第17幕※中盤からややバイオレンス気味

 

 

 

 
 
 
 
オーサー卿だけでなく、誰もが今回の決戦を前倒しした事を後悔していた。
出来れば最低でも、重力波干渉砲の完成を待つべきだったと。
 
 
戦士団の暫定的な切り札とも言える惑星破壊砲は、全く通用しなかった。
全砲台の一斉砲火を浴びせても、表面に僅かな傷が付く程度の損傷しか与えられない。
何らかの特殊なコーティングを施されているようで、それ以外の一切の光学兵器も通用しなかった。
広域殲滅特化型に至っては雀の涙ほど。
恐らく、全艦隊が束になって特攻しても撃墜は出来ない。
それこそ無駄死に終わりかねなかった。
 
 
圧倒的だったのはその巨体だけではない。
船体の側面より発射された、極太の破壊光線。
全ての小型艦は塵一つ残さず消滅し、全滅。
その他の艦も、光線の軌道上に巻き込まれたものは次々と墜ち、爆発。
人類の理解の範疇を超えた超絶的攻撃力を見せつけ、一瞬のうちに銀河戦士団を恐怖と絶望のどん底に陥れた。
 
 
それだけでも恐ろしいというのに、敵は更に暴風雨の如き弾幕を艦隊に叩き込む。
こちらも全ての砲塔を稼動して撃ち落そうとするが、数があまりにも多すぎる。
前衛に回った全ての防衛艦は最高硬度のシールドで防ぎ切ろうと奮闘。
だが、圧倒的弾幕の前では彼らを護る希望の盾も軋みを上げ、綻びが生まれる。
続け様に破壊光線を撃ち込まれ、遂に最前列の艦が展開したシールドは崩壊。
常軌を逸した事に、敵の破壊光線はたった数秒で再装填を完了。
一つ後ろの列は張り直しが効いたが、最前列は先の攻撃でジェネレータまで故障。
無抵抗のまま再び、光の奔流に飲み込まれた。
 
 
とても勝ち目が無い。
はっきり言って、デスタライヤーの健在は誰も予想だにしなかった。
メックアイで致命傷を与えたと言うジェクラも、その時はもう長くは無いだろうと思っていたぐらいだ。
それがどうだ。
今こうして、何事も無かったかのように猛威を振るい続けている。
 
 
正に、終わらぬ悪夢。
 
 
 
「オーサー卿!!早く決断を!!!」
 
 
パルシパル卿の怒号が飛ぶ。
それでもオーサー卿は決断を決めかねていた。
 
銀河戦士団の誇りに賭け、戦艦を犠牲にフルチャージ惑星破壊砲を叩き込むか。
或いは少しでも死者の増加を食い止めるため、反撃を諦め撤退するか。
どちらも決め難い選択。
下らないプライドと儚い命を天秤に掛け、彼は悩んだ。
 
真に尊ぶべきは、果たしてどちらか。
 
 
「オーサー卿!!」
 
再三、促しをかけるパルシパル。
程無くしてクルーたちが騒ぎ始める。
 
「これ以上持ち堪えるのは無理だ!!撤退すべきだ!!!」
「いや!!ここは限界出力の惑星破壊砲に全てを賭けるべきだ!船を捨て、脱出艇で逃げよう!!」
「駄目だ!敵の攻撃を見ただろう!?あれは異常そのものだ、ちっぽけな船なんかじゃ一発で殺される!!!」
「しかし、やられっ放しで悔しくないのか!?」
「命を落としたら悔しいも何もあるものか!!希望を持って生き延びる方がよほど大事だ!!!」
 
誇りか、命か。
怒号が飛び交う激しい口論の末、やはり最終的決断はオーサー卿に委ねられた。
 
「オーサー卿、ご指示を!!」
「お願いです!!!」
「命令と有らば、何時でも死ぬ覚悟は出来ています!!!」
「卿!!!」
 
 
 
長い沈黙。
そして、遂に重い腰を上げる。
 
 
 
 
全戦艦、全クルーに告ぐ!!!当艦隊はこれより・・・・・・
 
 
コンソールを両手で叩きつけ、精一杯の声量で叫んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
≪敵艦隊の行動に変化≫
 
