洞穴の星、ケビオス。
地表のあらゆる場所に穴が空き、広大な地下世界の広がる惑星。
古くより此の地は、岩石人類「ワムバム族」によって長らく守護されてきた。
彼らはその名通り、基本的にどれも顔は石像のようであり、体は岩の両手があるのみ。
社会形態は今日では珍しい絶対王制だが、現ケビオス国王たるワムバムジュエルの国民からの評価は高い。
比較的穏やかな国民性も相まって、今まで内乱は一度も起きた事が無い。
それ程、民から寄せられる信頼は非常に厚いのである。
反面、今日まで外来者に対する排他的態度は根強かった。
居住区でもある遺跡に踏み入った者は、彼らの容赦ない鉄拳をぶちかまされる。
最悪、怒りに触れて叩き殺される事も決して少なくない。
これは当時、企業に変貌する前のナイトメア軍を恐れた国王による政策だったのだが、後に同社の壊滅を知り、融和的外交策に路線変更。
発展途上であるが、現在はエヌゼット大財閥との提携により、観光産業に力を入れるようになる。
ただ、この星では古来より発達していたものが一つだけ有る。
「メックアイの事務所に手紙送りたいから、切手を頂戴」
郵便配達であった。
「はいはい、石板じゃなくて紙の切手ですネ」
大きな湖が望める岩造りの郵便局にて、ヒューマノイド用の受付カウンターで手を差し伸べるグラマラスな肢体の女性。
ワムバム族の男性職員は目的の物を取りに行くため、一旦奥へ。
女性は派手目のピンク色の長髪をかき上げ、己の美しさをアピールするも職員には伝わらず。
相手に聞こえないよう、軽く舌打ち。
「所詮、脳ミソも岩の塊って所ね」
遥か昔、ワムバム族の初代国王が、戯れに温泉を掘り当てようと意気込みひたすら地面を掘り続けていた。
何分行き当たりばったりな性格のために所構わず掘り続け、非常に複雑な地下トンネルを作り上げてしまった。
これが後の地下迷宮と呼ばれる洞穴である。
結局温泉は出なかったものの、代わりに小さな箱のような鉄塊を何個か掘り当て、自分の国に持ち帰る。
ただの鉄の塊にしか見えないが、細かい構造からして鉄鉱石でも無い。
この鉄の箱は、一体どのようにして使うのか?
その謎は王国を飛び出し、惑星中に広まった。
正しい使い方を見出そうと幾多もの試みが行われたが、初代の息があるうちに発見者が現れる事は無かった。
それから途方も無い年月が流れたある日、空より鉄の塊が落下。
驚くべき事にそれは、一族が長年挑み続けた謎の鉄箱と、殆ど同じ形状。
しかも中から現れたのは、小指岩もない大きさの小人。
人並みの知能を持つことが分かると、彼らは一斉に質問をぶつける。
すると小人は答えた。
これは宇宙と言う、果てしなく広がる世界を旅する為の乗り物だ、と。
しかし、ワムバム族は今ひとつピンと来ない。
人類とは明らかに異なる人体構造の彼らに、乗り物は必要が無い。
更に言えば、それは乗り物と呼称するにはあまりにも小さすぎて、自分達には乗り込めなかった。
この宇宙船を、現代で言う「ラジコン」のように操作できるオーバーテクノロジーを獲得するまで、彼らは実に何千年もの時を費やす事となった。
遂に技術が完成した時、彼らはかつて小人が残していった言葉を思い出した。
宇宙はワムバム族にとって数え切れないほど沢山の人々が暮らし、そして未知なる知識が眠っている、と。
そこで彼らは思いついた。
精一杯の繊細な文字書きで手紙を認(したた)め、星の外で暮らす名も知らぬ人と文通しよう。
そうすれば宇宙の事について、自分達が知らない事について知る事が出来るかもしれない。
彼らの発想は時を経て、今の「宇宙」郵便配達へと繋がっていったのである。
「ハイ、紙の200ピース切手でス」
