サード

 

 

 

 
 
 
 
 
 
デデデ城の会議室前。
何時ものワドルディ達に代わって、見慣れぬ格好の兵士達が扉を塞ぐように立っていた。
 
「只今大事な話し合いが行われている最中だ。お引取り願おうか」
「何よ!!私は大臣令嬢よ!?」
 
一般兵の装備とは思えない、両端に大き目の刃が取り付けられた槍。
先端を床に突き立て、直立不動を貫く二人の帝国兵。
会議の場に割って入りたいフーム達にとっては、実に許しがたい障害であった。
 
「ああ、もしかしてこの中にいるパーム大臣とやらの娘か?」
「その通りよ!!私にも会合に参加する権利があるわ!!」
「所詮は令嬢だろう?親の威光を笠に着て威張るつもりか、惨めだな」
「何だと!!」
 
いきり立ったブンが帝国兵の一人に飛びかかる。
 
「俺の姉ちゃんを馬鹿にすんじゃねぇっ!!!」
「おおっと」
 
ひょいと軽々しく避け、挑発するわけでもなく再び直立不動を貫く。
 
「この野郎っ!!」
 
もう一度攻撃しようとした瞬間、帝国兵の目つきが変わった。
 
 
「帝国軍を何だと思っているんだ、餓鬼」
 
 
突き出された拳を片手で掴み、そのまま胸倉のサスペンダーを掴んで身体を床に叩きつけた。
全力で反撃されたのか、ブンは痛みで床を転げまわる。
滑稽な様を嘲笑することなく、帝国兵は冷静な態度を取り続ける。
 
「此処のヤワな兵士とは格が違うぞ。我々は一人でも対向車を潰せるほどの厳しい訓練を積み重ねてきた」
「子供が政治に口出しするものじゃない。投票するなら20歳になってから・・・だ」
 
 
 
何て連中だ。
リムラの話では、あくまで帝国軍は民間人の生活と安全を守る事に重きを置いていると言う。
だが、一度でも物理的に敵意を示せば容赦ない反撃をお見舞いする。
丁度この時のように。
 
ブンとて、形式上は大臣子息だ。
危害を加えられそうになったからとは言え、こうも無下に扱うとは。
正直言って、ダークマター族の価値観は分かり兼ねる。
いや、分かりたくも無い。
堂々と他所の国に忍び込み、バカンスを楽しもうとした巨大植物。
人の彼女を略奪しようと卑怯な手口を使った、最強のストーカー吸血鬼。
親戚の姉妹を人体実験の材料として欲した、暗黒の変態魔導師。
そしてカービィを無慈悲なまでに追い詰めた、鉄の冷たい心の戦闘ロボット。
ここまでろくでもない連中を、平気で抱えている帝国軍は異常だ。
内2,3者は民間人にまで被害が及びかねない力、性格の持ち主だというのに。
 
 
これだから、軍隊は嫌いだ。
 
 
 
「ブン、大丈夫?」
 
したり顔の帝国兵達を睨みつけ、ブンの元に駆け寄るフーム。
彼は未だに呻き声を上げていた。
 
「ちっくしょう!こんな奴ら、カービィさえ居ればコテンパンにやっつけてくれるのに・・・!!」
「無駄だ」
 
得意げに槍を振り回し、二人の帝国兵は息の合ったパフォーマンスを見せつける。
腹立たしいとは思いつつも、反論への糸口が見つからない。
ブンを初めとして、相手のペースに呑まれてしまっていた。
 
「我々はコンビのみならず、複数人でのチームプレーについても徹底的に仕込まれている」
「カービィと言えども、マターサ・ジェネラルスの華麗なるコンビネーションは敗れないさ。ハッハッハ・・・」
 
 
力無き姉弟はただ、指をくわえて悔しがる他なかった。
 
 
 
 
_____________________
 
 
 
 
 
ディガルト帝国軍による、突然の電撃訪問。
数日後、それが一人のジャーナリストによって世間に明るみに出るや大騒ぎとなったのは言うまでもない。
 
 
 
 
 
