フォース

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
厚い雲群に覆われたププビレッジ。
何十人もの兵士と白銀の機械兵を引き連れ、ダークマター大佐は黙々と丘を下り続けていた。
 
 
「急に天気が悪くなったな、兄者」
「ああ。奴が来ている証拠だ、急ごう」
 
 
帝国軍にとって予期せぬ事態、オボロヅキの襲来。
彼の望まれぬ来訪が、下手すれば帝国の筋書き自体を狂わせようとしていた。
 
 
「あーもう!だぁーもう!!オボロヅキといい例の件といい、今年の帝国はなんちゅう厄年なんだ!?」
「今ここで怒っても意味は無い。鬱憤は“オボロヅキ”にでも晴らせ」
「そうする!!」
 
興奮している己に自制をかけ、心を落ち着かせる中佐。
 
「・・・・・・・・・ところで兄者、例の件の見当はついているのか?」
「・・・・・・ああ。あくまで私の予測だが、恐らく―――」
 
 
 
 
≪前方200m先、3人のリアルダークマター系ダークマター族を視認≫
 
 
 
 
HR-Cが大佐の言葉を無視してまで遮った。
それほどの知らせに敵か、と身構える。
 
「・・・ク・・・・・・・・・による犯行だと思うのだが・・・」
「今度こそBBBの連中か!総員、戦闘準備!!」
「・・・・・・・・・・・・よく見ろ」
 
中佐の肩を叩き、黙って先を指差す大佐。
 
 
 
 
 
 
「てめぇら!!こんな時にスローライフ満喫しやがってよぉ!!!」
明るめの赤い瞳の男が他の二人に怒鳴り散らしている。
 
「そのせいで城に駆けつけるのが遅れたって言いたいんだろ?」
「当たり前だ!お前らが農作業やってるって気づかなかったら延々と探し続けてたぞ!」
「いいじゃんよ、こんな平和な村に住んでいたら、任務とかどうでも良くなってくるし」
「リムロぉ!!このメンツで一番まともなお前がそんな事言うなんて・・・・・・ウッ・・・ウッ・・・・・・」
 
 
 
 
 
 
このふざけたやり取りは紛れも無く、ダークトリオだった。
 
「・・・あんの大馬鹿どもぉ・・・・・・!!!」
怒りで背中のバーブレスが震える。
 
「ところで中佐」
「どうした兄者!」
 
 
 
「彼らに連絡はしておいたのか?あの様子では全く知らないようだが」
 
 
 
大佐の言葉に戸惑う中佐。
確か、現地に着いてから連絡するはずだったのでは?
 
「えっ・・・・・・こっちに着くまで別にしなくても良いだろうって言ったのは、兄者では・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・・・・≫
「う・・・何時の間にか、俺のせいという事になっている・・・・・・」
 
そうだ、冷静に考えてみよう。
後で連絡すれば良いと言っていたが、大佐自身が直接連絡するなどとは一言も言っていない
責められても仕方ない、人任せの自分が迂闊だったようだ。
大いに反省すべしである。
 
 
 
「「「あっ!!」」」
 
 
ようやくこちらの存在に気づいた、当の3人。
相も変わらぬ馬鹿ぶりには頭が痛くなる。
 
「・・・・・・ダークトリオ。任務はどうした?」
「そりゃこっちの台詞ですよ!!俺らに黙って何ですかこりゃ!」
 
やはり連絡が無かった事を根に持っていたらしい。
だがこの場で腑に落ちなかったのは、何故か大佐が責められている事だった。
 
「生憎、時間が無いものでな」
「はん、大佐殿らしくない言い訳ですねぇ~」
くぉらあ貴様ら!!
「「「うひぃっ!!?」」」
 
責任の追及が見当違いの人物に向けられるのは、妙に不愉快だ。
耳を塞ぎたくなる声量で3人を黙らせる。
 
 
 
 
「今は緊急事態だ!!俺達はこれより、コールサイン“オボロヅキ”の討伐に向かう!!!」
 
 
 
