翌日、ガルクシアはこの星から脱出することを決意。
理由は、今亡き友人の手紙の一文にあった。
「ナイトメアは腕利きの魔獣調教師を探している。じき、君も狙われるはずだ。どうにか宇宙へ逃げおおせて欲しい」
確かに、魔獣を使役する能力はそれこそ今の軍やナイトメアが欲しがる逸材だろう。
しかし、この手紙は少々無茶を言っていた。
宇宙へ逃げる?
ただでさえスペースシャトル一機を建造するのに莫大な費用が掛かるというのに、随分酷な事を言うものだ。
脱走手段は無きに等しい。
「ぜんっぜん不可能では無いわ。その前に私から押収したものを全部返して」
彼女を捕らえた際、近隣の山に宇宙船が墜落していた事が発覚。
船内に在った、武器から見た事の無い道具まで全部没収。
ただし、担当は自分ではなくアスパラード。
持ち物の詳細など全く知らない。
あの中に何があるのか?
アスパラードに事情を話すと、一纏めに保管した麻袋を突き出した。
すぐに中身を確認するガールード。
「間違い無い、これが私の物よ」
魔獣を打ち倒したあの剣や、女物と思しき妙な形の肩当。
今思えば額の冠のような装飾品だけ没収されなかったのが不思議だ。
初めて会った時そのままの姿に戻ると、ダンボール箱の大きさはある通信機を抱え、言った。
「どこか平坦な場所へ行きましょうか。ここは宇宙電波の状況が悪い」
「宇宙電波ぁ?」
聞き慣れない言葉に戸惑うアスパラード。
「どうする?お前もいっぺん見物しに行くか?」
「そうだな。どうせだから他の奴らも呼ぶか!」
_____________
「おいおい、まさかそれで遠く離れた本部とやらと連絡を取り合うつもりじゃ・・・・・・」
半信半疑のザード。
村の空き地に集められた一同は、中央にセットされた通信機をじっと見据えている。
噂好きの老婆たちが言いふらしたのか、それともアスパラードか。
数十分後には村人全体の半分ほどが群がっていた。
「なんじゃ、なんじゃ?」
「何でも、宇宙の人と会話できるんじゃと」
「あんれまぁ、そらすげぇっぺさ!!」
「ホントかのぉ?そんな夢みたいな話・・・」
一時間後。
未だに通信機は反応を示さない。
「何だぁ、全然何も起きないぜ?」
「時間が掛かるのよ、よりにもよってジオラ旧式の惑星間通信機だから」
「わ、惑星間!?」
スケールの大きさに驚くヴェルモンド。
ラジオを趣味に持つ彼には大変興味深い代物だった。
「さっすが、宇宙は広いね・・・」
「俺はもう慣れた」
「そりゃあ、あいつと毎晩密会してりゃあゲフッ」
肘打ちを喰らい悶絶するメルード。
相変わらず、一言多い。
それから数分、ついに通信機は起動。
早速、彼女の同僚らしき男の声が聞こえてきた。
『・・・・・・こちら銀河戦士団本部、応答願う』
周りは「驚くべき技術だ」と、口々に感想を漏らした。
やはり、この星の我々人類が知るよりも遥かに上だ。
唖然とする一同をよそに、ガールードは交信を続ける。
「・・・ええ。今言ったように、P(プラチナ)インフェルノ級を一隻遣して欲しいの。頼めるかしら、メタナイト卿?」
『・・・コールサイン「ギャラクティカベース」を?無茶を言うな、仮にも我々の本拠地だぞ』
「私の事が心配じゃないんだ、冷たいの」
『・・・からかうのは程々にして頂けないだろうか』
「別に」
「大体、Pインフェルノ級は銀河戦士団の戦艦でも最大級。たかが核ミサイル一発打ち込まれたぐらいじゃ、ビクともしないのに?」
「か、核ミサイルでも・・・!?」
ザードは驚きを隠せない。
「ええ。防護壁となる光学シールドは全体までカバー出来ないけど、少なくとも5発まで耐えられる。そもそも装甲自体が非常に強固だから、元から強い」
「とんでもないな・・・・・・宇宙は、広い・・・・・・」
ヴェルモンドは改めて科学技術の躍進ぶりに感心する。
駐在所のメンツの中では自分よりも年上の年長者であり、随一の識者でもある彼がここまで興味を惹かれるのも珍しい。
「何でも今度は、どんな物質でも3分とも持たないレーザー砲を製作中とか・・・」
「さ・・・3分っっ!!??」
益々驚くザード。
以前から内心思っていたがこの男、少々驚きすぎでは無いか?