デデデ大王らとの間で行われた会談は、大佐の思惑通りトントン拍子に事が進んでいく。
少佐は特に出しゃばった真似をする事もなく、横で中佐の愚行を制止する任に徹していた。
 
 
先ずは貿易。
一歩先の技術を行く帝国では、自動車よりも高性能な「電気自動車」が一般的な乗り物。
先進国を気取りたいデデデにとっては、さぞ聞き逃せない話だろう。
デデデは試験的導入として一台を国家予算で購入する代わりに、使い古しのジープとデデデカーを無理矢理売りつけた。
エヌゼットに特注ヘリコプターの「デデデジャイロ」を作らせた事で不要となったのである。
丁度マイカーが欲しかった中佐には棚から牡丹餅であり、快く買い取ってくれた。
 
 
続いて、互いの領地に対する絶対的不可侵を約束する条文に双方が判を押した。
デデデは初めから富強国と争うなど御免だと内心思っていたが、帝国もまた似たような考えを持っている。
理由は勿論、カービィという存在に対する危機感。
如何に量と質を兼ね備えた帝国軍と言えど、最強の機械兵を打ちのめした者を相手にすればただでは済まされない。
 
 
その後も税関、輸入出取引、安全保障条約と、様々な取り決めを交わしていく。
更に帝国軍の掲げる理念やBBB問題等を語り合い、双方の利害一致を確認。
帝国と手を組めば絶対的安全を保障すると熱弁を振るい、デデデ以外の大臣らを納得させた。
弱小国にも関わらずここまで至れり尽くせりの厚遇を受けては、敵だと疑う余地は無きに等しいだろう。
 
この会談における重要なポイントは、とにかくデデデ大王らプププランド側の人物達と親睦を深める事。
それは今回のカービィの一件を含め、こちらで不信感を持たれることなく自由に行動できるようにするには必要不可欠であった。
特にBBBはこの先、目的の邪魔となるカービィ一味を始末しようと何らかの手段を講じる可能性が非常に高い。
少しでも敵を掃討するには、彼らが直接プププランドへ乗り込んで来たその時を狙うしかない。
 
プププランドと同盟を結ぶとは、そういう意味でもあるのだ。
カービィの監視及び排除だけが、我々の目的ではない。
むしろ大佐は、心の何処かで切に願っているのであろう。
 
 
カービィが我々にとっての切り札に転じる事を。
 
 
 
「大佐殿、そろそろ・・・・・・」
 
一旦椅子を降り、大佐の傍に駆け寄る。
少佐の耳打ちに応じると、軽く咳払いをした後にデデデ達の方を向いて言った。
 
「・・・では、そろそろ本題に入らせてもらおう」
「本題?ど、どういう意味ですかぞい?」
 
これで会談は終わるものだと本気で思っていたのか、デデデは驚いた顔をしている。
言葉の真意を問い質そうとパームが切り出す。
 
「ダークマター大佐殿?おっしゃる意味がよく・・・・・・」
 
 
 
 
「・・・時に、貴公らはカービィに対してどのようなイメージを抱いている?」
 
 
 
 
「え・・・?」
「い、いきなり何を?」
 
突然の質問に戸惑うプププランド側。
 
「貴公らのカービィ像を直感的でも良い、率直に申し上げてもらいたい」
「しかし、な、何故・・・・・・?」
「誰でもいいから早く答えろ!!兄者はこういう事に関しては気が短いんだぞ!!」
 
机をバンバン叩き、迅速な回答を求める中佐。
行儀が悪いので直ぐに少佐のどつきを喰らった。
 
「パーム、お前から話せぞい!」
「ええっ!?そんな・・・」
「いいから早く答えるでゲス!」
 
無理矢理せかされ、パームが椅子から立ち上がる。
 
 
 
 
「勿論、私達の平和な暮らしを守ってくれる素晴らしいヒーローだと思っています。ただ・・・」
「ただ?」
 
 
「何というか、あまりにも強すぎて危険ではないか、というのが私個人の本音です」
 
 
「・・・」
 
 
 
やはり、そうであろう。
ヒーローなどというものは架空の人物であって然るべきだ。
高層ビルを怪力で倒すような異端者が身近に住んでいては、人々も気が気でない。
悪人をきちんと懲らしめてくれるのならまだしも、間違いで一般市民に危害が加わるようであれば信用は一気に落失する。
忽ち居場所を追われ、ヒーローの立場を揺らがせてしまうのだ。
 
それはカービィも同じこと。
今まではその力を魔獣相手に振るって来たからこそ、村人に信頼されてきた。
だが、もしもその力が人々に向けられたら?
 