数分後、デスタライヤーの前に異変が起きた。
必死の抵抗を続けていた艦隊は艦首を翻し、後退。
追撃から逃れるためか、シールドは展開中。
ミサイルの迎撃こそ行うが、デスタライヤー自体への反撃は見られない。
自動操縦を行う高性能AIは、彼らの取った行動を直ちに分析。
 
攻撃意思は皆無。
即ち、撤退。
要塞司令部が設定したノルマは「敵艦隊の95%を可能な限り殲滅せよ」。
現在、確認できる艦影の総数は20隻。
撃端数は先刻、何者かが独断で仕向けた大量の魔獣ポッド群に落とされたものまで含める。
従って、与えられたノルマの条件を満たしたものと判断。
デスタライヤー、全ての攻撃システムを一旦停止。
敵の不意打ちに備え、レーダーより艦影反応が消失するまで敵対行動を取らないものとする。
 
 
 
要塞の砲口より強大なエネルギー反応を感知。
大型惑星破壊砲、発射態勢。
要塞よりギャラクティカベースまで最短距離の直線射程。
敵艦隊及び当機は軌道上から外れている為、回避措置の必要は無いと判断。
 
 
 
惑星破壊砲、発射。
想定よりも若干強めの出力。
敵影、レーダー外に消失。
 
 
 
≪AI:DTより入電。敵艦隊は逃走。これより戦闘態勢を解き、要塞内部へと帰還する≫
 
 
 
 
 
 
___________________
 
 
 
 
 
≪H-9E “トゥナイト・アイ”ヨリ入電。大艦隊ニ送リ込ンダ魔獣ポッドハ全滅≫
 
 
惑星破壊砲が発射される少し前の時間。
ナイトメア要塞のエネルギージェネレータ室に、無機質なコンピュータの音声が響き渡る。
 
「ちぃぃぃぃぃっ!!!何やっているのサ、あいつらは!!」
 
マルクは歯軋りを立て、悔しがっていた。
折角独断で魔獣の大軍団を差し向けたのに、全て返り討ち。
それなりの被害を与えたとは言え、彼にとって大手柄を挙げたとまでは言い難いレベルだった。
 
 
「このままじゃ、デスタライヤーに全部横取りされる!!」
 
魔獣軍団の全滅を想定した上で待機していたのが、この広大な空間のジェネレータ室。
周りが深い穴に囲まれた中央には、太陽のような輝きと高熱を放つ超高密度のエネルギー体が鎮座。
夥しい数のパイプから要塞全体にエネルギーを供給する事で、全ての電子機器や防衛・迎撃システムが機能する。
司令室から独立した惑星破壊砲のメインコンソールは此処に設置されている。
それが待機した最大の理由。
マルクは最後の手段として発射方向を調整し、デスタライヤー諸共あの大艦隊を亡き者にしようと企んでいた。
 
最も、普段は自律思考プログラムのマザーコンピューターが制御下に置いている為、手動の操作は一切受け付けない。
手動モードへ切り替えるには、コンソール脇の入力機器にパスワードを打ち込む必要があった。
 
 
 
「手動に切り替えろ」
 
≪声紋認証、「マルク」ト確認。第1パスワードヲ入力セヨ≫
 
「“タヌキ”」
 
≪正解率100%、OK。第2パスワードヲ入力セヨ。難易度1≫
 
「“サンタマイノテガミタノウチ、サタイショタトニマイタメダケハタホンタモノタ”」
 
≪OK。第3パスワードヲ入力セヨ≫
 
「“カンヌキ”、“センヌキ”」
 
≪OK。第4パスワード。難易度3≫
 
「“デセンモンカサイセンゴノテガミハ、カセンボンセクガカツクセンカッタマカセンガイカモノセンカナノサ”」
 
≪OK。第5パスワード≫
 
「“アナグラム”」
 
≪OK。最終パスワード。難易度5≫
 
 
 
 
 
「“モウソトカナロオクアルガクヲハシノタマダコマノルサクマナダンヨ!!!!”」
 
 
 
 
≪全テノパスワードヲ承認。PDカノン、手動モードニ切リ替エル≫
 
コンソールのモニターが赤色から青色に変化し、「ロック解除」の文字が表示された。
 
 
「よし!!」
 
プログラムを弄り、発射方向の変更命令を入力。
画面上の図に現れた点線が動き、多数の艦影と重なった。
 
「シールド破壊する程度のパワーじゃ勿体無い、丸ごと消滅させてやる!!」
 
出力を一気に引き上げ、数値が上昇する。
 
「ガルクシアもたまには役に立つのサ。おかげで許容限界値は150%まで向上!!」
 
このサイズの惑星破壊砲となると威力も相当なもので、光線の軌道上付近にある惑星は掠っただけで蒸発する。
それは出力を標準の100%に設定した場合に想定される事象。
150%に達すると、時空そのものに致命的なダメージを与える領域。
如何にデスタライヤーと言えども無事では済まされない。
 
