section9

 

 

 
 
 
 
BBB幹部の追撃を逃れたダークトリオとバームは、無事に帰りのシャトルに乗ることに成功。
シャトル内で過ごす時間を何度も煩わしく思ったが、それで早く到着する訳でもない。
そのうちリムルとリムロは眠りにつき、起きているのは隣同士のバームとリムラだけだった。
 
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 
リムラは露骨に嫌がる素振りも無く、黙って視線を前の座席に集中させていた。
険悪な雰囲気の中、真剣に悩み事をしている様子のバーム。
今後自分が歩むべき道について、本気で悩んでいた。
家族を選ぶか、仕事を選ぶか。
確かに家族こそかけがえの無いものだが、今まで築き上げてきた栄光を失うのも惜しい。
果たして、どのような決断を下すつもりなのか。
 
 
「・・・・・・・・・リムラ君と言ったか?」
「あ?」
 
 
バームが重い口を開く。
リムラは特に期待をしていない顔で応対する。
 
 
「この一件が無事に済んだら、私は今の職を辞する。妻に付きっ切りで看病するし、娘たちと昔以上に沢山触れ合いたい」
 
 
それが彼の答えだった。
 
「・・・・・・おいおい。あんた、それで家族養ってきたんだろ?給料入んなくなったら元も子も無いぜ?」
「いや、これで良いんだ。私は自分の功績に自惚れ、高みを目指すあまり、君の言う通り家族との関係を疎かにしてしまった」
「・・・よせやい、あれはあくまで俺の視点だ。感極まって糞親父とかぬかしちまったけど、俺たちの総意でも何でもねぇよ」
「そんな事は無い。・・・・・・私は一からIBデパートの従業員としてやり直すよ。今の自分を見つめなおすために」
「・・・それも良いかもな。原点回帰は良い事だ」
「・・・・・・今からでも、まだ間に合うか?」
 
 
 
 
「俺は知らんよ。後はぜーんぶ、あんた次第だ。その先に待つ結果が良かれ悪かれであろうと、な」
 
 
 
 
それきり黙り込み、何も話さなくなった。
自分の未来は自分で切り開け。
彼はそう言いたかったのだろうと、バームは一人思った。
 
 
 
やがてシャトルはアイスバーグに到着。
空港を出た一同は急いでバーム家へ直行。
見てくれはどこにでもある一軒家で、不自然な切れ目から後に2階部分が増設されているのが分かった。
鍵は施錠されたままで、不審者が侵入していないことを確認し、家に上がった。
 
「確か、私の工具はリビングの何処かに・・・・・・あった!!」
 
無造作に散らばった衣服や生活用品の中に工具箱が紛れていた。
どうやらこの男、当日よほど慌てて準備に追われていたらしく、部屋の中が非常に汚い。
 
「よっし!!早くビット直してくれよ!」
「待つんだ、これは傷が深い。修理にはどうしても少し時間が・・・」
 
手馴れた手つきで工具を扱い、目にも止まらぬ速さで日傘型ビットの修理に取り掛かった。
これほどの手さばきで時間をかけてしまうのが不思議なくらいだ。
待ち時間を利用し、リムラは床に置かれたテレビのリモコンスイッチを入れる。
この時間帯、本来はバラエティー番組が大部分を占めているはずなのに、チャンネルを変えても緊急報道番組ばかり。
しかも異常な事に、そのどれもがとある同じ内容を伝えていた。
その内容とは、彼らが最も恐れていた事態。
 
 
 
『現在、ポップスターのプププランド方面へ謎の人工衛星が接近中で・・・・・』
 
 
 
あるチャンネルではこの星の人工衛星による生中継が行われ、謎の大型衛星の姿を映していた。
向日葵を模した形状の機体下方に光る巨大なレンズ。
間違いない、デスダンデリオンだ。
 
『アイスバーグ宇宙センターの見解では、あと4・5時間後にプププランド上空へ到達するものと見られており・・・・・・・』
 
4・5時間?
何と言うことだ。
たった今ビットが直ったとして駅に急いで、うまくプププランド行きの列車に乗れたとしても、着く前にはもうデスダンデリオンが活動を始めている。
果たして間に合うのか。
 
「やべぇぞ、おっさん!!まだ直んねぇのか!?」
「もう少しだ!!この回線さえどうにかすれば・・・・・・・・・・・うむ、直った!!!」
 
完全に修復された日傘型ビットを2つ、誇らしげに掲げるバーム。
だが、達成感を味わう暇は無い。
これを今すぐプププランドに運び、双子の下へ駆けつけなければならない。
 