 
 
「メーム、君はどう思う?」
「え?ええ・・・・・・私も夫と同意見ですわ。特に、この間なんてうちの子供が危険な目に遭いそうに・・・・・・」
「それは一体?」
「貴方がたの送り込んだロボットと戦って、カービィが暴走したとかなんとか・・・・・・」
 
 
フーム達から聞いた話を説明し、帝国との関連を指摘するメーム。
一方の大佐は初めて聞いたかのような表情をしてみせる。
 
 
「・・・ロボット?存じ上げぬ。むしろ部下が暴走したとしか言い用が無いな、申し訳ない」
「そんなはずは・・・・・・現に上からの命令だったと娘は・・・」
 
 
本当は大佐の命令であったはず。
さらりと嘘をつく辺り、非常に怖いものを感じる。
 
 
「カービィは我が国を脅かす危険因子ぞい!人民どもの食料を強奪し、魔じゅ・・・いや、動物虐待を繰り返す大犯罪者ぞい!!!」
 
 
言葉を遮り、でたらめな嘘でまくし立てるデデデ。
以前はカービィを追放しようとあの手この手で試みていたらしいが、そこまで憎いか。
 
 
「へ、陛下!?何をおっしゃいますか!!カービィは・・・」
「黙れパーム!!奴を危険だと言ったのはお前ぞい!」
 
 
胸倉を掴み、怒鳴り散らす。
こちら側にカービィは危険な存在だと刷り込ませたくて必死のようだ。
 
 
「確かにそうですが、私はあくまで・・・・・・」
「ワシとしては、あのピンクの悪魔こそ魔獣!!国から追い出さねば真の平和は保障されんのだぞい!!」
「ぬるいな」
 
大佐が割って入る。
 
「何!?」
「今の彼をその程度の言葉で形容することは出来ない」
「では、なんだと・・・・・・」
「SSS級」
「え?」
 
 
言ってしまった。
カービィを信頼するものに対して明かしてはならない事実を。
 
 
 
 
「宇宙を震撼させた犯罪王アーカイブス。カービィはそれと同レベルの危険な人物だ」
 
 
 
大佐は淡々と、アーカイブスにまつわる話を始めた。
かつての彼が犯した残虐非道な犯罪を語るたび、会談の空気が一段と凍りつく。
アーカイブスを知らぬ者にこの話をすると、決まって顔が青ざめる。
異常だからだ。
彼の行いが、思考が。
 
 
「では、カービィは宇宙の平和を脅かす犯罪者だと言うのですか!?」
パームが語気を強める。
 
「そうでは無い。まともに己の力を制御できぬままでは人災が起こりかねない」
「要はミックスコピーとやらを使いこなすことが出来れば良いのですね?」
「ご名答、パーム大臣。しかし我らには時間が無い。直ぐにでも確かめなければならない」
「確かめる・・・・・・?」
 
 
帽子の中から携帯無線機を取り出す。
かけた相手は、帝国の誇る最強マシン。
 
「あ、兄者!これでは予定が!」
「やはり駄目だ。今回に限っては段取りを踏んでいる余裕など無い」
「だからって何も・・・!」
 
 
「HR-C、カービィを見つけ次第戦闘を開始しろ」
 
 
 
「ええっ!?」
≪了解≫
「もし再び「暴走」するような事があれば・・・・・・止むを得ない場合に限り、完全に排除せ」
ちょっとぉ!!!
 
 
扉を蹴りでこじ開けた、一人の少女。
彼女が大臣の娘という話は聞いていたが、弟より活発ではないのか?
 
