chapter:2

  

 

 

 
 
 
 
「私はそろそろ城に帰るわね」
 
 
日の暮れたププビレッジ、レストランカワサキ前。
話を聞き終えたフームは、シリカと店の前で別れようとしていた。
 
 
「じゃあ私も宇宙船に・・・って、そうだ!」
 
足を動かそうとした直前、大事なことを思い出して立ち止まる。
 
「どうしたの?」
「確かここに着いた途端、エンジントラブル起こして・・・」
「それは大変!今日はワドルドゥ隊長に頼んで、国中に警戒態勢を敷いて―――?」
 
突然、目の前に一匹のバッタが跳んでくる。
 
「あ、バッタだ」
 
思わず声を出したシリカの方に顔を向ける。
普通なら直ぐに逃げ出すと思われたが、何故か彼女の顔を見据えていた。
 
「じっくり見たこと無かったけど、結構可愛いね」
 
そうかしら、と言いかけたフームが違和感に気づく。
一見すると普通のバッタに見えるが、よく観察すると表面が金属特有の光沢で輝いており、とても生物的な体には見えない。
こんなものを使うのは、この国で「あいつら」しかいない。
 
「待って!こいつ、デデデが使う偵察用のメカだわ!」
 
「え!?」
 
シリカは驚きを隠せない。
今の反応を見るに、本気でバッタだと思っていたらしい。
 
「あいつが私達を利用して悪巧みするとき、よく使われるの。おまけに自爆機能を搭載した厄介モノ!また何か企んで―――」
 
 
 
「・・・すごい」
 
 
「え?」
今度はフームが意外な反応に驚く。
警戒するどころか、目を輝かせている。
 
 
「この国の文明レベルから考えると、非常に精巧に出来た代物だわ。
最近は科学力の発達した国だと、超小型カメラを搭載した浮遊型の偵察用ビットが主流なの。
それもステルス機能を有した、ね。
でも欠点があって、電波の発信源をキャッチされない高度な作りにすると敵だけじゃなく味方もビットの居場所が分からなくなる。
結果として、そのビットは現在地が分かるように電波を発信せざるを得なくなった。
敵の高精度な防衛システムにあっさり引っかかるガラクタに成り下がり、質が落ちた。
対して、このバッタは凄い!
科学レベルの問題もあるけど、こういった旧時代寄りの機械は
さっき言った高レベルの防衛システムには逆に引っかかりにくいの。
更に実在の昆虫をモチーフにした事によって、偵察任務に不可欠なカモフラージュ率を飛躍的に高めている。
敵地が森の中にあれば効果は絶大ね。
おまけに自爆するための火薬も内蔵・・・証拠隠滅の手段もほぼ完璧だわ。
あのペンギン、私が思っていた以上に利口な奴だなんて。
ギャラクシアの件はともかく、これからは意外と侮れない存在になったかもしれない。
まあ私としては更なる改良の余地が必要ね。
フームが気づいたように金属の光沢が隠しきれてない。
ボディに用いる素材を何とかすれば―――」
 
 
 
「あの・・・・・・・・・シリカ?」
 
彼女は機械の知識に詳しいのだろうか。
いや、詳しすぎる。
言葉の紡ぎだされるスピードが尋常ではなく、単語一つごとの意味を正確に聞き取れたかどうかも危うい。
 
「そもそも過去の銀河大戦において、今亡きナイトメア社は何の変哲も無い商品に発信機を仕込み、それを裏ルートで銀河戦士団の関係者に送り込んだことがある。
発信機の示す場所へ奇襲をかけるという卑怯だけど巧妙な―――」
 
呼びかけにも応じず、ますます語気を強めるシリカ。
ここまで来るとある意味、オタキング並だろう。
彼女の父親、あるいは母親もこんな性格だったのかも知れない。
 
「あなたって人は、呑気ね・・・・・・」
 
聞く耳持たずの彼女に呆れ返った時。
 
 
 
