いつものように朝を迎えたはずのデデデ城は騒然としていた。
城中に溢れんばかりのワドルディ達。
片っ端から部屋という部屋を捜索してまわる彼らの動きは、明らかに侵入者を探しているようだった。
城のどこかへと続く血痕。これを最初に見つけたのはデデデだった。
怪我人だったらこんな所で死んでしまって、化けて出てこられても困る。
気味が悪くなったデデデは、ワドルディ達に血の跡がどこまで続いているか確かめるよう調査を命じた。
だが、血の跡は大王の浴室に入ったところで途切れていた。
体の血を洗い流しに来たのだろうか、浴室の床にも薄らと跡がついていた。
「こんな所でワシの浴槽を汚しおって!!」
「んなこと言ってる場合じゃないでゲしょうが。そいつが敵だったらどうするんでゲスか?早く見つけないといつの間にか傷が治って・・・・・・」
「分かっておる!」
デデデは焦っていた。
「ものども、総動員で侵入者をとっ捕まえるぞーーーい!!!!」
痕跡が途切れた以上、夜明け前までに活動していた者達の証言だけが頼りだった。
今回は珍しいことに、デデデ自らが城の者たちへ積極的に聞き込みを始めることになった。
「不審者?・・・・・・・・・・・・知らない」
最初に尋ねた相手はフーム。
ナックルジョーの前例もある事から、大方侵入者をかくまっているのはこいつだろう、というデデデの憶測によるものだった。
「そのタメは何ぞい!?」
何も知らない素振りを見せるが、当然デデデが簡単に見逃すはずも無い。
「知らないもの知らないわ、さっさと部屋から出て行って。プライバシーの侵害だわ」
「くっ・・・・・・都合のいいときだけプライバシーなどという単語を使いおってからに・・・・・・!」
誤魔化されたようで気分が悪い。
だが、知らないと主張している以上、このまま聞き込みを続けても時間の無駄だ。
デデデは軽く舌打ちしてみせると、足早にその場を後にした。
聞き込みは1,2時間に渡って続けれらた。しかし、目当ての情報は見つからない。
「不審者?わたしは見てないわ」
「大体ぼくらは夜更かししないもんね~♪」と、ロロロとラララ。
「我々は何も見ていませんが・・・・・・」
「元々この城は兵士の数が尋常ではないのだから、当のとっくに見つけられてもおかしくないと思います」と、ソードとブレイド。
「申し訳ありません。我々もその時は眠りについていたもので・・・・・・」
「子供たちも同じですわ。」と、パーム大臣夫妻。
「ふむ・・・・・・本当に弱っているのであれば、この私から気配を消さずに逃げ切ることは難しいと思いますが?」と、メタナイト卿。
「ワドルディ達によれば何人かは目撃したようですが、人影がフーム殿とよく似ていたので、特に気にかけなかったようです。」と、ワドルドゥ隊長。
「バカモン!!似ているだけで見逃すなぞい!!!」
「も、申し訳ありません!!」
「あのね、何でめぐりめぐって私に行き着くんでゲスか!?知ってたらこんな苦労しないんだよ!!」と、最後にエスカルゴン。
何と言う事だ。
ここまで調査を広げたにも関わらず、新たな手がかりが一切無い。
「困ったぞい、困ったぞい!!」
「こうなったら、しらみつぶしに城中を捜索させるしかないようでゲスな!!」
城門を閉鎖し、警戒宣言を発令してまで捜索しても、侵入者が見つかることは無かった。
諦めの悪いデデデも今回はさすがに引き下がり、止む無く捜査を打ち切った。
これを持って今回起きた謎の怪事件は、迷宮入りのまま解決を迎えた。
少なくとも、デデデ達の見解では。
一方、全面曇り空のププビレッジ―――
警察署
「何ですと?村に不審者?」
デデデが侵入者の捜索を打ち切った同じ頃、村では怪しい人影の話で持ちきりだった・
「そうなんですよ署長。昨日の夜中に見たんです!忍者っぽい人影があちこちの民家を探して回っているところを!!」
「うーん・・・・・・・しかし、今のところ不審者の目撃情報はタゴの一件だけ・・・・・・他にも確かな証拠が無い限り、下手に動くわけには・・・」
「でも俺は確かに見たんです!信じてください!!」
「うーん・・・・・・どうしたものですかな・・・・・・・・・」
そのやりとりを、外から耳を当てて聞き耳を立てる男がいた。
「・・・・・・ちっ、あの時のコンビニ店員に見られていたか・・・・・・まあいい。」
タゴの言う「不審者」とは、ヤミカゲその人だった。
以前デデデに魔獣として呼び出され、このププビレッジを訪れたことがあるヤミカゲにとって隠密行動は容易のはずだった。
「俺も現役時代の腕が鈍ったな・・・・・・」
来るべきカービィとの再戦に備え、ナイトメア社の思惑そっちのけでポップスターの奥地で修行を重ねていた彼は
確かに戦士としての実力は向上したが、逆に忍者の技術を徐々に失いかけていた。
「だが、今は“例の娘”を殺すためにここへ来た。履歴に間違いが無ければ娘は必ず、この国のどこかに居る・・・・・・!」
台にしていた木箱から降り、忍び足でその場を立ち去ろうと試みるが、それは失敗に終わることとなる。
なぜなら、目の前にいたのは―――
「ぽよぉ?」
誰であろう、かつて自分を打ち負かした因縁の敵、カービィだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もはや腕が鈍ったという理由では済まされなかった。
実のところ実質的な無職に等しいヤミカゲは、戦闘以外では本当に忍者としてのカンが鈍ってしまったのだ。
「・・・・・・ぽよ!」
相手が以前に自分と戦った相手だと分かり、カービィは戦う構えを取る。
「・・・どうやら、俺の忍者としての腕は本当に鈍ったようだ・・・」
己の堕落ぶりに落胆するヤミカゲ。
「だが、戦いの腕まで鈍ったわけでは無いぞ!!あの時の雪辱、ここで晴らす!!!!」
鞘に収めた刀を抜き、矛先をカービィに向ける。
「ぽよっ!!!」
デデデ城 フームの私室
リビングから昼食を密かに持ち寄り、フームは自分の部屋に戻ってきた。
「ただいま」
外に誰もいないことを確認すると、静かに扉を閉める。
「・・・・・・ねえ、もうデデデはあなたを探すのやめたみたいよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「隠れてないで出てきたら?」
「・・・・・・・・・本当?」
「本当よ、シリカ」
ベッドの下から、銀髪の少女がひょっこり頭を出した。
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