エイト

 

 

 

 

 
 
 
大佐が紅き重戦車『クリメイシェナー』に乗り込むと、キャタピラが唸りを上げる。
戦闘開始の合図。
 
 
「来るぜ、シリカ!!」
「分かってる!!」
 
重量級とは思えない速度で走行、ナックルジョー達に突っ込んでいく。
咄嗟にそれぞれ左右へ避けるが、クリメイシェナーはそのまま彼らの後ろに在ったカービィの家を踏み潰す。
瞬く間にカービィ宅は見るも無残な姿と成り果てた。
 
消し炭だ
 
静かな、しかし計り知れない怒りを込めた声と共に、3門の砲口が一斉に火を噴く。
二手に分かれて逃げるジョーとシリカ。
着弾地点からは大きな火柱が吹き上がり、火の粉が飛び散った。
 
「野郎、とんでもねぇ破壊力だ!!スマッシュパンチ!!」
 
気孔弾を一発。
紅き装甲には傷一つ付いてない。
お返しとばかりに砲弾が一発。
慌てたジョーは持ち前の運動神経で走って避けた。
 
生半可な攻撃が通用しない事ぐらい、彼でも分かっている。
それでも一発ぐらいは叩き込まねば気が済まなかったのだろうし、クリメイシェナーの強度が如何程のものかを確かめる意味もあったのだろう。
 
「駄目だ!コイツ、見た目通り硬ぇ!!」
「一発だから駄目なんでしょ!!こういうのは何度も打ち込んで、集中的にダメージを与えるものよ!!」
 
戦車の砲口は丁度、シリカの位置と真逆に向いていた。
要は後頭部をこちらに曝している、隙だらけの状態。
バズーカ形態の改造銃を肩に担ぎ、ミサイルを連続発射。
こういうのは砲手を叩くのが一番手っ取り早い。
何所でも良いから徹底的に攻撃し、何とか内部を露出させようと考えていた。
そう考えた末に狙いを定めたのが、砲門と対の位置にある背中側。
 
≪小賢しい≫
 
敵も馬鹿ではない、むしろ総合的に見ればずっと賢い。
戦車上部を回転させ、こちらに砲身を向けようとしていた。
しかも、両腕を併せた全砲台で撃ちながらのおまけ付き。
 
戦車にあるまじき連射速度だったが、驚く暇は無い。
砲弾の嵐から逃れようと、自身もクリメイシェナーの周囲を旋回。
 
「ジョー!!今私が撃ち込んだ所を重点的に攻めて!」
「了解っ!!!」
 
塵も積もれば山となる。
呑み込みの早いジョーは戦車の黒ずんだ部分に狙いを定め、スマッシュパンチを繰り返す。
気孔弾だけでは効果が薄いと感じたのか、突然高くジャンプ。
落下の勢いを利用して、力強い拳を叩きつけた。
かちわりメガトンパンチ。
ヒビこそ入らなかったが、若干は拉(ひしゃ)げたように見受けられる。
 
≪命知らずめ≫
 
ジョーが離れると、両脇のロケットランチャーが起動。
こちらに狙いを定めるのかと思いきや、天を仰ぐとミサイルをそれぞれ4発、合計8発撃ち出した。
謎の行動に首を傾げるシリカ。
 
「へっ、脅かすんじゃねぇよ!!」
 
特に気に留める様子もなく、ジョーは攻撃を続行。
クリメイシェナーの砲撃を掻い潜り、再びかちわりメガトンパンチを叩き込もうと接近する。
しかし、今度は戦車上部が大回転し、簡単には乗らせないという拒絶意思を見せた。
ならば遠距離攻撃だと、一旦離れてスマッシュパンチを連発。
 
片方が敵の気を引き、その隙にもう片方が後ろから攻撃するのはどうだろうか。
そう彼に提案しようとした時、空を見上げたシリカの顔が青褪める。
罠だ。
もっと早く気づくべきだった。
 
 
「ジョー、今すぐそこから逃げて!!さっきのは時間差攻撃よ!!!
 