「じゃあ、現金で払おうかしら」
女性は自分の財布から紙幣を一枚取り出し、カウンターの上に置く。
額は200ピースどころか、軽く上回って10000ピース。
釣は要らないと言われ、困惑する職員。
「それは困りますダ、お客様。当店は現在、両替を受け付けておりませんのデ・・・・・・」
「うっさいわね。私が好意で払ってあげてるんだから、黙って取っておきなさい」
「あっ、ちょっト・・・・・・」
女性、足早に立ち去る。
困った客がいたものだ、と溜め息をつく職員であった。
______
数分後、今度は茶色の長い髪をした別の女性が訪れてきた。
右手にペン、左手にメモ帳、そして肩からカセットマイクをぶら下げている事を除けば、何所にでも居そうな変哲の無いリポーターだった。
彼女はキョロキョロと辺りを見回し、職員に尋ねる。
「ここにラクシーアという女は来なかったかしら?」
「エ?ラフレシア?そんな人は来てませんヨ」
「ラフレシア、じゃなくてラクシーア!」
話にならない、と早々に立ち去ろうとした時、職員が思い出したように声をかけた。
「あのウ、あんたの事テレビでチラッと見たことありますダ!」
ふと立ち止まり、振り返る女性。
こんな所でも有名だったのかと感動を覚えたが、顔には出さなかった。
「あら、どうもありがとう」
「ええっト、名前は確カ・・・」
「レイチェル」
職員の言葉を遮り、自慢げに自分の名前を再び繰り返し、言った。
「リポーター兼、宇宙最強のジャーナリスト。レイチェル・チェイサーとは私の事よ」
_____________
「ったく、とんだド田舎ね!!この大女優ボクシィ様の顔も知らないだなんて!!!」
夜、ホテルの1等室で昼間の些細な出来事を思い出し、毒を吐く女。
シャワーを浴びた後であり、火照った身体を冷ます為、格好は黒い下着の姿。
歩く度に豊満な胸が大きく揺れる。
「っと、イケナイ。この姿では「ラクシーア」として活動しているんだったわ・・・ああ、イライラする!!」
ボクシィは石造りのベッドの上で寝転がり、少しでもリラックスしようと試みる。
だが、あまりの硬さに不快感が募るばかりだった。
「ガメレオに身代わり頼んでお忍び旅行に来たのは良いけど、何から何まで最っ低の星ね!こんな所、来るんじゃなかった!!」
彼女の不満はベッドの絶望的な寝心地の悪さだけではない。
壁、床、冷蔵庫の扉、インテリアに至るまで石器物という拘りよう。
職人気質と言えば聞こえは良いが、連日の活動の疲れを癒しに来たボクシィにとって何の価値も無い。
ただの悪趣味。
「次は何所の星に行こうかしら・・・・・・」
これ以上愚痴を零しても仕方ない。
眠くなるまでの暇つぶしに、石リモコンを携えテレビの電源をオン。
観光パンフレットを広げ、目新しい番組は無いかとチャンネルを回し続ける。
「ふん。どこも新規はクイズ番組だの芸人のネタ見せだとか、似たり寄ったりね。深夜らしい刺激的な企画は無いの?」
悪態を突きながら数分鑑賞し、別のチャンネルへ。
「あ、コレはガメレオの奴ね。・・・“女王様ラクシーアのドMダメ男成敗劇”」
テレビの中では、ラクシーアらしき高飛車な女性が冴えない男性達を足蹴にしている。
『ほらほら!!良い声で喘げよぉ、薄汚いオス共!!!』
『ああ~っ、もっとキツイのお願いしますぅ!!』
『僕ら的にはぁ』
『ドSに攻められるのも有りかと思われー』
恍惚の表情を浮かべる、3人の男達。
やられている側も満更では無さそうだった。
「完璧ね。私の声や性格、口調までしっかりコピー出来ている。もうアイツがラクシーアで良いんじゃないの?クスクス・・・」