「これが正しい選択なのサ!!ボクの示した作戦は何処も間違っていない!!」
 
ガルクシアとの格の違いを見せ付けるべく、独断で行動を進めるマルク。
手柄取りに躍起の彼は気づいていないが、それもまた「焦り」に過ぎない。
 
 
「有人機も低コストで優秀ぶりを分からせる為に、侵略した星から数人ばかし・・・・・・」
 
 
突然、ゲートが開く。
青い軍服を着た男が近づいてくる。
ガルクシアだ。
彼は無表情でマルクに歩み寄り、不気味な印象を与えた。
 
 
「こんな所で何をしているんだ、マルク。ナイトメアの命令には無い事をするな」
 
 
やはり、行動を怪しんだナイトメアの差し金。
馬鹿を言え、元はと言えば人を見る目の無い奴が悪い。
自分は悪くない。
そう、一切落ち度は存在し得ないのだ。
 
「俺の考えた作戦をぶち壊す気か?」
「フン。新参の分際で、ボクの邪魔ばかりするからサ」
 
若干本性を吐露するような口ぶりで挑発。
 
 
「俺は当たり前の助言をしたまでの事だ。勝手に逆恨みするのも大概にしろ」
「気に入らないね。お前のそういう性格、大キライ」
 
 
ふと、ガルクシアの服装に違和感を覚えた。
よく見ると、頭に被った軍帽には楕円の形をした、薄紅色の宝石らしきものが埋め込まれている。
足に履いたブーツも、それぞれ一つずつ同じ宝石が在った。
ついこの間まで、このような装飾品は身につけていなかった筈。
 
 
「・・・そうだ。貴様に一つ聞きたい事がある」
「何サ」
 
顔色一つ変えず、ガルクシアが訊ねた。
 
「ある研究室で見つけたリストなんだが・・・・・・これに見覚えは有るか?」
 
ポケットから折り畳んだ一枚の紙を取り出し、目の前で広げて見せた。
心当たりのある、いや、多分に有り過ぎたマルクは動揺を隠せない。
 
 
「な、何で此れを・・・・・・・・・!!」
「偶然見つけたんだ。中々興味深い事が書いてあったぞ?」
「ちょ・・・・・・・・・!!!」
 
紙を取り上げようとしたが、今更もう遅かった。
 
「一体どうしてだろうなぁ?」
 
彼はもう、全てを知っている。
 
 
 
 
俺が一番良く知っている名前が4名、ここに載っていたんだが?」
 
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・!!」
 
かつて、ガルクシアと仲の良かった4人の友人。
 
「もっと不思議だったのは・・・・・・」
 
アスパラード。
メルード。
ザード。
そして、ヴェルモンド。
 
 
 
この4名がどうしてヘビーロブスターのパイロットなんだ?
 
 
低い声で凄み、瞳孔が開いた。
 
「ヒィッ・・・・・・・・・!!」
 
言い得ぬ威圧感に一瞬たじろぐマルク。
何とか愛想笑いで誤魔化そうとするが、無駄だった。
 
「よく調べてみれば、この内の3名は先程のポッド群に乗り込んでいた、3機のロブスターのパイロットとして選出されていた」
 
じわじわと詰め寄り、部屋の中央へ追い詰める。
 
 
「特にヴェルモンドは「H-13A」というヘビーロブスターに乗り込み、ある邸宅に襲撃を掛けた。
目的は銀河戦士団に所属する、とある人物の抹殺。
当初は成功したかと思われていたが、後に失敗だったと発覚。
しかも不可解な事に、邸宅より数Km離れた荒地で反応が検出された後、突然消失。
現地で古くから言い伝えられる「神隠し」とやらに遭ったものと結論付ける。
後に明らかとなった目的自体の失敗も重なり、H-13シリーズは開発続行を見送られた」
 
 
「・・・・・・この件にお前は直接関与していなかったそうだが、抹殺対象が誰なのか、分かるか?」
「・・・・・・銀河戦士ガールード・・・!まさ、か・・・・・・!!!」
「そうだ」
 