 
天を仰ぐジョー。
頭部から落下する先程のミサイル群を目視し、やはり青褪めた。
あれは無駄な攻撃では無かったのだ。
本体の動きに気を取られ、油断したところを絶妙なタイミングで襲い来る時間差攻撃。
ジョーは警告どおりその場を逃げようとするが、着弾時の爆風が強力で体を煽られ、転んでしまう。
次々とミサイルが着弾し、辺りは炎と煙に包まれた。
 
 
「ジョー!!お願い、返事して!!ジョーったらぁ!!!」
 
 
 
自分のせいだ。
敵の動きをよく観察しなかった事で、友を、掛け替えの無い人を危険に曝した。
 
彼の名前を叫ぶ。
返事は無い。
 
 
絶望に沈め
 
 
非情にもクリメイシェナーは更に砲撃を続け、炎の規模を拡大させた。
まだ生きているかもしれないというのに。
止めろ、と何度も叫ぶシリカ。
砲撃は止まない。
むしろ戦車自体が突撃し、ジョーが転んでいたであろう付近を容赦なく踏み荒らす。
どさくさに紛れ、時間差ミサイルを一発撃ち出して暫く後に大量連射という、巧妙な撃ち方をしていた事など彼女は気づかない。
 
 
 
「うわあああああああああああああああああああッッッ!!!!」
 
 
 
絶望的な光景を目の当りにしては、些細な兆候も目に入らなかった。
湧き上がる憤怒の感情。
 
 
よくも、よくもナックルジョーを。
人の命を虫けらみたいに踏み潰して。
許さない。
絶対に許さない。
あんな奴は正義でも何でも無い、人の心を持たない鬼だ。
鬼どころか、戦車にいたっては悪魔そのものに他ならない。
 
復讐だ。
奴が同等の裁きで罪を償わせると言うのなら、こっちにも同じ理屈は通る。
絶対に生かしておけない。
戦車から引きずり出して、あの憎らしいポーカーフェイスを泣き顔に歪めるまで殴り続けてやる。
 
 
「この―――――――――」
 
 
 
紡ごうとした先の言葉は、爆音に掻き消された。
先の一発目が前方で着弾、体が大きく吹き飛ばされる。
うつ伏せに倒れ、起き上がって顔を拭う。
手袋にべったりと付いた血。
爆発のダメージによる出血。
 
はっと我に返り、空を見上げた。
 
 
 
「あ・・・・・・・・・・・・」
 
 
シリカの表情が、苦痛から再び絶望へと変わった。
 
 
天より飛来するミサイル。
それも先程の比ではない、軽く2桁を越える物量の弾幕。
 
 
完全に相手の狙い通りだった。
周りが目に入らないのをいい事に、ミサイルを最初に一発だけ発射。
後に本命の大量発射。
直撃せずとも動きを封じれば良い訳で、だから始めに一発しか撃たなかった。
 
あの時、発射の様子を見逃していなければ簡単に避けられたはず。
ところが冷静さを欠いた事により、このように意図せずして自らの墓穴を掘ってしまったのだ。
 
 
 
「はは・・・は・・・・・・馬鹿だな、私・・・・・・・・・こんな、所で・・・」
 
 
 
迫り来る弾幕。
体が痛みで悲鳴を上げ、言う事を聞かない。
今から起き上がっても、逃げ切れる可能性はほぼゼロ。
例えミサイルの雨をやり過ごしたとしても、疲れを知らぬ紅の重戦車が追い討ちをかけてくるのは明白。
逃げ場など、無い。
 
≪終わったな≫
 
終わってしまうのか。
これから汚名を晴らすための長い旅が待っているのに?
こんな、冒険の1ページ目が始まったばかりの所で死んでしまうのか。
嫌だ。
生きたい、生きたい。
死にたくない、死にたくない、死にたくない。
 
 
 
誰でもいいから、助けて。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「ったく、オメーらしくねーなぁ」
 
 
 
