chapter:6

 

  

 
 
 
 
 
今のエミジは、少しでもシリカと離れれば欲求が高まる一方だった。
 
 
一緒にいたい。
抱きしめたい。
あの長い髪を掻き回したい。
肌の温もりを感じたい。
そして血を、血を―――
 
 
 
「ぽよ!!」
 
 
 
なのに、このカービィは再び俺の邪魔をしようとする。
一度ならず、二度までも。
どこまで煩わしい事をするつもりだ。
 
 
「ほー・・・・・・・・・戻って来たら来たで、今度はあの憎たらしいピンクボールが・・・・・・」
 
 
目の前で力なく横たわるシリカ。
彼女を庇うように、カービィが立ち塞がる。
 
「嫌いだなぁ、お前みたいにいい子ぶってる奴はさぁ」
 
脅迫気味に睨みつけるが、微動だにしない。
一体どうしてくれようか。
 
「自分のしてきた事が何だって正しいと思い上がっちゃってさぁ!!」
 
さすがにここで戦っては、愛しのシリカに被害が及ぶ。
かといって再び外に出れば、俺をお縄につかせようと狙うザコ兵士に取り囲まれる。
ただでさえ連中は数が多いのに集団で襲われ、その上カービィの攻撃が舞い込んでは自分と言えどもきつい。
こうなれば、手段はひとつ。 
 
 
「世界は広いんだぜー、カービィ?ここはひとつ、面白いもの見せてやるよ」
 
エミジは袖だけ脱ぐと、身を隠すように白衣を被る。
一瞬の内に姿が消えた。
カービィは何が起きたのか分からず、戸惑っている様子だった。
 
「ぽ、ぽよぉ!?」
『びっくりしたろ?この白衣はただの白衣じゃないんだ。光学迷彩で己の体を周りに見えなくする事が出来る!科学の力って、すげー!!』
 
完全にうろたえている。
今がチャンスだ。
ここであらかじめ排除しなければ、何処までもしぶとく追いかけてきそうな気がする。
 
『さ、ボーヤはお寝んねの時間だ!!』
 
姿は見えない。
だが、カービィは空中の一点に空気が渦巻いているのを感じ取れた。
吸い込み体勢に移ろうとするが、もう遅い。
 
 
 
 
 
『フウジンブレイク!!!』
 
 
 
 
 
直にアッパーを喰らわされたカービィ。
同時に起きた風の奔流に呑まれ、壁を突き破って吹き飛ばされた。
邪魔者を排除したエミジは迷彩を解き、再びシリカのもとに歩み寄る。
 
 
「・・・ここじゃ落ち着いて一緒にいられない。どこか遠くへ・・・・・・・・・」
独り言を呟く。
 
じきにこの部屋も新手の兵士が駆けつけるだろう。
大規模な捜索を実施しているのなら尚更の事。
シリカを無理矢理立たせ、後ろを向かせて抱きしめ、髪の匂いを再び堪能する。
相変わらず良い香りがする。
 
 
 
「・・・・・・ヴァンパイアの本能を抜きにしても、本当に好きだ。離れたくない、ずっと独り占めしたい」
 
 
「断る」
 
 
喋った。
てっきり気絶して言葉も出ないものとばかり思っていたが、結構タフな心を持っている。
 
「断る?何を言ってる、血を吸われた時は身をよじらせて悶えた癖に、この嘘つき」
俺がそう吐き捨てると、シリカは抵抗する素振りもなく言葉を続けた。
 
「勘違いしている。心と体は別物、私はあなたを好きになんかなれない」
「それは分かってる、でも俺には関係ない」
 
片方の手が、足の太ももを撫で回す。
 
「俺に逆らえないよう、体に教え込めば済むことだ」
その気になれば唇を奪ってやっても構わない、とまで言ってみせるが、意味が無かった。
 
「・・・また変態って言ったら、殴るの?」
「・・・・・・・・・・・・」
 
何も言わなくなったように見えただけであって、まだ喋る気だった。
 
 
「さっきの、か?俺はな、わざと気の触れた奴に見えるよう振舞っているんだ。相手に極上の恐怖と、屈辱を与えるために」
 
 
翼を広げ、再び外へ躍り出る。城中のワドルディ達に気づかれるが、今更遅い。
エミジは大空を舞い、更に高く飛んでいく。
地上に目をやると、連中が一悶着しているのが目に入った。
 
 
 
「見つけたぞい!!兵士ぃ、大砲で撃ち落とせい!!!」
「馬鹿!!シリカを巻き添えにする気!?」
「黙れぃ!!この際だから城を破壊されたお返しをしてやるぞーい!!!」
「陛下、自分で言ったらだめでゲしょ!!?」
「あ・・・・・・」
「最初からそういう魂胆だったのね。信用した私の方が馬鹿だったわ!!」
 
 
 
 
そこから先は聞こえなかったが、連中の会話の内容に興味など無い。
プププランドから遠ざかるため、地平線目指して飛翔。
 
 
 
 
「カービィはまだ傷が浅い!姉ちゃん、すぐにワープスターを―――」
 
「待て」
 
「メタナイト卿!?」
 
 
 
 
 
「これは彼ら自身の問題だ。真に行くべきは誰か、分かっているな?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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「・・・・・・・・・」
真下には広大な海が広がっている。
船も、島も無い。
 
 
 
「あれだけ怖がらせた上で血を吸ったんだ、精神的に相当衰弱したと思ったが、結構しぶといな」
 
 
 
「・・・これでも本当は怖かった。特に噛み付かれた時、自分の血が吸われていくのを感じて、身も心も犯されるようで泣きたくなった」
 
 
 
「そうか、俺は最高に良い気分だったけどな」
 
 
「・・・私は最悪だったけど」
 
 
「・・・じゃあ逃げてみろよ」
 
 
「それが出来ないからこうなってるんでしょうが」
 
 
「・・・そうだな」
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・最初に聞くべきことだったけど、ジョーは?」
 
 
「あいつは今頃水柱に打ち上げられて、にっちもさっちも行かないはずだ。当分動けまい」
 
 
 
 
 
 
 
「・・・あなたは」
 
 
「?」
 
 
 
 
 
「あなたがジョーを嫌っているのは、ジョーが私を愛していないと思っているから?」
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・そう。いつまでたって女心をフイにしてしまうような鈍感男は、お前に合わない」
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
「愛されないより、愛されるほうがずっと良いだろう?」
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「だから、これからは俺が愛する。ずっと、いつまでも、永遠に」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・あなたの言ってる事は間違ってはいない。でも、これは明らかに歪んだ愛情に他ならない」
 
 
 
 
「まだ言うか。俺は非常に意地悪な方だ、泣かすぞ?」
 
 
 
 
「やれば?」
 
 
 
 
「・・・お前の唇をここで奪う。口の奥まで陵辱してやる、覚悟しろ」
 
 
 
 
「どうぞ、なんなりと」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・余裕があれば、だけど」
 
 
 
 
「余裕?」
 
力の無いシリカの右手が下方を指差す。
考えたくも無いが、まさか。
 
 
 
 
 
「・・・・・・ちぃっ!!!」
 
 
 
 
城の方から2つの光が見えた。
一つは、星型の乗り物にしがみつくカービィ。
もう片方は今現在、最も嫌悪している人物。
 
 
 
 
 
 
 
 
シリカを返せぇーーーーーーーーー!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・あのガキ・・・・・・!!!」
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

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