 
 
「ガールードは、俺の妻だ」
 
 
「・・・ウソ・・・・・・・・!」
 
次々と綻びの出た、マルクの愚算。
件の真実を知った彼の心の中で沸騰しているであろう感情は、唯一つ。
振り抜かれた、2本のサーベル。
 
 
 
 
 
「よ    く     も     あ     い     つ     ら     を    !!!!!」
 
 
 
 
顔は、憎しみに歪んだ。
 
 
「チィッ!!!」
 
辛うじてサーベルを避け、マルクの身体は宙に浮いた。
 
 
「お前の私怨如きで死ぬ訳にはいかないのサ!!」
 
 
マルクを中心に暗黒の粒子が収束。
黒い球状のフィールドに包まれ、一瞬だけ邪悪な素顔を曝け出す。
直後、ブチュブチュと生理的嫌悪を催す音と共に身体から生えた、1対の黄色い翼のような形の腕。
普通の腕、翼のどちらとも言い難い奇怪な形状に、7色に光る羽。
一見ふざけているようにしか見えない、真紅のハートマーク。
焦点の定まらない両目が彼の狂気を一層引き立てていた。
 
 
 
「お前みたいな貧弱ボーヤが、ボクに敵うと思ったら大間違いだぜ?」
 
 
 
本体も一回り巨大化し、変貌を遂げたマルクはガルクシアを見据え言い放った。
 
「!!」
 
気がつくと、ガルクシアの背後にその姿は在った。
 
「ナイトメア要塞も宇宙も、ぜーんぶボクのもの!いたずら放題、好き放題!!」
 
自分の体よりも大きい翼を振り回し、ラリアットを叩き込む。
ワープによる瞬間移動で不意を突かれ、回避すらままならずに吹き飛ばされた。
 
「ま、許してちょーよ!!!」
 
自分の体を丸め込み、両腕を広げると4枚の刃が拡散。
シューターカッター。
サーベルで1枚を塞ぎ止め、他の3枚はブーメランのようにマルクの翼へ戻っていった。
斬りかかろうと駆け寄るが、再びワープで避けられる。
嘲笑うかのように上空へ飛び上がり、口から小粒の種をばら撒いた。
全ての種が床に付着すると、マルクの合図と共に急激に成長。
シード。
一辺に複数ものイバラが蔓のように伸び、ガルクシアの身体を絡め取った。
 
「おっほっほっほっほぉ!!!」
 
天井に近い高さまで運ばれ、下方からは何時の間にか地中に潜んでいたマルクが飛び上がる。
同じ高さまで移動すると、目の前の空間より大量の光の矢を発射。
アローアロー。
身動きの取れない状態のまま、高速で飛来する矢を全て避けきるのは至難の業。
忽ち光の矢が織り成す奔流に呑みこまれ、ガルクシアの身体はズタズタに切り裂かれた。
 
 
「どうだ!!ボクの能力はこんなモンじゃない、その気になればお前を一瞬で殺す事も出来るんだぜ・・・?」
「ほう」
「・・・な、何だよ!その馬鹿にした態度はぁっ!?」
 
 
危機的状況に置かれながら、直も余裕のガルクシア。
一方、小馬鹿にされたと憤るマルクは右腕の爪で頭を押さえつける。
 
「お前は一生ボクの奴隷だ!その奴隷の分際で粋がりやがって!!この、この!!!」
 
片腕で数回パンチを喰らわせ、鼻血を出すまで殴り続けた。
爪に付着した血を舐め、邪悪な笑みを浮かべる。
 
「生憎だがな」
 
しかし、ガルクシアは不敵に笑う。
 
 
 
 
 
「俺もその気になれば、一瞬で貴様を殺しかねない」
 
 
 
 
 
言った直後、軍帽とブーツの宝石が開眼。
薄紅色の瞳のそれは紅い輝きを放ち、ある変化をガルクシアに齎した。
 
「な!?」
 
右手に携えたサーベルの刀身が熱を帯び、炎を纏う。
一振りでイバラに引火、一瞬のうちに炎上。
 
「お前の何所にそんな力が!!」
 
燃え落ちるイバラから解き放たれ、自由の身となったガルクシアに訊ねる。
 
 
「凄いだろう?“暗黒の支配者”から採取したと言われる触媒だ。ナイトメアが俺に授けてくれた」
「ナイトメア・・・・・・!!それより!あ、暗黒の支配者だって!?」
 
 
暗黒の支配者について、マルクは聞き覚えが在った。
 
 
 