カラスの鳴き声が聞こえただけで周囲を警戒し、異臭がすれば不審物を血眼で捜し始める。
実際、彼がここに始めてやって来た時もこのような印象だとヴェルモンドは語っていた。
元からこういう体質なら仕方無いが、少しは自主的に直す癖を身につけて欲しい。
「でも、供給するエネルギーが全然足りない。エーテル物質の増幅技術さえ完成すれば、いずれ・・・」
改めて科学技術の差を見せ付けられ、軽く落ち込むガルクシア。
それにしても、彼女の台詞がいちいち長い。
もしや、機械おたくなのか?
いや、そんな事はどうだっていい。
あの晩、ガールードを愛し通すと決めたのだから、今更何の趣味が分かっても動じるものか。
『ガールード。そなたの傍にいるのは誰だ?』
一連の会話に反応し、メタナイトが問いただした。
『あまり部外者に内部の事情を話されては困るのだが』
「へっ、正義の味方といっちゃあ随分偉そうなんだな!」
悪態を突くアスパラードを押しのけ、通信機の前にしゃがむ。
「貴様らはいいから!」
「彼はガルクシア。昨夜、共に夫婦として誓い合った仲よ!」
「ふっ、夫婦ぅ!?」
「やっぱりお前らそういう関係ゴファッ」
再び悶絶するメルードは場外に追いやられた。
「ほら、挨拶して!」
「え!?・・・は、初めてお眼にかかる・・・と言っても通信機越しだが。貴公が銀河戦士団のメタナイト卿か」
「へぇ、意外と難い喋り方するのね」
「違う!軍ではこういう形式的作法しか習わなかったんだ!」
『初めまして、ガルクシア殿。我々の協力者であれば話は早い、我ら銀河戦士団はいつでも貴方を歓迎する』
「あ、有り難き幸せ・・・いや違ったか・・・」
「・・・クス」
「わ、笑うなぁっ!!」
「おいおい、随分お似合いじゃねえかよ!」
「黙れぇっ!!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
声の主は呆れて物も言えない。
同僚ともども頭の悪い奴らだと思われるのは大変困る。
『とにかく、ギャラクティカベースを動かすだけで非常に目立ちかねない!生憎だが、今しばらく我慢を・・・』
『どうしたのだ、メタナイト君?』
『!!』
そこへ別の者の声が通信機から発せられる。
随分と重役の雰囲気を感じ取れる声質。
『ノ、ノイスラート卿!?』
「お久しぶりです、ノイスラート卿」
ガールードの物腰が急に丁寧になる。
やはり目上の人物のようだ。
『代わってくれ。・・・ガールードか、久しぶりだな。遭難事故に遭ったと聞いたが、無事で何よりだ』
「実は、かくかく、しかじか」
『ほう、それならお安い御用だ』
『ノイスラート卿!!』
『メタナイト君、何もそう神経質になる事もあるまい?君は同僚に冷たいな』
『いえ・・・そういう訳では・・・・・・』
物分りの良い上司に対し、考え方が慎重な部下。
悪く言えば保守的思考だが、上司と部下のオーソドックスな関係が逆転するのも珍しい。
それに、このノイスラートという男も話が分かっている。
部下の為に素晴らしい決断を下した事は評価できる。
『大丈夫だ。ナイトメアの軍勢はともかく、このぐらいの文明レベルなら然したる脅威ではない』
メルード程では無いが、一言余計に多い事を除いては。
数分後、ガールードの言うPインフェルノ級が一隻、空一面を覆いつくさんとばかりに現れた。
同僚や村人は開いた口が塞がらず、ただ唖然としている。
それは驚かない方がよほどおかしい。
しかし、本当に本拠地自ら来ようとは。
あれでも実際は大気圏より更に上方の高度で静止しているらしい。
何やら遠方で爆発音らしき音も聞こえるが、さすが最大級。
全く動じる様子が無い。
彼女に早く身支度をしろと急かされ、着替えや生活用品を風呂敷に包み背負い込み、基地の外に出る。
入口前には既に迎えの宇宙船が停泊。
いつでも飛び立つ準備は出来ていた。
だが、旅立つ前にどうしても済ませなければならない事があった。
