惹かれているのでは無いかとつくづく思った。
「とにかく、本当にごめんな」
「もう、良いわよその事は。それに、ちょっと嬉しかった事もあったし・・・」
「嬉しかった事?」
いったい何の事だろうか?先程少し辛い話を聞かされただけに、ジョーは見当がつかなかった。
そんな彼をよそに、シリカは先程とは対照的に明るめな雰囲気でこう言った。
「私の為に怒ってくれた事」
「あ?ああ・・・」
その言葉で彼は思い出した。
あの時キリサキンの攻撃から彼女を庇った時、その命を奪おうとした事に対する怒りが込み上げた事・・・
そして、その怒りに任せて魔獣を倒した事・・・
全ては愛する彼女を失いたく無かったが為に・・・
だが、どう言う訳かそれが照れくさくなり、ジョーは顔を赤くした。
「い、いや・・・あの時はちょっとな・・・」
「あら?こんなに顔を赤くして・・・照れてるの?」
「・・・・・」
そんなジョーの様子を見て、クスクスと笑うシリカ。先程の暗い空気は何処へやら、今の2人はとても明るく、何処か暖かな空気が漂っていた。
パンパンパンパンパン・・・
「「!?」」
その時だった。突然自分達以外誰もいないはずの病室に、拍手が聞こえた。
そしてその音が鳴った方へ2人は目をやると、そこには特徴的な形の肩当てと仮面を身に纏った騎士が、
脇に本を抱えた状態で手を叩いていた。
銀河戦士団上層部一の掴み所のない性格をしている事で有名な軽い男、ノイスラート卿だった。
「の、ノイスラート卿!?いつからそこに・・・?」
「はっはっは・・・いや、すまないねシリカ君。君に用があって数分くらい前にこちらに来たのだが、
何やら入りづらい雰囲気になってたものだから、タイミングを見計らっていたのだよ」
そう語るノイスラート卿。そしてその様子は何処か楽しげだった。
「そうだったのですか」
「ああ、そう言う訳だ。しかし、君達は実にお熱いねえ・・・私の若い頃を思い出したよ」
「「!?」」
彼のその一言に、2人は驚いたような表情を見せる。まさか・・・先程のやり取りを見られていたと言うのだろうか?
そんな2人の様子を不思議がるように、ノイスラート卿はこう言った。
「おや?何をそんなに驚いているのだね?さっき言ったじゃないか、タイミングを見計らっていたと・・・
中の様子を見てなかったら、こうもタイミング良く入ってこないだろう?」
その言葉にジョーとシリカは恥ずかしくなってお互い顔を真っ赤にした。
その様子を見て、ノイスラート卿はこれまた楽しげな様子で薄らと笑う。
「フフ・・・まあ、そんな事は置いといて・・・話しを戻そう。シリカ君、今日君に用があるのは他でもない。
昨日のオーサー卿への報告内容の中で、1つ気になる点があってね。
それについての話しをしに来たのだよ」
「気になる点・・・?」
「そうだ。君は確か、ナックルジョー君を運ぶ途中で、不思議な体験をしたそうじゃないか」
「え、ええ・・・」
「その時の事を詳しく話してくれないかね?」
「はい」
シリカはノイスラート卿にその時の事を話した。
自分が倒れた後、何も無い白くて不思議な空間に出た事・・・
目の前に神秘的な泉が現れた事・・・
その後何故か宇宙船の前に戻され、お互い疲れも取れていた事・・・
彼女はその全てを話した。
「・・・以上です」
「なるほど、神秘的な泉か・・・ふむ、ではやはりあの星に・・・」
「「?」」
シリカの話しを聞いて、何やら知っているかのような素振りを見せるノイスラート卿。
「シリカ君。君が見た泉と言うのは、ひょっとしてコレの事ではないかね?」
そしてノイスラート卿は先程から脇に抱えていた本を開き何枚かページを捲ると、それをシリカに手渡した。
「コレは・・・!」
手渡された本のページに載っていたものを見て、シリカは驚く。
何故ならそのページには、
中央にスターロッドのようなものが刺さった台座が設置された噴水を中心に広がる、色とりどりの水で満ちた泉の姿・・・
昨日ハーフムーンで自分が見た泉のものと、同じ絵が載せられていたからである。
「何だコレ?随分と派手だなぁ・・・」
先程、一応意識不明の自分を運ぶ際に泉を見た事をシリカから聞かされていたジョーだったが、
実物を見ていなかった為、その絵が何なのか分からなかった。
「・・・こ、コレよ!昨日私が見たのは」
