シクス

 

 

 

 
 
 
 
 
凶暴な魔獣、クラッコリベンジを倒す方法があるとサーチマターは言った。
あの時、どうして彼はフームに覚悟を問うたのか。
理由が解るまで時間は掛からなかった。
何故なら。
 
 
「・・・・・・何よ、コレぇ・・・・・・・・・!」
 
 
サーチマターが取り出したのは、どこまでも全身黄色のボディースーツ。
大きさからして、下に何も着ないで着用すれば体のラインがくっきり浮き出てしまうサイズ。
更に驚いたのが、こんなものを作り出した人物。
 
 
「コレはバームという方が発明したモノです。10万ボルトの電流にも平気で耐えられるのです」
「・・・こんなんでクラッコリベンジの攻撃を防げるの?」
 
悪いと思いつつ、疑いの眼差しを向ける。
よりによって父親の弟の発明品。
恥ずかしさだけでなく、ある種の罪悪感にも苛まれた。
 
「防げますよ、ええ」
 
平然とした表情で言ってのけるサーチマター。
悪気は無いのだろうから尚更腹立たしい。
 
「・・・もしかして、コレを着てカービィと一緒に戦えって言うの!?」
「はい。一緒にワープスターに乗って、傍でアシストするのです。それが勝率を上げる方法です」
 
勝率を上げる「だけ」。
どんな秘策かと思えば、肩透かしを喰らわされた。
期待するだけ無駄だったのだろうか。
尤も、クラッコとの戦いでもソードビーム以外の決定打が見つからなかったのだから、これは当然といえば当然かもしれない。
いや、しかし。
カービィの為とは言え、よもやこんなものを着なければならないのか。
 
「カービィはこういうの着なくても大丈夫なのかよ?」
「ええ。このスーツは色々と多機能なもので、少なくとも一緒にいるだけで存分に効果を発揮します」
「だからって冗談じゃないわ!!こ、こんな恥ずかしいもの、着られる訳が・・・・・」
「・・・どんな辱めにも耐えられると言ったのは貴女ですよ」
 
 
一転して冷たい視線を送るサーチマター。
 
「そ、それとコレとは話が別で・・・・・・」
「言っておきますが、その服の上から着せると肩の部分が破れてしまいますよ。全部とは言いませんから、なるべく・・・」
「え?!ぬ、脱がないとダメ・・・・・・?」
「!?」
 
傍で思わずドキリとするブン。
何を妄想しているのか、顔が赤くなっている。
 
 
「・・・誰も全部脱げとは言っていませんよ。いずれにせよ、強要は致しません」
「~~~~~~~!」
 
 
心の中で繰り広げられる葛藤。
羞恥心を捨て、あのスーツを着るべきか。
それとも乙女の恥じらいを優先し、カービィとの同行を断念するか。
相手がクラッコよりも強いと分かっている以上、サポートは必要かもしれない。
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「・・・まあ、説明を躊躇っていた私にも責任があります。ですから、私個人としてはノーと言っていただいても――――――」
 
 
申し訳なさそうな顔で頭を掻き毟るサーチマター。
必ずしも必然という訳ではないと念を押す。
ならば、恥を感じてまで着用する義務は無いはず。
 
 
「何なら、ブン君にでも――――――」
「私がやる」
「!!」
「姉ちゃん!?」
 
けれども、カービィの敗北だけは絶対に想像したくない。
絶対に。
 
 
 
 
「・・・カービィの為なら何だってするわ。その代わり、着替える時間を頂戴」
 
 
 
 
 
こうして、恥を忍んでまでスーツの着用を選んだフーム。
後でワープスターを呼んだ時の、カービィの非常に驚いた顔は忘れられない。
また、彼やトッコリと一緒にいた見知らぬ妖精の女の子に、僅かながらもジェラシーを抱いたのはこれが初めてだった。
 
