ナインス

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
一方、自称ジャーナリストのレイチェルを捕らえるよう命令されたマター少佐。
城の中で行方をくらませた彼女を探し出そうと必死だった。
 
 
「まったく!!逃げ足と口上は天下一品ですね!!」
 
 
何も手がかりが残されていないと分かった以上、各階層の部屋をしらみつぶしに探すしかない。
おまけに突然、謎の停電トラブルが発生。
今も復旧のめどは立たない。
少佐のストレスは溜まる一方である。
 
 
大体、レイチェルという女は以前からそうだ。
特ダネを手に入れるためなら、どんな手段を使ってでもモノにしようとする。
例え手段の不当性を問われようと、「正義のため」などと陳腐な言い逃れ。
 
果たして、どれほど多くの政治家連中がレイチェルに泣かされてきた事だろう。
彼女のやり方は汚い。
どんなに重要な機密情報ですら躊躇いもなくリークし、事を大げさにまくし立てる。
レイチェル自身や看板番組の知名度も相まって、世間に広まる速さが尋常ではない。
気づいた頃には火消しを試みても、遅すぎる。
四方八方から追い込まれ、最後は社会的抹殺を受けるのだ。
 
テレビにせよネットにしろ、嘘と真実を見分けるのは非常に難しい。
事の真相を知らされるまで、中身の真偽に関わらずそれが暫定的な真実となる。
結果的に嘘であれば、間違った情報を発信した媒体の責任追及や信用の失墜は免れない。
だが、レイチェルは違う。
正義を掲げる彼女がテレビを通して人々に伝える事は、一転の曇りなき「真実」なのだ。
いや、あの口から出るのは「真実」しかない。
信念を曲げぬ彼女が「嘘」をつくなど、妖星ゲラスが落下しても在り得ないだろう。
 
 
当然ながら、恐れを知らぬレイチェルの周りには「敵」が一杯だ。
理由は言うまでも無い。
かく言う帝国もその一部に過ぎないが、こちらにはサーチマターがいる。
責任や真実を追究する報道機関など、我が国には一つだけあれば十分だ。
 
 
「あー、面倒臭くなってきた!っと、エリートたるこの私が弱音を吐いてはいけないのです!」
 
 
捜索を諦めかけた少佐の心に火がつく。
一度命令された事を簡単に放棄しては、帝国軍のナンバー3は勤まらないと思ったのだろう。
とは言え、決定的な手がかりはまだ見つからない。
このままではレイチェルを捕まえるのが先か、或いは逃げられるのが先か。
 
「・・・よく考えたら、ハングリー精神の塊であるレイチェルが大人しく逃げ回るはずありませんよね・・・・・・だとすれば・・・・・・!」
 
 
今どこにいるのか、皆目見当がついてきた。
レイチェルは人を見る目がある。
あの大臣一家に疑いの眼差しを向ける余地など在りはしない。
では、彼女が向かいそうな場所とは?
 
 
「・・・・・・・・・居ない・・・・・・・・・」
 
玉座の間は不在。
発想を変えよう。
では、探究欲の旺盛な彼女が向かいそうな場所とは?
 
「地下ですね」
 
 
 
 
 
「おや」
「げっ!!・・・・・・こ、これはマター少佐殿・・・・・・」
 
どこへ向かっているのだろう、駆け足で急ぐデデデ大王達。
やはり、この男以外には考えられない。
 
「申し訳ありません。様々な事情が重なったせいで、色々と台無しになってしまいまして・・・・・・」
「構わんぞい!!憎きカービィをやっつけてくれれば、安いものぞい!」
「でゲス!」
 