チャンネルを切り替える一連の流れを数回繰り返し、ある場面でボクシィの手が止まる。
画面に映し出された、一見どこにでもあるような報道番組。
唯一つだけ違うのは、昼間のワイドショーの如き低俗な雰囲気。
カメラを前に一人の女性が大層な喧伝を繰り返していた。
『果たして現在のラクシーアは真か偽か?この私、一流ジャーナリストのレイチェルが徹底追及を続けます!!』
手に持ったワイングラスを易とも容易く握り砕き、怒りに震えるボクシィ。
「・・・・・・あの年増め!!」
ボクシィはレイチェルの事をよく知っていた。
彼女の溢れ出る行動力は、リポーターやニュースキャスターの枠には簡単に収まらない。
正義の名の下に強引な体当たり取材を敢行し、数々の悪事や有名人を吊るし上げてきた。
単独でのアポ無し突撃など、彼女にとっては日常茶飯事である。
「毎回余計な事してくれんじゃないわよ、ホント!!」
だからこそボクシィは彼女の事が気に食わなかった。
己を正義のジャーナリストなどと主張する割には、やっている事はタチの悪いパパラッチ。
時には生放送を利用して、官僚の密談を盗撮した様子を全国ネットで流した事もある。
しかも恐ろしい事に、それだけの無茶をやってのけながらクビを切られた試しが一度も無い。
一部では社長の弱みを握っているおかげでお咎めを喰らわないとも囁かれているのだから、尚更タチが悪い。
「おまけに神出鬼没ときたものね・・・・・・全く、おちおち休んでもいられないわ」
そうは言っても、肌荒れを防ぐためにも十分な睡眠は欠かせない。
テレビの電源を消し、洗面台にて歯磨きを手早く済ませる。
身元がバレないよう荷物を物陰に隠し、頭から毛布を被った。
「あ、そうだ・・・・・出し忘れた手紙が・・・一通あるから・・・明日発つ前に・・・もう・・・一度・・・行か・・・な・・・・・・い・・・・・・と・・・・・・」
独り言の後に眠気が止めを刺し、ボクシィは深い眠りに落ちていった。
___________
翌日、空港へ向かう前に郵便局へ立ち寄ったボクシィ。
軽く用事を済ませるつもりだった彼女の目には、ある異様な光景が飛び込んでいた。
「何の騒ぎよ、コレ?」
昨日の記憶が正しければ、この郵便局の周辺は閑散としており、滅多に人が訪れない場所のはずだった。
ところが今日になって観光客の人だかりが出来ており、何やら不穏な空気が流れていた。
これでは手紙どころではない。
「ちょっと、アンタ」
「はイ?」
人混みを掻き分け、先日と同じの鈍感な職員に事のいきさつを訊いた。
「何が起きたのよ、こんなド田舎で」
「実は、泥棒に入られてしまったようデ・・・」
「泥棒?ケビオスはたかがネズミ一匹でこの有様なワケ?」
「いえ、それガ・・・・・・」
職員が指差した先には、ボクシィにとって見るだけでも腹立たしい「あの女」がそこに居た。
「平和な洞穴の星で起きた、謎の郵便局荒らし!!一体、誰が、何の目的で?」
レイチェル。
しかも例の如く、彼女が普段扱き下ろしている取材班も同行している。
生中継なのか、いつもに増して気合が入っている様子が見て取れた。
これほど人が集まったのも、彼女お得意の大げさな喧伝によるものだろうとボクシィは考えた。
「げっ・・・・・・あの年増、こんな所にまで!!」
運が悪い。
恐らく、替え玉としてラクシーアに扮しているガメレオの存在に薄々気づいていたのだろう。
それで此処まで追いかけてきたという訳だ。
幸い、今日は念入りにと完璧な変装に身を包んでいる。
元々こちらでの知名度がそれほど高くなかった事が福に転じたらしい。
とは言え、女のカンが人一倍鋭いレイチェルの事だ。
今にも自分に気づいてしまいそうで油断が出来ない。
