いつもと変わらないある日の事。
メタナイトは誰かから届けられたビデオレターを、私室で再生しようと試みている所だった。
「卿、一体誰がこんなものを・・・・・・?」
「ケース側面に銀河戦士団の暗号が書かれている。これは恐らく、オーサー卿から届けられたものだ」
ビデオデッキにテープを入れ、再生ボタンを押した。
『久しぶりだな、メタナイト卿。先日のナイトメア要塞攻略、大変ご苦労であった』
銀河戦士団のトップに立つ男、オーサー卿の姿が画面に映る。
『本当ならば、諸悪の根源たるナイトメアを打ち滅ぼしたカービィに礼を言いたいところだが・・・・・・まあ、それはひとまず置いておこう。
実はこの頃、ホーリーナイトメア社の崩壊に伴い、新たなる敵“秘密結社BBB”が動き出した。
奴らは銀河大戦が本格化する以前の戦争“光闇戦争”の終結から、フォトロン族の抹殺を裏で進めてきた危険な組織だ。
銀河大戦の本格化に伴い、一時は活動休止したものと思われていたが・・・今なお健在のようだ。
ディガルト帝国も駆逐に向け、本腰を入れ始めている。
特に近頃、帝国からプププランドに3人の兵士が派遣されるとの事だ・・・・・・表向きは左遷とのことだが、油断するな・・・』
「・・・・・・卿、ディガルト帝国とは?」
ソード、ブレイドの二人には聞き覚えの無い言葉だった。
「最高水準の科学技術と宇宙最大の軍事力を誇る、ダークマター族の大国。ナイトメアの一件が知れ渡っていれば、やはりと思っていたが・・・」
『・・・・・・最後に、これは今までBBBへの情報漏えいを防ぐために隠していたことだが・・・
実は・・・・・・の事だが・・・・・・
・・・は・・・・・・と・・・・・・の・・・・・・・・・なのだ・・・・・・・・・・・・
そして・・・・・・は・・・・・・・・を・・・・・・・・いる・・・・・・・・!
・・・・・・という事だ。BBBも今のところ目立った動きは無いが、“・・・・・・・・・”が来たら・・・・・・と、忠告してくれ。
なお、このビデオレターは一度きりの再生しか効かないものとする』
直後、画面はノイズの嵐が流れ、二度と再生できなくなった。
「所々、テープが劣化して聞き取れない所がありましたね・・・」
「仕方ない、今後の事は臨機応変に対応するしかあるまい」
「・・・・・・しかし、帝国・・・・・・か」
一人、メタナイトは意味深に呟く。
______
のどかな村の中心に位置する広場。
中央の巨木が目印のここには、ププビレッジ唯一の警察署が構えていた。
「すんませーん、この度ププビレッジに引っ越してきた者なんですけどー」
玄関口からリムロが顔を覗かせる。
その後ろではヘビースターを駐車しているリムラ、リムルが待機。
「え?ああ、はいはい・・・・・・どうなさいましたか?」
部屋の奥から出てくる、髭をたくわえた警察官らしき男。
日長一日寛いでいたのか、急な訪問者に慌てて外へ飛び出す。
「とりあえず、この村で一番偉い人に在住の許可取りたいんですけど、どこに行けばいいですかね?」
「ああ、それでしたらこの地図の通りに行けば、この村で一番偉いレン村長の・・・・・・」
地図を取り出し、村長宅への道筋を示す。
それに対し、リムロは違うと首を横に振った。
「でも、許可とってもこの国の王様が何て言うか分からないっしょ?」
「え?初めてこの国を訪れる方にしては、よくご存知ですな。確かに、最終的にはデデデ陛下のお許しを得ないことには・・・・・・」
「じゃあ話が早い!さっそくそのデデデ陛下とやらと話つけてきますよ!!」
「お、お待ちなさい!!外国の方といえど下手に陛下の前で無礼を働いたら、とんでもない事に・・・・・・」
警察官の制止も聞かず、ヘビースターを発進させる。
徐々に加速をつけ、あっという間に遠くへ走り去った。
「・・・・・・大丈夫なんだろうか・・・・・?」
「しかしまぁ、想像以上のド田舎だな!」
城下町と思しき麓の村以外、広がるのは豊かな緑。
都会育ちの3人には退屈な風景だった。
「車すらほとんど走ってないとか!退屈そうだぁ~」
「良いじゃんよ、リムル。のんびりスローライフと行こうや」
「どうせそこまでややこしい仕事でもないしな!ゆっくりしていってね!!!」
「「リムラうぜぇ」」
「っ・・・・・・・・・!!」
おもむろにマシンをプッシュし、燃料をチャージ。
しかし、急激にスピードを落とすことなく再補給は完了した。
ヘビースターはいわゆる「エアライドマシン」の一種。
だが、愛用者たるリムラの駆るそれは厳密に言うとやや異なる。
本来エアライドマシンは過去の大戦において、星の戦士たちが用いた乗り物。