どうやら、まだ我々がカービィを倒してくれるものと勘違いしているらしい。
更にさりげないタメ口。
媚び諂ってご機嫌を伺う相手は大佐だけだったらしい。
 
それにしても、頭の悪そうな割にはなかなかの悪党面をしている。
レイチェルにしてみれば絶好のカモに違いないだろう。
 
 
「・・・・・・ところで陛下。何所へ急いでおられるのですか?」
「地下ぞい!!」
「それも32階でゲス!!」
「エレベーターはお使いにならないので?」
「最初から使えたら苦労せんぞい!!」
「誰かが地下の電力ケーブルを断ち切ったせいでゲス!!」
「成程。では目的は電力室?」
「それだけでは無いでゲス!!32階にはメタナイトや大臣一家にも秘密にしている―――痛ぁっ!?」
「バカモン!!機密情報を簡単にばらしてどうするぞい!!」
「構いませんよ。私はあの馬鹿中佐と違って口が大変お堅いので、誰にも口外しません」
 
とは言っても、内容如何によっては無視できない可能性もある。
例えば、かのラージクリスタルが関与していた場合。
現在BBBは、それを最も欲している。
ゆえに帝国軍は彼らよりも先にラージクリスタルを手中に収めなければならないのだ。
 
「おお、そうか!!話は数年前に遡るのだが――――――!!?」
 
 
突如、1,2メートル先の壁が爆発。
 
 
 
モギィィィィィィィィィイ!!!
空いた穴から、ドリルと鋭い爪を生やした謎の生物が躍り出る。
 
 
「あれっ!?陛下、こいつは・・・!!」
「ワシが前にダウンロードした魔獣ぞい!!」
 
 
土竜魔獣モギー。
巨大なモグラを若干機械化した風貌のそれは、自分達に目もくれず階下へと掘り進んで行った。
少なくとも、帝国軍ナンバー3の自分がいながらにして眼中にも無いという事か。
 
「何ぞい、ワシらを無視していくぞい?」
「陛下!!もしや、アレを狙って・・・・・・」
「それは大変ぞい!!奴が掘った後から追いかけろ!!」
 
 
 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 
ああ、分かってしまった。
彼らがこの城の地下に何を隠したのか。
BBBがこの城の地下に何を見出したのか。
それは、そう、紛れも無い。
 
 
 
 
 
 
「あの馬鹿でかい宝石だけは、誰にも渡さんぞい!!!」
 
 
 
 
ラージクリスタルだ。
 
 
しかし、単なる勘違いかもしれない。
何もBBBが狙っているとだけで決め付けるのは早計ではなかろうか。
念のため聞いてみることにする。
 
 
「そろそろ話してくれませんか?」
「おお、そうぞい!!昔、ここに城を建てる時に掘り出したものでな、確か・・・・・・」
「ひし形のアメジストみたいに綺麗な宝石でゲス!!不思議なもので、放り投げても宙に浮いて止まって・・・・・・」
 
 
ああ、何という事だ。
それは完全にラージクリスタルではないか。
普通の宝石が宙に浮くような芸当など出来るはずが無い。
いや、レジェンドスターの文献に寄ればジェムスターと呼ばれる星に存在すると聞くが、そんな知識はどうだっていい。
ついでにレイチェルの事など知ったものか。
今は軍全体として最優先すべき行動を取るのみだ。
 
 
「・・・急ぎましょう。あくまで私の予想ですが、敵の組織が狙うほどの代物なら貴方がたの範疇に収まり切りませんよ」
「ど、どういう事ぞい!?」
「いいから早く!!」
 
ひたすらに掘り進むモギーを後ろから追跡。
だが、さすがはモグラだけあってそのスピードは尋常ではなかった。
いくらデデデ達が全速力で走っても追いつけない。
 
 
「わあっ!!」
「な、な、な、何でゲス!?」
「じれったい!!!」
 
 
このままでは埒が明かないので、電磁ビットの拘束機能を利用して引っ張る事にした。
足のある二人の運動神経に合わせていたら追いつくものも追いつかない。
 
「貴方がたにとっては何て事のないように思えるのでしょうけどね、我々にとっては一大事なのですよ!!」
 
事の重要性を説く暇もなく、一心不乱に走り続ける。
デデデ達が文句を言っているのが聞こえたが、お構い無しだ。
 
 
「追いついたぞい!!」
 
甲斐あって、ようやくモギーの背中を捉える事に成功。
どうやら硬い壁に阻まれて先に進めないらしい。
必死に殴りつけ、開通させようとしている。
倒すなら今がチャンスだ。
 