 
「え!!!あのオボロヅキぃ!!!?」
オーバーリアクションだが、事の重大さは把握したようだ。
 
「そうだ!!奴も何を考えているんだか、今回突然・・・・・・!」
「大方フォトロン狙いじゃないんですかぁ?」
 
普通はそう考えるのが筋だろう。
しかし、この国の人口は大半がキャピィ族。
デデデ大王やエスカルゴンのような多種族がいるだけでも珍しいのに、ましてやフォトロン族など居る訳がない。
 
「この国にフォトロン族などいない!!だから何を考えているのか分からんと言ったろ!!」
「カービィは?」
 
成程、在り得ない訳でもない。
邪魔な要因は早めに潰しておきたいという魂胆だろうか。
 
「・・・・・・多分、そっちの可能性もあるだろうが・・・とりあえず、貴様らはププビレッジで民間人の保護にあたれ!!」
「ええっ!3人でそんな無茶な!!」
「どこ優先して守れば良いんスかぁ!?」
「村長の家?」
「警察署?」
「レストラン?」
「ガソリンスタンド?」
「灯台?」
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ、喧しいーーーーーーー!!!!」
 
 
 
 
ゴチャゴチャ言わんで、さっさと持ち場につけぇい!!!
 
 
その日一番の怒号がプププランドに響き渡った。
 
 
 
 
 
 
__________
 
 
 
 
 
オボロヅキ。
それは秘密結社BBBの幹部「ダークマター」を指す隠語、コードネーム。
或いは彼の剣の名称か、彼そのもの。
以前より「フォトロン殺し」の大罪を犯していた彼だが、オボロヅキを手にしてから益々凶悪化。
一部からは「攻撃が全く効かない」などという恐ろしい声まで上がった。
 
 
何故、彼は凶行を重ね行くのか。
何故、フォトロン族を激しく憎むのか。
何故、同族であるはずの帝国までをも憎しみの対象として捕らえるのか。
当人のみぞ知る真相は、彼以外の誰も知らない。
否、誰も過去の話を聞いた試しが無いのだ。
 
本当の事を話したところで、常人には決して理解されない。
だから今も昔も、己が復讐を果たさんが為にBBBの下で暗躍する。
 
全てのフォトロン族に、国家に、死をもたらす事こそが唯一の望み。
 
 
 
 
 
「・・・・・・お初に目にかかる。魔獣ハンター、ナックルジョー」
 
 
何の変哲も無い森の中で果たして、そんな危険極まりない思想を抱いた人物に出くわそうとは誰が思ったであろうか。
少なくとも今この場にいる、ナックルジョーとシリカの二人は予想していなかった。
 
 
「てめぇは・・・・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・!!!」
 
言葉が出ないシリカ。
視線の先にはマントを身に纏い、ゴーグルを付けた男。
外見から判断して、恐らくはダークマター族。
静かな、しかし明確な殺気を二人に向けて発している。
 
 
 
 
何故ここにいるのか等、知らん。会って早々だが、お前の命を刈り取る」
 
 
 
 
鞘より抜かれた魔刀オボロヅキを掲げるなり、突然宙に浮いて飛び掛るダークマター。
彼の殺意を最も多く注がれたのはシリカだった。
ナックルジョーはとっさに彼女を突き飛ばし、剣の一振りをキックで蹴り払う。
仕留め損ねたと理解したダークマターは剣を横に構えつつ後退し、彼女を見やった。
 
 
「何のつもりだ、いきなり!!」
「今言っただろう、その娘の儚い命を散らすのだと」
「させねぇよッ!!スマッシュパンチ!!!」
 
 
拳から大きな気弾が放たれる。
スマッシュパンチ。
ダークマターの顔面に気持ち良いほど完璧に命中。
 
「やったか・・・・・・・・・」
 
だが、ジョーは素直に喜べなかった。
むしろ嫌なものを見たかのように表情が固まり、背筋まで凍りつく。
 
 
 
 
 
「下らん」
 
 
 
 
 
