常夜の星の戦い:3

 

 

「グオオオオオ!!」

「お、おいおい!なんでコイツがここにいるんだよ!?」

「しかもコイツ、簡易量産タイプじゃないわ。立派な通常戦闘タイプ・・・
ヒッティーならともかく、どうしてキリサキンまで・・・!」


まさかの相手に2人は驚きを隠せなかった。


「ヒーッヒッヒ!驚いたか?まあ、無理も無いだろうよ!
・・・そーだ!どーせ最後だから、コイツの関係について教えてやろう!」


そう言うとヒッティーは、意気揚々と説明を始めた。


「ヒッヒッヒ!あのなこのキリサキンはな、オレーチャンがこっちの宇宙に帰ってきて最初に再会した魔獣だったのよ!
で、コイツは"ある事"をしたかったんだけど、中々協力者が見付からず実行に移せ無いまま途方に暮れてたって言うのよ。
オレーチャンは同じ魔獣だから、魔獣の言葉が分かるんでね」

「へえ、そうなのか」

「でもある事って何?」

「それはよ・・・復讐さ!特にシリカ!お前へのな!!」

「わ、私!?」


自分が復讐の対象にされていると聞き、驚くシリカ。
そして、何故自分が復讐の対象にされているのか理解できなかった。

確かに自分はキリサキンと因縁はあるが、実際自分はキリサキンに圧倒されただけで大して戦ってもいないし
だいいちあの時の個体を倒したのはカービィだ。

同族が倒された恨みを晴らす為なんだろうが、だったら普通はトドメを刺した方の
カービィを倒しに行くのではないか?

かと言って、彼らがカービィに勝つ見込みは薄いだろうが・・・



そんな事を考える彼女をよそに、ヒッティーは説明を続けた。


「そうよ!お前よ!!あん時のキリサキンは、おめーがいたせいで死んだようなものだからな!!!」

「はあ?」

「お前何言ってるんだ?」


ますます理解出来ない。いったい自分があのキリサキンに何をしたと言うのだろうか?

そう思っていると、その次にヒッティーの口から信じられないような言葉が飛び出した。


「とぼけんじゃねーや!おめーがカービィにギャラクシアを投げ渡しさえしなければ、
あのキリサキンはカービィぶっ倒してギャラクシアも奪い返せたんだよ!!」

「「え!?」」


その言葉に、2人は目を丸くした。


「お、おい嘘だろ?」

「そんな理由で私を・・・?」

「そんな理由じゃねーや!あのキリサキンはな、あのキリサキンはなぁ・・・
コイツの兄弟だったんだぞ!?それを、それをおめーは・・・!!!!」

「「・・・・・・」」


この発言でこの場にいるキリサキンは、あの時の個体の兄弟と判明したが、
今のジョー達はシリカへの復讐の理由が余りにもアレだったが為に、
どう返せば良いのか分からないでいた。

確かにあの時の勝利は、シリカがギャラクシアをカービィに投げ渡した事によるものだったが、
アレは途中でキリサキンに横取りされてた為に実質的には失敗で、
あの時メタナイト卿が改造銃を使ってくれてなかったら、
ギャラクシアはカービィの手に渡らなかった。

そして、やはりあのキリサキンにトドメを刺したのはカービィだ。
どう考えても、復讐の対照はカービィの方が妥当な気がする。

それなのに、彼女を復讐の対象に選ぶとは、何とも滅茶苦茶の一言に尽きる。



「まあ良い!とにかく、そんな訳だからオレーチャンはコイツの敵討ちの為、厳しい訓練で鍛え上げ、
そして生き残りの魔獣どもを引っかき集め、今回の作戦を実行したと言う訳さ!
・・・っと言う訳で。やれ、キリサキン!!兄弟の仇、今こそ捕ってやれい!!」

「グオォォォォォォン!!」


ヒッティーが鞭を打ち鳴らしつつ叫ぶと、それを聞いたキリサキンは真っ直ぐジョーとシリカに向かっていく。


「!!」

「うわ、やっべ!」


ドゴオォォォォォ!!


