section8

 

 

 

 
 
 
 
夜を迎えたププビレッジの時刻は、すでに深夜を回っていた。
村の明かりは殆ど消され、辺りは暗闇でよく見えない。
そんな中、やや怯えるように歩く二人の子供がいた。
リーロとシック。
すっかりブンに嫌われたと思い込んでいた二人は、何とかご機嫌を取ろうとある事を思いついた。
 
 
「姉さまぁ、なんたってこんな真夜中に?」
「前にお姉さまから聞いた事あるの。ポップスターの大盗賊「ドン・シーディット」の言い伝えを」
 
 
ドン・シーディット。
言うなれば地上版キャプテン・キックとも言うべき伝説の盗賊。
虎を相棒に引き連れ、各地から幾多もの財宝を奪い取ったとされる、盗賊たちのカリスマ的存在。
しかし年を重ねるにつれ老いを感じ、遂には引退を決意。
キャプテン・キックと同じく、今まで溜め込んだ財宝をこのプププランドの何処かに隠したのだと言い伝えられている。
 
 
「でも姉さま、金品でご機嫌をとるみたいなやり方はちょっと・・・・・・」
「・・・シーディットが隠した財宝の中には、世にも不思議な道具が紛れ込んでいたと言われるの」
「世にも不思議な・・・・・・?」
 
 
「使った者の美しさを引き立てる、魔法の粉」
 
 
「・・・・・・あのさぁ、姉さま。そんなの市販の化粧品で十分じゃん」
「けど魔法の粉は違う。これを自分に振り掛ければ、どんなに鈍感な男の人でも振り向かずにはいられないほどの魅力を発する事が出来るの」
「あの、それって兄さまの事を馬鹿にしてるんじゃ・・・」
「そんな事ない!お兄ちゃんはボクの気持ちに気づいていないだけ!」
「それを鈍感って言うんじゃ・・・?」
 
 
シーディットの財宝の在りかは以前フームの話で既に分かっていた。
たった二人で行くのかと問い詰められたが、うまくごまかす事で怪しまれずに済んだ。
そして夜、魔法の粉を手に入れるべく二人は城を抜け出し、宝探しを敢行。
夜は昼間に比べると幾分か居心地は良かったが、何しろ周囲は暗闇だ。
出来れば長い時間居たくは無かったが、今回だけは例外。
兄を振り向かせるためなら、といくリーロの執念が自分自身を突き動かした。
シックも彼女の意見には少なからず同意したが、時間切れというリスクを冒してまで決行する気にはなれなかった。
 
 
「・・・・・・本当に大丈夫かよ?もし夜明けまでに見つからなかったら、俺たち・・・」
「心配いらない。ちゃんと地図も持っているし、きっと見つかる!」
「・・・怖がりだからって一目散に逃げ出さないでよ?姉さまの一番悪い癖なんだから」
「・・・・・・多分、大丈夫」
「・・・・・・」
 
 
 
目的の森に到着し、懐中電灯を手に森の中を探索し始める。
道に迷ったときのためにコンパスを持ってきた甲斐もあり、迷うことなく地図上に標された目印の場所を発見。
そこは森を抜け出してすぐ、墓石が無造作に立ち並ぶ墓地だった。
かつて村で肝試しなるものが開催された際、ゴール地点として設定された場所。
言い伝えによれば、シーディットは自分の墓の下に巨大な祠を作り、己と相棒の亡骸と財宝をそこに隠すよう部下に命令したという。
 
 
だが、二人にはシーディットの墓がどのような形をしているか分からないため、墓石を手当たり次第動かさなければならない。
つまり、墓荒らし。
安らかな眠りについた人々に申し訳ないと思いつつ、一つ一つ丁寧に墓石を動かす。
入り口らしきものは無く、在るのは白骨化した屍だけ。
リーロはその屍を見るたびに驚いては逃げ出し、時には気絶する事もあった。
その度シックが呼びかけで起こすのだが、きりが無い。
墓石も相当な重さがあり、ひとりで押すには酷な物だった。
 