言い換えれば一人乗りバイクのような物だが、本質は大きく異なる。
殆どのエアライドマシンは搭乗者の意識を通じて起動。
地上では車体を地面に押し付けるようにドリフトすることで、摩擦が生み出すエネルギーを吸収。
地面から離れた瞬間、マシンは一瞬ながら爆発的な加速力を得る。
マシンによって特徴は多種多様であり、極端にクセの強い機体となれば乗りこなすことは困難とも言われる。
大戦後、殆どのエアライドマシンは今無きホーリーナイトメア社の手によって回収。
多くがナイトメア社製の人造ライダーへと支給された。
後に大企業「エヌゼット大財閥」、「クロストルコンツェルン」、「ドロッチェカンパニー」の3社がエアライドマシンのレプリカを開発。
ただし一般の種族、いわゆるヒューマノイド用に関しては、メンタルコネクト機構の代わりに物理的な操作機器を搭載。
これは常人の精神力ではエアライドマシンの起動すらままならない事によるもの。
したがって、大半は車体にハンドル等を取り付けたものが殆どである。
「どこまでオリジナルに近づけ、そのオリジナルを損なわぬバージョンアップが出来るか」というコンセプトを元に、現在も3社は競い合っている。
このヘビースターも例外ではなく、「クロストルコンツェルン」腕利きの職人の手で独自の改良を施されている。
マシンを地面に押し付けることで発生するエネルギーを、燃料に変換して走らせる点ではオリジナルと全く同じだ。
唯一違うのは、重力調節機構の切り替えスイッチのオンオフで、「プッシュ時の摩擦によるブレーキ力」をゼロにする事。
これにより、走行速度を落とさぬまま燃料の再チャージが可能となった。
ただし、ブレーキが全く利かない以上、補給のたび際限なくスピードアップするため、速度と周りの安全には気を配らねばならない。
そんな危なっかしいマシンをリムラが愛用する理由はただ一つ。
ヘビースターのみならず、クロストルコンツェルン製の商品は何でも買う熱狂的ユーザー。
対するリムルはエヌゼット大財閥製ワゴンスターを、リムロはドロッチェカンパニー製ロケットスターをそれぞれ所有している。
嗜好も性格も異なる3人。
今回の異動に当たり、どの愛車を持ち込んでいくかで口論に発展。
最終的に、頑丈な作りのヘビースターが選ばれる事となった。
「あんまスピード出さないでくれよ。お前の運転おっかないんだから」
「うっせぇ」
重力フィールド、オフ。
ヘビースターの速度は更に上昇、一般高速道における乗用車並まで近づいた。
一同は城へ向かう道を猛スピードで駆け抜ける。
これがトラブルの元になろうとは、リムラは果たして想定していただろうか。
___
デデデ城からププビレッジへと下る坂道。
カービィたちは今日も今日とて、村の子供たちと遊びに行こうと向かう。
「あーあ・・・参っちゃったよなぁ、この間は」
「ホント。同じヘビーロブスターかと思ったら大違いでしたもの!酷い目に遭いかけたわ」
はしゃぐカービィをよそに、フームとブンは浮かない顔。
事は数日前にさかのぼる。
突如としてププビレッジに魔獣の群れが襲撃。
いつものように軽く往なしたまでは良かったが、残る3体が強敵だった。
かつてカービィが倒したヘビーロブスターと非常に酷似する、しかしそれぞれ異なった形状のメカ魔獣。
いずれも全く異なる攻撃を持っていた。
機体の横に「H-9F」と書かれたオレンジ色のそれは、両腕のアームが従来に比べて巨大化。
発射後、空間で瞬間的に爆発を起こす謎の兵器はカービィを大いに困惑させた。
3体の中では非常に危険な攻撃力の持ち主。
「H-9D」は背中に中型サイズのビーム砲を装着。
両腕のビームキャノンだけでなく、持続性のレーザービームで移動を遮り、逃げ場を封じる。
「H-9F」程ではないが、厄介かつ危険。
そして最もカービィを苦しめたのが、「H-9B」と称されたヘビーロブスター。
アームよりブロック状のバリアらしきものを射出し、味方を護っていた。
耐久力こそ高くは無いが、次から次へと展開するのできりが無い。
このメカ魔獣の有無で戦局は大きく変わっていただろう。
似ているようでそれぞれ全く違うヘビーロブスターたち。
見事な連携プレーを見せ付ける彼らを相手に、カービィも一時苦戦を強いられる。
しかし、本来のヘビーロブスターが苦手としていた「アイスカービィの攻撃に弱い」という共通の弱点を見出し、激戦の末に辛くも勝利。
指揮官の役割を担っていたのか、残された残党も一目散に逃げ遂せた。
事件解決後、フームは疑問に思う事があった。
「H-9」といった文字は、恐らく機体の名称。
機体ごとに異なる外見、特徴も納得が行く。
では、全員に共通して刻まれた「BBB」とは何か?
