セブンス

 

 

 

 
 
 
 
 
どうしてここが分かったとばかりに唖然としている、二人の反逆者。
 
 
「ようやく君達に会えて、私は嬉しいぞ」
そう言い、大佐は微かに不敵な笑みを浮かべた。
 
 
 
「くそっ!!てめぇ、どうして此処が分かったんだ?」
「実に丸分かりだった。遠方に見える不審者の姿も捉えられないで、陸軍大佐はやっていけない」
「・・・・・・最初からバレてた、って事・・・!?」
「如何にも。幾度も我々の追跡を振り切った事だけは評価に値する」
 
一歩分ずつ距離を詰め、逃げ場を与えぬよう暖炉の前に追いやる。
近くの窓から逃走しようという彼らの魂胆はお見通しだ。
 
「しかし、どこまで逃げられるか?大人しく観念しろ、逃げ得こそ許されざる罪だ」
「へっ、濡れ衣着せられて何が罪だ!俺達は犯人じゃない!!」
 
この期に及んで己の罪状を否定する、金髪の少年。
外見からナックル族と判断するには時間を要しなかった。
 
「まだ言い逃れする気か」
「・・・本当は公に言ってしまってはいけないんだけど、私達は何でも屋稼業をやっているの」
「シリカ!!」
 
聞いてもいないのに己の素性を明かした、銀髪の少女。
調べでは、かの銀河戦士団員ガールードの娘だと聞く。
 
「依頼という形で、真犯人を探せと言われれば喜んで引き受けるわ。例え無報酬でも、無実を晴らせるなら安いものよ!!」
被害者気取りもいい加減にしろ
 
 
大佐の冷たい、しかし憤怒に満ちた瞳が光る。
言い知れぬ悪寒を感じ、身震いする二人。
 
 
「再三言ったであろうに。お前達以外に誰がいると言うのだ?と。もう戯言に付き合っているほど時間はない、大人しく投降しろ」
「嫌だと言ったら?」
 
大佐に向けられた、握り拳と銃口。
どうあっても拘束を受ける気は無いらしい。
 
「・・・仕方ない。このような平穏の地で使いたくは無かったが・・・」
 
リモコンらしきものを取り出すと、中心のスイッチを押した。
 
 
「何しやがった、てめぇ!」
「・・・万が一、有事の事態が起きた時に我々は備えておかねばならない。ここへ向かう途中で私の愛車を浜辺に投下したのだ」
 
相手が武器持ちにも関わらず、徐に背を向ける大佐。
 
「何てことは無い、ただの“愛車”だよ。ただの、な」
 
あくまで普通だと言い切る。
二人はあからさまに怪しい言葉を訝り、敵意を解かない。
 
「・・・あんたの言う事には何時もウラがある。これ以上変なマネされる前に、痛い目遭わせてやろうか?」
 
肩を慣らし、一歩前に踏み出し始める。
気づいたシリカが慌てて静止した。
 
「止めて、ジョー!!相手は帝国軍のトップよ!?」
「軍どころじゃねぇ!!今じゃ帝国のトップだ!!どうせ野心家のてめぇの事だ、“例の件”とやらも全部仕組んだに決まっている!!」
「・・・・・・フ。下らない妄想だ」
「何だと!!」
 
いきり立ったジョー、静止を振りほどいて殴りかかった。
大佐は微動だにしない。
このままでは後頭部に鉄拳が直撃する事になる。
 
 
 
「そして、甘いな」
 
 
 
両脇に浮かぶ遠隔操作式の機械手が、ジョーの拳を軽々と受け止めていた。
 
 
「なっ・・・・・・・・・」
「命令を出すだけの司令塔は無能だと思っていたか?」
 
更に片方の手はシリカに素早く接近し、力ずくで改造銃を奪い取った。
手馴れた様子でバズーカ形態に切り替え、銃口を胸に突き付ける。
 
「あ・・・・・・!!」
「!シリカ!!」
 
掴んでいる手を振り払い、大佐に飛び掛るジョー。
ところが、振り払われた手は頭上に回り込んで逆襲を図った。
握り拳を強く叩きつけ、地に伏せさせる。
 
「ぐぁっ!!」
「愚か者め。この“ゴッドハンド”に可動制限の無いことなど、一目見ただけで分かるはずだろうに」
「ジョー!!」
「私の意識ひとつで、貴様のお友達は四肢が飛び散る事になるぞ
 