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「えー、これより新郎の盟友、ヴェルモンドが婚約の儀の進行司会役を務めさせていただきます」
結婚式。
ガールードたっての希望で、急遽村の教会で決行する事になった。
都合の良い事に、村長夫妻が結婚式に着ていた正装が完璧な形のまま保存されていた事が判明。
そして「老いてなお盛ん」という言葉を体現するかのごとく、準備に向けて張り切る老人たちのパワーは凄まじい。
彼女が挙式を希望してから3時間足らず、午前11時には全ての準備が完了。
村長宅でお色直しを受ける事にした。
「ガールード、準備は出来たか・・・・・・って」
もうそろそろ時間だと呼びに行くと、正装前より益々美しい彼女がそこにいた。
「どうかしら、私が当時着ていたウェディングドレスは?主人のお金で取り寄せた特注品よ!」
純白の清楚なウェディングドレス。
とてもこの、中太りのマダムのような村長夫人が着ていたものとは思えない。
有りがちと言えば有りがちだが、外見上どこにも問題は無い。
むしろ、彼女にこれ以上似合うドレスなど無いと言いたい程だった。
「はい、とても素晴らしい・・・・・・あら、貴方よく似合っているじゃない」
一方の自分は、彼女に褒められるほど似合ってもいない。
というのもあの村長、事もあろうに結婚式当時のタキシードを雑に保管していたのだ。
既にタキシードは埃まみれ、しかも所々虫に食われて小さな穴が空いている。
村長は全力で刺繍を施してくれたが、最後まで綺麗そうには見えなかった。
こんなものを着せられるぐらいなら軍服で式に臨む方がまだ良い。
「そんな事ない。・・・ガールードの前では霧のように霞んで見えてしまうさ」
「あ~らヤダ!お宅の旦那さんたら、お世辞がお上手ですこと!」
「ちがっ・・・・・・今のは本気で言った・・・・・・」
「・・・自分に自信を持って。貴方も十分格好良いわ」
「・・・・・・あ、ありがとう・・・・・・・・・ほ、ほら!村の連中が待っている、早く行くぞ!!」
「・・・ええ!」
いざ式場に着くと、ウェディングブーケの準備がまだ出来ていないという理由で一旦中止。
完成次第、村内放送で告知すると言われたので、しばらく時間を潰すことにした。
生憎、自分も肝心の結婚指輪の用意が出来ていなかった。
あまりにも急な事とは言え、ガールードに言い訳はしたくなかった。
以前、ガールードを孕ませるなどと悪い冗談をかましたメルードは罰が当たったのか、股関節に異常をきたし自室療養。
口が下品なだけで根は悪い奴ではないのだが、内心ざまあみろと思った。
「ざまあみろ」
「結局口で言ってるんじゃねぇかよ」
「しかし、お前もそろそろ真面目に結婚相手を捜したらどうだ?」
「・・・無理だって。こんな変態、婿の貰い手いねーよ」
確かに、と頷くガルクシアに肩を落とす。
「だったら、同じ嗜好の女を捜せば良いじゃないか。今時離婚するのは互いの考えや趣味が合わないからだ」
「・・・そうかな・・・・・・」
「そうだろ。でも結局は個人の努力次第だ、頑張れ」
「・・・・・・まだ新婚ホヤホヤのおっさんに言われたくねーよ」
「ほう・・・・・・腰の骨も折 っ た ほ う が 良 い か ?」
「ひぃっ!?」
顔が恐怖に歪むメルード。
「・・・・・・冗談だ」
しかし、一旦振り上げられた拳は真上で緩く解かれた。
「あー、ビックリした!」
「ザード程じゃないだろ。・・・仕事仲間が全員結婚式に来れないのは、残念だな」
「・・・・・・そうだな」
「・・・お前が結婚式挙げる事になったら、仲人でも何でもやってやるよ」
「サンキュ」
「じゃあな」
メルードとの別れを惜しみつつ、診療所を後にする。
これが実質、彼との最後の会話。
彼らはヒューマノイドだが、自分はダークマター。
寿命以前に根本から違う自分たちは果たして、遠くない未来でどのような邂逅を遂げるのだろう。
敵対同士で殺し合うか?
街中で普通にばったり会って、酒でも飲み交わすか?
それとも、彼らが先に老いて死に行くのか?
