≪マザーコンピューターヨリ入電。『PD(PLANET DESTROY)カノン』ハ順調ニチャージ中≫
司令室のモニターに惑星破壊砲の情報が表示され、準備は着々と進んでいる事を伝える。
「メンテナンスが必要な箇所は」
徐にスパナを放り投げ、ガルクシアが訊ねた。
≪改善ガ必要ナ箇所ハ、特ニ見受ケラレナイ≫
無感情の音声で返答するマザーコンピューター。
計算・思考以外の機能を一切排除した結果である。
『マザーコンピューター。後どれ程の時間で装填完了となるか、言ってみるがいい』
ガルクシア主導によるシステム全体の見直しと整備は、思わぬ効果を齎した。
出力ジェネレータの構造を改善した結果、装填エネルギー効率が上昇。
当初想定されていたチャージ完了日までの時間は日増しに短縮され、遂にある日と重複。
≪残リ8時間。チナミニ、チャージ開始日ヨリ15日ガ経過シテイル≫
銀河戦士団の大艦隊が襲撃する予定日と、全く同時だった。
『フハハハハハ!!・・・実に素晴らしい事だ』
高笑いを上げるナイトメア。
絶対的勝利を確信し、口元に不敵な笑みを浮かべた。
これ程ナイトメア軍によって都合の良い事は無かった。
戦艦の殆どが出払った事により、守りが手薄となった状態の本部。
デスタライヤーは最早無き者だと油断している彼らは呆気に取られ、その間にチャージを終えた惑星破壊砲はギャラクティカベース目掛けて発射。
敵の術中にはめられたと思った艦隊は本部を守るべく、戦闘を即刻切り上げ撤退。
即ち、襲撃時の対応次第では要塞の受ける被害を最小限に留める事も夢ではないのだ。
あくまで理論上の話だが。
「ギャラクティカベースに残存する戦艦の数など、この様子だとたかが知れている。惑星破壊砲で一緒に纏めて沈めてしまえ」
≪了解≫
例えどれだけ急いで帰還した所で、既にギャラクティカベースはナイトメア軍の支配下。
彼らは居城とも言える本丸を失う事となる。
後は如何に時間を掛けてでも、銀河戦士団を一人残らず根絶やしにすれば良い。
「・・・・・・ところで、マルクの奴はどうしたんだ?」
『私の知る所では無い。大方、TEAM H-TYPEの連中とつるんでいるのだろう』
役立たずと罵られて以来、マルクは単独での行動が増加。
ショックを受けていたのかと思いきや、逆に何かを企てているようでもあった。
『ガルクシア』
「何だ」
『万が一、私への謀反を奴が目論んでいる様であれば、貴様の手で始末しろ』
ナイトメアも馬鹿では無かった。
あらゆる手段を尽くしてでも、芽の出ぬ内に摘み取る。
使えないどころか上司へ盾突くような反逆分子は、ナイトメア軍に必要ない。
「しかし、俺は徒のダークマターだ。剣術も滅茶苦茶、取り得は頭と鞭だけ・・・」
不安を吐露するガルクシア。
だが、ナイトメアには考えがあった。
『後で、悪夢の生まれる部屋に来い。特別に貴様へだけ“とっておき”を授けてやろう。それならマルクとも対等に渡り合える』
“とっておき”を授ける。
それだけ言うと、向こう側から一方的に交信を切られた。
「・・・・・・・・・何だ、“とっておき”とは・・・・・・?」
幾多もの画面が光る司令室にて、一人呟いた。
その傍らで、あるモニターに表示された文字に気づくはずも無い。
≪要塞カタパルトヨリ大量ノ魔獣ポッドガ出撃。此レハナイトメアノ命令ニ無イ。総数ハ・・・・・・≫
マルクの暗躍が、始まる。
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宇宙の彼方へと突き進む、大規模の戦艦群。
船体に貼り付けられた星型のエンブレム。
いずれも、決戦の地へと向かう銀河戦士団の艦隊。
此処へ至るまで、既に何隻かは敵の奇襲に沈められた。
それでも全体を合わせた総合の攻撃力は凄まじいもので、並の戦艦は数秒もしないうちに叩き落される。
艦隊の両脇を防衛艦隊で固めている事もあって、防衛力も強固たるものだった。
正に、難攻不落。
局地攻撃向きの戦艦では最強クラスの駆逐艦「レッドインフェルノ級」。