明らかに攻撃を仕掛けようとしていると感じたジョー達は、
自分達目掛けて振り下ろされた刃の手の攻撃を寸前の所でかわした。

そして狙いを外した刃は勢い良く地面を砕き、その破片が辺りに飛び散った。


「じ、地面が・・・」

「相変わらず凄まじいパワーね・・・」



「グオー!」



「・・・ってまた来た!」


今度は刃の手を横に振るいながら迫ってくるキリサキン。
それを見たジョーとシリカは後退して必死に避け続けた。


だが、避けてはいるが反撃はしなかった・・・


いや、出来なかった。


何故ならヒッティーの作戦通り、彼らは先の魔獣の群れとの戦いでかなり消耗していた。
それ故に反応が鈍り、反撃のタイミングを見定める事が出来なかったのだ。

それ以前に、キリサキンの攻撃速度が早く、ほとんど隙が無いと言うのもあるが・・・




「ほへぇ~・・・アイツ、あんだけ戦えたなんてなあ・・・」


そのキリサキンの戦いぶりを見ていたヒッティーは、少々唖然としていた。
何故なら彼が引き連れていたキリサキンは、キリサキンにしては珍しく、
非常に臆病で自分の力に自身が持てない性格だったからである。

その性格ゆえに、カービィ達と戦わせる事が困難と見なしたナイトメアが、
彼を弱者ばかりしかいない辺境の惑星に送った為に、
運良くカービィ達のナイトメア大要塞への襲撃を免れ、生き延びられた。

そしてシリカへの復讐の為に協力者を求めていたのも、その性格で彼女に返り討ちにされるのを恐れての事だった。


その為にヒッティーはその恐怖を和らげようと、厳しい訓練を行い、
それから魔獣達を集めて今回の作戦を思いついた。

調教師ゆえに、最初は魔獣達をジョー達の消耗の為だけの捨て駒に使うのは
気が引けたヒッティーだったが、事情を説明すると魔獣達は
次世代の星の戦士を倒せるなら何だってやると、快く引き受けてくれた為、
その意思を尊重してようやく作戦を開始した。

まずはシリカの今の動向を探ってみたところ、彼女はナックルジョーと一緒に
魔獣ハンターの仕事をしている事を突き止めた。

それでいて常日頃からシリカ同様、自分達魔獣にとって憎むべき存在の
ジョーと行動を取ってたと知ったヒッティーは、
始めは対象外だったジョーも標的に加え、仲間に偽の目撃情報を
オーサー卿に与えて作戦決行。



そして、その結果がこの状況である。


疲れているとは言え、自分達魔獣の存在を脅かしている次世代の星の戦士2人が、
避けるだけで精一杯で、全く手も足も出ないではないか。


性格は違えど、血は争えないと言う事か・・・





「グオオオオ!!」

「くっ・・・!」


一方でジョー達はこの状況をどう打開すれば良いか考えていた。

だが、相手はキリサキン。近距離で戦おうとすれば、間違いなくやられる。
かと言って、遠距離からこうげきしようとしても、正確な回避力で避けられ、
そうこうしている内に近付かれてしまう。

それに、今の状態の自分達で、この強力な魔獣に攻撃を加え、
そしてその反撃を避けれるほどの力は余り無い。
更にキリサキン自身の防御力もそれなりに高い。

だが、避けているばかりではどうにもならない。
いずれ体力が尽きてしまうのも時間の問題だ。


いったいどうすれば・・・?




「グオォー!」

「うわあ!」


キリサキンは再び2人目掛けて刃の手を振り下ろした。
その際、シリカは上手くかわせたが、ジョーは疲れで反応が遅れたのか、
何とか直撃は免れたものの、地面を砕いた際の衝撃で大きく吹き飛ばされてしまった。


「ジョー・・・!」


シリカが、吹き飛ばされたジョーの身を案じた途端、
その隙を突いたと言わんばかりにキリサキンが腕を振るって攻撃。
回避行動を取ったものの、近距離かつジョーに気を取られていた事もあり、
避けきれず左腕を斬り付けられ負傷。

その弾みに改造銃を落とし、しりもちをついてしまった。


「し、しまった・・・うぅ」


左腕に激痛が走り、右手で傷口を押さえるシリカ。そして、その白い腕からは赤い血が流れる。

それをヒッティーは見逃さなかった。


「ヒヒ?コイツぁしめた!利き腕をやったようだな!
よっしゃー、キリサキン!!そのまま一気にトドメを刺せぇ!!
兄弟の仇を捕るんだぁー!!!!」

「グオオ―――!!」


ヒッティーの声にキリサキンはシリカに迫る。

最大の武器を失い、左腕に傷を負った彼女はもはや自信を守るものは何もない、無防備も同然だった。

こうなった以上、肉弾戦で戦うか逃げるしかなかったが
これほど大きな相手を武器無しで倒すのは不可能だ。
かと言って、逃げようにもすぐ目の前に敵がいる為、
逃げたくても逃げられない。


完全に八方塞がり。絶体絶命な状況だった。



「グオオオオォォォォォォン!!!!」



そして、キリサキンの両腕が彼女に向けて振り下ろされる。


もうダメだ・・・!


