「・・・・・・・・・本当にこれが戦艦なのか?」
「まだ言ってる。だから、これはれっきとした宇宙戦艦!いい加減慣れて欲しいわ」
外側が宇宙用強化ガラス張りの艦内通路を歩く途中、未だ知識が不足するガルクシアにガールードが一生懸命叩き込む。
宇宙空間で優雅に佇むプラチナインフェルノ級、コールサイン「ギャラクティカベース」。
銀河戦士団の拠点が置かれた、宇宙で最も巨大な“超”巨大戦艦。
内部の容量も丁度ガルクシアの祖国一つが余裕で収まってしまう程の広大さ。
施設は司令部や戦艦・宇宙船用の格納庫だけに留まらず、居住空間を意識した設計も成されている。
彼女いわく「住み心地は最高だけど地上には劣る」。
それもそうだろう、いかに快適な居住空間でも地上の自然や景色の美しさに負けるのは当然の事だと返した。
無論、今後の住み場所を考えた上での意見。
それを彼女が意識しているかどうかは定かではない。
「なるほど、拠点を置くのも頷ける」
「これでも現存の戦艦じゃ弱い方なのよ。図体だけでかくて、肝心の船体装備が充実していない」
味方としてはかなり酷い言い方だが、後に彼女の指摘が正しかった事をこの艦は思い知らされる事になる。
「だが、防御力だけなら天下一品だと・・・・・・・」
「勿論。けど、敵の新兵器デスディスクの大群に襲われたらひとたまりも無い」
「ですでぃすくぅ?何だその語呂の悪そうな」
単語の奇妙な組み合わせに首を傾げるガルクシア。
が、この言葉を聞くのは初めてではない。
どうせならデストロイヤーなんて名前にすれば良いだろうと口に出したが、センスが無いと一蹴された。
「デスディスクは円盤タイプの飛行兵器。円盤の癖に図体はでかいし火力も高い。10機いるだけで艦の5分の1は被害を免れない」
「そんなに恐ろしいのか・・・それで、さっき・・・・・・」
事は数分前に遡る。
散策の一環で、軍事兵器の開発エリアを通過したときに耳へと入った、廊下の端に居た研究員たちの会話。
片や口調は荒々しげで、何やら言い争っている様子だった。
「何?また失敗したのか!!」
「ああ・・・供給炉の暴走で研究所丸ごと蒸発したんだとよ・・・」
「やはり、ここで実験しなかったのは正解だな。それこそ艦の一部がまるごと消滅しかねない」
「もう無理だろ、どんな物質も3分で溶解させる熱線兵器なんて・・・」
「何を言うんだ!ゴルドライトの装甲で守られたデスディスクに対抗できる手段は、もうコレしか無いんだぞ!?」
「向こうだって、あのデスディスクすら上回るもっと巨大な兵器を作ろうとしてるんだぞ!?こっちも現実的な手段で対策を講じるべきだ!」
「無理だ!!現存の攻撃兵器でデスディスクの装甲を破壊できるのはごく僅か、やはり!!」
「しかし!!」
あの話を聞く限りでは敵のデスディスク、相当の脅威らしい。
研究員同士の会話にも焦りの色が伺える。
どうやら銀河戦士団も人の子、完全無欠の集団という訳では無いようだ。
少し落胆したものの、それこそ妥当な現実だろうと受け止めた。
どんなに重い鎧で身を固めたとしても、敵は必ず僅かな隙間を突いて倒そうとする。
敵にも当てはまれば味方にも当てはまる、極当たり前の事。
「そう。例の重力波干渉砲さえ完成すれば飛行兵器はおろか、要塞も心臓部を貫けば一発で粉々にできる」
意識を現在に戻し、ガールードの言葉に聞き耳を立てる。
あの光線兵器の、要塞すらも破壊可能という衝撃の事実。
「・・・・・・凄い・・・・・・」
ガルクシアはつくづく、彼らだけは絶対敵に回したくないと心の中で呟いた。
正義の刃が何らかの間違いで、罪も無き民間人へ向けられた場合に起きるであろう惨劇。
彼らは果たして理解しているのか。
いや、理解しているはずだろう。
平和を愛する組織がそんな馬鹿げた間違いを犯すことなど、在りえないのだから。
「ところで、Pインフェルノ級とあったが、まだ何かあるのか?」
未知なる技術への興味が湧く中、ふと気になる点を彼女に質問する。
この戦艦がPインフェルノ級に分類されるという事は、他にも種類があるという事なのか?
