chapter:8

  

 

  

 
 
 
 
 
 
 
 
「先手必勝!!スマッシュパンチ!!!」
 
 
 
張り詰めた空気を先に破ったのはナックルジョーだった。
 
 
「ふん!!」
 
エミジはこれをガードもせずに体で受け止める。
それほど彼の肉体は強靭であり、生きる鉄壁。
 
「俺をのけぞらせられるのは、こういう攻撃だっ!スマッシュクロス!!」
 
初めてエミジと対峙した時の技が、今一度繰り出される。
ジョーも馬鹿ではなく、二度も喰らわまいと軽々避けた。
 
 
「隙は見せないっ!!バルカンジャブ・改!!!」
 
 
今度は片腕で気弾連射。
やはり連射力に欠けるが、一つ一つの大きさはスマッシュパンチよりやや小さいか同等だった。
 
 
「バルカンジャブ!!!」
 
対するジョーも“本来の”バルカンジャブで迎え撃つ。
だが、弾は相殺されるどころか貫通してジョーを襲った。
 
「おっと!!」
 
素早い身のこなしで無数の気弾をかわす。
これを見たエミジ、相手の俊敏な身のこなしを内心腹立たしく感じた。
 
「(しぶといな・・・・・・如何にして叩き潰すべきか・・・・・・)」
 
 
当人は一瞬のつもりだったのだろう。
しかし戦場では、そんな僅かな思案が敵につけいる隙を与えてしまう。
 
 
スマッシュパンチ!!!
 
 
ジョーの容赦ない鉄拳が、見事顔面に命中。
 
「・・・ちぃ・・・!」
 
さすがに効いたのか、少しふらつく。
ジョーは間髪入れず、持ちうる全ての技を叩き込んだ。
 
 
「バルカンジャブ!スピンキック!!水鉄砲ラリアット!!!」
 
 
反撃のチャンスをことごとく潰し、高い攻撃力の技を出させまいと必死に当て続ける。
それでも絶え間なく技を繰り出すのは限界があった。
 
 
なめるな!カッティングエッジ!!!」
 
 
斬撃と見間違うほど鋭く空を切るサマーソルトキック。
一瞬の間につけ込み、エミジが反撃に乗り出し始めた。
 
「くそっ!!スピンキック!!!」
「サイクロンエッジ!!!」
 
両者の回し蹴りから気弾が繰り出され、相殺する。
しかしエミジだけは攻撃を止めることなく、風をまとい回り続けたまま突っ込んできた。
 
「うおぉっ!?」
間一髪で避けるも、足先が頬をかする。
 
傷口から血が少し出てきたのを、ヴァンパイアのエミジは見逃さなかった。
 
「(血!!少しでも補給すればフィスト系統の技に余裕ができる!だが、ここは空の上・・・)」
 
 
一案すると、突然その場から逃げるように遠ざかった。
誘い立てる様にジョーを手招きし、下方の大海原へ飛ぶ。
 
「待て!!」
 
追いかけるジョー。
背中にシリカを背負ったカービィも遠巻きに後をついていった。
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・?様子が・・・・・・!?」
 
 
背を向けたまま逃げるエミジが突然向き直り、飛びかかる。
罠だった。
 
「ぐっ!!」
 
怪しげなオーラを纏う拳が腹部にめり込む。
するとジョーの発揮していた能力が解除され、光を失った。
 
「これは『負拳突き』!!神経の麻痺、能力の低下などあらゆるバッドステータスを引き起こす!!!」
 
背後に回るとジョーを羽交い絞めにし、首筋に強く噛み付く。
 
「や、やめ・・・ろ・・・・・・」
 
突き刺さる牙から溢れる血を、貪欲に喰らい続ける。
 
「うわああっ!!!」
 
得体の知れない恐怖に一瞬おののき、何とか振り払った。
既にジョーの意識は半ば遠のきかけている。
それでも戦闘を放棄することなく意識を集中させ、能力をもう一度発揮した。
噛み痕の痛みをこらえつつ、ジョーは再び逃げるエミジの後を追う。
中途半端なままで、決着を付けたくは無い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どこまで・・・に・・・逃げる・・・気だ・・・!?」
「逃げやしないさ、回りを見ろ」
 