ププビレッジで最も博識なキュリオ氏でもそれは分からなかった。
メタナイトにも同じ質問をしてみたが、明瞭な回答は返ってこない。
謎が謎を呼ぶ、魔獣の襲撃事件。
かのナイトメア社は既に壊滅、子会社も自然消滅。
デデデ大王はもう魔獣を買うことも出来ず、日々の日課であろう悪事も働く気が殆ど失せている。
ただでさえ国家予算が悲惨なことになっている彼が、あれだけの、魔獣を他所から仕入れる事が出来るはずもない。
となれば、考えられる事はただ一つ。
新たな敵の出現。
そして、望まれざる戦いの幕開け。
「はあ・・・・・・・・・」
ため息をつくフーム。
浮かない様子の彼女をカービィは心配そうに見る。
ナイトメアは滅された。
それは銀河戦士団が長らく叶える事の出来なかった悲願。
実体無き悪夢の秘密を暴いたカービィが、それを叶えた。
ようやく村にも平和が訪れた。
そう思った矢先に訪れた出来事。
果たしてカービィは、いつまで戦わねばならないのか。
いや、恐らく終わりなど無い。
大小関わらず、この世に悪が栄える限り彼は永遠に戦い続けるのだろう。
生まれながらにして背負わされた、過酷な宿命。
それが星の戦士なのか。
自分だったら精神的に耐えられない。
いつ再び訪れるかも分からない、終結なき不毛な戦い。
にも関わらず、カービィは嫌な顔一つせずに戦いへ身を投じる。
彼はまだ幼い。
だからこそ深く考える事無く、純真無垢な心と視点で物事の本質を見ているのかも知れない。
悪く言えば単純だが、誰よりも前向きな思考。
いつもは自分が保護者気取りなのに、彼から学ぶ点は意外と多くあった。
自分も、まだまだ経験が足りない。
「姉ちゃん、姉ちゃんってば!!」
深い思考にのめり込んでいた意識が、はっと戻る。
呼びかけに応じた様子を見るなり、ブンは自分たちの前方を指差す。
「なんだろう、あれ?」
何かが砂煙を立て、こちらへ迫り来るのが見て取れる。
「見たことの無い車ね・・・・・・」
猛スピードで飛ばす、車らしき鉄の塊。
この距離では正体が掴めない。
カービィも気づいたのか、必死に目を凝らす。
「ぽよぉ?」
謎の車は更にスピードを上げ、こちらへ近づいてくる。
明らかに異常な速度。
「なんか、すげぇ勢いで突っ込んでくるぜ・・・!?」
予想されるであろう展開を恐れるブン。
このままでは跳ね飛ばされるのではないか、と。
「あれ・・・・・・車なの・・・・・・?」
車らしき物体の、段々と明らかになる全貌。
車体前面の淵がオレンジ色に発光する鉄のボディ。
後部にエンジンを直接取り付け、排気パイプがむき出しになった無骨なデザイン。
搭乗者らしき、モノアイの黒い球体ら3体は恐怖と風圧に顔を引きつらせていた。
「わああああ!!止まんねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
赤い瞳の球体が叫ぶ。
恐ろしさのあまりハンドルを手放してしまっている。
と言うよりも、ハンドル自体が存在しない。
ひょっとしたら、ワープスターと同じエアライドマシンの一種か。
だとすれば、彼らは何者か。
「スイッチの接触が悪いぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「だから常日頃からメンテナンスしろって言ったのに!!馬鹿、馬鹿!!!」
「俺は最初からこんなの反対だったアッー!前、前!!!」
「うひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
今はそんな事を考えている場合ではなかった。
操作が自由に効かず、マシンがこちら目掛けて突っ込んでくる。
「ひ、轢かれちまうって!!!」
「きゃああああああああああっ!!?」
猛烈な勢いで迫り来るマシンを背に、3人は一斉に逃げ出した。