「誰なの、あなた?」
「コイツはリボンって言うんだ!それよりお前、なんちゅうカッコしてるんだよ、なはははは!!」
「悪いけど、これからあの雲の主を倒しにいかなきゃならないの。リボン、お話は後で聞くけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です!・・・・・・ところで、トッコリさん」
「あん?」
 
 
 
「この星の女の子って、かなり前衛的な「ふぁっしょん」が好きなんですね・・・」
 
 
 
 
幼いが故に悪意を含んでいないのは分かっている。
あの言葉が、どれほど自分の心を傷つけてくれた事だろうか。
 
「・・・・・・今は忘れましょう」
「ぽよ?」
 
 
兎にも角にも、クラッコリベンジ討伐作戦の火蓋は切って落とされた。
デデデ城を出発した後、村の上空を通過。
 
 
「おーう、やっとヒーローのお出ましかい!」
「期待しているぜ、カービィ!!」
「“オボロヅキ”には気をつけな!ガチで殺り合ったら、命いくつあっても足りねえぞ!!」
 
 
この格好を村人やダークトリオ、特にメタナイト卿には絶対見られたくない。
死角に隠れようと、なるべくワープスターの中央に這いつくばり身を潜めた。
しかし、この体勢では後ろから下半身が丸見え。
 
「カービィ、もうちょっと高く飛んで・・・・・・この姿でいるだけですごく恥ずかしいんだから・・・・・・」
「ぽよ?」
「いいから、もっと高く!!」
「ぽ、ぽよ!!」
 
 
ワープスターは一気に上昇、更に加速する。
恐る恐る地上を見下ろすと、何者かが集団を相手取っている様子を目撃。
さしずめ、“オボロヅキ”とやらが帝国軍と戦闘中なのだろう。
 
こちらにはワープスターがあるだけ、地上戦よりは分が良い。
とは言えサーチマターやトッコリの話によれば、相手は影を使った厄介な能力者。
雲ごと目的のクラッコリベンジを排除しない限り、傷をつけることすら叶わないと言う。
今“オボロヅキ”に接触する事は自殺行為に等しい。
 
幸か不幸か、“オボロヅキ”は気づく素振りを全く見せなかった。
罠か、と一瞬疑ってみたが、何も反応は無い。
迎撃される前にと距離を開き、雲の渦の中心に接近。
そのまま一気に突入した。
 
 
内部は紫色の雲で形成されたトンネルのようで、異様かつ禍々しい雰囲気が漂う。
壁の彼方此方(あちこち)で放電現象が発生しており、迂闊に近づくのは危険極まりない。
時にはプラズマがプロミネンスの如く、弧を描いて飛ぶ光景も見られた。
複雑に入り組んでいることから、先ずはクラッコリベンジを探す事に目的を切り替える。
 
 
 
「・・・それにしても、不気味ね・・・・・・さっきから殆ど攻撃してこない・・・・・・」
 
 
クラッコリベンジの元となった、オリジナル体のクラッコ。
まだ空中戦の手段を持たなかったカービィに対し、上空から一方的に雷で狙い撃ちにするなど、非常に攻撃的な魔獣だった。
かく言う自分も攻撃に巻き込まれた経験があり、凶暴性は重々承知している。
 
ところが今回、狙い撃ちはおろか“オボロヅキ”への目立った援護すら行わない。
もしや、カービィと戦うためだけに力を温存しているのか?
 
 
「だとしたら変な魔獣ね・・・・・・亡霊みたい。それも未練がましい」
「ぽよ」
 
 
小さな疑問を切り捨て、周囲を見回す。
これだけの広い空間であれば、クラッコリベンジ以外に敵が潜んでいてもおかしくは無い。
何時来るかも分からない奇襲を警戒していた時だった。
 
 
 
 
「!来た!!!」
コーナーを曲がったところで、フームが指差す。
 
その先には4つの紫の球状物質が周囲を公転する、巨大な赤い瞳の目玉が浮かんでいた。
サーチマターが見せた映像とは大分異なっているが、大方幼生のクラッコリベンジかも知れない。
他に何体もいれば、必ず厄介な事になるのは目に見えている。
 