無傷。
ダークマター、全く動じない。
 
 
「嘘だろ・・・・・・直撃してかすり傷一つすら付かないなんて・・・・・・!!」
「その程度の攻撃で俺に勝てるとでも思ったか、浅はかな奴だ」
 
 
顔の埃を払う動作を取り、余裕の姿勢。
 
「フォトロン狩りに時間をかけるのは好きじゃない。早々に終わらせよう」
 
オボロヅキを天高く掲げると、剣先に邪悪な光が収束。
どす黒い紫色のそれは渦を巻き、徐々にサッカーボールほどの大きさがある球状の光を形成した。
色合いが半端なものではなく、相当量のエネルギーが凝縮されているのだと一目で分かる程。
 
 
 
「消え失せろ、下等生物」
 
 
 
剣先のエネルギーボールは二人ではなく、地面に向かって叩き付けられた。
途端に巻き起こった、巨大な爆発。
衝撃も爆風も通常の爆薬とはケタが違う。
正に息を吹きかけられた埃の如く、軽々と吹き飛ばされるジョー、シリカ。
 
 
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「しっかり捕まってろぉぉッ、シリカぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 
 
 
 
決して引き離されまいと、互いに手を繋ぎ握り締める二人。
 
 
その光景はダークマターにとって誤算と言えるものだった。
 
「・・・一人ずつ狩るつもりだったが・・・・・・まあ良い」
 
 
剣を鞘に仕舞い、木の影の上に着地。
体は見る見るうちに地中へと沈み、同化していく。
ここへ来た時と同じように影の中を伝い、シリカを探索するつもりだった。
 
 
 
 
 
 
「そうはさせません!!!」
 
 
 
 
呼び止められ、潜行を中断。
 
「お前は、さっきの・・・」
 
彼の前に現れた妖精族の少女。
よく見れば、ポップスターへ向かう途中で弾き飛ばした者と全く同じ姿。
同一人物である事は疑いようも無い。
 
 
「リボンです!これ以上、あなたに悪い事をさせる気はありません!!」
 
 
そして彼女の傍には、ピンクの球体と黄色いハチドリらしき小鳥。
前者については以前より噂だけ聞いていたし、何よりも先程その姿を確認していた。
星の戦士、カービィ。
 
 
「如何にカービィの力を以ってしても、無駄だ」
「プッ、何だコイツ!変な髪形に変なゴーグルつけやがって、バッカみてぇ!」
「・・・無駄かどうかは、やってみなきゃ分からない!カービィさん!!」
「ぽよっ!!」
 
 
口を大きく開け、凄まじい吸引力で前方の物を無差別に吸い込みまくる。
リボン達は巻き込まれないようにと彼の後ろに避難。
あまりにも吸い込む力が強すぎて、少しでも範囲内に重なっていると体の軽い者はたちまち引き込まれそうだった。
 
 
「・・・・・・」
 
 
対するダークマターは全く動じない。
先程まで立っていた位置から、1センチたりとも微動だにしなかった。
 
「おいおい、アイツ全然動かないぞ!?」
「う~、だったらコレを!」
 
ポケットの中を探り、爪楊枝ほどの大きさしかないミニチュアの剣を取り出す。
れっきとした刃物ではなく、完全な玩具だった。
 
「いくらカービィでもなぁ、そんなママゴトに使うようなモノじゃ変身できねぇよ!」
「いいえ、きっと大丈夫!!」
 
投げ飛ばされた剣はカービィの口内に吸い込まれ、腹の中に納まる。
 
 
 
「終わったな」
 
 
 
子供なりの苦肉の策を嘲笑うかのごとく、オボロヅキを振りかぶって急接近。
直ぐにでも回避行動を取らねば叩き切られる事は間違いない。
 
「カービィ!!」
「カービィさん!!」
 
カービィは動かない。
こんな時に相手の真似をして何を考えているのか、トッコリはこの状況下で呆れ気味だった。
魔刀はカービィの脳天を見据え、怪しい光を放つ。
 
「貴様の血肉もオボロヅキの糧としてやろう。死に晒せ――――ッッ!!?
いきり立った矢先、驚愕。
 
 
 