「あんた達、またカービィを酷い目に遭わせようとしているの!?いい加減にして!!!」
「・・・またお前か」
 
大佐は表情一つ変えない。
 
「兵士はどうした!?」
 
見れば兵士の姿はどこにも見えない。
 
「あいつらだったら今頃ソードとブレイドが戦ってるぜ」
更にもう一人、彼女の弟。
 
 
「しっかしまぁ、無礼なガキ共ですねぇ、大臣!!」
「も、申し訳ありません!!ほら、フーム・・・」
「パパが謝る必要なんて全っっ然ない!!これ以上好き勝手させないわ!!」
「・・・ほう、どうすると?」
 
 
「私だってすぐに暴力振るうほど馬鹿じゃないわ。一刻も早く、この国から出て行きなさい!!」
 
 
「勝手なことを言うでないぞい!!」
「無理な話だな。お前達が事の重大さを理解しているかどうかも疑わしい」
「さっきの話は盗み聞きさせてもらったわ。確かにカービィは危険かも知れないけど、あんた達よりずっと頼れるヒーローなんだから!!」
 
 
「・・・・・・力をコントロールする能力があれば、の話だがな」
 
 
「だったらもう少しだけ待って!!カービィの戦士としての力は日々成長している、そのうち・・・・・・」
「待てぬ。もう時間が無いのだ・・・・・・・・・・・・・?」
 
 
大佐の口が止まった。
静かにするよう周りに促し、聴覚を研ぎ澄ましている。
 
 
「・・・・・・・・・・・」
 
 
部屋の中を注意深く見回し、巡回する大佐。
気配を感じたのか、中佐も背中の氷を発生させて臨戦態勢に移行。
まさか、我々以外に何者かが潜んでいるのだろうか?
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・サーチマター、姿を現せ」
「分かりました」
 
 
 
 
 
 
 
空間の一部が歪み、現れたのは奇妙なリアルダークマター系の男。
中佐が背中に装着した武器と同じ要領で、6機ものカメラ付きアームを体の後ろ部分に繋いでいる。
 
 
「わあっ、びっくりした!!」
「驚かせてすいません。私は週刊帝国の編集長、サーチマターと言います」
「彼は帝国内で唯一、我々への批判が許される特異なメディアに属している。お前達寄りのダークマターだと思うがいい」
 
 
落ち着いた優しい声が特徴的なサーチマター。
たしかに帝国軍の面々と比べれば、まだ信用できる方だろう。
 
 
「兄者・・・何時の間に連れて来たんだ?」
「気分を悪くするだろうと思って、言わなかった」
「・・・初めまして、フームさん」
 
何所からか名刺を取り出し、フームに渡す。
 
「私は大佐殿の言うとおり、帝国民でありながら貴方がたの味方です」
「あ、ありがとう・・・・・・ねぇ、あんた達が注意深く探していたのって・・・・・・」
「サーチマターは違う。他にネズミが一匹どこかに紛れ込んでいる、頼む」
「分かりました」
 
 
6機のカメラのレンズが赤い光を点し、サーチライトの如く部屋中を照らす。
サーモグラフィーで熱源を探しているのだ。
ある1機がテーブルの中央で向きを止めると、他のカメラも追従。
一同の視線がテーブルの中央に集中した。
 
 
「BBBだったら危険ですね」
「・・・・・・やれ、中佐」
「任せろ、兄者!!」
 
 
中佐の専用武器である冷凍装置「バーブレス」のうち、手の代わりだった両脇2機の先端が開口。
それぞれ2門の銃口から青白い棘が頭を出し、狙いをテーブルに定める。
 
 
「はぁっ!!」
 
 
ガトリング砲のごとく無数に撃ち出された氷の弾丸。
一本、また一本と力強くテーブルを突き刺し、滅茶苦茶に破壊した。
 
 
バーブレスは生成した氷の刃を剣代わりにして戦うだけではない。
体と装置をコードで繋いでいるとは言え、伸ばせる距離などたかが知れている。
そこで近年、6機あるバーブレスの一部に銃機構を組み込んだ。
遠距離の戦いが不得意という中佐の短所を改善するため。
短期決戦用に威力は非常に高く設定されており、最大出力で撃てば打ち所によって即死も有り得る。
 