 
俄(にわ)かに信じがたい声が聞こえた。
ジョーだ。
血が目にまで入り、視界は赤く染まっていたが間違いなく本人だった。
 
 
シリカを手早く背負い込むと、ジョーは直ぐにその場を脱した。
ミサイルが降り注ぐ中、クリメイシェナーの砲撃も加わった阿鼻叫喚の地獄絵図。
それにも関わらず、華麗な身のこなしで攻撃を悉く回避。
クリメイシェナーから遠ざかるように走り続ける。
 
 
良かった、生きていた。
もう死んでしまったものとばかり思っていた。
 
 
「あれ・・・・・・どうして・・・・・・・・・?さっき・・・」
「ちゃんと逃げたんだぜ。なのによ、勝手に死んだと勘違いしやがって。傷ついちまったぜ」
 
 
勝手に思い込んでいた事に対して不機嫌そうな顔のジョー。
多少怪我こそしていたが、ハキハキと喋る様子からして平気のようだった。
 
 
「とりあえず、お前をヤブイの所に・・・・・・」
「大丈夫、ちょっと血が出てるだけだから・・・・・・」
「何言ってるんだよ!!お前が思っている以上に傷が酷いんだぞ!!」
「だけど・・・・・・」
「シリカ」
「?」
 
 
 
 
 
 
「言ったよな?お前の事を守りたい、って。死ぬまで一緒に生きたいって」
 
 
 
 
 
「!!・・・・・・そうだけど・・・・・・」
「だから俺の言う通りにしろ。俺はお前を死なせたくないんだ。いや、絶対に死なせやしねぇ!!
 
力強い叫びに、シリカはそれ以上反論しなかった。
反対を押し切ってまで戦おうとすれば、あの時の決意を反故にする形となる。
今は大人しくしていよう。
彼の意思を尊重するために。
 
 
しかし、ここである問題が浮かんだ。
帝国軍とダークマターの戦いは一体どうなっているのだろうか。
最も、どちらが敗北しようとも、結果的に自分達が不利になる事には変わりないのだが。
 
 
のがさんぞ!!!!
 
 
やはり、簡単には見逃してくれなかった。
クリメイシェナーは猛然と走りつつ、苛烈な砲撃を仕掛けてくる。
だが、そのスピードは決して速くない。
 
「へん、所詮は鉄の塊だな!!」
 
ジョーは全速力で飛ばし、クリメイシェナーを楽々と引き離した。
 
 
 
 
「見えた!!スマッシュパンチ!!」
 
 
ヤブイの診療所を目視するなり、気孔弾で窓ガラスを打ち破った。
そしてダイナミックに突入。
突然の出来事に驚きを隠せないヤブイ。
 
「な、な、な、なんじゃああああ!?」
「じいさん!悪いけど、コイツを頼む!!」
 
ベッドの上にシリカを寝かせ、直ぐに窓から出ようとする。
 
「え?うおおっ!これは酷い出血だ、何でこうなったんじゃ!?」
「後でじっくり話す!!俺は後で必ず引き取りに行くから!!」
「う、うーん・・・・・・まあ良い、すぐに手当てせねば!!」
 
再び外に出るジョー。
ヤブイは慌てて机の引き出しを漁り、消毒液と清潔な包帯を取り出す。
 
「参ったのぉ・・・こんな事はプププランドに来て以来、初めてじゃ・・・・・・」
 
ピンセットで掴んだ綿を消毒液に浸し、傷口と周りの血を軽く拭いた。
傷に消毒液が染みて痛がるシリカ。
止血のために包帯を丁寧に巻き、良し、と軽くガッツポーズ。
もしや、こういう手当ては殆どやった事が無いのだろうか。
 
 
「一先ず、これで大丈夫じゃろう。輸血も出来んような寂れた土地だが、これだけでも耐えられるか?」
 
「ええ・・・・・・私は平気だって言ったのに、ジョーが聞かなくて・・・」
 
「・・・アレ、お前さんのカレシか?随分と大胆な奴じゃな・・・・・・」
 
「あはは、そうでしょう?でも、ああ見えて結構頼れるの。だから好き」
 
「ふーん、そうか・・・最近の若者の恋は、年寄りのワシらに理解できんなぁ・・・」
 
「だって、恋の病は医者には治せないでしょ?」
 
「・・・まあ、お前さんの言う通りじゃが・・・・・・」
 
 
 