まともに立ち上がる事もままならず、その場でうずくまるジョー。
シリカは砲口を向けられ身動きが取れない。
下手な行動を取れば、いつでも灰に仕立て上げられる。
 
 
「・・・大人しく投降すれば、愛車が出る幕はない。お前達の身の安全は保障されるのだ」
「ぐぅ・・・・・・口はそう言っているけどよ・・・実際は拷問にかける気マンマンだろ・・・・・・?」
「つまらん男だ」
 
 
突然、床に散乱していた木の実の殻が振動し始める。
“愛車”が直ぐ其処まで近づいている証拠だ。
 
 
「・・・我々は不殺を掲げてはいるが、同胞の命を殺めた者に限っては命で償ってもらう。当然の事だ。特に、我らが―――」
「そうは行かねぇ!シリカをそんな目に遭わせてたまるかってんだ!!」
 
突然起き上がったジョー。
倒れ込んだのは演技だったか。
すかさずバルカンジャブを繰り出し、改造銃を弾き飛ばす。
たまたまシリカの方に飛ばされた為、奪われる事なくキャッチに成功した。
 
「大丈夫か、シリカ!!」
「え、ええ・・・・・・危なかった・・・・・・」
 
不意を突かれた大佐。
いや、この程度は想定の範囲内だ。
外にアレがある以上、単独での行動に拘る必要も無い。
 
 
そうだ、この二人の親は星の戦士だ。
一体何を手加減する必要があったというのか。
優れた実力の持ち主たる彼らが、生温い手段などで大人しく捕まってくれるはずが無い。
 
 
「・・・宜しい。ならば、この家ごと吹き飛ばすまでだ」
 
そう言って、玄関から飛び出した。
後を追う二人。
家の外で待ち受けていたものを目の当りにし、驚愕。
 
 
「!!・・・何だよ、これ・・・・・・・・・!?」
「こんなものが、どうして・・・・・・!!」
「驚くのも無理はないだろう。こんなものを見せ付けられては、な」
 
 
大地を揺るがし、蹂躙するキャタピラ。
前方に向かって雄々しく構える3本の砲身。
側面に堂々とペイントされた、帝国のシンボルマーク。
 
 
彼が愛車と呼ぶそれは、他者に言わせれば何所をどう見ようと戦車そのものだった。
 
 
 
しかも只の戦車ではない。
車体は深紅を基調とした派手なカラーリング。
その他火器も充実しており、背中、側面の左右にロケットランチャーが2基ずつ配置。
両腕を成すアームキャノン、キャタピラガードの仕込み刃に至っては戦車の枠を超えている。
もはや戦車という名のロボット兵器である。
 
 
「・・・分かっているよな、シリカ」
「・・・・・・ええ」
 
 
考え込むあまり、二人の呟いた言葉が耳に入らない大佐。
それだけ、これ以上事を荒げたく無い気持ちが人一倍強かった。
 
 
何せ軍には一人、天敵がいる。
我こそが法律などと極論を述べるその男は、左遷に自分が一枚噛んでいたことをただ一人知っていた人物。
彼は“例の件”の発生が防げなかった事を理由に、マターサ・ジェネラルスの失墜を目論んでいる。
根回しすれば抑えこむ事など容易いものだが、それでは後々追求を受けた時に不都合だ。
 
しかし、彼らの罪は非常に重い。
たかが命を奪ったところで、「不殺」のポリシーに反するなどと責められる事は無いだろう。
出来れば、そうすることなく穏便に済ませたいが。
 
 
「さて、もう私を怒らせないでくれ。これが最後のチャンスだ。大人しく捕まるか、痛みを伴って捕まるか。二択――――――」
無論、彼らには大佐の事情など知った事ではない。
 
 
 
 
 
「「どっちも断る!!!!」」
 
 
 
 
 
二人一緒に声を揃えて、断固拒否。
 
 
「濡れ衣のまま十字架を背負って生きるのは真っ平ゴメンだわ!!」
「こんなつまんねぇ事で死んじまったら、末代までの恥だ!」
「えっ!?ま、末代・・・・・・?」
「は?オメェ、こんな時に何で顔が赤く・・・・・・・・・ハッ!ち、ちがっ、俺はそういう意味で言ったんじゃ・・・!!」
 
