カービィには何が起きたのか分からなかった。
外が明るいので目を覚まし、時計を見ると針は深夜の時間を指していた。
慌てて外に飛び出すと、外はまるで真夏の昼間のような明るさ。
トッコリにも何がどうなっているのか全く把握できていない様子だった。
「こいつぁどうなってやがんだ!?もしかして、あのデッケェ機械のせいか!!」
眩しすぎてよく見えないが、遥か上空には巨大な衛星。
明らかに何者かが仕組んだ現象である事に間違いない。
「カービィ、何ボケッとしてんだよ!早くいつものように飛んでくるワープスターに乗って、ぶっ壊しに行っちまえ!!」
「ぽよ?」
時同じくしてデデデ城では、フームがワープスターを呼ぶ号令を掛けた。
それから僅か短時間でカービィの元にワープスターが飛来。
事態の把握もままならなず、一人戦場へ駆り出されるのであった。
道中、遥か下方の森の中に2人の子供の姿が見えた。
もしかしたら誰かが探しているかも知れない。
そう思ったカービィは吸い込みで周りの木々を引き寄せ、吐き出した。
これが彼なりの合図で、ここに探している人が居るという事をアピールしたかったのだ。
後で助かる事を願いつつ、衛星へ向かうカービィ。
ワープスターはぐいぐいと高度を上げていき、ついに大気圏へ突入。
機体上方は光源を持たず、空一面には元の夜空が広がる。
近くの手薄な所から突入し、衛星のメインエンジンを目指す。
しかし、簡単に上手く行くはずも無い。
「ヘイ、ユー!ストッピィィィィィィィィング!!!」
「お前は止まる 俺たちは止まらない」
無駄に明るい性格と、微妙なラップで言葉をつづる、おかしな二人の黒服男に出くわす。
メインエンジンを前にしたカービィの行く手を遮るように立ち塞がる辺り、明確な敵意を感じられた。
「ぽよ!!」
「このデスダンデリオンから退いて欲しいってか、ドントユー?そいつは無理な相談だ」
「ここは通れない どこも通さない」
「いずれ復活するであろう、あのお方の為にもこれだけは譲れないのさ!!」
「リバース リバース」
あのお方。
もしや、BBBの首領の事を指しているのだろうか。
カービィに心当たりがあるとすれば、それしかなかった。
「びぃーびぃーびぃー?」
「ノンノン。あんなチャチな組織と一緒にされちゃ困るぜ!」
「あのお方格違う あのお方と お前たちは 月とスッポン スッポンポン」
「・・・まあ、復活もしてないうちにこんな事言っても今は意味無いんだけどな・・・・・けど備えあればノーサッドネス!!」
男たちは珍妙なポーズを決めると、眩い光に包まれる。
光が収束すると、太陽と月を模した、2体の魔獣がその姿を現した。
「俺はMr.ブライト!!灼熱のソーラーパワーの使い手!!!」
「俺はMr.シャイン 流星の申し子。よく間違われる 俺がブライト こいつがシャインだと でも違う 全然違う」
お互い戦闘態勢に入る。
緊迫した空気の中、先手を切ったのは血の気が多いブライトだった。
「まずはこれでも喰らえ!バーニンシュッ!!」
両手を構えると、大きな火の玉がカービィに狙いを定め、一直線に飛来。
ワープスターの裏面で咄嗟に防御するが、かなり焼け焦げてしまった。
間髪入れず、飛び上がったシャインが完全な三日月の形に変化。
何もない所から突然大量の流れ星が現れ、小粒ながらもカービィを惑わす。
「ぽ、ぽよぉ!?」
「ハッハー!!お前にこのフォーメーション、破れるかな!?」
「破ってみせろ 勝ってみせろ」
余裕の表れ。
この二人は、強敵だった。
____
リーロとシックは、木陰の下で今か今かと助けを待っていた。
紫外線が二人の肌に激痛を与え苦しませ、強い熱波が体の水分を奪っていた。
もう何も認識できないほど意識も遠ざかりかけていた。
「まだ・・・・・・?姉さまたちは、まだなの・・・・・・・?」
「もう少しだから・・・・・・きっと、お兄ちゃんたちが・・・助けに、来てくれる・・・・・・!!」
もうその台詞は何度言い聞かされただろう。
数えていないので分からない、いや、もういちいちカウントするだけの気力も無い。
今はひたすら、生き残ろうと足掻くだけで精一杯だった。
「苦しいよぉ・・・痛いよぉ・・・・・!」
「頑張って・・・!お姉ちゃんが・・・ついて・・・いるから・・・・・・!」
途中、周りで突然木々が巻き上げられ落下する現象が起きたが、二人は幻覚だと思い気にも留めなかった。
この現象が、彼らの運命の分かれ目となる。
____
「交代だ、シャイン!!」
手足の生えた元の姿に戻ると、今度はブライトが太陽の形に変化。
特に邪魔するわけでも無く、ひたすらカービィの頭上のポジションを維持。
振り切ろうにもしつこく後を追ってくる。
「デスダンデリオンの光はこんなもんじゃ済まないぜぇ!?まともに浴び続けたら皮膚ガンものだ!!!」
気を取られている間に、シャインは鋭い刃のカッターを生成。
ブーメランのように投げられたカッターはワープスターに直撃、揺さぶられた衝撃でカービィは床に落ちてしまう。
待っていたとばかりにブライトの体が光り輝き、次の瞬間極太の太陽光線を射出。
間一髪で避けたところへシャインが手足を引っ込め、カービィめがけて回転しながら突撃。
さすがに避けきれず、体当たりを喰らって壁に突き飛ばされた。