存在しなかったはずのもう一つの剣が、それを阻止せんと受け止め切っていた。
 
 
 
真っ二つに分断せんと振り下ろされた魔刀が、動きを止める。
ソードカービィ。
 
 
「やったじゃねぇか!ありゃソードカービィだ!!」
「カービィさん、どうぞ思いっきり!!」
「ぽよ!!」
 
変身と同時に防御した彼は、ダークマターが油断している隙にオボロヅキを弾き返す。
 
「ちぃ!!」
 
続け様に剣を高速で振り回し、切り刻む。
ミジンソード。
だが、肉体にはおろかマントにすら傷がつかない。
 
 
「小賢しいぃッッ!!!」
「ぽよぉっっ!?」
 
 
呆気に取られるカービィを反撃の一振りが襲いかかる。
バックステップで回避し、今度は刀身に収束させたエネルギーを斬撃に変えて一閃。
ソードビーム。
いかなる物体も一刀両断する、一撃必殺の奥義。
 
「ふん」
 
恐ろしい事に、これも直撃したに関わらず無傷だった。
 
 
「その程度で俺に勝てるとでも思ったか」
「ア、アイツはバケモンかよっ!?何て頑丈なんだ・・・」
「・・・そんな・・・・・・!」
 
オボロヅキの剣先に光が集中すると、無数の光弾が矢の如く放たれた。
弾は凄まじいスピードで飛び、木の枝を切り落とし、幹に痛々しい傷を刻み付けていく。
突然の物量攻撃に逃げ惑うカービィ。
 
 
 
「もうお遊びは、この辺にしておきたい」
 
 
 
手も足も出ない様子の彼を嘲笑し、背中を向ける。
垂直に高く飛び上がり、影の中にダイブ。
完全に姿を消してしまった。
 
 
『俺は成すべき事を終わらせる。そしてまた一歩、理想郷へと近づいてく』
 
 
全ての攻撃に対して無傷。
ガトリング砲の如き無数の光弾。
地中に潜る。
目の前で見せられた不可解な現象に戸惑い、混乱するトッコリ。
 
 
 
「何なんだよ、アイツ・・・・・・カービィの攻撃は効かねぇわ地面の中に潜っちまうわで、トンでもねぇな!!」
「ダークマターの力はあんなものじゃありません・・・その気になれば、この辺を荒れ地に変えることも・・・」
「ぽよ!」
「・・・まだ、遠くには逃げていないはずです。追いましょう!」
「えっ、また走るのかよ!!」
「ぽよ!ぽーよぉ!!」
「分かってらぁ!そりゃオイラは確かに飛んでいるけどさぁ!!」
 
 
 
 
 
 
_______________
 
 
 
 
 
ダークマターの襲撃に遭い、先程のポイントから遠く離れた池に落下した二人。
 
 
 
「何てパワーだ、畜生!」
「とりあえず、大怪我しなくて良かったわ・・・」
 
 
大事には至らなかったものの、服はずぶ濡れ。
敵の気配がしない事を考えれば乾かすなら今だろう。
 
 
「動かないでね、ジョー」
シリカは背中の改造銃を手に取り、大胆な方法を取った。
 
 
 
 
「えっ!?」
 
 
 
 
火炎放射モードに切り替え、ナックルジョーを炎で炙り出す。
人目につかない場所で脱ぐのが恥ずかしいと思ったのか、それとも単に面倒くさいと感じたのか。
いずれにせよ、斬新な方法で服を乾かそうと考えていた事は明白だった。
 
「・・・・・・・・・何すんだよ、お前はぁっ!」
 
服と髪が若干焦げたジョー。
火力の調節を一歩間違えれば灰になりかねないものだった。
 
「この方が早く乾くから良いでしょ」
「そりゃ確かにそうだけどさ!」
 
 
 
 
「・・・それとも何?私が脱ぐのを期待していたとか?」
 
 
 