「え?コイツが?!」
だが、シリカのその言葉ですぐにそれを理解した。
そしてそれを聞いたノイスラート卿は、「やはりな・・・」と何か確信を得たかのように呟くと語りだした。
「シリカ君。君が見たと言う泉は恐らく"夢の泉"だろう」
「夢の泉?」
「そうだ。君達も噂だけなら聞いた事があるはずだ。全ての生き物に安らぎと希望に満ち、
そして眠りに着いた者達に夢と安らぎを与えるとされる、夢を司る神聖なる場所と伝えられる泉・・・
誰が、いつどうやって作ったのかははっきり分かっていなければ、誰もその姿をはっきり見た事の無い非常に謎の多い場所だ」
「ああ・・・確かそんなトコだったっけ?」
「ええ。・・・あれ?でもその泉ってポップスターにしかなかったはずじゃ・・・」
そう、夢の泉の存在が明らかとなったのは、ポップスターのオレンジオーシャン付近にある古代遺跡から出土した、
一枚の石板に書かれた古代文字とその絵からだった。これを見た多くの考古学者は、
その正体を確かめようとポップスター中を転々としたが、全くとして見付からなかった・・・
しかし、それでもそれらしき泉を目撃したとの情報が後を絶たなかった為、未だ調査を続行中との事らしい。
そしてシリカがポップスターにしか夢の泉が無いと思っていたのは、これが理由だった。
いや、彼女だけじゃない。ジョーもそうだ。
しかし、次のノイスラート卿の言葉で新事実が判明した。
「そう、確かに最初はそう思われていた。でも、最近になってポップスター以外の惑星にもあるらしいと言う事が分かったのだよ」
「ポップスター以外の・・・」
「惑星にも?」
「ああ。何でもポップスターで発見された石板と似たようなものと、
その泉らしきものを目撃したと言う情報が、草花の星フロリア、洞穴の星ケビオス、
そして昨日君達が言っていた常夜の星ハーフムーンにあったらしいのだよ」
「「ハーフムーンからも!?」」
2人は驚きを隠せなかった。まさか、ポップスターにしか無かったと思われていた夢の泉と同じものが、他の星に・・・
しかも誰も近寄らない辺境の星であるハーフムーンにまであるとは、思ってもみなかったからである。
「どうだい、驚いたかね?」
「あ、ああ・・・」
「ええ・・・」
「そうか・・・ま、無理もないか。・・・まあ、とりあえずそんな所だ。
そしてこの事から、これらの星以外にもミルキーロード中の惑星ほぼ全てに、夢の泉が存在している可能性が出てきて現在調査中との事だ。
それと、これは全くの余談だが・・・
最近今のハーフムーンの環境には夢の泉が大きく関わっているとの説が立っていて、それを確かめようとまたあの星への調査の準備が進んでいるらしい。
はてさて、いったい今度は何年掛るのやら・・・」
そう言うノイスラート卿は半ば呆れ気味だった。そして彼は、何かを思い出すかのような素振りを見せた。
「おっと、いかんいかん、話しが少しそれてしまったな。シリカ君・・・君が見た夢の泉に関してだが、
その泉が現れる前に何かなかったかね?」
「え?何かって?」
「何でも構わない。その前に取った行動とか、何を思ったかとか、そんな事で良い」
「わ、分かりました。え、えーと・・・」
シリカは懸命に昨日の事を思い出そうとした。
「(確かあの時ジョーを運ぼうとして倒れて、それで・・・あ!)」
そして何思い出したかのように、ハッとした表情を浮かべた。
「どうだい?何か思い出したかね?」
「はい。あの時、助けを求めました。ジョーと生きて帰りたいが為に・・・」
「シリカ・・・!」
それを聞いてジョーは、内心驚いた。まさかあのシリカが助けを求めるような事をしていたとは・・・
そしてこの一言で、ジョーはシリカにとって自分がどれだけ大切な存在だと思っていたのか、再確認した。
それと同時にジョーは嬉しくなった。
そんな一方でノイスラート卿は、ようやく全てが分かったと言いたげな様子で、こう答えた。
「シリカ君。夢の泉は人の思いに反応する事がある時がある。夢と思いは密接な関係にあるからね」
「ええ。でも、それと私の体験と何の関係が・・・?」
「それはだね・・・
君のナックルジョー君と生きて帰りたいと言う強い思いが、夢の泉に届いたのかもしれん」
「私の思いが・・・?」
「ああ。あくまで私の推測だがね」
ピピピピ!ピピピピ!ピピピピ!