 
「カービィ、吸い込みよ!!」
 
 
口を大きく開き、吸い込みを開始。
敵は多少引き寄せられる程度で、殆ど吸引力に逆らって飛行している。
あまり効果的とはいえない様子だった。
 
ついに引力圏から逃れ、逃走する敵。
尖兵の類が敵を前に、一目散に逃げ出すような真似はしない。
あれが本物、しかも成長しきっていない幼生だとすれば、ここで撃破しておくに越した事は無いだろう。
 
 
「逃げる気だわ!追いかけましょう!!」
 
 
視界から外すことなく、ワープスターで追跡するカービィ達。
周囲の球体を高速回転させ、敵自身もトンネルの内壁に沿うように旋回、逃走を続けた。
思いのほか素早く、後を追うのがやっと。
 
「!!」
 
風を切り、すぐ傍を横切られた感覚。
何が起きたのかと周囲に目を凝らすフーム。
原因は明らかだった。
 
「気をつけて!あいつはただ逃げているだけじゃない!!」
 
内壁をえぐりながら回る、敵の球体。
引き剥がされた雲の断片は宙を漂う障害物と化し、カービィの行く手を阻む。
厄介なのはそれだけではなかった。
断片同士は接触と同時に合体、更に大きな塊へと変貌を見せる。
 
「ぽっ、ぽようぁっっ!?」
 
奥へ進むにつれ、増していく物量と大きさ。
中には内壁に回帰した塊がそのまま地形の一部となり、通路の幅を狭める事すらあった。
巨大な塊を避けたと思った矢先、それを上回る大きさが立ちはだかる
敵の姿を捉える事など最早忘れ、回避に尽力を尽くす。
クラッコリベンジにしてみれば、まだほんの前哨戦に過ぎないだろう。
こんな所で死闘を演じるわけには行かない。
 
 
大量の雲の塊を切り抜け、ようやく視界を確保できたカービィ達。
敵の姿は見失ってしまったが、心配する必要は無かった。
 
「・・・・・・ここは・・・・・・・・・・?」
 
 
気がつけば、そこはトンネルの出口。
更に広大で、全体的に赤みを帯びている謎の空間。
雰囲気からして此処が最深部か。
 
 
「ぽよ!!」
「どうしたの?・・・あっ!!!」
 
 
今度はカービィが差した手の方向に、先程の敵が静止していた。
こちらに向けて鋭い眼光を放つ目玉。
すると紫色の霧が収束、次第に道中と同じ雲の塊の体が形成されていく。
次々と縞模様の棘を生やし、12本まで増加。
そして中央に浮き出る、赤い瞳の目玉。
 
 
「こいつがクラッコリベンジだったのね・・・・・・来るわ!!」
 
 
身構えるカービィ、フーム。
クラッコリベンジの棘の各頂点を伝うように、青白い電撃が発生。
周囲に向け、電気の球が放射状に発散された。
その数、圧倒的。
ゆっくりと宙を漂った後、ワープスターに接近し始める。
 
 
先刻の雲群にも匹敵する物量を前に、吸い込みを促すフーム。
カービィは敵の攻撃を一つ残らず吸い込むが、飲み込もうとしたところでストップをかけられた。
口の中で一纏めにさせ、クラッコリベンジめがけて吐き出させるのが彼女の狙い。
 
合図と共に放出された、巨大な電気の球。
見事命中するも、さほど苦しまないところを見るに効果は薄いようだった。
 
 
 
「オリジナルの面影が残っているとしたら、やっぱりアレに変身するチャンスを待つしか無いわね・・・!!」
 
 
 
 
必殺を狙う場合、あの時と同じ攻撃が繰り出されるのを待つしかない。
となれば、コピーのチャンスが巡って来るまでほぼ持久戦。
いかに星の戦士や高抵抗とやらのボディースーツでも、それまで耐え切れるだろうか。
 