そう思ったシリカは、強く目を閉じた。



















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














・・・・・・・・・・・・・・・・・・・














・・・・・・・・あれ?









斬られたはずなのに、シリカは痛みを全く感じなかった。
痛いのは先程斬り付けられた、左腕のみ。


目を閉じてた為に何が起こったのか全く分からない。



そこでシリカは、恐る恐ると目を開けてみた。

すると・・・




「し・・・・シリカ・・・・・」

「じょ、ジョー!?」


自分の目の前には、苦痛に顔を歪めるジョーと、その後ろに攻撃を終えた
キリサキンの姿があった。

そう・・・



トドメを刺されそうになったシリカを、ジョーが庇ったのだ。

それを知ったシリカの顔が一気に青ざめた。


「い、嫌・・・こんなの嫌ぁ!!」


シリカは、思わず現実から目をそむけたくなった。

何故ならキリサキンはかつて自分の母が戦死するきっかけを作ったような魔獣・・・
今回のは別個体とはいえ、またしてもキリサキンのせいで大切な人を失わなければならないのだろうか?

歴史は繰り返すとでも言うのだろうか・・・?



シリカは思わず泣きそうになったが、それを見て大喜びする下賤な輩が1人・・・


「ヒッティー!やったやったぁー!!シリカにトドメは刺せなかったが、代わりにジョーが
やられてくれたぜぇ!ヒーッヒッヒッヒ!!」


そう、今回の元凶ヒッティーだ。

ジョーも倒そうと考えていた彼に取っては、これはかなり喜ばしい事態だった。


「ヒヒ!ナックルジョー、貴様はそいつを助けたつもりだが、生憎逆だあ!
キリサキン!両方とも傷付いたとなれば、もーこっちの勝利は決まったも同然!!
2人まとめて一気に片付けてしま・・・・え?」


意気込んで叫んだヒッティーだったが、キリサキンの様子を見て違和感を感じた。


「くるるるる・・・!?」


こちらが優勢になったと言うのに、何故か弱々しい声を上げながら、後退しているのだ。
まるで何かに怯えてるかのように・・・


「ど、どーしたんだ?!もう敵は手負いだぜ?何をそんなに怯えてんだ・・・うえ!?」


そう言ってもう一度ジョー達を視界に入れて見ると、彼は信じられない光景を目の当たりにした。

それは・・・




「貴様・・・よくもシリカを・・・・!!」

「じょ、ジョー・・・?」


何と、立てないほどの深手を負ったはずのジョーが立って、怒りに満ちた表情で、
キリサキンを睨みつけていたのである。

これにはシリカも驚いている様子だった。


「う、嘘だぁこんなの!コイツの一撃を受けて立ってられるはずなんて
ありえん!ありえねぇー!!」


信じられない様子のヒッティー。

だが、現に相手は立っている。
しかも自分よりも大きな相手を、表情1つで威圧していると来た。

ヒッティーは訳が分からなくなったが、良く見ればやはり背中の傷が痛むのか、
睨みながらキリサキンに近づくジョーの足はふら付いていた。


「ま、まあ良い!立っていようがいまいが、そいつは次の一撃を決めりゃ終わる!
キリサキン、怯むな!そんな安い睨みつけなんて気にすんじゃねー!!」

「ぐ・・・グオォ!!」


少々恐れつつも、キリサキンはヒッティーに言われるがまま、
ジョー目掛けて刃の手を振り下ろす。

だが・・・




「うりゃあぁぁぁぁぁ!!」



バリィ―――――ン!!