 
 
ポップスターの地底奥深くに存在する秘境、「地下世界」。
地上の何処かに点在する穴「世界のへそ」からしか、其処へ行く術は無いと言われる。
 
太古の昔、この地下世界は闇に覆われていた。
諸悪の根源は、邪悪な願い星の集合体にして、炎・氷・雷の3属性を自在に操る強大なパワーの塊。
ダークゼロ。
全てを虚無の闇へと呑み込む様が「暗黒の支配者」と呼ばれる所以。
地下世界を統治する当時の王に取り付き、暴虐の限りを尽くす恐怖政治を行った。
やがて圧制は民の不満を招き、政権を打倒せんとする勇者たちが募られた。
 
 
激しい戦いの中、ついに王は追い詰められる。
貧弱な肉体に見切りをつけたダークゼロは正体を現し、勇者たちと対峙。
 
灼熱の隕石を呼び寄せ、辺り一帯を業火で焼き尽くした。
青い閃光を放ち、生きとし生ける者を永遠の眠りに付かせる極寒の世界へ誘った。
激しく荒れ狂う雷光は勇者の体を貫き、一瞬で命を奪った。
漆黒の体に反した虹色の流星群が降り注ぎ、地上の全てを食い荒らした。
 
 
死闘の末、生き残った最後の勇者がダークゼロを討った。
致命傷を負い、大量の星屑と化した暗黒の支配者は直も生きていた。
二度と災いを、悲劇を齎してはならない。
そう決意した勇者は、全ての星屑を特別な術の施された宝箱に入れ、封印した。
 
しかし、気づけば既に国は滅びていた。
民は一人残らず死に絶え、共に戦った勇者も皆力尽き、果てた。
 
もう此処に居ても意味は無い。
 
勇者は一人寂しく、地下世界を去った。
 
 
 
年月は流れ、地下世界には少しずつ自然が蘇った。
世界のへそ近くに位置する地域は花畑で覆われ、かつて都の在った場所は遺跡となり、深い緑のジャングルに囲まれた。
更に長い年月が流れ、TEAM H-TYPEの調査隊が遺跡を訪れた時、ある物を発掘。
それは宝箱から零れていた、漆黒の星屑。
要塞へと持ち帰り、意外な事が判明した。
少量ながらも炎・氷・雷の3属性から成る、高密度のエネルギーを持った星屑。
目をつけたTEAM H-TYPEの面々は星屑を触媒として利用し、新たな兵装の開発に取り組み始めたのであった。
 
 
 
 
その際、お零れとなった物はナイトメアが何故か自主的に引き取ったのだが、よもやこのような形でお目に掛かるとは。
宝石の形に加工し、簡単に装着できる形に仕上げた。
成程、これなら誰にでも装備できる。
 
 
「だけどねぇ、お前なんかにダークゼロの力を使いこなせるか!?」
 
 
ガルクシアの頭上にワープし、頬を膨らませた。
生々しい嗚咽と共に吐き出された球は垂直落下し、着弾と同時に青白い光が拡散。
アイスボウル。
炎に包まれたサーベルを振るい、光弾は掻き消された。
 
 
「吹き飛べぇ!!!」
 
 
マルクを中心に気流が乱れ、凄まじい風圧の嵐が吹き荒れる。
突風。
踏ん張りを効かせるも風に足元を掬われ、床を転がり壁に激突。
地上に降りたマルク、再び頬を膨らます。
今度はアイスボウルでは無く、反動で本体をも吹き飛ばす強烈な光線が放たれる。
マルク砲。
ガルクシアは光に呑まれる。
 
「ほーっほっほっほっほ!!ざまあみろ!!!」
 
今度こそくたばったものと思い、マルクは勝利を確信した。
だが、余韻に浸る暇は無かった。
 
 
 
「思ったよりもやるな。さすがに危うかった」
 
 
 
「!!」
 
 
マルク砲を間一髪で回避したガルクシア、軍帽を整え直し反撃に出る。
左手に携えたサーベルは冷気に包まれ、鋭い氷の刃と化した。
素早く接近し、突きを放つ。
 
「ダークマター族を舐めるな!!!」
 
一発目を外し、すぐさま切り上げ。
流れるように剣を振り回し、マルクの翼を斬り付けた。
 
い痛ァッッッ!!?
 