それにしても、あの様子だとジョーは単独でクリメイシェナーに立ち向かっていくとしか思えない。
果たして、本当に大丈夫なのだろうか。
 
「・・・ちゃんと帰ってきてね、ジョー」
 
一時の休息の中、少女は彼の無事を願う。
 
 
 
 
「おや、今日初めての日光だ・・・・・・物凄い勢いで晴れておるのぉー」
暗雲の切れ目から除く日の光を眺め、ヤブイが呟いた。
 
 
 
 
 
____________________________
 
 
 
 
とある臆病者の兵士は、冷静に今の状況を客観的視点で見つめていた。
 
帝国軍は明らかに追い詰められている。
有効なカードと成り得たはずの閃光弾が、底を尽きたせいだ。
HR-Cもそれの弾薬が尽き果て、言っては悪いが鉄屑同然。
オボロヅキの無敵能力を解除する手立てが失われ、同僚の多くが戦況を絶望視していた。
もう駄目だ、勝てない、と。
 
 
当の自分は、戦いに加勢する事が出来ない。
違う、怖くて立ち向かえないのだ。
厳しい入隊試験を合格した後も治らなかった、臆病な性格が災いして。
倒れている他の同僚に申し訳ないと思いながらも、これ以上一歩前に踏み出せなかった。
あまりにも、敵が強すぎる。
中佐の窮地に駆けつけた“元”星の戦士のメタナイトでさえ、有効な決定打を見出す事が出来ない。
そもそも相手は能力の発動によって、実体が現実世界に存在しないのだ。
これでは幾ら足掻いても無駄。
 
 
そして気づいた。
追い詰めたのは我々では無い、オボロヅキであると。
追い詰められたのはオボロヅキでは無く、他でもない帝国軍だったと。
 
 
「現役を引退した者としては、よく頑張った方だな」
 
現にオボロヅキの様子はどうだ。
戦闘から既に長時間経過しているにも関わらず、マントの微かな切れ目以外の傷は一つも無い。
疲弊しきった帝国軍らに対して、あまりにも残酷すぎる現実。
 
 
 
「ところで、メタナイト!」
「何だ、マター中佐」
「知っているか?奴と兄者はファミリーネームが殆ど同じなんだ。同じ“ダークマター”だから紛らわしいのなんのって!おかげで兄者には「ダーク大佐」、奴には「オボロヅキ」という・・・」
「・・・・・・こんな時に無駄話は止めてもらおうか」
 
一時的な味方に対しても、平然と剣を向けるメタナイト。
これが上司と部下だったら軍法会議モノだ。
 
 
「はん、面白くねぇ奴だな!そうだよ、無駄話だよ!!・・・どうやって奴を倒せば良いかも分からないんだから、仕方ないだろ」
「・・・“冷血の暴君”。かつてそう恐れられた軍人の言う台詞ではないな」
 
かつての異名を言われ、顔を顰(しか)める中佐。
何が気に障っていたのかは自分が知る由も無い。
 
「よしてくれや、もう昔の話だ。今の俺はただの怒りっぽい頑固オヤジ。おまけに現在絶賛往生しかけ中だぜ」
「・・・・・・それはどうかな」
 
 
空に渦巻く暗雲を指差すメタナイト。
何ぞ、と呟いた中佐が見上げた其処には、驚くべき光景が広がっていた。
 
 
 
「・・・おい!おい!!これは一体どうなってるんだ!?」
 
 
驚愕したのは中佐だけでない。
自分、兵士、HR-C、そして盲目が疑われているオボロヅキまでも。
いや、恐らくプププランド全土の住人が驚きを隠せない事だろう。
 
「・・・え?」
「誰がやったんだ?!」
「・・・・・・馬鹿な・・・・・・クラッコリベンジが・・・・・・・・・!!」
 
 
 