 
一時間後、シックはある墓石に違和感を覚えた。
手で押した時、他の墓石とは明らかに違う手応え。
もしかしたら、この墓こそが。
期待を込め、か弱い力で一生懸命墓石を押すシック。
動かした跡には、蓋らしき石の板。
 
 
「姉さま!!見つけたよ、シーディットの墓!!!」
 
 
駆けつけたリーロと共に板の取っ手を持ち上げ、横にどかす。
覗かせたのは一本の古びた鉄梯子。
間違いない、これこそがシーディットの祠だ。
錆付いた足掛けの部分を慎重に下り、下方へ降りていく。
地面に足がついた所は暗い小部屋で、後方には鉄製の扉が閉ざされていた。
何故か壁に人が通れるほどの穴が開いていたのが気になる。
空気の流れを感じる辺り地上へ通じているようだが、どういう事か不気味に変色していた。
もしや、魔獣?
不安を感じつつ力いっぱい扉を前に開くと、そこには目も眩む光景が広がっていた。
 
 
「「すごい・・・・・・!!!」」
 
 
一面に散らばる宝物。
想像もできない値が付けられそうな宝石。
年代モノのワイン、骨董品、剣、盾。
シーディットが如何に世界を股にかけて活躍したかが伺えるものばかりだった。
 
「ワインはさすがに腐ってそうだよな・・・多分・・・・・・」
「それより魔法の粉を探しましょ!他はそっとしておいた方がシーディットさんのためよ」
 
しかし、墓探しで体力を消耗していた二人は少し休みたかった。
壁に背をもたれ大量の財宝を眺めていた時、奥で黒い影が動いているのを確認できた。
もしや、シーディットの亡霊?
おそるおそる忍び寄り、影の正体を探ろうとする。
その姿を捉えたとき、二人は反射的に少し驚いた。
 
 
「ひっ!?あの姿って・・・・・・・・・」
 
 
黒くて丸い形に、牛の頭蓋骨を被り、怪しげなマントを垂らす、奇抜な格好。
マントの角には大きな爪が取り付けられ、両手の役割を果たしていた。
その爪には古ぼけた一冊の分厚い本が携えられていた。
あのダークマターと同じ種族なのだろうか。
謎の人物はリーロたちの存在に気づき、慌てて何かを隠すように振り向いた。
 
「やっと 見つけた 魔法の 粉・・・・・・!? お前たち 誰?」
「あんたさぁ、今「魔法の粉」って言わなかった?」
 
「!! 先に 見つけた 俺 ネクロスマター! 研究に 必要 お前たちに 渡すものか!」
ネクロスマターと名乗るダークマターの男は爪を立てて威嚇する。
譲ってくれる意思は皆無だ。
だが、こちらも引き下がるわけにはいかない。
 
「ダメ!お兄ちゃんと仲直りするためにどうしても必要なの!」
「・・・・・・じゃあ 取引だ」
「取引?でも俺たち何にも持ってないけど・・・・・・」
「違う 俺 欲しいのは・・・」
 
 
 
「お前の 体」
 
 
 
爪先をシックに向け、本を開くと怪しげな呪文を唱え始めた。
直後、サッカーボールほどの大きさを持つ禍々しい色のエネルギー体が出現、シックめがけて飛来した。
 
「うわぁっ!?」
 
間一髪で避けたが、壁に着弾した痕を見て愕然とする。
石材が無残に溶かされ、徐々に醜い色となって液状に広がっていく。
人がまともに直撃していたらどうなっていたか。
 
「人体実験に 必要 でも 原型のまま 駄目 液体に して 持って 帰る!!」
 
ネクロスの瞳には明らかな殺意が宿っていた。
このまま此処にいたら、殺される。
リーロの安全も保障されるとは限らない、騙されて結局あの壁と同じ存在に成り果てるかもしれない。
 