翼の先端を切り落とされ、苦痛に満ちた悲鳴を上げる。
 
「お前こそ、世界を牛耳る資格を持つこのボクを舐めるな!!」
 
負けじとマルクも連続攻撃を繰り出す。
シード、突風、マルク砲、アローアロー、シューターカッター、アイスボウル。
これ以上反撃の隙を与えまいと、忙しなく動き回る。
しかし、ガルクシアは右の義眼で正確に位置を捉え、炎と氷、異なる属性を持った1対のサーベルを振り回す。
先程とはまるで異なる動きに惑わされ、一撃、二撃と痛手を負わされた。
 
 
クッソォォォォォォォ!!!
 
 
右のサーベルを弾き飛ばすが、右手の意外な怪力で左の翼を半分以上も千切り取られた。
度重なる侮辱に激怒の咆哮を上げ、定まらなかった焦点が正常に戻る。
 
 
こうなったら、こっちも“とっておき”を見せてやる!!!
 
 
ひたすらワープを繰り返し、ガルクシアを翻弄。
5,6回目でその場に留まり、不気味に高笑いを上げた。
するとマルクの顔に縦の亀裂が入り、体液を滴らせながら真っ二つに裂ける。
二つの体の間に黒い穴が出現した時、異変が起きた。
 
「なっ!?」
 
マルクの体が消え、ガルクシアの体は穴の方向へ引き摺られていた。
強大な引力で全てを呑み込む、虚無への空間。
ブラックホール。
 
これこそが、マルク最大の切り札。
 
 
「うぐぐ・・・・・・うおおおおお!!!」
 
 
コンソールにしがみ付き、吸い込まれまいと必死に足掻く。
床材や機器が剥がされ、暗黒の穴へ放り込まれる。
腕の力が無くなりそうになりながらも耐え抜き、ブラックホールは自然消滅。
 
立ち上がると、マルクの姿が見えない事に気づき辺りを見回た。
 
 
『お前にボクの居場所が分かるか?分からないだろう!!』
 
 
声だけは何所からか響き渡ってくる。
しかし、姿は無い。
このままでは何時奇襲を受けるか分からない。
必死に義眼の機能をフル活用し、ジェネレータ室の中を探し回る。
が、何所にも姿は無く、彼の嘲笑う声が響くだけだった。
 
 
『さあ、これでお仕舞いだ!!何が起きたか分からないまま死ねぇっ!!!
 
 
攻撃直前、殺意を込めて放った死の宣告。
その一言でようやく、マルクの潜んでいた場所が分かった。
物陰に隠れていた訳ではない。
この場から逃げ遂せた訳でもない。
マルクが身を隠していたのは――――――
 
 
 
 
 
 
 
そこだぁぁぁぁっっっ!!!
 
 
 
 
 
垂直に飛び上がり、サーベルを頭上に翳す。
視点を変え、初めて分かった違和感。
自分が居た場所に出来た、大きな黒い影。
一瞬形が歪むとマルクが高速で飛び出し、ガルクシア目掛けて突っ込んだ。
シャドウアッパー。
1回目のアローアローを放つ前に披露した、あの不可解な行動と同じ。
待っていたとばかりにサーベルを振り下ろし、眼前を通り過ぎるように落下しながら両腕を削ぎ落とした。
嘗て無い激痛に、堪らず悲鳴を上げる。
間髪入れず、腰に掛けた鞭を両足に巻き付け、床に叩きつけた。
 
 
「ど・・・・・・どうして・・・サ・・・・・・・・・!?」
 
 
自身に起きた一連の現実を受け入れられないマルク。
変身前の姿に戻るも、顔を上げるのがやっとの体力だった。
 
「お前は、その力で・・・・・・何をするつもりサ・・・・・・」
「別に、何てことは無い」
 
 
 
 
「忌々しきシリカに復讐する。ただ、それだけだ」
 
 
 