「ええ、銀河戦士団の戦艦はこれだけじゃ留まらない。大きさや形状、用途を厳密に区別するとかなり多いわ」
「まず、局地攻撃特化型ではトップがR(レッド)インフェルノ級、次にジェノサイド級、オーバーキル級、デストロイ級、バイオハザード級と続く」
局地攻撃特化型。
いわゆる「切り込み隊長」の如く先陣を切り、敵中枢の撃破による戦争早期終結を目的とした艦艇。
高い攻撃力から戦士団の主力戦艦として重宝される反面、武装面でのコストが嵩み保持数は少ない。
「特にジェノサイド級は星一個破壊できる「惑星破壊砲」を搭載しているけれど、フルチャージ後の動作は保障されてない。要は欠陥品よ。
さっきの重力波干渉砲も安全性が確認され次第、Rインフェルノ級改で試運転を行うらしいわ」
「改?」
「今度改良系が設計される事になっているの。オールマイティー級の試作機みたいなものよ、後で説明するわ」
「広域殲滅特化型ではサンシャイン級、サターン級、マーズ級、ジュピター級、アース級、Y(イエロー)インフェルノ級」
広域殲滅特化型。
戦艦ではなく、それらより小さい飛行艇や魔獣の全滅を目的とした艦艇。
武装面では制圧射撃用の砲塔が無数に配備されている。
これは敵艦隊に対抗すると言うよりも、艦内に乗り込まれた際に起こりうる白兵戦の負担を軽くする為の意味合いが大きい。
「宇宙空母型ではマザー級、セントラル級、コア級、ギガンティック級、ナース級、B(ブルー)インフェルノ級」
宇宙空母型。
その名が示す通り、銀河戦士団の艦隊の拠点として活躍する巨大空母。
ギャラクティカベース以外の支部も空母型に置かれる事が多い。
最近では宇宙要塞との定義の境界線が曖昧のようで、この区分は近く撤廃される見込みらしい。
「偵察型ではMGBD(メガバデ)級、MKZN(マキゾノ)級、KRST(カートス)級、BKSD(ベケスド)級、NKIT(ヌチト)級、ITNH(イトンフ)級。個人的にあんまり好きじゃない」
偵察型。
主に敵勢力の調査、該当宙域の巡回を目的とした巡航艦。
しかし、ネーミングセンスに妙な違和感を覚えたのは気のせいだろうか?
「防衛特化型では、このP(プラチナ)インフェルノ級、ガーディアン級、パラディン級、ナイト級」
防衛特化型。
防御面に不安のある攻撃タイプの艦を補佐するために建造された艦艇。
光学式シールドを展開することで敵の攻撃を防ぎ、敵を撹乱させる妨害電波の発信で自滅を誘い、自陣の被害を最小限に食い留める。
「そして・・・・・・」
「そして?」
「この全ての特徴を兼ね備え、更に上を行くオールマイティー級と言われるのが、“ハルバード級”とも言われる現在開発中“宇宙戦艦ハルバード”」
オールマイティー級。
銀河戦士団対ナイトメア軍との戦いにおいて、状況打破を最も期待されるたった一つの希望。
「・・・・・・他だけでも十分凄そうなのに、それらを更に凌駕・・・・・・」
「どうしたの?」
「はは、は・・・・・・・・・こうして話を聞くと、俺の国なんかちっぽけに見えてくる」
「そんな事は無いわ。あの星の中ではトップクラスの技術力、そこはあの星に生まれ育った者として誇るべきでは無くて?」
「確かにそうだが・・・・・・オールマイティー型とか、もしも敵に回したら勝てそうにない・・・・・・」
「・・・まあ、実の所は未だ設計図の段階までしか達していない。将来的には想定した武装や機能が省かれる予定らしくて・・・」
「・・・慰めになってない」
数時間後、二人はギャラクティカベースの司令室を訪れた。
ガルクシアが銀河戦士団リーダー、オーサー卿に挨拶するためだ。
室内へ入るや否や、黄金色の甲冑を身につけた剣士がこちらを向いた。
「お待ちしていた、新たなる同胞ガルクシア殿」
その男は見るからに格の違う風貌を漂わせていた。
恐らく、彼こそが当のオーサー卿なのだろう。
互いに握手を交わすと、間髪入れずにある話題を切り出す。
「事情はノイスラート卿を通じ、ガールードから聞かせてもらった。我々がいる限りナイトメアの思い通りにはさせない」