今回は最大の半分にも満たない出力だが、これだけ大量に撃ち込まれては生きている確率も絶望的。
中佐も絶対に仕留めたものだと確信していた。
 
 
「どうだっ!?」
「・・・・・・まだだ」
 
 
 
 
 
 
「あー危なかった。危うく特ダネを抱え死にするところだったわ」
 
 
 
 
天井を見れば、シャンデリアの上に一人の女性。
外見からヒューマノイドだと直ぐに分かり、その忌々しい顔には見覚えがあった。
 
 
「誰ぞい、あの女は!?」
「あっ!!貴様はレイチェル!!!」
 
 
レイチェルは手に持ったビデオカメラをショルダーバッグに忍ばせ、身構える。
 
 
「一部始終、しっかり撮らせて頂きました」
「何のつもりだ!!」
「決まっているじゃないですか、宇宙一早い特ダネとして報道するんですよ?」
「特ダネぇ?そりゃ美味いのかぞい?」
「貴様ぁ!不法侵入に盗聴までやっておいて、よくもまぁヌケヌケと!!」
 
 
 
 
「そもそも今時の国政はオープンであるべきです。人々は公平に知る権利が与えられているのですから」
 
 
 
「はん、いつもの屁理屈か!」
「屁理屈ではありません。私達は報道の自由と正義に乗っ取って取材活動をしている迄ですが、何か?」
「こんのぉ!!」
 
銃を構える中佐に対し、レイチェルは平然と言い放つ。
 
 
「撃つならどうぞ?帝国軍の皆さんは社会的信用を落とすこと間違い無いでしょうけど」
 
 
「くっ・・・・・・」
「発想を変えろ、中佐。拘束すれば良いだけの話だ」
「あら怖い。都合が悪くなれば結局口封じですか?」
「HR-C!!」
 
 
大佐が叫ぶ。
壁が突然崩れ、HR-Cが姿を現した。
 
 
「げっ、何時の間に!?」
「よくも人のお城を!」
「それを言うならワシの城ぞい!」
「やれ、HR-C。危害を加えずに捕らえろ」
≪了解≫
 
 
 
即座に両腕を伸ばし、鋏が口を開く。
一本目は回避したが、二本目がシャンデリアのチェーンを掴んで引き千切った。
当のレイチェルも負けてはおらず、軽やかな身のこなしで床の上に着地。
ほぼ同時にシャンデリアが轟音を立て、飾りを撒き散らし落下した。
 
 
≪ターゲット、逃走開始≫
 
あっという間に走り抜け、部屋の外へ。
傍観した形となるHR-Cを中佐が叱咤する。
 
「何やってんだ、馬鹿!!早く捕まえろ!!」
 
中佐に頭を叩かれると足裏のスラスターで高速移動し、彼女の後を追った。
 
 
「・・・全く、とんだ邪魔が入った・・・・・・?こんな時に、電話?」
 
無線機とは別の携帯通信機を帽子から取り出し、応答。
相手は思いも寄らない人物だった。
 
 
「もしもし、ダーク大佐だ。・・・・・・・・・エミジか」
 
 
 
「え!?」
「は!?」
「何ですってぇ!?」
「嘘だろぉ!?」
 
 
 
≪イヒヒヒヒ!!嘘じゃないっよ~~~ん♪≫
「こんの馬鹿エミジぃ!!貴様謹慎処分を出したのに勝手に抜け出しやがって!!!」
≪何?俺に指図すんのぉ?だってダークライセンス持ってんだぜぇ~?≫
「んなもん関係あるかぁ、アホ!!」
≪へーえ、そんな態度取っちゃうんだぁ。昔と違って俺はもっと強くなったよぉ?その気になれば帝国首都壊滅ぅ?ヒャハハハハハハ!!≫
 
