section5

 

 

 
 
 
 
「あの子たちの父親、バームは几帳面な男でした。
彼の働くオフィスには同じ職場で働く兄がいたのですが、どちらも仕事熱心で負けず嫌いでした。
 
しかし、ある日突然大きな転機が訪れたのです。
バームの兄が痴漢の疑いをかけられてしまったのです。幸いにも被害者側の勘違いという事で示談が成立したのですが
この一件はオフィス中に広く知れ渡り、社長の命令で会社を去らなければならなかった。
一方のバームも兄の風評被害を受け、辞職を強く拒んだ末に辺境の土地へ異動させられました。
 
そこはもう、ド田舎といっても差し支えない寂れた土地でした。
そんな何も無い所へ異動させられるという事は、事実上のリストラに等しい。
ですが、バームは決してくじけなかった。
あくまで社会に貢献したいという強い熱意が彼を突き動かしたのです。
 
バームは当時、驚くほど画期的で斬新な商品を発明しようと躍起になっていました。
もちろん、ただの平社員に過ぎなかった男が大それたモノを作れるはずがありません。
そこで彼は、この星の数少ない惑星外との通信手段を利用しました。
外国の進んだ技術を学ぶことで、斬新なアイデアを実現させる力を身につけようと考えたのです。
いかな障害に阻まれようとも、彼の野心に満ちたハングリー精神は立派なものでした。
 
日々研究に明け暮れ、時には恋に落ち・・・・・・
自分の仕事を支えてくれる良きパートナーを求めていたんでしょうな。
バームは愛する女性と結婚し、子供を授かり・・・・・・」
 
 
「悪いんだけどさぁ、早くビットが誕生した経緯にいってくれよ。長い」
 
 
「まあまあ、この話はこれからが本番ですので。
 
 
ある日、アイスバーグ政府は国の興業を活性化する運動の一環として
観光事業に積極的に取り組む政策を発表しました。
ターゲットは主に、常夏の国で避暑地を求める人々、特にセレブ。
アイスバーグは一年中雪が降る気候ゆえ、差し込む日光の量が少ないのです。
快晴の日でも日差しは周辺国の10分の1にも満たない。
政府はそこに目をつけ、自国を避暑地として売り込もうと考えたのです。
 
奇しくもバームの子供はアルビノであり、体質的に紫外線にきわめて弱かったのです。
紫外線の量が少ない場所を求めて、この国へ引越したのでしょう。
そこへ政府が発表した政策ですよ。彼にとって絶好のチャンスでした。
 
暑い場所に住む人も彼の子供たちも、紫外線を避けたいという気持ちは同じだろう。
しかし、過剰なまでの厚着で動きを制限されるのも嫌だろう。
だったら身近にある手軽なモノで、自分の周りだけ紫外線を排除できないか?
 
そう考えたバームが行き着いた先に手にしたものは、一本の日傘。
彼はその日傘をベースとし、日夜試行錯誤を重ねに重ねた末、ついに完成させたのです。
 
 
 
日傘型高性能ビット「AUVP(アンチウルトラバイオレット・パラソル)」を。
 
 
使い方は普通の日傘と全く同じ、ただ差すだけで良いのです。
そうすればビットを中心に素粒子で形成された光のカーテンが展開し、紫外線を完全、とまではいきませんがほぼ遮断します。
遮断率は、具体的には99.9%といったところでしょうか。
 
この世紀の大発明が功を奏し、瞬く間にAUVPは売れていきました。
コスト面の問題から価格は高めでしたが、世界中の金持ちが買い付けに来るので利益は上々でした。
我が子を助け、会社への貢献も果たし、彼にとっては一石二鳥の大成功でした。
 
 
 
しかし、彼はこれで満足しませんでした。
いずれ来る環境危機に備えるため、今よりもっと大規模なビットの開発に取り組むようになったのです。
それこそ町一つを覆えるぐらいの。
落ち着きを取り戻すどころかますます多忙を極め、家族へはたまにしか顔を見せられなくなった。
彼の上司であった私は不憫に思い、休暇をとるよう促しましたが、無駄でした。
 
 
更に運の悪いことに、かのエヌゼット大財閥が政府を介して大きな事業を持ちかけてきました。
それは、全てが砂に覆われた古き惑星“ホロビタスター”を再開発する長期プロジェクト。
砂漠地帯の緑化を円滑に進めるためには、バームの培ってきた技術が必要不可欠だったのです。
 
かくして彼は、出張という名目でアイスバーグ、いやポップスターを離れました」
 
 
 
 
 
 
「もう、早くも一昨日の事です」
「「!!!!」」
一昨日。驚くべきことに、かなり最近の出来事だった。
「じゃ、じゃあ・・・・・・バームのおっさんは・・・・・・・・・!」
「はい。ホロビタスターは未知なる脅威も眠る地」
 
 
 
 
 
「・・・・・・下手をすれば、妻と子供たちの顔を、二度と拝めないかも分かりません」
 
 
 
「なんてこった・・・・・・・・・!!!」
「そしてもう一つ悪いことに、このビットを修理できるのはバームただ一人です」
「えっ!!??」
「惑星外の科学者たちは口をそろえて『こんな複雑な道具は見たことが無い』と匙を投げてしまったのです」
「マジかよ・・・」
「誰も修理できない以上、商品として置くことはできません。だから、彼が戻ってくるまでは棚に置かないことにしているんです」
「在庫は?まだ残っているんだろ?」
「残念ながら、もう・・・・・・」
 
 
「・・・・・・畜生・・・・・・・・・・・・!」
 
 
はるばるプププランドからやって来たというのに、収穫ナシ。
これでは、とてもフーム達に会わせる顔が無い。
 
一体どう言い訳すればいいんだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・諦めんのか?まだ、道は残っているんだろう?」
 
 
 
 
 
 
 
「「リムラ!?」」
豪快に眠っていたはずのリムラがいつの間にか起き上がっていた。
「話は聞かせてもらったぜ。てめぇら単純なことでうだうだ悩みやがって」
「そうは言ったってよ・・・どうするんだよ?」
 
「簡単だ。本人に会いに行けばいいんだよ」
 
「「はぁ!?馬鹿かお前は!!!!」」
「・・・・・・俺がさ、駅でぐちぐち文句たれてただけと思ってたか?」
 
 
 
 
「ちゃんと把握してるんだぜ、IBステーションからIB国際宇宙空港までの路線」
 
 
 
 
 
「空港・・・・・・・・・?」
「・・・リムラさんのおっしゃる通りです。ここは観光国ということもあって、国外、惑星外との交通手段は充実しています。特に空港はエヌゼット大財閥の力添えもあって・・・」
「やっぱりな。じゃあ話は決まりだ、行くぞお前ら!!」
「行くって、パスポートも無いのに!?」
するとリムラは、どこからか3枚の手帳を取り出して二人に見せた。
「これがどうしたってんだよ!普通の空港のパスポートじゃスペースシャトルに乗れねぇよ!!」
「おい、リムロ。これって・・・・・・」
「あぁん?・・・・・・・・・って、あ!!出張の帝国兵に支給される定期券・・・・・・・・・!」
「しかも俺らのじゃん!家に置いといたはずなのに、いつの間に・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
 
「何も考えてないと思われちゃ心外だな。俺を見くびるなよ?」
―――――リムラは、抜かりの無い男だった。
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

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