「逃げよう、姉さま!こいつヤバ過ぎだよ!!」
「え、ええ・・・・・・・・・!」
 
あと一歩で魔法の粉が手に入ろうとしたが、それが妹の命と引き換えだと知った途端リーロの気持ちが変わった。
魔法の粉なんていらない。
ブンに振り向いてもらえるよう、自分で努力して手に入れる方がよほど価値がある。
問題は、あの魔術師から逃げ切れるかどうか。
空を飛ぶという事は、梯子を上っている間に追いつかれてしまう可能性が高い。
上手く扉を閉め切ったとしても、あの攻撃では扉も一時しのぎに過ぎない。
 
ふと、シックの脳裏に疑問が浮かんだ。
何故ネクロスマターは入り口を使わずに祠を見つける事が出来たのか?
まさか、地中を掘り進んで此処まで来たのか?
だとすればあの穴が開いていたのも納得がいく。
もう本来の入り口は明らか。
ネクロスマターは迷わずそちらから後を追う事だろう。
 
「変態め、これでもくらえっ!!」
 
床に散乱した宝物を手当たり次第持ち上げ、ネクロスマターめがけて放り投げる。
そのうちの大きな宝箱が脳天に直撃したか、その場にうずくまって動かない。
 
「姉さま、今のうちに!」
 
二人は祠を後にし、鉄の扉を出来るだけ堅く閉ざした。
シックが例の穴を指差す。
 
「多分あいつが掘ったんだ!ここから脱出して、あいつの目を欺くんだ!」
「でも、服がこれ以上汚れるのは・・・」
「何言ってるんだよ!今は自分の命が大事だろ!?」
 
土で服が汚れるのをためらっていた。
そんな頼りない姉を尻目に、シックは小さなトンネルの奥へ潜って行った。
 
「ま、待ってよシック!ボクだけ置いて行くなんてひどい!」
 
決意を固めたのか、躊躇することなくシックの後へ続く。
 
 
 
 
 
 
それから数秒後、鉄の扉に何かが直撃し、禍々しく変色しながら徐々に融解した。
 
「どこだ!あの娘どもは一体どこへ逃げ遂せた!!」
 
怒り心頭のネクロスマターは我を忘れ、言葉が流暢になった。
天井を見やると、鉄梯子の先に夜空が垣間見える。
 
「逃げ足の速い姉妹だ。しかし俺から逃げ切れると・・・・・・!?」
 
だが、不思議な事に夜空は見る見るうちに明るさを取り戻す。
そのスピードは明らかに異常だった。
こんな事は超常現象でも有り得ない、人為的に仕組まれたものだ。
 
「何だ、一体・・・・・・?」
 
墓穴から地上に飛び出すネクロスマター。
空を見上げ、怪奇現象の主の姿を目の当たりにした。
 
 
 
「・・・・・あの馬鹿でかい鉄の塊は何だ・・・・・・!?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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「しかし、本当に狭いなぁ・・・・・・」
 
人一人分の幅しかないトンネルを這い上がり、地上を目指す双子。
逃走から20分が経過しており、恐らく墓場から離れているのだと気づいた。
後方ではリーロが文句ばかり漏らす。
 
 
「早く行ってぇ・・・狭いし暗くて何も見えないし、怖いよぉ・・・・・・」
「姉さま、しっかりして!もう少しで地上に出るはずだから!」
 
 
極度の怖がりである姉とはやや対照的なシック。
一般によく見られる兄弟像とは異なり、リードしているのは妹の方だった。
頼りない性格の姉をいつも傍でフォロー。
今回もそれは同じであり、事あるごとに怖がり怯えるリーロを支えてきた。
妹の前では年上らしく振舞って欲しいと切に願うシックだが、果たして何時の事になるのか。
 
 
やがて前方に見える、一筋の光。
夜明けにしては早すぎると思ったが、出口はもうすぐだった。
最後の縦穴をよじ登り、地上に出る。
 
 
 