 
悩む暇は無かった。
回りこむように大きく弧を描き、体当たりを仕掛けるクラッコリベンジ。
上に、と指示を出すフーム。
あと数センチで接触というギリギリのところで、辛くも回避に成功。
 
 
「!思ったより身軽に動くのね、あいつ!!」
 
 
その場に留まるだけの魔獣では無かったのか。
普段のフームらしからぬ、不意に出た軽い舌打ち。
 
敵の攻撃は続く。
八本の棘それぞれから発せられた電流が一点に収束し、一本の強烈な稲妻を生み出した。
かつてクラッコが使用したそれと同じ技。
心なしか、連射の間隔がオリジナルに比べて短い。
しかも、記憶にあるものよりスピードが格段と上昇している。
執拗に発射される稲妻。
ワープスターの軽やかな舞いでかわし切るのも限界だった。
 
 
「きゃあああああああああッッ!!!」
 
 
クラッコリベンジによって後ろに回りこまれ、稲妻はついにフームへ命中、感電してしまう。
 
 
「ぽーよぉ!!!」
「あああああ・・・・・・・・・あれ?」
 
 
痛みは、無い。
ボディースーツが稲妻をシャットアウトしてくれていたのだ。
予想したであろう、体の芯まで焼き尽くされるような感覚も一切感じられず、妙な気持ちであった。
 
 
「凄い・・・・・・見てくれだけで判断してたけど、本当に電気を通さない・・・」
「ぽよーい!!」
 
 
だが、感心している暇すらもクラッコリベンジは与えなかった。
相方に攻撃が通用しないと分かった途端、カービィに狙いを定め直す。
再び稲妻発射。
 
「ぽよぉッッ!?」
 
驚愕するカービィ。
目の前で起きた出来事を理解できず、唖然とするクラッコリベンジ。
無理も無かった。
 
 
 
 
 
一直線に伸びたはずの稲妻は途中で進路を変え、二度フームに直撃したのだ。
 
 
 
 
 
この不可解な現象を一番理解できなかったのは誰であろう、フーム自身だった。
 
 
「どういう事なの・・・」
 
 
雷は高い所や金属に向かって落ちる、というのが一般の定説。
それを抜きにしようがしまいが、あまりにも不可思議極まりない。
何故なのか。
もしや、単なる帯電性を有しているだけでなく、避雷針の役目も果たしているのだろうか?
 
 
サーチマターがそれを把握した上で、このような役回りを自分に与えたのだとすれば、心中は複雑であった。
だが発想を変えれば、肝心のカービィは攻撃を受ける心配が無い。
無論、自分自身も。
ある意味これは、大きな強みかもしれない。
 
 
「まだやる気ね!?」
 
 
再び身構える。
クラッコリベンジの瞳には深紅の粒子が収束。
一瞬のうちに、赤味を帯びたレーザービームが発射される。
発射直前にフームの警告で攻撃を予見できたカービィ、咄嗟にワープスターを急降下させて回避。
 
相手も相当躍起になっているのか、攻撃は一向に止まない。
今度は自ら回転し、レーザー自体を振り回した。
上へ下への移動を強いられ、慌しく動き回るワープスター。
 
 
 
「!来たッ!!!」
そして遂に巡ってきた、反撃のチャンス。
 
 
一点に収束する電流から生成されたのは、剣の形をした稲妻。
クラッコとの戦いで形勢逆転のきっかけとなったそれを、今ここでコピーしない訳にはいかない。
 
 
しかし、些か問題があった。
電気を用いた一切の攻撃は、全てこのボディースーツに向かって引き寄せられていく。
更に、固形でないと言えど、今回は刃物。
ただの稲妻と同じ要領で受け止めようものなら、スーツはおろか肉体を真っ二つに切り離されてしまうだろう。
吸い込みをさせた所で、上手くカービィの口に収まってくれるのか不安で一杯だった。
 