なんと!ジョーは怪我人とは思えない様な速さで、振り下ろされた刃の手を蹴り割ったのだ。


その直後、キリサキン特有の再生能力ですぐに元に戻るも、この一撃は精神的なダメージの方が大きかったらしく、
キリサキンはまた弱々しい声を上げながら、後ずさりを始めた。


「くるるるる・・・!」

「お、おいおいおいおいい!何怯えてんだ!相手は怪我人だぞ?!怯むな!恐れるな!立ち向かえ!!」

「くるぅ・・・」


だが先程の攻撃で完全に恐れをなしたのか、キリサキンはヒッティーの言う事を聞かず、
後ずさりを止めなかった。

そして・・・




「たああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



ドゴオォ!


更に信じられない事が起きた。

ジョーがまたしても怪我人とは思えぬスピードでキリサキンの目の前に近づき、
そのまま勢いに任せてその腹に拳を食い込ませたのだ。

しかもそれは、今にも腹を抉らんと言わんばかりに、深々とめり込んでいる・・・



「う・・・ぐえぁ・・・・!?」



その一撃はキリサキンの内臓を潰しでもしたのか、キリサキンの口から
緑色の血が生々しく吐き出された。

だが、そんな事など気にしない様子で、ナックルジョーは食い込ませた拳に
エネルギーを溜めて行き、それは次第にバチバチと電気を帯びて始めた・・・。


「うおおぉぉぉぉぉ・・・、ライジンブレェ―――イク!!


そしてジョーは拳にエネルギーが溜まり切ったのを見ると、その腕を大きく突き上げた。





「ぐぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!????」



ドゴォ・・・

ズン・・・!




ズドドオォ――――――――ン!!!!




拳が突き上げられた事で、キリサキンの腹は完全に抉れ、その際の激痛で悲鳴を上げながら、
突き上げられた勢いで洞窟の天井に叩きつけられる。
それからすぐに落下して地上に激突。

同時に大爆発を起こしたのだった。



「じょ、ジョー・・・?」

「う・・・嘘?嘘だろおい!?
キリサキンがやられた!?こんな手負いのチビに!?・・・ううう、嘘だこんなの!嘘だ嘘だ!嘘だどんどこどおぉぉぉぉぉぉぉん!!!!


ジョーがキリサキンを倒した・・・
信じられない結末に、シリカもヒッティーも思わず目を丸くしてしまった。

そして、当のジョーはと言うと・・・


「う・・・あ・・・・・・」


傷付いた状態で大技を出したせいか、ドサりと音を立ててその場に倒れてしまった。

それを見たシリカはハッと思い出したかのごとく、ジョーに駆け寄った。


「ジョー!しっかりして!ジョー!!」

「うぅ・・・」


だが、ジョーは完全に意識を失っていた。しかもその背中を見てみれば、
先程自分を庇った際に付けられた、痛々しい切り傷が大きく付けられており、
更に辺りを見渡してみれば、ジョーの通った後には血の跡が残っていた。

彼が重傷を負ったうえで動いていたのが、良く分かる光景だった・・・


「全く無茶をして・・・バカ・・・!」


彼の前でシリカは悪態を吐いた。

その一方で、ヒッティーは動揺の色を見せていた。



「お、おいおい待てよ・・・。まさかキリサキンがジョーに、しかもあんなにあっさり倒されちまうなんて・・・
どうする?どうするヒッティー!?」


そう頭を抱え、自問自答するヒッティー。

だが、ジョーが意識を失った今の状況を見ると、すぐに答えが出た。


「あ・・・そうか!
今ジョーは完璧ダウンしたんだ。それに、シリカもさっきの戦いで利き腕をやられているし、腕を怪我してるから肉弾戦をまともに出来ない無理なはず・・・
な、なんだ・・・これなら戦闘力の低い調教魔獣のオレーチャンでも勝てる・・・へっ!?」