長居は無用。
「マズイわね・・・バレないうちにさっさと此処から逃げないと・・・・・・」
気づかれないうちに足早に立ち去ろうとした時だった。
「王様!!」
突然、職員の一人が叫んだ。
「王様ぁ?」
王様、と聞いて思わず立ち止まるボクシィ。
気づけば目の前がやけに明るく感じられたので、何が起きているか見上げてみた。
「あ・・・・・・」
彼女を見下ろすように宙に浮いていたのは、ワムバム族では数少ない3つの目を持った男。
水晶で構成された2つの手に、同じく水晶のデコレーションが施された王冠。
とても同じワムバム族とは思えない、厳格な雰囲気。
「ワムバム・・・ジュエル?」
不意に彼の名前を呟いたボクシィ。
彼女の言葉は当のワムバムジュエルに届いていなかったようで、お供の従者一人を連れて平然と通り過ぎた。
「局長。兵士から知らせを受けて飛んできたが、この騒ぎは一体何事だ?」
「聞いて下さい、王様!今朝出勤してきたら、郵便物の保管庫が何者かに荒らされておりまして・・・!!」
「オーゥ、何てこったいですっちゃ、王様!」
今日におけるケビオスは極めて治安が良く、今の代における犯罪発生率は皆無といって良い。
それだけに今回の事件は、地元住民や観光客を問わず野次馬の注目を集めるには十分だった。
「兵士。現場保存は?」
「完璧です。野次馬も職員も一人たりとも入れておりません」
「被害の大きさはどれ程だ?」
「はい。保管庫に在った、郵便物の保管ボックスだけがピンポイントで狙われていました」
「何?金品は?」
「それが、何も・・・・・・」
首を横に振る兵士。
事実、保管庫以外の部屋は荒らされた形跡が全く存在しなかった。
「馬鹿な。では初めから郵便物が目当てだったと?盗難されたものは?」
「現在確認中です。全ての棚が荒らされていた様子を見る限りでは一つぐらい損失していても、おかしくはないと・・・」
「おいどん、従者として仕えた年月は500年と浅いけんろ、こんな事件は初めてやがなっぺ!」
目的は金品などではなく、たった一握りの郵便物。
犯人の不可解な行動に頭を悩ませるワムバムロック。
「これは本格的な調査が必要だな。どれ、我が直々に・・・」
「その必要はありません」
今まで蚊帳の外であったレイチェルの声に反応し、注目する一同。
「何者だ」
「初めまして国王殿。私は正義のジャーナリスト、レイチェルと申します」
正義の、と聞いて眉を潜めるワムバムジュエル。
「・・・噂は以前耳にした事がある。言っておくが、我にやましい点は一つも無いぞ」
「どの政治家連中も皆そう言いますよ。垢を削ぎ落とせばすぐにボロが出るのに」
「王様に生意気な口を利くなやったい、オバハン!!」
大人の風格か、罵倒を軽く聞き流して話を続けるレイチェル。
ワムバムジュエルは怒り出すことも無く、黙って彼女の言葉に耳を傾ける。
「私は本来、とある世紀の大悪女を追い詰めようと追跡取材を行っていたのですが、丁度ここを訪れて間もない内に大変そそられる事件が・・・」
「・・・正義の~、とあるが、何だ?貴様は我らに代わって事件を解決に導こうとでも言うのか?」
「ええ。私の正義は単なるレポーターの枠に収まりきらないもので」
その言葉を離れた所で聞き取り、はん、と鼻で笑うボクシィ。
レイチェルが一瞬反応したものの、身を潜めて上手くやり過ごした。
「・・・これはワテらで調査すれば済む話やがねん。どうしても引き下がらないつもりっちゃ?」
「私は職業柄、政府機関を信用しない性質ですので」
ワムバムロック、益々苛立ちを募らせる。
現場は正に一触即発の張り詰めた空気が立ち込めていた。
「いちいち鼻につくオバハンじゃのぅ~」