 
 
「待ちやがれ、ストーカー野郎!!!」                      「いたぞい、ワシのメカホッパーちゃん!!!」
 
 
 
 
両サイドから、二人の叫び声が響き渡る。
レストランに背を向けたフームから見て左側はナックルジョー、右側はデデデとエスカルゴンだ。
 
「・・・であるからにして、やっぱりこのバッタは中々どうして―――」
「シリカ!!」
「うるさいな!人がせっかく語っていたのに!!」
 
眉間にしわを寄せ、露骨に不快感を顕わにする。
 
「そいつはただのバッタじゃねえ、あのストーカー野郎が操ってるんだ!!!」
「え!?」
 
フームの予想は外れた。
いつもの事だから操縦者はデデデ達なのだろうと思っていたからだ。
 
「あ!お前達は城クラッシャーコンビ!!丁度いい、そのバッタを捕まえるでゲス!!!」
 
デデデとエスカルゴン、必死の形相で駆け寄ろうとする。
しかしジョーのそれはデデデ達を軽く上回っていた。
 
「うそ!!あんた達が操っていたんじゃないの!?」
「だったら人前に見せびらかすような真似はせんぞい!!」
「シリカ!!そいつを踏み潰せ!!!お前、見られてるんだぞ!!」
 
ジョーの呼びかけで我に返ったシリカ、目の前の状況をすぐに把握。
同時に、この上ない悪寒が襲った。
 
「―――――――――!!!!」
 
己の直感から、言われたとおりにメカバッタを踏み潰そうとする。
だがバッタは羽を広げて飛び回り、近寄ってきたナックルジョーめがけて特攻。
 
「自爆する気よ!!逃げて!!!」
「しまっ・・・!!!」
 
眼前まで迫るバッタ。
もう間に合わない。
あわや大惨事と思われたが―――
 
 
 
 
「ぽよっ!!!」
 
 
 
 
彼のピンチを救ったのはカービィだった。
直感的にメカホッパーを吸い込んだ直後、口の中で爆発が広がる。
 
「賢明な判断じゃねーか。恩にきるぜ」
「ぽよ!」
 
礼を言われて喜ぶカービィだが、デデデ達にとってはそうもいかない。
 
「おのれぇ~カービィ!よくもワシのメカホッパーを食べてしまったな!!」
「違うって!元はといえばあれは私のモノだったんでゲス!!」
「黙れい!元はと言えば貴様がちゃんと管理しなかったから・・・」
「何を馬鹿な!それを盗んだ陛下が一番・・・」
 
「デデデ!!!」
二人の喧嘩がぴたっと止まる。
 
「な、なんぞい?」
恐る恐る振り向く。
 
「そろそろ陽が沈むわ。早いとこ城に戻って、警備を強化してちょうだい」
「なぜフームなぞに命令され・・・・・・」
「いいから早く!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ち!!」
 
彼らのやり取りを、民家の物陰から見ていた者がいた。
 
 
「何だよぉー、俺の愛のストーキングをよぉー、邪魔しやがってよぉー」
男は手に持ったリモコンを地面に投げ落とし、力いっぱい踏み潰した。
 
「ああうぜぇ、マジうぜぇ。自爆を阻止した桃色大福もそうだけどぉ」
ナックルジョーの方を見て、侮蔑の眼差しを送る。
 
「それ以上に俺のシリカと一緒にいるあの男がぁ気に食わないぃすっげー気に食わないぃ」
破片をものともせず、ひたすら踏みにじり続ける。
 
 
「顔も、見た目も、態度も、存在自体も、実力も、何もかも、拒絶したい・・・・・・いひ、ひひヒヒヒヒ!!」
 
 
口元が揺るぎ無い憎悪と狂気に歪み、人のものとは思えない鋭い八重歯をむき出しにした。
 
 
 
 
 
「今夜、分からせてやる。お前なんかより俺のほうがずっとシリカにふさわしいって事を」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

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