 
「うわ、わぁっ!!」
「ぽよぉっ!!」
 
 
そうこうしているうちに、剣はカービィ達を見据えて襲い掛かる。
切り払い、切り下ろし、突き、回転切り。
いずれの技も確実にフームの方へ吸い寄せられていたが、気を抜かなければ避ける事など造作も無い。
本体も稲妻が効かない事に恐れをなしているのか、無駄撃ちをせずに震えてばかりいる。
想像していたよりは楽にやれそうだ。
 
 
「吸い込んで、カービィ!!!」
 
 
剣の空振りした隙を狙い、カービィは一気に吸い込む。
成す術も無く口の中に放り込まれた剣。
得られた能力は、勿論。
 
「やった!!ソードカービィ!!!」
 
小さいながらも剣の道に優れた達人、ソードカービィ。
変身を終えて早々、何故か居合いの構えを取り始めた。
 
 
「?カービィ、何を・・・・・・」
 
 
カービィの視線の先には、尋常ではない震えようのクラッコリベンジ。
眼球も明らかに血走っている。
あの様子を攻撃の予兆と受け止めていたらしい。
 
 
「!!」
 
 
突如ジグザグに移動してこちらを惑わし、不意に何かを撃ち出した。
紫色に染まり、濁った水球。
真っ直ぐ、しかし重力に引っ張られて落下するそれに対し、カービィは動じない。
 
 
『刹那の・・・・・・・・・』
 
 
焦るフーム。
既に水球は前方、残り数mという所まで迫っていた。
まだ得体の知れない攻撃に曝される事は、ある意味一番の恐怖と言ってもいい。
 
だが、あくまで変身時のカービィは冷静だった。
 
 
 
 
 
見切りッッ!!!!
 
 
 
 
 
目にも止まらぬ速さで抜刀、そして一閃。
水球は上下二つに裂かれ、凄まじき速さで通過していく。
 
 
「凄いわ、カービィ・・・・・・・・・・・・?」
 
 
 
ふと、頭に違和感を覚えたフーム。
気のせいだろうか、やけに頭が開放感に溢れている。
別に漫画作品にありがちな「頭髪が禿げた」という展開でもない事は分かっていた。
そう言えば、あの水球の上部分は頭上スレスレで通り過ぎている。
 
 
まさか。
 
 
 
 
 
「!!!・・・・・・嘘・・・溶けてるぅ・・・!!?」
 
 
 
 
 
ボディースーツの頭を覆う部分は、既に消失していた。
着用するために髪飾りを外し、無理矢理押し込まれていたくしゃくしゃの長髪が露出。
振り返ると、壁の着弾した箇所は泥のように爛(ただ)れている。
 
 
あれは、ただの水球ではない。
下手すれば肉体をも溶かしかねない溶解液だ。
しかし、髪の毛は一ミリたりとも損失していない。
もし、これまた漫画のように、服だけ溶けるというご都合主義的な展開があるとすれば。
 
 
溶かされて死ぬよりも、ずっと最悪な生き地獄が待っている事になる。
 
 
「・・・何てこと・・・・・・!!」
 
 
非常に困った。
現在このボディースーツを取っ払った場合、上はシャツ、下は女性用下着の二枚のみという、実にあられもない姿をさらけ出す事になる。
 
 
「・・・いろんな意味で油断できなくなったわね・・・・・・!!」
「ぽよ?」
 
 
スーツの一部が溶けて動揺したフームを見て、不敵な笑みを浮かべるクラッコリベンジ。
戦況はどちらに傾くのか、まだ予想はつかない。
 
 
 
 
 
 
 
 
___________________________
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ディガルト帝国は自分達にとって、確かに厄介者ではあった。
何でも屋といった稼業の者達を容赦なく取り締まり、それを秩序の安定化などと謳い上げる。
おかげでこちらは、肩身の狭い思いをすることも少なくなかった。
 