 
「・・・・・・嘘!」
 
 
 
驚愕するシック。
運の悪い事に、トンネルの出口は日陰の無い広場。
しかも夜明けとは思えない日差しの強さ。
まるで砂漠の中心に放り出されたような気温。
自分たちにとって体に毒だ、早く救出しなくては。
 
「姉さま、早く出て!太陽が!!」
「そんな・・・・・・!!」
 
シックの手に導かれ、ようやくリーロもトンネルから身を脱す。
しかし、この間に照りつける日光は容赦なくシックの体を蝕んでいた。
 
 
 
 
 
「と、とりあえず・・・・・・あの木陰に急いで避難・・・しない・・・と・・・・・・」
 
 
 
 
皮膚の痛みだけでなく、異常なほどの暑さで意識はもうろうとしていた。
ふらりと倒れたシックの体を支え、命からがら木陰へ逃れた。
 
 
 
「どうして、こんな・・・・・・?」
「どうして、だろう・・・・・・?」
 
影の中に避難しても、今度は地面から発せられる熱気が、身を寄せ合う二人の意識を蝕む。
屋外にいる限りは紫外線を完全に防ぐ手段も無い。
体中に激痛が走り、皮膚が焦がされるような辛い感覚が体力と気力を徐々に奪っていく。
このままではお互い力尽き、死に至る可能性が高い。
 
「誰か・・・・・・助けて・・・・・・!!」
「・・・お願い・・・・・・!」
 
 
 
 
 
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「陛下!!!ありゃあ何でゲスかぁ!?」
 
デデデ城では異常気象の原因が、目に見えて明確なものとなっていた。
遥か上方の高度に浮かぶ、巨大な衛星。
 
「でっかいヒマワリだぞい!!」
「いや、あれはヒマワリじゃなくて人工太陽でゲスよ!!」
 
ヒマワリを模した形状のそれは、機体の下方から強烈な光を照射し続ける。
あまりにも光が強すぎるため、先程まで真夜中だったププビレッジは昼間同然の明るさ。
朝が来たと思い込んだデデデや村人たちは空を見上げ、驚愕していた。
 
「ワシは人工太陽なんて注文した覚えは無いぞい!エヌゼット君に文句言ってやるぞい!!」
 
 
 
 
一方、フームはこれとは別の事に驚いていた。
 
「何ですって!!リーロとシックが!?」
「俺はてっきり大人しく寝てるもんだとばかり思ってたよ!それであの滅茶苦茶な衛星現れたから急いで起こしに行ったら・・・・・・」
 
双子のために貸し出した一室は、既にもぬけの殻。
昨夜は何故か一緒に寝ることを拒まれたため、ブンは仕方なく自分の部屋で眠りについていた。
 
「そういえば私の机の引き出しから、コンパスが盗まれていたの!もしかしてあの子たち・・・・・・!!」
「こないだ姉ちゃんが宝の話をしたから、こっそり探しに行っちまったんだ!!」
「何てこと・・・・・・!」
 
ブンは大いに心当たりがあった。
以前姉がシーディットの話を伝え聞かせた時、「魔法の粉」の話にやけに食いついていた。
そして今回、自分が招いた誤解が原因で「自分に嫌われた」と思い込んでしまった双子。
そう、彼女らはブンを振り向かせようと魔法の粉を求めていたのだ。
 
「俺のせいだ!俺が無神経で、何も考えずに酷いこと言ったから・・・・・・!!」
「自分を責めるのは後にして!今はあの子たちを探すのが先よ!!」
 
紫外線対策を施し、いざ外へ出ようとしたときだった。
二人の前にメタナイトが立ち塞がる。
 
「フーム!この暑さではあの双子も長くは持たん!ワープスターを呼び、太陽衛星の主を討ち取るのだ!!」
「分かった!!」
 
 
 
 
 
 
来て、ワープスター!!!!
 
 
 
 
 
少女の叫びが、空に響く。
 
 
 
 
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