「どうだ!これが俺たちのチームワークだ!!」
「俺たち無敵 いつでも無敵」
隙ありと、シャインが再びカッターを飛ばす。
カービィは、一歩も動かない。
「あの世へ行きな 後悔しな!!」
シャインは自分たちの勝利を、確信した。
________
照りつける光は強さを増し、双子の体力も気力も限界に達しかけていた。
もう目の前の景色が現実か幻覚かも分からない。
感覚が麻痺したのか、急に痛みも感じなくなった。
かなり危険な状況。
薄れては引き戻される意識の中、決して考えたくなかった最悪の結末が脳裏をよぎった。
「・・・姉さま・・・・・俺、このまま死んじゃうの・・・・・・?」
死。
生あるもの誰にでも訪れる、人生の終わり。
それは寿命以外でも、突然襲い来る様々な要因が人を死に至らしめる。
双子の置かれた状況も同じ事で、現状が続けば死亡も十分有り得る事だった。
だからこそ受け入れたくなかった。
刻一刻と迫り来る、死の足音を。
「嫌だ・・・!死にたくない、死にたくないよぉ!!」
「しっかりして、シック!冷静になって!!」
人は死が極限に迫った状態に置かれると、正常な思考力が著しく低下。
結果として正気を失うことに繋がる。
これは俗に言う死刑囚も例外ではなく、やはり死を前にして体が恐怖に震えることもある。
「何が冷静になれだよ!!全然誰も助けに来てくれないじゃないか!兄さまも、フームも!!もう誰を信じろって言うんだよぉ!!!」
泣き叫ぶシック。
精神的、肉体的にも限界の頂点。
急に叫び体力を使った事が原因で、意識が一気に遠のく。
リーロも意識が薄れ、近づく死を前に涙をこぼす。
「・・・・・・・・・誰、か・・・・・・・・・」
徐々に近づく、車のエンジンらしき音。
死神とは随分現代的なものだと思い。
二人の意識は、闇に閉ざされた。
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「・・・・・・子供たちは、大丈夫なのか?」
いつも感じていた、心地よい感覚に浸りながら。
「・・・大丈夫、ちゃんと息はあるぜ!!」
いつも使っていた、日傘の心地よい光のシャワーに包まれながら。
「良かった・・・・・・!!」
「ごめんな、リーロ、シック・・・・・・!」
「あららブンく~ん、ガラにもなく泣いちゃってるねぇ」
「ち、違うやい!泣いてなんかいねぇよ!」
________
同じ技は二度と喰らわなかった。
カービィは自ら吸い込みに行き、投げられたカッターを素に「カッターカービィ」に変身。
「「!?」」
突然姿が変わったことに驚きを隠せない二人。
「ワオ!!こんなイリュージョン初めて見たぜ・・・目つきも違う」
「臆するな 怯えるな 勝利の女神は 俺たちに微笑む」
「そうだな!ついでにそろそろ交代だ!!」
再びシャインにバトンタッチ。
先程とは比べ物にならない量の流れ星が降り注ぎ、今度は凶器と化してカービィに襲い来る。
対するカービィは帽子のカッターを右手に携え、前方に突き出しブライトに突撃。
ダッシュカッター切り。
星つぶてを物ともせず突っ込む様を目の当たりにしし、驚愕するブライト。
「何て奴だ!!」
高くジャンプし、カッターを振り下ろしつつ落下。
兜割り。
迎撃せんと放った火の玉は真っ二つに裂かれ、片方はシャインに被弾。
辛うじて避けた所へカッターブーメランが飛来、命中したブライトの体を吹き飛ばす。
更に追い討ちをかけ、カッター滅多切り。
ものの数秒で瀕死に追い込まれた。
「くそっ、後は任せたシャイン!!」
太陽に変化したブライトの体にはヒビが入り、相当弱っていた。
それでも悪あがきにと太陽光線をしつこく照射するが、当たらなければ意味が無い。
シャインはカービィとの激しい切り合いの末、手数で押し負けた。
「オーマイ、ビーストキング!!シャイン、お前まで!?」
空中へ逃げ遂せたシャインの体もヒビが入る。
両者とも、戦闘の続行は不可能だった。
即ち、敗北。
まだまだ戦えるカービィを前に取った行動。
「悪いが、この勝負は一旦預けるぜ!!シーユーアゲイン!!!」
敵前逃亡。
天井を突き破り、シャインとブライトはその場から逃走した。
「また会おう 地獄で会おう」
「いや、生きてるうちに決着つけなきゃ駄目だって・・・・・・」
カービィは二人に目もくれない。
「ぽよぉぉ!!!」
この隙にと、メインエンジンを相手にカッター滅多切りを仕掛ける。
エンジンから繋がれるパイプが次々と破損、同時期にデスダンデリオン下部のレンズの出力が低下を始めた。
そして―――――――――
『ファイナルカッター!!!!』
ジャンプと同時に切り上げ、下降と同時に切り下ろす。
トドメは着地時に起こる強力な衝撃波。
メインエンジンは真っ二つに分断された挙句、原型を留めず跡形も無く破壊された。
デスダンデリオン、沈黙。
「ぽよっ!?」
大きな揺れ。
メインエンジンの消失により、デスダンデリオンが崩壊を始めたのだ。
長らく放置されたワープスターと共に脱出。
「・・・・・・・・・・・・」
バラバラに崩れ落ち燃え盛る、デスダンデリオンの最期を見届けた。
一輪の向日葵のように、人々の希望となるはずだった人工太陽の、哀れな夢物語。
全てが淡い光となり、消えていく。
燃える残骸は流星と化し、プププランドに戻った夜空を美しく彩った。