ガルクシアは内心、ここで一生を過ごす事を苦しく思っていた。
自分だけ何も変わらず、彼らだけが年老い醜く枯れ果てていく。
早く死ぬことも出来ぬまま、友人たちの死を何度も見届けなければならない。
彼らも長命の種族であって欲しいとさえ願った。
先立たれるのは、悲しい。
タキシードが汚れては困るので、なるべく田んぼ周辺の泥道を避け一人道を行く。
ガールードも一緒に散策したいと頼んだが、男同士の最後の会話に耽りたかったので拒否。
少し、悪いことをしてしまったか。
「よ!」
「ヴェルモンド!アスパラード!それにザードまで!」
「もうメルードと話はしたか?」
「ああ」
「じゃ、そこの桟橋で語らいますか。それなりに高さあるから眺め良いし」
「・・・・・・・・・しかし、女嫌いのガルクシアがねぇー」
「文句あるのか?」
「べっつにぃー。ただ、いつの間にかそんな関係になってるなんて思いもしなくてさ」
神父代わりの司会と、ガルクシアの仲人をヴェルモンド、アスパラードが受け持つ事になっていた。
桟橋の上から川の美しい清流を眺め、アスパラードは一人ため息をつく。
「・・・ずっと黙っていたからな、お前たちには」
「ったく、ひどい抜け駆けだぜ!せめてメルードの奴より先にゴールインしようと思ったのに!」
「村長の子供の孫娘はどうだ?あくまで以前の俺としての趣向だが、あれだけ肉付きの良い女もなかなかのものだぞ?」
「馬鹿言うな!!あんなバルーンピッグみてぇな女なんか貰い手いるか?」
「・・・俺は良いかも」
「アスパラードッ!?」
「ふっ、そう言えばお前はそういう趣向だったな」
「あのお腹を揉み揉みしたらすっげぇ気持ち良いんだろうなぁ・・あぁ・・・・・・ジュルリ」
「・・・ごめん、今度からお前と距離置くわ」
「ええっ!?」
「ははははは・・・・・・・・・」
「まずいな、まだ指輪が用意できていない」
「そういう事なら、前の家内がつけてた指輪なんだけど、やるよ」
ザードが、前妻からくすねたと言う結婚指輪を譲ってくれたが、正直後ろめたいので川に投げ捨てた。
「わあぁぁっ!!!どうしてくれんだよ!?」
「・・・そんなに大切なら大事に持っておけ、ザード」
その時のショックを受けた顔が印象深く、彼の驚き顔の中で文句ナシの1位と言っても過言ではない。
多分、ヴェルモンドやアスパラードに尋ねても同じことを言うだろう。
「何故離婚したのか聞きたくなるな・・・おっ、村内放送だ」
「行くか」
結局、指輪と言う不可欠要素を欠いたまま決行。
式場には村人に紛れ込み、例のノイスラート卿や下級兵士と思しき者たちも参列していた。
なお、村長、郵便局長はブーケの花集めで必死になり過ぎたらしく、持病の腰痛を患わせ共に欠席。
局長だけは無理を言って結局駆けつけてくれたが。
「大丈夫よ、メルードさんの為にもしっかりカメラに収めとくから!」
動けない村長に代わり、夫人が一番前の席でビデオカメラを回している姿が非常に目立つ。
「はは・・・大変有り難い・・・・・・(隣にキツキツで座っている局長が可哀想だ・・・)」
「・・・・・・でして、私アスパラードは彼がよもやこのような形で結ばれるとは思いもせず、正直なんとお祝いすれば良いのか・・・・・・」
アスパラードの話が長い。
急な事だったから無理も無いが、内容が助長。
できれば推敲を重ねた上で簡潔に喋って欲しかった。
最も、意外にも5分程度ですぐに終わったが。
「新郎ガルクシア、新婦ガールード。あなた方はこの先・・・」
この一秒一秒が、非常に長ったらしい時間に思えてくる。
落ち着きが無いと言われればそれまでだが、何も婚約を結ぶのにこんな大々的な式を挙げる必要があるのか?