暗雲の一部に生じた切れ目より、陽光が射していた。
 
 
あの雲は確か、オボロヅキの侍らせている魔獣が引き起こしていたはず。
強力な電気を自在に操るため、いかなる戦闘機でも迂闊に戦いを挑む事が出来ない。
そんな強敵を撃破したのは、一体何者か。
 
そうこう考えるうちに雲の層は早いペースで薄くなり、見える青空の面積が大きくなった。
 
 
「馬鹿な!馬鹿な!!止めろぉ!!俺の体が!こっちに引きずり出される!!」
 
 
頭を抱え、苦しみ出す。
影の中に潜り、逃走を図るオボロヅキ。
先程召喚した土竜魔獣の掘った穴に避難しようとしていた。
しかし容赦なく照らす光。
一帯は日光に囲まれ、影の海は跡形も無く消滅。
 
 
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 
 
潜行していたオボロヅキの肉体が、地上に引きずり出される。
その場にいた者達は、皆一様に同じ確信を抱いていた。
倒すなら、今だ。
 
「・・・・・・形勢逆転だな。HR-C!!システムに異常は無いか!?」
 
疲労困憊だった中佐の目に、活気が漲(みなぎ)って来るのがよく分かった。
一方で、メタナイトは何を見つけたのか黙ってその場を走り去ろうとする。
 
「おい、何やってんだ!!」
「!・・・・・・森の方に落下するものが見えて、思わず気を取られただけだ」
「全く、だらしのない!!」
≪システム、オールグリーン。何時でも戦闘行動可能≫
「よっしゃ!!兵士ぃ、戦える気力のある奴だけ起き上がれ!!!」
 
 
中佐の言葉に反し、ほぼ全ての兵士が掛け声と同時に身を起こした。
戦況に希望が見えたからだろう。
かくいう自分自身も、何故か負ける気はしなかった。
 
HR-Cの両腕の鋏が開き、大量の電磁球を射出。
全部命中して弾け飛び、敵は身動き一つ取れなくなった。
 
 
 
 
袋叩きだぁ!!!!
 
 
 
 
 
心に闘志の漲った兵士達が突撃。
周囲の状況を飲み込めず困惑するオボロヅキ。
一斉に飛び掛り、殴る蹴るの集中攻撃。
全員、今までの恨み辛みを晴らさんとばかりに鬼気迫る勢い。
その中の一人が武器を奪おうと、魔刀に手をかけたその時。
 
 
「なめるな、雑魚どもぉ!!!!」
 
 
電磁球のバインド効果、時間切れ。
体を回転させ、馬乗りになっていた兵士達を吹き飛ばした。
ゴーグルにヒビの入ったオボロヅキは怒りに震え、半ばヤケクソ気味に剣を振り回し始める。
凶刃の矛先に居たのは、正面にその姿を捉えている自分自身。
 
 
「危ない!!」
 
 
無論、逃げる訳にはいかない。
この男の無敵能力に恐れを成し、自主的に戦闘に参加しなかった自分が恥ずかしく、腹立たしいから。
せめて、ここで汚名を返上せねば帰りを待っている家族に申し訳が立たない。
 
振り下ろされる剣を双槍で受け止め、押し合いに持ち込んだ。
周囲からどよめきと悲鳴が上がる。
 
 
「うぐぐぐぐぐぐぐ!!!」
「カービィか!?フォトロンの少女か!?メタナイトか!?それともマター中佐か!?お前は誰なんだぁっ!!!」
 
 
最早、目の前の人物を特定する事も出来ないオボロヅキ。
哀れな魔刀の主に対し、自慢げに切り返した。
 
 
「俺か!?俺はただの一般兵だぁぁッッ!!!
 
