昼
デデデ城 大臣一家の部屋
「そもそもこのアフォリムラがなぁ、俺に同人誌買いに行かせたせいだ!」
拒否する間も無くコミケに行かされ、男性向けの同人誌を大量に購入し、いざ帰ろうと駅に戻れば、トンネルの落石事故で足止め。
「寒かったんだぞ、リムラ!!何たって雪国なんかでコミケ開くやついるんだよ!?」
「主催者いわく、今回はしっかりした場所が取れなかったんだってさ」
諸悪の根源は反省の様子がまるで無い。
「ホテルに泊まる金も無かったから、同人誌抱えて極寒の駅で朝まで立ち往生するハメに・・・・・・」
「まあ、何て可哀想・・・」
「友人とは言え、お使いにしてはキツすぎやしないかな」
こればかりはパーム夫妻も同情してくれた。
「しかも、女性恐怖症のリムロにそんな事させるなんて!馬鹿じゃないの!?」
「誤解だって!これは荒療治のつもりで・・・・・・!!」
「言い訳しない!!」
「言い訳じゃない!!」
二人の喧嘩が始まった。リムルは呆れたような顔だ。
リムラ率いるダークトリオがこの国に引っ越してからというものの、フームとの間でささいな小競り合いが絶えなくなった。
「たかがお使いでやかましいんじゃあ!このド田舎イモ娘、井の中のメスガエル!!!」
最も、原因の9割方は彼女を蔑む傾向にあるリムラの所為なのだが・・・
「何ですってぇ、このボンクラ兵士ぃ!!!」
「うるせぇ!お前なんかラベンダー畑に埋めてやるうぁ!!!」
「やれるもんならやってみなさいよ、このヘタレマター!!!」
「だっ・・・」
ヘタレと言われた途端に弱気になった。本人が一番言われたくない言葉だ。
「俺は・・・ヘタレじゃ・・・なくて・・・・・あの・・・その・・・」
それがヘタレなんだっての。
「姉ちゃん!リーロが目ぇ覚ましたぜ!」
「本当に!?」
一同は彼女が横たわっているソファの傍に駆け寄り、彼女の安否を確認した。
「・・・・・・あれ・・・・・・お姉さま・・・?」
「いやー危なかったな・・・って、ヤベェ!!お前ら隠れろ!!!」
大事なことに気づいたリムラはすぐさま床に隠れた。
「?」リムルも後に続き、リムロも訳が分からぬまま身を潜めた。
(どういうコトだよ、リムラ?)
(あのがきんちょ、極度の怖がりなんだってさ)
(だから俺達みたいな奴らは下手に姿を現さないほうがいいの!!)
(それでか・・・・・・とは言え、すげぇショックだったんですけど・・・・・・)
(しかし、あいつらにはコレが普通なんかな)
彼女の目覚めを待つ間、フーム達は対して心配する様子も無かった。
もはや慣れているのだろう、慣れとは恐ろしいものだ。
(俺には普通じゃなかったぞ。ダークマター族にとって当たり前であるこの顔を!怖いと!!思われたんだぞ!?)
(それがちびっ子の反応だから仕方ない)
(・・・・・・・・・・・・)
「お姉さま・・・・・・さ、さっき僕が見た真っ黒オバケがそこにいたような・・・・・・」
「え?・・・気のせいよ、気のせい」
(ボクっ娘・・・・・・やべぇそのギャップに萌えるわ)
(ケッ!!)
「きっと姉さま、疲れてるんだよ。慣れない気候の土地にやって来たせいで」
(慣れない土地?)
「た、多分そうでしょうね。あなた達は日差しの弱い雪国で暮らしていたんだから」
(雪国?・・・なあリムラ)
(はい?)
「きっと暑さで幻覚でも見てたんだよ、ははは・・・」
(お前が俺にコミケ行かせた所って、どこの国?)
(アイスバーグ共和国だけど?・・・・・・ん?まさか・・・)
「多分そうだろうな。俺も姉さまも、昔からアイスバーグの外に出たこと無かったし」
(やっぱりな。始発の時点で俺と一緒に乗り合わせていたんだ!!)
(マジか・・・)
「いくら私の弟、つまりキミ達のパパが出張で家にいないからといって・・・」
「無理にプププランドへ来なくてもねぇ・・・」
パーム大臣の弟から連絡があったのは、なんと今朝の6時だという。
よほど急な用事だったのだろう。パームはそれ以上詮索しないことにした。
「だって寂しいんですもの。学校はもう冬休みに入って、友達は皆家族旅行に行ってしまったし・・・」
「それに、ママの事ほったらかしにしてばかりのパパより、フームやブン兄さまと一緒にいるほうがずっと楽しいもんな!!」
「シック!!」
リーロが少し怒ると、シックを睨みつけ
「おじ様の前で、お父様のことを悪く言ってはダメでしょ・・・・・・!!」
「だって!!!」
洞察力の良いリムラは、一連のやりとりを見て
(ははーん、こいつぁ何か訳アリだな)
「いっつも『大事な用事がある』とか言って、俺たちと遊んでくれねぇんだもん!!」
(大方、仕事ばかりで子供の面倒見切れない、迷えるパパって所だろ)
「それは違うわ!!お父様は僕たち一家を養うため、必死に働いているの!」
「何が一家のためだ!!一杯稼いだんだから、仕事なんか辞めて家族と一緒にすごしたほうがずっと良いよ!!」
「いいえ!お父様には自らの仕事に対する責任が・・・」
(こいつらのどこが8歳なんだよ・・・)
(家庭環境が複雑すぐるよ)
口喧嘩は収まる様子を一向に見せない。持続時間のこともあり、リムラはとうとう耐えかねて
(おい、フーム!さっさと止めてくれ!)
「大丈夫よ」
(何が大丈夫なんだよ。こんな所でドロドロした昼メロ繰り広げられても困るんすけどー)
「彼女たちの事は、ブンが一番手なずけられるから」
と言い、ブンに一瞥。すると前に出て
「おい」
「「!!!!」」
ブンが不機嫌そうな声を出すと、双子の体がビクっとした。
「・・・さっきからギャーギャーうるせぇんだよ」
驚くべきことに、このたった一言だけで双子は恐怖におののき、ソファの陰に隠れてしまった。
「ご、ごめんなさい・・・お兄ちゃん・・・・・・」
「ごめんよぉ、兄さまぁ・・・!」
さっきまでの威勢はどこへやら、男の子っぽかったシックでさえ弱気になっている。
(手なずけるってか、怖がってるんすけど)
「彼女たちブンの事大好きだから、ブンが怒るのが怖いのよ」
(兄貴が怒るのも怖いってか。どこまで怖がりなんだか!!)
(つうか、色々ありすぎて疲れてきたよ・・・俺を寝かせてくれ・・・)
「・・・・・・そういえば、あなた達“アレ”はどうしたの?」
「「アレ?」」
二人が口を揃え、お互いに顔を見合わせる。こういう所だけは実に双子らしい。
「今日の午後からずーっと快晴が続くそうなのよ?“アレ”が無かったらどこにも行けないわよ!」
「別にいいよぉ、俺たち夜行性だし。あ、でも夜はやっぱ怖いし・・・」
「そういう問題じゃなくて!あなた達に太陽の光は危険すぎるの!!」
(太陽の光ぃ?)
(おう。言い忘れたけどあいつらアルビノなんだ。多分それが原因かも知れん)
(へぇ・・・・・・・・・そういえば・・・)
((??))
(すっげぇ言いにくいんだけど、その・・・・・・)
(俺、列車で騒がれた時のどさくさに、うっかりブッ壊した気が・・・・・・)
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