「行くぞ、テメェら!!」
「リムラ、この時刻表を見ろ!」
「今すぐ駅に向かいたいんだ俺は!走りながらにしてくれ、リムル!!」
 
すぐに家を飛び出し、施錠した事を確認すると全速力で駅へと向かった。
 
「分かった、じゃあ走りながら言うぜ!今日は祝日で、主要駅以外の全ての駅を通過する特別列車が出ているんだ!!」
「何!?そいつぁ何時間ぐらいでプププランドに着くんだ!」
「聞いて驚け、4時間足らずだ!!」
「駄目じゃねーか!!ギリギリだろ!」
「けどニュースじゃ4・5時間って言ってたんだぜ?普通列車よかずっとマシだ!!」
「リムル君の言う通りだ!恐らく娘たちが乗っていたであろう列車より、格段に早い!!」
「切符は!?」
「じゃあ俺が先に買ってくる!!」
「頼むぜ!!」
 
リムロが前に出、一足先に駅へ向かう。
その後、難なく切符の購入に成功し、遅れて来たリムラたちと合流。
 
「やっべぇ、出ちまうぞ!!」
 
特別列車は今まさに出発せんとしている状況で、間一髪でどうにか車内に駆け込んだ。
 
「お~、危ねぇ!」
「何とか間に合った・・・・・・」
「後はプププランドに停車するのを待つだけか・・・・・・」
「さっきから時間が流れていくのを待つばかりだな・・・もうウンザリだぜ・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
 
次々と小規模の駅を通過していく列車。
彼らの思っていた以上に列車の速度は速い。
このまま到着を待ちわびるだけだったが、あと数分でプププランド駅到着、というところで異変が起きた。
 
 
「・・・・・・畜生!!」
 
 
空を見上げ、リムラは悔しさに口を曲げる。
あと一歩及ばず、ついにデスダンデリオンは上空に到着。
予定通り、太陽光の照射を開始したのだ。
強烈な日光と熱波の影響でレールが歪んでしまい、運行がストップ。
列車はその場で立ち往生してしまった。
 
「あともう少しでプププランドだ!こんな所で立ち止まるわけにはいかない!!」
 
乗降口をこじ開け、車外へ飛び出すバーム。
予想以上に気温が上昇し、車内でも日陰でも容赦ない暑さが襲い来る。
 
「無理すんな!娘さんとこに辿りつく前にあんたがくたばっちまうよ!!」
「大丈夫だ!娘のためなら、こんな酷暑など!!」
 
構わずレール沿いに駆け抜け、プププランドへ足を急ぐ。
仕方ないな、といった面持ちでリムラたちも後に続いた。
 
「くそっ!!自販機のクーラーがぶっ壊れてやがる!」
「何やってんだ、リムル!」
「熱中症対策だよ!だのに自販機が使い物になんねぇ!全部温くなってやがる!!」
「構わねぇ、炭酸じゃないやつだけ持って来い!!!」
 
 
 
 
「あっ!バーム叔父様!!」
 
ププビレッジに辿りつくなり、聞きなれた声が遠くから届いた。
トリオもバームも知っている、あの少女の声。
 
「君は、兄の・・・・・・!」
「叔父様、無事だったのね!今カービィが衛星を破壊しに行ってる!!」
「破壊!?空高く飛んでいるというのに、どうやってあそこまで・・・!」
「それよりフーム!!テメェあの双子はどうした!?城にいるんじゃねぇのか!」
「それが・・・・・・・・・!」
 
 
 
 
 
「・・・・・・嘘だろ・・・・・・・!!?」
 
リーロとシックの行方不明。
彼女らの安否を気遣うバームらにとって最悪の一報だった。
 
「ごめんなさい、叔父さん。俺のせいなんです!」
「彼女たちが誤解して、ブンに嫌われたと思い込んでしまったの。それで無茶をして、宝探しなんかに・・・・・・!」
 
真夜中にも関わらず、強烈な明るさが保たれる。
すでにデスダンデリオンが起動開始してから長い時間が経っていた。
二人の命が、危ない。
 
「ビットはもう直った!しかし、場所が・・・・・・」
「あの子たちが何処へ向かったかは検討がついている!急ぎましょう!!」
「それなら話は早い、俺たちのヘビースターの出番だな!!」
 
気づけばもうヘビースターがリムラの傍に停車している。
またしても、この男の周到な準備。
 
 
 
 
 
「さぁ、全員乗っちまいな!!運命のドライブに出発だ!!!」
 
 
 
<<前へ  リストに戻る  次へ>>