2、3倍拡大しただけでプラチナインフェルノ級に迫らんとする深紅の巨体には、10基もの大出力エーテルジェネレータを搭載。
これに従い武装も並みの戦艦では無く、居住空間の無駄を排除する事で、大量の兵器の収納を実現。
本来ジェノサイド級一隻に一台しか積まれない、あの惑星破壊光線砲の数は5台にも上る。
更に特殊な改良を施し、一発の威力を犠牲とする代わりに連射機能を実装。
赤色の閃光が全てを無慈悲に喰らい尽くす様は、まさに「赤き地獄」の名に相応しい光景だとも評される。
「ジェクラ、メタナイト卿らは結局合流できなかったか」
オーサー卿ら「銀卓の騎士」は、全てこの船に結集していた。
「向こうも相当な被害を受けたという。彼らの気持ちも汲んでやろう」
不満足な様子のオーサー卿をパラガード卿が嗜める。
いつ敵に襲われても良いように、剣の手入れを続けていた。
「ふむぅ、我輩としては非常に残念であるな。彼らの有無で戦局は一気に変わるかも知れぬであろう」
彼らの不在に落胆していたのは、操縦桿の前に立つパルシパル卿。
頭部の赤いモヒカンがトレードマークの彼は、奇しくもこのレッドインフェルノ級「カタストロフィー」の艦長であった。
「フン、俺では不安だと言うのか?」
捻くれた物言いのヤミカゲ。
自分よりもメタナイト卿らが実力面で勝っていた事を多分に嫉妬していた。
「何を言うか、ヤミカゲ殿。お主がこうして銀卓の騎士入り出来たのも、お主自信の力があってこそでは無いか」
「・・・十分に評価されているのは分かるが、俺はこの程度で満足するつもりは無い・・・」
パルシパル卿の気遣いを一蹴。
忍者の癖に高望みか、と、陰でパラガード卿がひっそり悪態を突く。
元々忍者部隊は隠密行動を専門とする集団なのだが、リーダーたるヤミカゲの影響を強く受け、すっかりエキスパートの戦闘集団と化した。
修験の世界においては、名が出ぬ事こそ真の誇り。
表立って戦果を独占せんとする彼らの姿は、パラガード卿が思う本来の在るべき忍者像とはかけ離れていた。
「・・・しかし、船に乗っていては魔獣も何もあったものじゃ無いな」
これはオーサー卿だけでなく、誰もが思っていた所だった。
ナイトメア要塞では敵艦隊との激しい空中戦が予想される。
魔獣を送り込まれる事も考えられるが、その前にデスディスクに撃ち落される方が早い。
即ち、船の性能と実戦での立ち回りが戦局を左右するといっても過言ではなかった。
「カプセル型ポッドに魔獣が乗り込んでいた例もある。果たして・・・」
不安に駆られるパラガード卿を励ますかのように、パルシパル卿が自信を持って答えた。
「心配するな、我輩自慢のカタストロフィーに死角は無い!」
確かにカタストロフィーは今まで、幾多もの輝かしい戦績を上げてきた。
極めて高い攻撃力を駆使し、魔獣や敵艦隊を塵一つ残さず撃破。
凄まじいパワーに敵味方からも恐れられる程だった。
一時の安息は突然破られる。
数秒後、クルーの一人が叫んだ。
「レーダーが敵影を捉えました!!」
「何?」
今ひとつ反応の薄いパラガード卿。
ナイトメア軍末端の奇襲は、これまで何度も在った。
しかし、今回はレーダーが異常な反応を検出。
オーサー卿らが傍に駆け寄り、皆一様に驚愕した。
「50・・・100・・・200・・・500・・・・・・!?どんどん増えるぞ!!」
敵影を現す、レーダー上の赤い点。
止まる所を知らず、爆発的に増加。
最終的に敵の数は、彼らの常識の範疇を超えた恐ろしい超絶的規模にまで膨れ上がった。
「そ、総数・・・・・・30000・・・・・・!!」
「馬鹿な!今までの奇襲部隊よりも明らかに数が多い、いや、多すぎる!!」
「我輩たちが今まで、此れ程の大軍団を相手にした事が嘗て在ったか!?」
「一体どうなっているんだ!!」
嘗て無い事態に戸惑いを隠せない騎士たち。
見苦しい、とヤミカゲが鼻で笑う。
「いずれも分析の結果、全て魔獣専用のポッドと判明!!」
「魔獣ポッド!これら全てが・・・・・・」
いかに優秀な戦艦だろうと、内部に突入されれば無力。