と、その時だった。突然ノイスラート卿の懐から、何やら呼び出し音らしき音が鳴り響いた。
「おや?通信機が鳴っているようだ。ちょっと失礼・・・」
そう言いながら懐から通信機を取り出し、誰かと会話を始める。
そしてしばらく返事をするなり相槌を打つなりすると、会話を終わらせると、通信機を切った。
「誰からだ?」
「オーサー卿からだ。大事な集会を始めるから、来いとの事だ。
多分、昨日シリカ君が捜索要請を出した、ヒッティー達の事についてだろう」
「そうか」
「まあ、そう言う訳だ。それじゃあ、お邪魔虫の私はいい加減退散させてもらうよ・・・」
そう言ってノイスラート卿は病室を出ようとした。だが、ドアの前にまで来たところで突然立ち止った。
「おっといけない。まだ聞いてなかった事があったよ」
「え?」
「聞いてなかった事?」
「そうだ。昨日ヒッティーが罠を仕掛けていたらしいが、君達は罠だと知っていてあの洞窟に行ったのかね?」
ノイスラート卿は、そんな質問を2人に投げかけた。もちろん上層部の者に嘘を言う訳にはいかず、2人は正直に答えた。
「ええ・・・」
「知ったうえで行ったんだけど・・・」
「そうか・・・しかし、何故罠だと知って飛び込んだのかね?」
「そ、それは・・・」
「俺達2人なら、何とかなると思って・・・」
「ふむ、なるほど・・・」
2人の答えを聞いた途端、ノイスラート卿は珍しく真剣な面持ちとなり、話し始めた。
「そこまでの自信を持っていたとは、さすがだよジョー君、シリカ君。
協力して罠を跳ね除けられる君達の実力は、本当に素晴らしい。私も一目置いているよ。
・・・しかしね、敵は君達の実力を知ったうえで罠を仕掛けてくる事だってあるんだ」
「俺達の実力を知ったうえで・・・」
「罠を?」
「そうだ。特に君達はナイトメア社に深く関わった事があるから、尚更だ。
もしかしたら、あそこで引くと次に魔獣達が何をしでかすか分からないと思って行ったのかもしれないが、
相手はどんな罠を仕掛けてくるか分からない。場合によっては敵の誘いに乗ることも必要だが、時には引く勇気も必要だ。
一旦引いて、ちゃんと戦力を整えてから行けば、今回のような事にはならなかったと私は思うが」
「「!」」
ノイスラート卿の言葉は的を射っていた。
確かに時に相手はこちらの事を知ったうえで、
何か策を張っている可能性もあるし、こちら側はそれを全て把握する事は至難の業だ。
事実、今回の一件がそうだ。
単純に誰もいない惑星におびき寄せて、魔獣の群れで叩きのめそうと思っていたら、
実は高い実力を持つ自分達を疲れさせた所に強力な魔獣差し向けるものであった。
そしてこの様だ。彼らにノイスラート卿の言葉を否定する権利など、何処にも無い。
「「・・・・・・・」」
「・・・まあ、そう言う事だ。とにもかくにも、今回の件でそれが良く分かっただろう?以後、気をつけるように」
「「はい・・・」」
「分かればよろしい・・・おっといかん!それよりも早く行かなければ・・・」
思い出したかのように、ノイスラート卿は再びオーサー卿の所へ向かわんとばかりに、足を進める。
そして病室から出る際に、一言残した・・・
「それじゃあ、お邪魔虫の私は今度こそ退散するから、後は君達2人だけの時間を満喫したまえ」
と・・・
それからノイスラート卿は出て行き、またしてもジョーとシリカは2人きりとなってしまったが、
先程ノイスラート卿に言われた事が大きく響いていた。
「まさか、最後の最後で説教されちまうとはな・・・」
「ええ。しかもノイスラート卿にね・・・」
2人はノイスラート卿はジョークを交えた軽い喋り方をする、軽いばかりの男だと見ていた。
だが、今回の説教を受けて、やはり彼も幾千もの戦いを乗り越えてきた立派な戦士なのだと改めて感じた。
そして、それと同時に自分達の未熟さを思い知った。
「しっかし、俺達もまだまだ子供だな・・・」
「そうね。次からはもっと慎重な判断をしないと」
「ああ・・・」
2人はそう決意を固めた。
だが・・・
「「・・・・・・・・・・」」
そこまで行ったまではよかったものの、その後話す事が無くなってしまった。
病室に沈黙が流れる・・・
ついさっきノイスラート卿に2人だけの時間を満喫しろと言われたが、いったい何をすれば良いのやら・・・
とりあえず、シリカの方は適当に雑談でも始めようか思った、その時だった。
「なあ、シリカ・・・」
先に沈黙を破ったのはジョーだった。そして自分の事を呼ばれた為、シリカは返す。
「なに?ジョー?」
「いや・・・いきなりこんな事言うのも何だけど・・・その、ありがとな」
「え?」
突如お礼を言われ、キョトンとするシリカ。自分はジョーにお礼を言われるほどの事などしただろうか?
「急に何言い出すのよジョー?」
「何って・・・気を失ってた俺をここまで運んで助けてくれたのは、お前だろ?」
「いいえ、違うわ。助けてくれたのは夢の泉で、私は何も・・・」
「いや、お前のおかげだ。お前がいてくれなかったら、夢の泉は手を貸してくれなかった。でないと、今こうして俺・・・いや俺達はここにいなかったと思う」
「ジョー・・・」
これを聞いてシリカは、胸が熱くなった。そしてこう思った。
やっぱり自分と彼は切っても切り離せないのだと・・・
その気持ちはジョーも同じだった。
「シリカ・・・」
「なあに?」
「これからもよろしくな」
「こちらこそ・・・」
かくして、今回の常夜の星ハーフムーンにおける戦いは、彼らに教訓を与えた。そして、お互いの絆と距離もより一層深まったのだった・・・
終わり
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