「何とでも仰って結構」
岩の拳に力が入っている様子を見て、静止をかけるワムバムジュエル。
彼の気持ちが分からないわけでは無かったが、ここで暴力沙汰を起こせば宇宙中に事が露見するのは確実だった。
「よせ、ワムバムロック」
「しかし、王様・・・・・・」
「・・・・・・貴様、レイチェルと言ったか?良識ある大人を自負するのであれば、この言葉を知らぬはずがあるまい」
「・・・?」
「・・・郷に入っては郷に従え、だ。我が良いと言うまで、一切の活動を禁ずる。分かったな」
何時の間にやら駆けつけた兵士達は、石製の槍をレイチェルら取材班に突きつける。
「機材を全て引き渡せ!」
「抵抗すれば身の安全は保障しないぞ!」
歯向かう意思が見られない事を確認すると、ワムバムジュエル、ロックは建物の奥へと進んでいった。
「後は頼んだ。その方らの身柄を確保した後はネズミ一匹入れさせるな」
「しっかり見張っておくれやす!!」
兵士ら、早速機材を取り上げようと槍で摘み上げる。
「馬鹿っ、放せ!!それは10万もするカメラだぞ!?」
「王の命令だ!大人しく渡せば丁寧に取り扱ってやろう!!」
「私達には報道の自由が認められています!!私達は国境なきジャーナリストです!!果たしてこのような横暴が許されて良いのでしょうか!!」
「誰かそいつを黙らせるっぺ!!」
保管庫の方から響き渡るワムバムロックの怒号。
レイチェル、構わず野次馬相手に喧伝を続ける。
「不当に権利を奪う輩はいつの日か!必ず社会的制裁を受けることでしょう!!」
機材の引渡しを拒むテレビクルー。
ここぞとばかりに野次馬をまくし立て、自分達の正当性を確保しようとするレイチェル。
そして、言う事を聞かない厄介者を押さえ込もうと躍起になる兵士達。
ボクシィにとっては何とも滑稽な様だった。
「ざまぁないわね、ハハン」
レイチェルの言い分は負け犬の遠吠えだと笑うボクシィだったが、それとは別に一つ気掛かりな事が在った。
それはワムバムジュエルが、自分を見たときの反応について。
「ワム“バカ”ロックはともかくとして、あいつが私の事を知らないはずが無いのよね・・・」
彼女にとってワムバムジュエルと会うのは、これが初めてでは無いはずであった。
しかし当人は特に驚く様子も無く、挙句取った反応が「無視」。
一体何故?
“あの頃”は確かにヒューマノイドではなく、“本来の姿”で活動していた。
ワムバムジュエルにとってはその方が見慣れていた故に、一目見ただけで自分とは思わなかったのだろう。
それでも矛盾が生じる。
ワムバム族において、宝石で構成された身体を持つ個体のみ不思議な力を有する特徴がある。
ある者は指からエネルギーの塊を撃ち出し、ある者は掌から物質を生成するなど、力の種類は多種多様。
特にケビオスを代々治めてきた王家の一族は、寿命が尽きる直前に次の代へと、己の持ちうる能力を引き継がせる慣習がある。
自分が知るワムバムジュエルは、「第3の目」に映った物質・生物の本質を見抜く力を持っていた。
例えこのボクシィの事を忘れていたとしても、あの時自分へ視線を向けていた時点で魔獣だと見抜いていたはずだ。
だが、結局気づかなかった。
考え得る事は、2つに1つ。
何らかのきっかけで能力を失ってしまったか、あるいは根本からボクシィについての記憶が無いのか。
「多分覚えてないんでしょうね。年増共に気づかれないうちに忍び込みましょ」
周りの目を盗み、こっそりと保管庫へ向かうボクシィ。
郵便局荒らしの真相に興味など無かったが、ワムバムジュエルの本意を問い質さねば気が済まなかった。
今や存在すらも定かでは無くなった、かの“魔獣王”の同胞の一人として。