chapter:1

 

 

 

 
 
 
レストラン・カワサキ店内にて―――
 
 
 
 
 
 
「あなたにストーカーが?」
 
フームは不思議そうな表情だった。
 
「・・・ええ、この間からずっとそう」
 
武器を持たせたまま怒らせたら、誰よりも恐ろしいシリカ。
事もあろうに、彼女につきまとう不埒な、というよりは命知らずな輩がいるというのだ。
 
「誰かが影で私のことをずっと見ているの。それも、同じ人物が」
 
そう言いながら、シリカは自分の周囲を見渡す。
 
「念のために聞くけど、気のせいってことは?」
「ない!!」
 
テーブルに拳を叩きつけ、絶対的な自信をもって答えた。
 
「フームは何も知らないからそんな呑気なコトが言えるんだって!」
「じゃあ、ストーキング以外には何かあったの?」
「他に・・・・・・?」
 
 
腕を組み、今までに受けた被害を思い出す。
 
 
 
「具体的には、他の星でジョーと外食に出かけたとき、私が口をつけたコップがいつの間にか消えてたり・・・」
 
 
 
「えぇ!?」
 
 
「酷い時なんかクリーニングに出した服が、預けて一時間もしないうちに盗まれた」
 
 
「ウソぉ!?」
 
 
「もっと言えば、今住んでいる借家から出したゴミ袋が勝手に開けられて、郵便受けには『ジョーと別れろ』なんて脅迫手紙が届いて・・・・・・挙句の果てには・・・・・・・・・」
 
 
「・・・・・・ゴクリ・・・・・・・・・・・・!」
 
挙句の果てには何なのか。
フームは先に続く言葉が気になって仕方が無かった。
 
 
 
 
 
「覆面の男達が、集団で家に押し入ってきた」
 
 
 
「・・・・・・なんですって!?」
 
大きな声で叫んだフームに、注文されたドリンクを運んできたカワサキが思わず飛び上がる。
さすがのカワサキも場の空気を読んだのか、何も聞かないフリをしながらドリンクを置いて店の外へ退散した。
 
「え、営業中悪いけど、食材切らしたから今仕入れてくるね~!!」
 
シリカはうつむき加減のまま更に言葉を紡ぎだす。
 
 
 
 
「卑怯なことに、そいつらはジョーが武器を修理に出すために出払っていて、私が丸腰の時に襲い掛かってきた」
 
集団で羽交い絞めにされ、助けを求められないよう粘着テープを口に貼られた。
 
「目の前に手錠が見えたときは本当にやばいと思った。乱暴される、って」
 
危うく両手に手錠を掛けられる前に男達を振りほどき、反撃に転じたらしい。
 
「なんとか家中の椅子やら包丁を武器代わりに持ちこたえて、騒ぎを聞きつけて戻ってきたジョーに助けてもらったから良いようなものの・・・」
 
ナックルジョーによる怒りの鉄拳がその場の連中全てに下され、全員警察に連行されたという。
 
 
 
「それは本当に危なかったわね・・・・・・でも、一体何者だったの?」
 
「あとで警察に聞いたんだけど、そいつらは全員別の男に雇われたド田舎の盗賊だったんですって」
 
 
 
 
 
 
男達の供述はこうだ。
 
『自分達の住んでいた村が政府主導のダム計画で水の底に沈む、という話を耳に挟み、いてもたってもいられなくなった。
大量のワイロを送れば計画を中止させられるだろうと思い、出稼ぎのために田舎から上京した。
が、生活が違いすぎて何もかも上手くいかなくなった。
そんな時だった。
あの男が自分らの前に現れたのは。
「シリカという名前の少女さえ連れてくればいい。あの娘を永遠に俺のモノにする素敵な計画に参加するだけでいい。金は好きなだけ払ってやる」
男の発言からはとても危険な香りがした。
でも前払いと聞いて、さびれていく故郷のためにも断れないと思った。
キズモノにしなければ追加料金を払うとまで言われたが、そうでなくても乱暴するつもりは無かった』
 
 
 
 
「どうりで変だと思った。ガムテープの切り方下手だし、手錠の扱いはロクに分かってないし・・・」
「ええ。彼らの気持ちも分からなくは無いけど、他にもっと良い方法で回避できたはず―――」
 
フームは突然はっと気づいた。
盗賊達の話だけに限れば、自身の発言は重要なポイントとして間違っていなかった。
 
しかし、今この話で重要なのはそこでは無い!
 
 
「待って!今の供述を聞く限りだと、命令した男ってまさか・・・!!」
 
 
 
 
 
 
 
「そう。今分かる限りでは、私を狙っているストーカーと同一人物の可能性が非常に高い!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ボルン署長宅前
 
 
「金髪の、白いヘアバンドを頭に巻いて、白衣を着た、怪しい男?」
 
ボルン署長はメモをとりつつ何かの特徴を呟いていた。
 
「そうだ。もしこの村でそういう奴を見かけたら、その場で現行犯逮捕でも何でもしてやってくれ!」
 
ナックルジョーも黙っていたわけではない。
先日の借家襲撃事件を受け、憎きストーカーを懲らしめるため少しでも多くの協力者を作ろうと努力していた。
 
「うーん、この村はそんなに複雑な作りでもないから、怪しい奴がいたらすぐに見つかると思いますが・・・」
「俺とシリカは『今日』ここに来たんだ!今まで目撃情報ねぇのは当然だ!!」
「そ、そうでしたな・・・では、今すぐにでも村中に呼びかけて――――?」
 
 
 
ふと足元に目をやると、一匹のバッタが二人の間を飛び跳ねていった。
 
 
 
「ん?何だこいつ?」
「ふむ、この村ではバッタはあまり見ないな。森だったら分かるが・・・」
 
バッタがジョーの方に顔を向ける。昆虫らしからぬことに、何度も眼が光を放っていた。
 
「!!」
 
 
途端、ジョーは何かを感じた。
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・!!!」
 
 
 
 
 
ジョーの顔をじっと見据えた後、用は無いとばかりにバッタはその場を後にする。
 
「どうしました?」
「・・・・・・いや、なんでもねぇ」
 
 
ジョーは額に少し浮かんだ冷や汗を手で拭い取った。
 
 
(あれはどう見ても偵察用途のメカ・・・・・・だけど、どういう事なんだ!?)
 
 
 
あのバッタ型のメカが、自分へ眼光で発したモールス信号のメッセージ―――
 
 
 
 
 
 
 
 
『(コレガ最後ノ警告ダ。俺ノしりかカラ離レロ。サモナクバ、オ前ヲ、コロス)』
 
 
 
 
 
 
 
 
(機械越しに操縦者が、俺に向けて物凄い殺意を放ちやがった・・・!!?)
 
 
普通は、機械に感情など宿らない。
だが先程のメカバッタからは、操縦者の強い憎悪が嫌というほど伝わってきた。
それは、自分を敵視するストーカーの尋常ならざる殺意に満ちた視線と、非常に似ていた。
 
 
 
「あの感じ・・・・・・・・・!」
 
メカバッタを追いかけようと動き出す。
 
「おや、もういいのですかな?」
「ああ。そっちもよろしく頼むぜ!!」
 
ボルンに背を向け、その場を後にした。
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・無茶しなければ良いが・・・」
 
 

 

 

 

 

 
 

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