ジャキ・・・


そう考えたその時だった。

突然、自分の目の前に改造銃が突き付けられたのだ。
そしてそれを突き付けた者の正体を見て、ヒッティーの顔が青ざめた。


「ふぅん・・・アンタでも勝てそう・・・ねぇ」

「え?・・・ええええええ!?」


何と自分の目の前で改造銃を突き付けたのは、利き腕をやられ、
武器を使えないと思われていたシリカだったのだ。


「そそ・・・そんなバナナ!?おめーは利き腕をやられて、武器使えないはずじゃあ・・・?」

「あら、そう思っていたの?残念ね・・・実は私、こうなった時の為に
両利きで武器を使えるようにしておいたのよ」


確かに、良く見てみると、彼女は左手ではなく右手で改造銃を持っていた。
そしてこれは、完全に形勢が逆転した事を意味していた。


ヒッティーの頭から、冷や汗がどっと噴き出す。



「ままま、待てぇ!ぼ、暴力は良くない・・・頭を冷やせ・・・」

「あら?ここまでの事をしておいて命乞い?良い度胸ね」



苦し紛れに命乞いをしたヒッティーだったが、愛する者を傷付けられたシリカは許すはずが無く、怒りに満ちた顔で
改造銃を突きつけるのをやめなかった。




ヤバイ・・・




このままではやられる。

さっきのキリサキンの二の舞だ。





先程まで相手が危機的状況に立たされていたのが、今度は自分が危機的状況に陥ってしまった。



そんなヒッティーはついに覚悟を決め、ある行動を取った。




「く・・・覚えてろ!」


ボウン!!


ヒッティーは球のようなものを地面に投げつけると、それは小さく爆発。彼が見えなくなるほどの量の真っ白い煙がしばらくあがり、
そしてそれが晴れた時にはヒッティーの姿は文字通り煙のように消えていた。


そう。これ以上長居は無用と判断し、逃げ出したのである。



「チッ、逃がしたか・・・」


シリカは悔しかったが、今はヒッティーを追う余裕など無い。
それよりもジョーの方が気がかりだったからだ。


「ジョー!」


もう一度ジョーに駆け寄るシリカ。
それからジョーの様子を見てみると、やはり未だ意識を失ったままだった。

そしてその顔を良く見ると、何処か熱持っているように見えた為、
右手の手袋を口でくわえて外すと、その手を彼の額に当ててみる。


「・・・やだ!凄い熱」


その手から伝わったのは、体温が上がった事を示す熱だった。
だが、今シリカはジョーの熱を冷ますものは持っておらず、
そして背中の傷を止血するものもなかった。

一応バンダナがあったが、傷の範囲が広すぎる。
この太さでは、自分の左腕の傷を止血するくらいしかない。


とにもかくにも、早く銀河戦士団本部に帰らなければ、ジョーの命が危ない。

シリカは自分のバンダナを左腕の傷に巻いて止血すると、
ジョーを担ぎ、その場を後にした。









だが、ここからが本当の地獄だった・・・









シリカは、先程の魔獣の群れとキリサキンとの戦いで、かなり疲れていた。
それでいて左腕を負傷し、更に深手を負ったジョーと言う重荷を担いでいた為に、
いくら女性にしては力のあるシリカでも、とてつもない負担が掛かっていた。


その為、洞窟の出口に向かう度に、彼女の体力は確実に奪われて行く・・・



「はあ・・・はあ・・・・・も、もうすぐ出口のはず・・・・・・」



そう言うシリカの目の前に、淡い光を放つ穴が目に止まる。


出口だ・・・


外の強風が入って来ているのか、その穴から風が入って来ているのも分かる。



もうすぐ・・・もうすぐだ・・・



後は自分の宇宙船へ戻るだけ・・・


しかし、今の状態で行けるだろうか?




・・・いや、そんな事を考えてはいけない。




絶対にナックルジョーと生きてこの星から脱出するのだ。


ひたすらそう思いながら、出口へ直進する。
そして、気力を振り絞り進み続けた結果、ついに洞窟から出る事が出来た。

だが・・・







「あ・・・・?」


シリカは出た直後、ドスンと音を立ててその場に倒れてしまったのだ。
どうやら、とうとう体力の限界が来てしまったらしい。


「うう・・・こ、こんな時に・・・・!」


ここで自分が倒れてしまっては、ジョーが助からない。

必死で体を起こそうとするも、疲れ果ててしまった為に思う様に動かない・・・



嫌だ・・・!




絶対嫌だ!


こんな場所で人知れず、愛しい彼と共倒れするなんて・・・!


シリカはそう思い必死に体を起こそうと試みるも、無情にも体は言う事を聞かない・・・



それどころか、意識がもうろうとして来た。


「うぅ・・・い・・嫌・・・・!誰か・・・・誰か助けて・・・・・!」


絶望的な状況に陥ってか、柄にもなく助けが来るはずもないのに、助けを請うシリカ。

それでも彼女は強く助けを求め続けた。


愛しのナックルジョーと共に生きる為に・・・









そして・・・







彼女の切なる思いが奇跡を生んだ・・・!
