 
剣を弾き返し、よろめかせる事に成功。
見たか、これが雑魚の底力。
だが、仕返しとばかりに極小サイズの暗黒球が飛来、小規模の爆発を引き起こす。
自分の体は宙を舞い、背中から地面に打ち付けられた。
 
 
「うう・・・・・・・・・面目ありません、中佐殿・・・・・・」
「いいや、よく頑張った!!後は俺達に任せろ!!!」
「は・・・はい・・・・・・・・・・・!!」
 
 
仰向けに倒れる自分の左右脇を、中佐、メタナイトの二人が抜ける。
 
 
「ここまで来れば、後はどんな攻撃も効く!!助力を頼む、マター中佐!!!」
「フッ・・・じゃあ、これで俺への「貸し」はチャラにさせて貰うからな!!」
「何とでも結構!!」
「よっしゃ、行くぞ!!!」
 
 
バーブレスから鋭い冷気が噴出し、今まで見てきたものよりもずっと鋭利で大型のアイスブレードが作り出された。
その数、合計6枚。
メタナイトは黄金の剣を天に掲げると、天空より光の帯が束となって収束。
 
 
 
「おお・・・分かる!目が見えなくても、これだけは分かるぞ!!忌々しきギャラクシアァァァッッッッ!!!!
 
 
オボロヅキも地面に魔刀を突き刺す。
刀身が禍々しい血の色の光を発する。
周囲の土が痩せこけ、草木は凄まじい速さで枯れていく。
もしや、あらゆる生気を吸収しているのか。
人も吸われてしまうのでは、と恐れた兵士達は急いで退散。
自分もそれほど酷使していない体を鞭打ち、その場を離れた。
 
その数秒後、引き抜いた魔刀を振りかぶるオボロヅキ。
メタナイトも力を溜め終えると、同じ態勢を取って振りかぶる。
 
 
 
 
俺の勝ちだ!!!オボロヅキブレードビーム!!!!
 
 
 
一閃と共に、深紅の光の刃が振り抜かれた。
あらゆる全ての「負」を凝縮した波動を纏い、メタナイトに迫る。
通過した所が瞬く間に生気を失っていく。
恐ろしい力だ。
吸い取った生気の面影はとっくに、長年蓄積されてきたであろう怨念に押し潰されていた。
これが、魔刀オボロヅキの力。
 
 
「・・・・・・誰が勝つと?」
 
 
メタナイトは全く動じることなく、黄金色の光の刃を振り抜く。
負の塊と衝突し、更に強いエネルギーが発生。
周囲の景色が歪むほど強烈なものだった。
 
 
 
「僅かな差が命取りなのだ、メタナイト!!貴様の薄っぺらな正義よりも、俺と魔刀の溜め込んできた負のエネルギーこそが僅差で勝っている!!!」
「そうだな、間違ってはいない。だけどな、力の大きい奴が強いなんて理屈がまかり通ってみろ・・・・・・」
 
メタナイトから若干離れた位置に移り、スタンバイしていた中佐。
アイスブレードを前方に構え、勝ち誇った笑みを浮かべる。
 
 
 
 
 
 
コイツに俺の力を併せた時点で、お前の負けだろうッッ!!?
 
 
 
 
 
6枚のアイスブレード、一斉射出。
光の刃に当てない形で命中すると、氷、深紅、二つの刃は一気に掻き消えた。
 
 
「なっっ!!??」
 
 
気で消失を感じ取ったのか、一瞬驚くオボロヅキ。
その僅かな時間の間に、ソードビームが体を貫通した。
決定的瞬間を目に焼き付ける兵士達。
 
暫しの無言の後、オボロヅキの首がうなだれる。
 
 
「・・・・・・嘘だ。俺はまだ、殺しきれてない」
「・・・ダークマターよ。そなたはもう、真っ当な死に方をすることは出来ない」
 
 
異変。
見れば、徐々に黒い砂粒と化すオボロヅキ改め、ダークマターの肉体。
メタナイトの言う通り、彼は既に普通ではない死を迎えようとしていた。
 
 
「魔刀に魅入られた者はどのように生きようと必ず、血肉も、魂も、一滴残らず糧にされる」
「まだ、世界に、10430607908人もの、フォトロン族が、残っている」
 
 
彼のそんな願いは未来永劫、決して叶う事は無いだろう。
魔刀に体の半分を喰われてもなお影を、僅かな日陰を求めてゾンビのように這いずり回っている。
 
 
「使命、果たす、ゼロ様の、ために。フォトロン族に、死を。フォとろンぞくニ、シを」
 
 
言葉すらまともに話せなくなっていく中、彼の意志は虚しくありながらも決して、揺るぎはしなかった。
それはただ一つ、フォトロン族への復讐。
 
 
 