 
少しは物分りが良いと思ったが、ハッキリ言って失望した。
何遍語り合おうとも、決して分かち合える事は無いだろう。
 
 
「・・・・・・もういい」
 
 
消す。
消さずとも、この上ない苦痛を味わわせてやる。
 
 
「ダークマター大佐こと、このダークが直々に駆る戦術高火力重戦車『クリメイシェナー』によって、盛大なキズモノになると思え。覚悟しろ
 
 
 
 
 
 
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フームは悩んでいた。
 
こんな恥ずかしい格好をしているからでは無い。
クラッコリベンジに反撃する糸口が見つからないためでも無い。
今、彼女にとって一番の悩みのタネ。
それは。
 
 
「どうしよう・・・・・・あんな攻撃を持っていたなんて・・・・・・」
 
 
スーツが溶け、あられもない姿を曝される危険性がある事。
 
 
酸性を伴った水球の存在を思い知らされて以降、フームは何かと及び腰だった。
万が一命中してしまったら、自分にとって只事ではない。
勿論、あのような攻撃を使う頻度はそれほど多くないだろうと期待していたのだが、現実はそうもいかなかった。
 
「あいつ・・・・・・追い詰められる度にどんどん攻撃が激しくなっているわ!!」
 
耐電性のスーツを着用したおかげで、クラッコリベンジの雷攻撃は無力化。
ソード能力を手にしたカービィの快進撃に支障を来たす事は無かったが、此処に来て問題が発生。
ソードビームを何度も命中させていった所で、突如クラッコリベンジが凶暴化したのだ。
複雑な起動を描いて体当たりを繰り返すかと思えば、四方八方へ雷を乱射。
サーチマターの情報にあった強力な技、クロスサンダー。
勿論スーツの効果で完全にシャットアウト出来るが、あの水球まで乱発し始めたのだから堪ったものではない。
更に。
 
 
「上よ!!」
 
 
ワープスターの上方に回り込むと、体の下部より大量の濁った水滴を投下。
一滴だけ腕に付着し、その部分だけが溶けた。
まさしく酸性雨。
防御手段を絶つ為に、向こうもとうとう本気を出し始めたようである。
 
「あー、どうしよう!!何かあいつの気を引くものは・・・・・・」
 
滅茶苦茶な移動。
しかし、明確な殺意を持って攻撃を放っている。
待った。
何故この一連の攻撃、特にスーツを排除せんとする行動を積極的に取り続けるのか?
そうだ、自分が傍に居るからだ。
「カービィを倒す」という目的を根幹から邪魔しているため。
つまり自分さえ居なければ、クラッコリベンジは気兼ねなくカービィへの攻撃に集中できる。
と、いう事は。
 
「ぽよ?」
 
 
敵が放つ攻撃の回避指示を与えつつ、フームの脳内では驚愕の作戦が組み立てられていた。
 
内容は単純だ。
自分は一旦ワープスターを飛び降り、カービィへの放電攻撃の干渉を及ぼさないようにする。
干渉範囲がどれ程のものかは不明だが、とにかく傍を離れなければクラッコリベンジにとって理想の戦闘環境が整わない。
それに、スーツの損失を恐れている自分が、今のカービィにとって厄介なお荷物である事は事実だ。
本人がそう思っていなくとも、肝心の司令塔が恥ずかしがってこのザマでは攻撃も何もあったものではない。
 
一番肝心なのは、飛び降りた後。
無論の事ながら、この時点でカービィはボディースーツの恩恵にあやかる事が出来なくなる。
従ってこのままでは、クラッコリベンジのほぼ全ての攻撃が通用してしまう。
ではどうするか。
答えはこれまた単純。
 
 
やられる前にやる、ただそれだけに尽きる。
 
 
「カービィ!よく聞いて・・・・・・・私が合図を出すから、それまでに・・・・・・・・・」
 
我ながら賢さの足りない作戦だと思う。
倒した後の事は考えていない。
ワープスターに助けて貰えば済む話だが、万が一救助が間に合わなければどうなる事か。
 
 
「・・・・・・んやー!んやーやー!!」
 
カービィもそれを承知した上で、嫌だと駄々をこねているのだろう。
無理も無い。
これは下手を打てば、フームという少女が見るも無残な「潰れたトマト」になりかねないのだから。
 