この狂気に満ちた喋り方、間違いなく狂血院エミジそのもの。
連絡が途絶えていたので少々不安だったが、健在であった事を喜ぶべきかどうかは微妙なところだった。
 
「エミジ!!まだしぶとく生きていたのね!」
≪そー↑だ↓ぜぇー!!↑↑↑≫
 
何せ、特殊部隊の中でもかなりの切れ者だ。
それも精神的な意味で。
基本的に命令を聞かない性質なので、扱いが非常に難しい。
 
 
「またシリカの事狙ったら承知しねぇぞ!!」
≪やなこった♪そんな事言ったらお前の姉ちゃん食っちまうぞ!!!
「ひっ・・・・・・!」
「・・・からかうために電話したのか?」
≪んーん?ところであんた、どーしてプププランドになんか居るのぉ?≫
「色々あってな」
「ふん!!」
 
 
 
 
≪じゃあ気をつけた方が良いぜ。・・・「オボロヅキ」がこの星に来ている、マジで
 
 
 
 
「!!!」
 
切れる通信。
エミジが発した言葉に驚く大佐。
勿論、自分達も驚かぬはずがあるまい。
 
 
 
非常にまずい事になった。
まさか、”奴”がこんなにも早く訪れようとは。
目的は”アレ”狙いであることは明白だ。
しかも奴が持っているもう一つの能力の事を考えると、エミジが痕跡を発見してから報告に至るまでの間、もうプププランドに大分近づいている可能性が非常に高い。
我々が想定していた当初の予定は大幅に狂わされてしまった。
 
 
 
「・・・・・・大佐殿」
「兄者!」
 
 
「分かっている。・・・・・・緊急事態だ、カービィの件はひとまず不問とする。安心しろ」
 
 
少佐と中佐を引き連れて外に出、足早に去っていった。
 
 
「中佐は私と来い。少佐はHR-Cの代わりにレイチェルの方を追え」
「分かりました」
「分かった!」
「HR-Cは当然"オボロヅキ"の相手をさせる。カービィなどと闘わせては万全の状態ではなくなる、行くぞ!」
 
 
 
_______
 
 
 
 
「・・・・・・陛下ぁ?」
「うーむ・・・・・・さっぱり分からんぞい」
 
 
 
 
 
「・・・・・・何がどうなっているの」
 
 
目まぐるしく次々と起きた出来事。
唖然とするフームに、サーチマターが声をかける。
 
 
「・・・・・・帝国も焦っていますね。”彼”が来てしまったのだから」
「サーチマター・・・・・・さん?」
「ああ、私の事は呼び捨てで結構ですよ。何故か親近感が湧いてくるので、貴方がたには」
 
 
彼女も不思議と、帝国側の人物では彼にだけ抵抗感を持たなかった。
 
 
「なぁ、サーチマター!”オボロヅキ”って何なんだよ?」
「・・・今、フォトロン族が最も恐れている「辻斬り」ですよ」
「つじぎりぃ?」
「今で言う、通り魔みたいなものね」
「・・・・・・彼は恐ろしいですよ」
 
 
 
 
 
「放っておけば、全てのフォトロン族が死滅してしまうかも知れません」
 
 
 
 
 
 
 
_________________
 
 
 
 
出会いは、突然だった。
 
 
 
 
きゃ~~~~~~~~~~~!!!!」
 
 
 
 
 
デデデ城で行われていた壮絶な駆け引きなど知る由も無く、原っぱで呑気に昼寝を楽しんでいたカービィ。
 
ソルジャーズ・バーストが通り過ぎていたことなど勿論知らない。
更に言えば、近くでリムラが寝転がっていたことも知らない。
もっと言えば、あれだけ快晴だった青空が何時の間にか一面曇り空に覆われていた事も知らない。
 
今日も平和な一日だと思った、その矢先の事であった。
 
 
空から突然、自分より小さな体の少女が落下してきたのである。
 
 
しかも、ただの人ではない。
赤い子供服を着ていた彼女の背中には、虫のように透き通った2枚の羽が生えていた。
カービィは以前フームから聞いた話を思い出し、「妖精」の一種ではないかと確信する。
 