 
鞭を振り上げ、力無き体を振り回す。
 
「その為にナイトメアの力を借りる。後これはナイトメアの命令だ、逆らうようならば消えろ」
 
彼が狙いをつけているのは、部屋中央の巨大なエネルギー体。
意図が読めた瞬間、マルクの顔が青ざめた。
 
 
「やっ、やめろぉっ!!直ぐに弄った操作を元に戻すから、許してぇ!!」
 
 
ピク、と眉毛が動く。
鞭を解き、マルクの身を解放した。
颯爽と惑星破壊砲のコンソール前まで走り、一切の変更を無効にするよう入力した。
 
≪前回ノ変更ヲ取リ消ス。発射マデ10分前≫
「ど・・・どうサ・・・・・・いくらでも見返りはやるから、今回の一件は、見逃して欲しいのサ・・・・・・」
 
命乞いを請うマルク。
しかし、サーベルの先端は下ろされない。
 
「最後まできちんとやれ。自動操縦に戻すんだ」
「わ、分かってるよ・・・・・・怖い顔するんじゃないのサ・・・・・」
 
手動から自動へ戻すのも、声紋認証によるパスワードが必要だった。
 
 
 
「手動から自動へ」
 
≪声紋認証、「マルク」ト確認。第1パスワードヲ入力セヨ≫
 
「“タヌキ”」
 
≪正解率100%、OK。第2パスワードヲ入力セヨ。難易度1≫
 
「“サンタマイノテガミタノウチ、サタイショタトニマイタメダケハタホンタモノタ”」
 
≪OK。第3パスワードヲ入力セヨ≫
 
「“カンヌキ”、“センヌキ”」
 
≪OK。第4パスワード。難易度3≫
 
「“デセンモンカサイセンゴノテガミハ、カセンボンセクガカツクセンカッタマカセンガイカモノセンカナノサ”」
 
≪OK。第5パスワード≫
 
「“アナグラム”」
 
≪OK。最終パスワード。難易度5≫
 
 
 
「“モウソトカナロオクアルガクヲハシノタマダコマノルサクマナダンヨ”」
 
 
 
 
≪全テノパスワードヲ承認。PDカノン、自動モードニ切リ替エル≫
 
コンソールのモニターが青から赤に変化し、「AUTO開始」の文字が表示された。
 
「こ・・・今度こそ良いでしょ?だから・・・・・・!?」
 
 
再び鞭を振るい、マルクの体に巻きつける。
 
「何をするのサ!!ボクはちゃんとやるべき事をしっかり・・・・・・」
「なあ」
「何サ!!」
「・・・・・・・・・・・」
 
 
 
 
 
「気が変わった。やはりお前は生かしておけない!!!!
 
 
 
鞭を振り回し、エネルギー体めがけてマルクを放り投げた。
マルク、成す術なし。
 
「何で・・・・・・!!お前、まさか!!!」
 
 
ガルクシアは一体、何に気づいて殺意を取り戻したのか?
それがマルクに分かった時、最後まで言い切る事は出来なかった。
高密度の煮え滾るエネルギー体に接触し、熱さに苦しみ悶えながら取り込まれていく。
 
 
最後に発した、断末魔の悲鳴。
 
 
 
 
 
 
 
プギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!
 
 
 
 
 
 
 
息絶え、完全にエネルギー体と同化。
二度と這い上がる事は、無かった。
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
≪発射マデ五分前。危険ナノデ直チニ退去セヨ≫
 
物言わぬガルクシア、黙ってジェネレータ室を後にする。
その面持ちは、複雑だった。
 
 
 
5分後、予定通りに惑星破壊砲が発射された。
だが、予想以上の負荷にオーバーヒートを起こした事がきっかけで、砲身が爆発。
被害は深刻で、完全に復旧するまで数千年はかかるとの見込みが出た。
最も、役目を終えたに等しいので然したる問題ではなかったが。
 
 
 
 
 
 
 
それから数千年。
 
 
 
 
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あまり当てにならない補足
 
 
マルクの技名
・・・基本的にウルデラの攻略本が元。
 
「突風」と「マルク砲」
・・・攻略本によってごちゃごちゃなんですが、ここではそれを逆手に、二つを独立した技として扱いました。
  突風が実質オリジナル技で、マルク砲が従来の「突風」にあたる攻撃だと思ってください。
 
パスワードの内容
・・・こればかりは自分で答えを見つけてください。
  最後の奴はどこで区切るかが重要です。
 
 
 
 
 
 
マルクについて
・・・ウルデラをやった事がある人なら、このまま終わらないのは明白でしょう。
  最も、来るべき頃には彼への恨みはとっくに薄れているでしょうけど。