後はクルーの戦士たちの力頼みとなる。
「全主要艦隊に回線を繋げ!!」
「は、はい!!」
「全ての艦隊に告ぐ!!敵の大軍が遠方より襲来!全力で此れを退けろ!!!!」
300以上残存する全ての戦艦、戦闘態勢へ。
数分後、夥しい数の筒状ポッドが大艦隊へと飛来。
密集率は凄まじく、如何に小型の艦を以ってしても隙間を潜り抜けるのは不可能だった。
「全攻撃艦隊、撃てえっっっ!!!!」
オーサー卿の命令一つで、全艦隊は一斉砲撃を開始。
圧倒的量の弾幕が、迫り来るポッド群を次々撃墜。
「総数、23000まで一気に減少!!」
「いいぞ、その調子だ!!」
魔獣ポッドの耐久力は、民間用の宇宙船にも及ばない。
問題は、小型ゆえに戦艦クラスの砲撃がかえって当たりにくいのと、今回は頭数が多すぎる事。
これら全てを物量で押し負かすまでには至らず、何体かの突破を許してしまう。
「30体がレッドインフェルノ級へと急速接近!!他にも数体が他の軍艦へと襲撃を図っています!!」
「全クルー、敵襲を警戒せよ!!!レッドインフェルノ級以外も同様!!!」
「俺は行くぞ!」
「ヤミカゲ!!」
静止を振り切り、管制室から飛び出すヤミカゲ。
戦いの血が疼いた事による独断の行動だった。
「ポッド、船体に取り付きました!!」
ポッドは機体下部の機構をドリルに変形、装甲を貫く。
船内の連絡通路まで穴を穿ち、そこから魔獣が解き放たれた。
各所にて繰り広げられる、星の戦士と魔獣の攻防戦。
『こちら第7ブリッジ!!只今ヘビーロブスター「H-9K」と交戦中!!』
「サタデー・ストライクか!!液体窒素で凍らせろ!!!」
『西連絡橋、海洋魔獣セイウチデスと交戦!他に敵は居ません!!』
「額の一本角に気をつけろ!我輩の経験に言わせれば、ただの飾りではないぞ!!」
『こちら第14ブリッジ!同じく海洋魔獣ナンモアイト、オクターケンの2体と交戦中!!』
『第4ブリッジは敵のポッドが密集!!H-9Kが22体、未知のロブスターが1体!!奇妙な動きの火炎放射に仲間が大勢やられています!!』
『パラディン級より応答願います!!チリドッグです!火炎魔獣チリドッグが船内を火の海に!!!』
「消火用のスプリンクラーを作動させろ!!少しでも有利に立ち回るんだ!!」
操舵室に入り乱れ、飛び交う交信の数々。
取るべき対応についての助言を次々求められながらも、オーサー卿らは一つ一つ冷静に答えていく。
「敵の数は後どれくらいだ!!」
「総数、16500!!各戦艦に取り付いたポッドは延べ合計524!!」
「いかん、一隻墜ちたぞ!!」
味方艦の反応が一隻消失。
前衛でポッド群の掃討に当たっていたジェノサイド級が大量の魔獣に襲われ、陥落、大爆発。
忽ち宇宙の藻屑と消えた。
「全てのジェノサイド級は今回バックアップに回れ!!広域殲滅特化型艦はパラディン級、ガーディアン級らと共に前衛へ出るんだ!!!」
惑星破壊砲を搭載したジェノサイド級は、要塞攻略における要。
デスディスクに対抗できる数少ない存在をこれ以上失ってはならない。
「パルシパル艦長!!現在、管制室へ敵が3体接近中!」
「それは本当か!!」
「それぞれ異なるルートより通路の合流地点へ移動中!そこから一直線に突撃を仕掛けるものと予想!!」
敵の接近。
これ以上の侵攻を許せば、管制室は破壊され、全艦隊のコントロールを失う。
まだ動力炉に手をつけていないという事は、艦内のクルーを全て抹殺してから確実に目的を遂行するという事か。
銀卓の騎士も随分と舐められたものだ。
ならば思い知らせてやる、銀卓の騎士の底力を。
「・・・我々が出よう。行くぞ!パルシパル、パラガード!!!」
「「了解!!」」
管制室を飛び出し、迎撃へ向かう3人。
鞘より剣を抜き、闘志を燃やす。
しばらく走ると例の十字路に出くわした。
「私はこのまま真っ直ぐ向かう。パラガードは右、パルシパルは左を!!」
「任せろ!!」
「誰が相手だろうと、最強たる我輩の敵ではない!!」
3人はそれぞれ異なる道を行き、強敵の討伐に臨んだ。