エミジを追って気づけば、すぐ下には広大な海が広がっていた。
あと数センチメートル降りれば海水に浸かる程だ。
 
 
 
「さっきお前から吸った血を消費し、大技でケリをつける!!」
 
 
 
波の穏やかな海上へゆっくり降り、エミジは右手に青い光を集中させる。
 
 
「その体ではライジンブレイクすらまともに繰り出せまい、果たしてもつかな・・・?」
 
だが、一方の左手は金色の光をまとっている。
一体何をするつもりなのか。
 
 
「先の戦いで見せたスイジンフィスト、そしてライジンフィスト・・・・・・」
 
両手を振りかぶり、海水に一発。
 
無慈悲な雷撃を纏いし、怒れる残酷な津波に呑まれるがいい!!ナックルジョー!!!!
 
 
瞬間、電流を孕んだ数メートルはあろう巨大な波が立ち上がる。
攻撃力だけなら凶悪なものだ。
 
「満身創痍のお前に、この複合技を破れるか!?」
 
 
津波は全てを呑み込んでしまうかのような圧倒的な壁を作り、迫り来る。
万事休す、か。
 
ナックルジョーが己の死を覚悟した時だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
何やってんのよ、ジョー!!!!
 
 
シリカの精一杯の叫びが、ジョーの耳を貫かんとするほど明瞭に聞こえた。
 
 
 
 
 
 
 
勝たなきゃ許さないんだから!!!!
 
その言葉が、折れかけた勇気を奮い立たせる。
 
 
 
 
そうだ、俺はまだくたばるわけには行かない。
ここで死んだら、シリカはどうなる!!
 
 
「うおおおおおおおっっっ!!!!」 
 
「ジョー!?」
「!?血迷ったか!!」
 
拳を突き出し、突進。
エミジにしてみれば愚かな自殺行為。
 
 
 
 
「・・・・・・ふっ」
 
 
荒れ狂う津波はジョーの姿を隠し、何事も無かったかのように通り過ぎる。
 
 
彼の姿は無かった。
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・はは、ははははは・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
エミジは勝利を確信していた。
あの疲れ果てた肉体で津波を超えられるはずがない。
 
「・・・・・・最後の技に全力を尽くした。なぜなら・・・奴が這い上がることはもう無い・・・」
 
彼は目を瞑っていた。
自分が負ける要素など、どこにも無い。
 
そう、どこにも無かったはずだった。
 
 
 
目を瞑って、本来保つべき注意力を失わなければ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
まだ終わりじゃねえええええええええッッッッ!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
水中から、聞こえてはならないはずの勇ましい叫びが聞こえた。
 
 
「・・・・・・・・・!?」
これほど彼を混乱させた事は、彼の人生の中でも数少ないだろう。
 
 
 
嘘だ。
 
 
 
嘘だ!
 
 
 
嘘だ!!
 
 
 
あんなに弱っているはずなのに、どうして―――――――――
 
 
 
 
 
ライジンブレイクッッ!!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
ど  う  し  て―――――――――――――――
 
 
 
視界が、海より這い出る黄金色の閃光に塗り潰された。
 
 
 
 
 
 「・・・・・・勝ったぜ・・・シリ・・・カ・・・・・・」
 
 「!!」
 
限界まで戦い抜いたジョー。
眠り込むように体の光が消え、頭から落下し始める。
 
 
「カービィ!!」
「ぽよっ!!!」
 
 
 
 
 
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俺は死なない。
 
 
 
 
ヴァンパイアは不老不死。倒されることまであっても、俺は死なない。
 
 
 
 
 
だから俺は、何度でもシリカを奪いに行く。
 
 
 
 
 
せいぜい寝首を掻かれないようにするんだな、ナックルジョー!
 
 
 
 
 

 

 

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