「フォ・ふぉトロン・ン・ぞぞぞぞクニ・シヲ・シヲ・シヲ。フォ・ト・ロン・ゾク・ニ・シヲ・・・フォ・・・ト・・・・・・ロン・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
 
 
魔刀を近くの岩に突き立て、残された腕も完全に消滅。
最期の瞬間まで、誰一人として見逃す事は無かった。
 
 
兵士達は歓喜の声を上げることなく、力尽きたかのようにその場でへたり込んだ。
緊張の糸が切れ、皆疲れて倒れ込む。
かろうじて普通に行動できる中佐は一人ひとりに対し、わざわざ激励の言葉をかけてくれる。
勿論、この戦いで初めて勇敢な行動を取った自分にも。
 
「向こうに帰ったら、一先ずは他の奴らにも奢るつもりだ。お前も来るか?」
「・・・・・・はい!!」
 
 
 
 
 
 
「・・・・・・・・・終わったか・・・・・・」
 
ほっと胸を撫で下ろすメタナイト。
疲れてぐうの音も出ない彼らを後に、気になるものが落下した森の奥へと消えた。
中佐は引き止める様子も無く、黙って敬礼。
それは彼に対する敬意と、感謝の意味であった。
 
 
 
 
 
憎しみに踊らされた暗黒戦士、ダークマター。
聖なる光と凍てつく正義の刃に貫かれ、ここに散る。
 
 
 
 
 
______________________________
 
 
 
 
決死の作戦は、最後まで見事に成功。
崩壊する雲の迷宮を突き抜け、地上へと落下していくフーム。
 
スーツは既に半分以上が溶け、既に服の定義を成していなかった。
しかし運の良い事に、落下先は帝国軍らが戦っていた場所から大分離れた森の中。
更に、あと少しで枯れ木の先端に貫かれるという間一髪の所で、カービィに拾い上げられて事なきを得た。
 
 
「どうなる事かと思ったけど、最後まで信じて正解だったわ。あなたって最高!!」
「ぽよ~・・・♪」
 
フームに褒められて大分上機嫌のカービィ。
 
 
「それにしても、さっきの光の柱は何だったのかしら?もしかして、メタナイト卿が・・・・・・?」
「ぽよ」
「・・・さて、とりあえず身を隠せるものは無いかしら?」
 
先程から長いこと茂みの中に身を隠しており、なかなか身動きが取れない。
 
「このままじゃ城に戻れないし、ダークマターの事も――――――」
 
 
 
 
 
「その心配は無い」
 
 
 
 
聞き慣れた声につられて、首から上のみを出した。
其処にいたのは、やはり。
 
 
「メ、メタナイト卿!!」
「・・・まさかとは思っていたが、あの雲の主に二人で戦いを挑んだのか?」
 
黙って同時に頷く二人。
 
「まったく、無茶をしてくれる。フーム、何故そなたまで・・・・・・」
 
やれやれ、と呆れ気味の様子。
フームはイチから事情を話し、こうなった経緯を誤解なきように説明した。
 
 
「・・・成程。確かにその様子を見る限り、カービィ一人で戦うには荷が重かったようだな」
「そうなのよ。・・・・・・で、私はこの有り様って訳・・・・・・ちょっと!?」
 
 
目の前でマントに手をかけると、突然ビリビリと豪快に破き始めた。
 
 
「何してるのよ、一体!!」
「フーム」
 
片手で目を覆い、破いた一枚のマントをフームに差し出す。
理由は言わずもがな。
 
 
 
 
 
 
「・・・乙女たるもの、人前でそんな格好をするものではないぞ」
 
 
 
 
 
その後、赤面したフームが黙って受け取ったのは言うまでも無い。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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