 
「ぽーよ?ぽーよ!」
「うぅ・・・・・・・・・」
 
 
頭から落下衝突したショックで気絶し、目を回している。
重症ではなかったようで、すぐに目を覚ました。
 
 
「・・・ああ、どうしましょう。早くクリスタルのことを誰かに知らせないと・・・・・・」
「?」
 
うろたえる妖精の少女。
後ろでカービィが不思議そうに見ていた事に気づき、振り向く。
 
「え?・・・・・・あっ!!もしかして!!!」
「ぽよ?」
 
 
 
「あなたがウワサのカービィさん!?」
 
 
 
「ぽーよ!カービィ、カービィ!!」
自分の名前を呼ばれ、喜ぶカービィ。
 
「ああ良かった!偶然にも宇宙を救ったヒーローといきなり出会えるなんて・・・」
「ぽよ?」
 
ほっと一息ついた少女、いきなりとんでもない話を持ちかけてきた。
 
 
 
 
「わたし、リボンって言います。いきなりで申し訳ないけど、折り入ってあなたにお願いがあるんです!それも、宇宙の存亡をかけた!!
 
 
 
 
「じょんぼおぉ!?」
突飛なスケールの大きさについていけないカービィ。
 
 
「はい!ワケは追って話しますが、今は”オボロヅキ”という男を捜してほしいのです!」
「おぼろゆき?」
「カレはとっても危険なダークマターです!どうか、あなたの手で倒してください!!」
 
 
話を聞く限りでは、とりあえず”オボロヅキ”という名の危険な人物を探し出して倒せば良いらしい。
それならば簡単であろうと思ったのか、内容を理解したカービィは彼女の頼みを快く引き受けた。
相手が見ず知らずの妖精であるにも関わらず。
 
 
「ぽよ!!」
「やってくれるんですか!?ありがとうございます!!」
 
 
初対面なのに、自分の頼みを聞いてくれたカービィ。
リボンは彼の心の広さに感動し、深々とお辞儀した。
 
 
「わたしはこの星へ向かう途中で”オボロヅキ”にぶつかってしまって・・・・・・」
「ぽよ・・・」
「彼はプププランドからすごく離れた所に落ちましたが、それからけっこう時間が経ちました」
「ぽ?」
「”オボロヅキ”は能力の一つとして、影の中を自由自在に移動できるんです!今ごろ、猛スピードでこっちに向かっているかも知れない!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『残念だな、もう来ている』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「「!!!」」
 
頭の中に声が響く。
テレパシーだ。
しかし、一体どこから声を飛ばしているのか?
辺りに人の姿は全く見えなかった。
 
「あなたは・・・・・・!」
『妖精族の少女ごとき、何をしようと無駄だ。例えカービィを味方につけても、な』
「ぽよっ!!」
 
 
自分を馬鹿にされたと怒るカービィ。
 
 
「ぽよ、ぽよ、ぽよっ!」
『生憎だが、お前の相手などしていられない。どのみち太陽さえ無ければ俺は無敵。戦っても勝てはしない』
 
 
それきり、謎の声は聞こえなくなった。
リボンの反応からして、例の”オボロヅキ”である事には間違いない!
 
 
 
「おーい、カービィ!!」
 
 
 
そこへタイミングが良いのか悪いのか、トッコリ乱入。
 
「大変だぞ!さっきの飛行機・・・・・・ん?誰だそいつ?」
「あ、初めまして!わたし、リボンって言います!」
「ふーん、で?そのリボンがこんな田舎まで何しに来たんだよ?」
「実は今、大変な事が・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
突然、森の方で巨大な爆発。
 
 
 
木々は軽々と吹き飛ばされ、そのうち一本がこちらまで飛来。
しかも爆炎は赤くない、むしろ紫色の禍々しい力が遠くからでも見て取れた。
 
 
 
 
 
「な、なんだぁ!?」
「カービィさん!恐らく"オボロヅキ"です、急ぎましょう!!」
「おぼろづきぃ?何だそりゃ?」
「ぽよ!!」
「あっ!ちょ、オイラも混ぜてくれよぉー!」
 
 
 
 
 
 

 

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