 
「えっ・・・・・・いや、そうじゃなくて・・・」
思わず赤面するジョー。
 
「うわー、ジョーってばヤラシイー。」
「ち、違うって!!」
「変態、スケベ、えっちぃー」
 
軽蔑の眼差しでからかうシリカ。
一方のジョーは益々顔を赤らめ、ムキになっていた。
 
 
「誤解だってば!第一、俺がお前の裸なんて好き好んで見るわけ・・・」
「冗談よ。・・・ま、別に見せてあげても良かったんだけどねぇー?」
 
徐に靴を脱ぎ、ちらりと生足を覗かせる。
更に色目まで使い、右目でウィンク。
 
 
「ば、馬鹿!とにかくお前のも乾かしてやるから、じっとしてろよ!!」
「はいはい」
 
もう惑わされるものかと、心に決めたジョーであった。
それよりも今は、圧倒的に気になる事が一つ。
 
 
 
 
「・・・それにしても、ダークマターの奴がどうしてプププランドに・・・?」
 
 
彼が此処に来た理由。
何故かシリカの命を狙っていたようだが、理由がよく分からない。
BBBに恨まれるような事をした覚えも無かった。
 
 
 
「・・・・・・・・・」
 
 
 
そして、当人は視線を逸らす。
無関係を装おうとしているのが見え見えだった。
 
 
「なぁ、お前は何か心当たりあるか?」
 
 
「・・・・・・・・・」
 
 
「・・・答えろよ。どうしてさっきから何も言わないんだよ」
 
 
「・・・ジョーには関係ない」
 
ぶっきらぼうに答えるシリカ。
 
「!なんだと!!」
「きゃっ!!」
 
その態度がジョーの怒りに触れ、胸倉を掴まれた。
 
 
 
 
 
 
 
「いいから言えよ!それとも、俺なんかじゃ頼りにならないって言うのかよ!!
 
 
 
 
 
 
 
「ッ―――!違う!!」
 
思わぬ誤解を生じさせてしまった事に気づき、必死に否定する。
ジョーも今の怒りは彼の本意でなかったらしく、手を放してすぐに非を詫びた。
 
「悪い、ついカッとなっちまった。今のは許してくれ」
「・・・・・・こっちこそ、私がジョーの事を信用していない風に思わせて・・・ごめんなさい」
 
「無理に言わなくてもいいさ。・・・けどな、今回に限っては相手が相手だ。俺はお前に一人で抱え込ませたくない」
 
「・・・・・・ありがとう」
 
 
ジョーは近くの切り株の上に座り、一緒にどうかと手招き。
少々恥ずかしがりながらも隣に腰を下ろすシリカ。
 
 
「・・・・・・あいつが、ダークマターがフォトロン族を憎んでいるのは知っているよね」
「ああ」
「無関係とも思える私がどうして狙われるのか、分かる?」
「知らないからこうして訊いているんだろ」
 
 
曇り空を仰ぎながら訊いた。
その表情は、どこか虚ろ。
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・私の母さんが、フォトロン族だったから」
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・」
 
 
「理不尽だよね。フォトロンの血を引いているだけで、こんな・・・」
 
 
 
ダークマター。
彼の憎む対象はフォトロン族だけでなく、その血を引く者まで含まれると言うのか。
異常な動機からして、相当強い憎しみを抱えているのが伺える。
 
 
 
「そうだな。あいつの過去に何があったのか知らねーけど、俺は絶対に許すつもりは無ぇ!!」
握り拳に力が入るジョー。
 
 
 
「・・・・・・けど、私達は――――――!?」
 
 
 
 
 
 
爆発。
地を揺るがす激震が走った。
遠くで先程のダークマターのそれと同じ現象が起きたようで、空に向かって紫色の煙が立ち上っている。
 
 
「また、あいつが・・・・・・!」
「ここも危険だ、直ぐ逃げるぞ!!」
 
切り株から降り、爆発のした方角と反対方向に逃走。
絶対に逃げ切れないとすれば、少しでも長く生き延びさせたい。
 
 
 
「絶対、絶対にシリカを殺させやしねぇ!!」
 
 
 
 
 
 
______
 
 
 
 
 