 
「大丈夫、私は信じているわ。だから、あなたも自分を信じて、カービィ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
 
 
しかし今は、やるしかない。
これ以上無駄な戦闘が長引けば、ダークマターに横暴の限りを尽くさせる事になる。
正義を愛するカービィとしても、許す訳にはいかない。
 
 
「・・・・・・ぽよ!!」
「やってくれるのね、ありがとう!・・・・・・それじゃ、ソードビームのチャージお願い!!」
 
 
剣を掲げ、光の粒子が刀身に収束。
時間を経ていくうちに剣は輝きを増していく。
 
異変に気づいたクラッコリベンジ、一刻も早く例のスーツを溶かそうと酸性の攻撃を乱発。
だが、ちょこまかと動くワープスターのせいで思うように攻撃が当たらない。
一発、また一発と外す度に目が血走っていく。
それに比例して、攻撃を外す確率も上昇。
その様子を観察していくうちに、彼女は思った。
 
復讐魔獣は恐らく、全ての魔獣の中で最も悲しい存在ではないだろうかと。
 
 
自分の目で目撃したのはこの一体のみだが、そう思わずにはいられないものがある。
クラッコリベンジはたった一個人への強い憎しみに駆られ、強化された能力と引き換えに理性を欠くようになった。
今までの行動を見れば、それは明白なもの。
効かない攻撃があると分かっているはずなのに、度々織り交ぜて繰り出すことを決して止めない。
一番の障害たるフームを排除しなければならないにも関わらず。
 
容姿もかつての己とは程遠い、禍々しいものに変えられた。
それでもなお、復活と同時に課せられた目的を果たそうと必死になるその姿からは、哀愁以外の何も感じられなかった。
或いは、哀れみか。
 
 
 
「ぽよ!!」
 
彼女の意識を寄り戻したのは、カービィの声。
見れば刀身の輝きは、今まで見てきたものの中でも最高だった。
これなら一撃で勝てる。
 
「いい?私が飛び降りてしばらくした後に合図を出すから、その時に思い切り撃って!」
 
黙って頷くカービィ。
後は降下のみとなった。
クラッコリベンジの猛攻が途切れる隙を探り、飛び降りるタイミングを伺う。
数十秒後、その時は訪れた。
 
 
「行くわよ!!」
 
 
勇気を振り絞り、決死のスカイダイビングを敢行。
だが、運が悪かった。
成功はしたものの、それに気づかないクラッコリベンジは大量の水球を放散。
元から服を着ていないカービィには無効だったが、フームには。
 
 
「きゃあっ!!?」
 
 
当たってしまった。
弾ける水球。
そしてスーツに覆われていた体中の皮膚が、場違いな開放感に襲われる。
不味い。
恥ずかしい。
しかし、今はそんな事を言っていられない。
ここで実行できなければ、自分はカービィの信頼を裏切る事になる。
 
 
恥じらいを一瞬だけ押し殺し、精一杯の声量で叫んだ。
 
 
 
 
 
 
カービィ!!!ソードビームよ!!!!
 
 
 
 
合図を聞き取ったカービィ、剣を振りかぶる。
フームの姿は既に雲の中へ消えた。
敵の作戦にようやく気づいたのか、益々目の血走るクラッコリベンジは最大出力の電撃を放出。
そして放たれた光の刃、ソードビーム。
片や大蛇の如き姿の稲妻、ディストラ・プラズマ。
互いの全てが込められた切り札同士、真っ向より激しくぶつかり合う。
壮絶な押し合い。
 
 
 
フームの身を案じたカービィが、下を余所見している間に戦局は一変。
それまで僅かの差で上回っていたディストラ・プラスマが、突如真っ二つに切り裂かれる。
押し合いの末、ソードビームが打ち勝ったのだ。
 
 
掻き消された稲妻。
そして光の刃はクラッコリベンジの体を貫通。
カービィが視線を戻した頃には既に、体を接着する事すら叶わず爆発、四散。
この時点で、彼の勝利は完全に決まった。
 
 
「ぽよ!!!」
 
 
勝利の余韻に浸る暇など無い。
フームの信頼を裏切ってはならないと、すぐにワープスターで地上へ急行。
 
 
考えうる最悪の結末である、「潰れたトマト」だけは回避せねばならない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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