思い返せば、軍にいた頃は職務に忠実すぎるために私用を疎かにすることも多かった。
故に、俗世の流行にも些か疎い。
人生で初めての結婚式だが、一般世間でも大方こんなものなのだろう。
あるいは、ヴェルモンドの手際が珍しく悪いだけなのかも知れないが。
「・・・・・・あなた方二人は、永遠の愛を誓いますか?」
「「誓います」」
「・・・では、愛の証たる婚約指輪を持ち合わせていないため、一個飛ばしで誓いの口付けに」
「・・・え?」
ガルクシアの思考が一瞬停止。
口付け、つまり接吻。
別に夫婦の間なら恥ずかしくも何とも無いのだが、それを観衆の前に晒すとなれば話は別。
大多数の前で接吻など死ぬほど恥ずかしい、生き地獄に他ならない。
「・・・・・・新郎、早く口付けを(何やってんだよガルクシア!早くキスしちまえよ!!)」
小声で急かすヴェルモンド。
ここへ来て一段と高まる緊張。
しかし、一歩踏み出さねば男ではない。
ヴェルモンドに背中を押されような睨みを効かされ、ついに下した決断は。
「!?」
ようやく、二人の間で口付けが。
だが、それは最早接吻などではない。
ディープキス。
ガルクシアはどうにか積極的に行こうと悩み抜いた末、緊張で気持ちが高ぶり暴走。
勢いでガールードと熱い抱擁を交わし、濃厚な絡み合いを公衆の面前で披露してしまった。
彼女もさすがに女性らしく恥らったが、実のところ満更でも無い様だった。
「何やってんだよ、もぉ~!仮にも神聖な儀式だぞ!?」
ザードはあまりの恥ずかしさに目を覆う。
「神よ、こんな破廉恥な誓いでもあなたは祝福してくれるのですか・・・・・・!?」
唖然とするヴェルモンド。
アスパラードはこの時、メルードがいなくて良かったと本音を漏らしたという。
そんな彼らをよそに、二人の熱愛ぶりをギャラリーが囃し立てる。
「おお~~~っっ!!?」
「あんれまぁ・・・・・・!」
「最近の若いモンは熱々じゃのぉ!いいぞ、もっとやれ!!」
「婆さんとの“ふぁーすときす”を思い出すわい・・・」
「はっはっは、気の強いガールードにお似合いの夫じゃないか・・・・・・やるな、彼も!」
「村長夫人、そう言えばあんたの結婚式ん時も・・・」
「ええ、主人と口付けを交わしたときは丁度こんな感じでしたわ。きゃっ、お恥ずかしい・・・♥」
「・・・・・・・・・・・」
異様な盛り上がりを保ったまま、結婚式は重要な行程に入る。
花嫁のブーケトス。
何を起源とするかは知らないが、ウェディングブーケをキャッチした女性は必ず結ばれるという言い伝えだけは知っている。
彼に言わせれば、根拠が無い。
年食った老婆たちには関係の無い事だと思っていたが、甘かった。
彼女らは花嫁の前に密集し、異常な目つきで虎視眈々とブーケに狙いを定める。
ガールードによってブーケが放り投げられた瞬間、老婆たちはハイエナの如くそれに群がった。
誰が手にしたのかは覚えていないが、何故か村長夫人が特に頑張っていた気がする。
(旦那と別れる気か?)
後で郵便局長に尋ねると、あの熱い抱擁と口付けを見て若い頃を思い出したのだという。
本当に、老いてなお盛ん。
興奮冷めやらぬうち、結婚式は遂にお開きを迎えた。
何だかんだと仲睦まじく共に過ごした、気の合う同僚たち。
気さくで人柄の良い村人たち。
自分へ、あの運命の手紙を渡してくれた郵便局長。
結婚式で色々と世話をしてくれた村長夫人。
多くの人々との別れを惜しむ中、二人はノイスラート卿らと共に宇宙船へ乗り込み、出発。
まだ砲撃を受けているのか、少し揺れる。
村があっと言う間に米粒サイズに縮み、遥か遠くに見える。
成層圏を抜けると、地平線の見え方がいつもと違う事に気づいた。
星は、丸かった。
今まで自分の住む星の形など映像で見たり、スペースシャトルに搭乗した宇宙飛行士の話で聞ける程度だった。
子供の頃、いつか月から星を見てみたいと願っていた自分。
それが今や、あまりにも簡単に叶った。
万が一この星に戻ることがあっても、絶対に話はしないでおこうと思う。
彼らの夢を砕きかねないから。
さらば、我が故郷。
さらば、腐った国家ども。
そして安らかに眠れ、亡き友よ。