 
だからと言って、それを逆恨みしてあんな犯行に及んだとでも連中は本気で思っているのか。
絶対に違う。
これは濡れ衣だ。
何者かが自分とシリカを陥れるために仕組んだ罠に違いない。
現にあの時、帝国の誰かに嵌められたのだから。
 
 
しかし、無実を証明するものが無い。
目で見たものが全てとは言え、結局は物的証拠なしには何も証明されないのだ。
それが一番もどかしかった。
自分達には明らかな濡れ衣だと分かり切っているが、他者はそうでもない。
特に帝国軍は、完璧にこの二人が及んだ犯行だと何者かに刷り込まれている。
剛情な彼らの誤解を解くことは、非常に難しいものだった。
 
 
「畜生!誰が、誰が俺達にこんな仕打ちを!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
留守中のカービィの家に身を潜める、ナックルジョーとシリカ。
食べ物を蓄えておく冷蔵庫など、最初から無い。
森から逃亡中の間に毟った植物の花にかぶり付き、飢えを凌ごうと足掻く。
 
「必死こいて逃げたから腹へって来ちまった・・・食べるか・・・?」
「・・・・・・・・・・・・いい。ジョーこそ、沢山食べないと満足に戦えないでしょ」
「お前だって・・・」
 
今も続く、二人の逃亡生活。
彼らは誰かに事情を理解してもらおうとも考えていないし、理解されようとも思っていない。
ジョーは元来の意地が災いして、他者に助けを求める気が無かった。
 
 
「帝国の捜査網がキツすぎて、このところ満足に飯も食えなかった。もう限界だよ、俺は!!」
「怒ったらダメ!・・・・・・余計、体力を使っちゃうから」
「チッ・・・・・・!!」
 
 
空腹に伴い、苛立ちを募らせるジョー。
シリカに対する態度も雑なものになりかけていた。
 
「・・・・・・今頃、アイツは帝国軍に気を取られて動けないはずだ。どうにか、外に行って食料でも調達できねぇかな・・・」
「・・・・・・待って。これは何?」
 
寄りかかったベッドの傍に落ちていた、一個の木の実。
 
「・・・もしかして!」
 
そう言って、ベッド下の隙間に手を入れる。
手探りで発見したのは、何十個もの大量の木の実。
 
 
「あのトリ野郎、ベッドの占拠どころか自分の分だけしこたま溜め込んでやがったのか」
「丁度良いわ。彼には悪いけど、食べちゃいましょう」
 
 
実の皮を剥ぎ、中身に食らいつく二人。
わざわざ隠していただけあって、木の実としては中々の美味だった。
 
「ジョーったら、歯で割ろうとしているの?まるでリスみたい」
「うるせぇな。どんな方法で食ったって、味は一緒だろ」
 
あれだけ苛々していたジョーも、食事(?)が進むにつれ段々と笑顔が戻りつつある。
取り敢えず、状況はさっきよりも改善された。
 
「・・・さて、どうしたもんかな。カービィが帰ってきたら事情を説明して、暫くここで匿ってもらうか」
「そうしましょう。でも、恐らくここも帝国軍の息にかかるかも知れない・・・」
「おいおい、勘弁してくれよ・・・・・・」
 
冗談が悪い、とジョーは苦笑い。
 
 
「もう追われるのはうんざりだぜ」
 
 
 
 
「同感だ」
 
 
 
 
「・・・・・・?何か言ったか、シリカ?」
「え?ううん、何も」
「・・・・・・じゃあ、今の声は・・・・・・・・・!!」
 
二人の顔が青ざめた。
今の言葉を喋ったのは、誰でもない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「貴様らが大人しく己が非を認めれば、我々も面倒臭いことをせずに済んだものを」
 
 
 
 
 
 
 
 
ディガルト帝国軍最高司令官、ダークマター大佐。
彼は自ら玄関の扉を開け、そこに居た。
 
 
 
 
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