2度目の大爆発が起きた爆心地。
無傷のダークマターを中心に周囲の木々が跡形も無く消滅していた。
 
 
「やるな、俺のガストボマーを跳ね返すとは」
 
 
視線の先には、黄金色の剣を携えた仮面の騎士。
 
 
「年老いてもなお健在か、メタナイト」
「・・・フッ。カービィの成長を見届ける以前に、このギャラクシアの忌まわしき因縁を断ち切るまでは死ねない!!」
 
 
助走をつけて大きく跳躍し、頭上から刺しにかかった。
下突き。
それを軽々とオボロヅキで受け止めるダークマター。
 
 
「愚かな。背負う必要も無い使命を勝手に感じおってからに」
「オボロヅキはこれ以上、人の手には渡らせん!!」
 
 
「何を言うか!それもまた、運命よ!!」
 
 
振り払い、剣先から光弾を乱射。
上手く着地したメタナイトは襲い来る凶弾に対し、鮮やかな剣捌きで全てを受け流す。
 
 
「罪も無い人々の命を殺め、持ち主すらも呪い殺して何が運命だ!今のそなたも、オボロヅキの操り人形に過ぎぬ!!」
「戯言を。俺はオボロヅキを逆に制御する事に成功した。故に俺は正常だ!!」
 
 
全身が紫色の光に包まれ、猛スピードで突進するダークマター。
間一髪で避けるが、仮面に僅かながら傷がついた。
 
「うらぁ!!」
空振りだと悟ったダークマター、振り返ってすかさず切りかかる。
 
「させん!」
互いに剣が交差し、押し切り合いへと発展。
 
 
 
「知っているか!?これはフォトロンの命を簡単に奪える魔刀だ!聖地に封印されなかった事で、どれほど多くのフォトロン族と生き物が!」
「それは貴様のギャラクシアも同じ事だろう!!ジャッジメント・グランドに安置されるまで、フォトロンの連中がそれで俺達を虫けら同然に殺した!!」
「くっ・・・・・・」
 
怒りと憎しみで更に力を入れるダークマター。
その勢いと本来有する驚異的な力でメタナイトを押し込めようとする。
 
ギャラクシアもまた、血塗られた剣であった。
かつて「光闇戦争」の引き金となった、フォトロン族によるダークマター族の殺傷沙汰。
その際に用いられていたのが現在メタナイトの持つ、この宝剣。
 
 
「平和と秩序を司る、聖なる宝剣だと?笑わせてくれる!頭の悪い愚か者どもの玩具として振り回されて、何が平和だ、秩序だ!!!」
「確かに、ギャラクシアの力はダークマターにとって害そのもの・・・だが!!」
 
 
 
一旦は怪力に圧倒されたメタナイトだが、負けるものかと抵抗して押し返す。
 
「真に害か福かは、持ち主の心が決める!!」
「ぐっ!」
 
押し出し、よろめいた隙に薙ぎ払って一閃。
マントを切り裂いても、体に傷をつけることは叶わなかった。
ダークマターが何らかの力で得た無敵能力が、一切の攻撃を拒絶するため。
 
 
「・・・俺の肉体はギャラクシアをも通さぬ。このタネが分からぬ限りは無敵!」
「おのれ・・・・・・!!」
「今度こそ行かねば・・・さっきのカービィもそうだが、俺は無敵だからと言って、いちいち遊んでやるほど暇ではないのだ」
 
 
影の中に潜り込み、姿を消すダークマター。
メタナイトは追わなかった。
無敵の秘密も分からないまま戦いを挑んだところで、いたずらに体力を消耗するのみ。
 
 
「・・・・・・やはり、あの雲か?一体どういう関係が・・・・・・待てよ、カービィの力を借りれば・・・・・・」
 
 
良い策を思いついたメタナイトは、カービィを探すために場を後にした。
ダークマターが真に狙っているのが誰であるか、本当の目的は何なのかを気にしながら。
 
 
 
 
 
「フォトロン族が潜伏していたとしても、たったそれだけの為に訪れるとは考えにくい・・・・・・奴の狙いは何だ!」
 
 
 
 
 
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