・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




・・・・・・・・・・・?









シリカは辺りに何か妙な気配を感じた。


「あれ?私はいったい・・・」


シリカは辺りを見渡してみると、自分は今真っ白で何もない空間にいる事に気付いた。


「ここは?私は確か、傷付いたジョーを運ぼうとして・・・あ!」


ボンヤリとする頭でこれまでの記憶を掘り返し、思い出す。

そうだ・・・確か自分は、傷付いたジョーを自分の宇宙船へ運ぼうとし、その途中で倒れたのだった。
そう言えば、倒れてから後の記憶が全くない。


・・・っとすれば、ここは天国だろうか?



しかし死後の世界にしては何だか違う感じがする・・・


そのうえに良く見てみると、自分のすぐ近くには傷付いたジョーが倒れており、それにまだ生きている感じがした。



ならば、ここはいったい・・・?




シリカがそう考えていたその時だった。


「?アレは・・・?」


突如、目の前に大きな泉が姿を現したのだ。 その泉の中央には噴水があり、泉の水はこの噴水によって満たされている様子だった。
そして、その水は色とりどりで非常に綺麗に光り輝いていた。
更にその中央の噴水は、真ん中に台座が備え付けられており、
そこにはスターロッドらしき星が先端に付けられた、赤と白の縞模様の杖が刺さっていた。

その姿は実に神秘的で、明らかに普通の泉ではない事を物語っていた。


「これはいったい・・・あ!」


その時。急に泉が光り始めた。
その光はとても眩しく、余りの眩しさにシリカは思わず目を閉じた。

それから光は一気に辺りを包んで行き、そして・・・










ビュオォ―――――――ッ!!!!




「・・・・・・・あれ?ここは?」


凄まじい音を立てながら風が吹き始めたのを感じ、シリカは目を開ける。
すると目の前に泉の姿は無く、そこにはハーフムーン特有の強風が吹き荒れ、
高速で流れる星空が広がっていた。


「いったい何だったのかしら・・・あれ?」


ふと、シリカはある事に気付いた。

周りを良く見てみるとそこは洞窟の出入り口ではなく、
草木の生い茂る草原で、しかも自分の宇宙船を止めている場所だったのである。




変だ・・・




先程まで確かに自分は洞窟の前にいたはずなのに、何故?

それに、何だか疲れも取れているような・・・


いや、そんな事はどうでも良い。


こちらにとっては非常に好都合だ。


シリカはまず始めに、ジョーの様態を確かめた。
相変わらず意識不明のままだったが、不思議な事に彼の熱は完全に冷めており、
しかも眠っている様子だった。


これといい、自分の疲れが取れていた事といい・・・


もしかして、さっきの泉の力?



そんな事を考えながらも、シリカはジョーを担ぐ。

疲れが取れていたとは言え傷までは癒えてなかった為、少し手こずったものの、何とか宇宙船に運び込む事に成功。
そして、奥の部屋のベッドに彼を寝かせると次はコクピットに行き、目の前の機器を動かし始める。


しかし、操縦かんには手を出していない。


左腕を負傷した今の彼女に運転は不可能。
なので、今自動運転モードに切り替え、行き先を入力しているのだ。

行き先はもちろん、銀河戦士団本部・・・



「これでよしと・・・発進!」


ピッ!




ゴゴゴゴゴゴ、ビュウゥゥゥゥゥン!!!!





最後にシリカが決定ボタンを押すと、宇宙船は凄まじい音を立てて離陸。
そして宇宙船は2人を乗せたまま一気にハーフムーンの大気圏外へ飛び出した。

ようやく2人がハーフムーンを脱出した瞬間だった。


「ふぅ・・・何だか良く分からない事が起きたけど、何とか助かったわ・・・」


やれやれと言った様子でシリカは1人呟くと、安静にする為部屋に入る。

それから椅子に腰かけ様とした時、先程ベッドに寝かせたジョーが目に止まった。


「ジョー・・・」


特に呼ぶ必要も無いのに静かにその名を呟くと、彼女はベッドに近付き彼の顔を良く見てみた。
その顔は相変わらず安らかなで、とても重傷を負った者の顔には見えなかった。

だが、シリカはそれが嬉しかった。

かけがえのない、大切な人をまた失わずに済んだのだから・・・



しかし、それと同時にシリカは暗い表情も見せていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

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