「それは有難いが、オーサー卿。失礼だが小耳に挟んだ話では、貴官らが置かれている状況は決して芳しくないと聞くが?」
「そうか、既に知られていたか。お恥ずかしい」
オーサー卿は一呼吸置き、話を続ける。
「仰るとおり、ナイトメア軍に対する我々の戦況は予想以上に思わしくない。
なぜなら奴らの首領、ナイトメアは無限に魔獣を生み出す能力を有している。旧時代の禁忌と呼ばれる、魔獣創造の術を身に付けたことで」
「旧時代?」
「我々ですら把握しきれていない、未知なる古代の時代。ともかく、奴らの暴力的なまでの圧倒的物量攻撃は全てを呑み込む。
今こそ敵の攻撃も決して激しくは無い。しかし、ナイトメア軍が本気を出せば銀河戦士団はひとたまりもない。
八方塞の状況に立たされる前に、何としても“力”を得なければならない。
既に一つ潰えた。
残る一つは伝説のエアライドマシン、一つはオールマイティー級ハルバード・・・・・・」
「“力”・・・・・・か。俺たちのような猛者がいても不満だと言うのか?」
「ヤミカゲ!!」
見れば司令室の出入り口に、黒い忍者装束の男が立っていた。
真紅の鋭い目つきが不気味に思える。
「銀河戦士団も懲りないのだな、あのような大失態を引き起こしてもなお・・・・・・」
「大失態?」
その疑問は直ぐ、オーサー卿の威圧感溢れる言葉に押し潰された。
「ヤミカゲ。それは戦士団の機密事項だ、部外者に口外するものではない」
「ふっ、例の事件を隠蔽するつもりか?正義の味方が聞いて呆れる」
「黙れヤミカゲ!!!!」
先程までの落ち着いた、しかし威厳に満ちた口調からは想像も出来ない怒号。
周りの下級兵士たちも驚き、思わず飛び上がった。
「・・・・・・“あれ”は些細な間違いが引き起こした、史上最悪の悲劇だ。我々はこの恥ずべき失敗から学び取り、教訓を未来へ活かさなければならない!」
口だけなら何とでも言えるさ、と嘲笑するヤミカゲ。
愛想を尽かしたかのように軽々と背を向け、司令室から出ようとする。
「・・・・・・お前が例のガルクシアか?」
「そうだが、何か?」
「銀河戦士団の女と結婚したのが運のツキだな。平穏な暮らしを求めるなら、今に泣きを見るぞ」
それだけ言うと、司令室を後にする。
どういう意味かは分からないが、非常に失礼な事を言われた気がする事だけは理解していた。
「・・・・・・彼は戦士団の中でも、かなりの変わり者だ。彼の無礼は私から詫びたい」
「話を聞くに、相当ワケ有のようだな。俺は本当にこの組織を信頼しても良いのか?」
「・・・気持ちは分からなくも無い」
「しかし、同じ過ちを二度と繰り返したく無い。それだけは理解していただきたい」
オーサー卿はただ、その一言で弁解するのみだった。
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「しかし、これからどうする?ずっとここに住み続けるのも失礼だろう」
司令室を後にした二人。
当面の問題は居住地だ。
出来ることなら人目につくような場所は避けたい。
「・・・丁度私も引っ越そうと考えていたの、貴方はどんな所に住みたい?」
「・・・どこでも構わん。ただ、俺も追われている身だ、出来れば森の中で隠居生活をしたい」
人里離れた土地での新生活。
下手すれば建築資材の運送も不可能。
一からマイホームを築き上げる事も覚悟の上だったが、次にガールードが放った発言に驚愕せざるを得なかった。
「分かったわ。私の友人に頼んで直ぐに屋敷ごと移動させる」
「・・・・・・え?・・・・・」
「言ったでしょう?鼻にかけるつもりは無いけど、私は名門ガールード家の当主。これぐらい安い物よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!」
開いた口が塞がらなかったのは言うまでも無い。
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