 
「失礼しますよ。はぁっ!!」
「「え?ぎゃあああああああああ!!!!」」
 
 
ビットを通じて二人に電流を流し、そのままモギーに投げつけた。
内心気に食わなかったので、実に良い気味である。
 
 
モギィッ!!?
 
 
背中から異物をぶつけられ、壁に激突したモギー。
倒れ込む魔獣の前から、ピシ、と嫌な音。
よく見ると、壁には亀裂が走っていた。
 
「あ」
 
徐々に亀裂は大きくなり、遂に音を立てて崩れ落ちた。
壁の向こうには、床に幾何学模様の刻まれた空間が広がっていた。
中央の階段を登った先に鎮座するは、デデデ達の話に在った巨大な宝石。
どこからどう見ても、間違いない。
正真正銘、本物のラージクリスタル。
 
 
横たわる魔獣の上を踏み歩き、3人は部屋に入った。
 
 
「おお・・・クリスタルルームぞい・・・」
「へ?貴方がたの手で作ったんじゃないんですか?」
「違うでゲス。元からあったんでゲスよ」
 
と言う事は、クリスタルとセットで発見されたのか。
確かに悪趣味そうなこの連中に、こんな神々しくもある内装のデザインが思いつけるはずもない。
恐らく、古代人が作ったものだろう。
 
「そうですか・・・・・・まさかとは思いましたが、こんな所に・・・・・・」
「何はともあれ、無事で良かったでゲス!ささ、陛下・・・」
「うむ。誰にも奪われないように持ち出さなければ!」
 
クリスタルに近づこうと階段を登り始めるデデデ。
しかし、少佐は見逃していなかった。
 
「!!お待ち下さい」
「何ぞい!」
「・・・本来入るべきだったはずの扉、あれをご覧ください」
「「!!」」
 
元々の入り口である鉄扉の施錠が、何者かの手によって外されていた。
 
 
「先客がおられるようですね・・・」
「どこにいるぞい!!」
「さっさと出てくるでゲス!!今なら懲役1000年で済むでゲスぞぉ!?」
 
 
周到深く、辺りを見回す一同。
これと言って怪しいものは特に見当たらない。
すると、少佐が古びた石版を発見した。
 
「何ぞい、これは?」
「・・・何語ですか、これは。読めませんよ」
「古代プププ文字でゲスな。生憎、陛下はアホダラでして字が読めなんだ・・・」
「・・・貴方は読めるんですか?」
「え!?ま、まあ・・・かじった程度で宜しければ・・・・・・」
 
石版をエスカルゴンに突き出し、解読を要求。
渋々了解し、文字列を読み始めた。
 
「ん~・・・ふんふん・・・・・・おおっ・・・・・・」
「何て書いてあるんだぞい?」
「え~とでゲスね・・・・・・」
 
 
_______
 
石の賢者は予言した。
遠い未来、邪なる暗黒と正しき暗黒の二つが激しくぶつかり合うだろうと。
やがて彼らの争いは宇宙中に飛び火し、宇宙が戦の炎に包まれるだろうとも。
そして、宇宙は滅びる。
 
これを防ぐのは、新世代の星の戦士とその仲間達。
始まりのきっかけは、天より落つる二つの光。
一つは小さき妖精。
一つは暗黒の憎しみの化身。
全ては複雑に絡み合い、一つの終わりに行き着く。
果たしてそれは、希望か絶望か。
 
_______
 
「どういう意味ぞい?」
「さあ・・・・・・とにかく、おっそろしい事が書かれているのは確かでゲス」
「最後まで読んで下さい」
「ああ、ハイハイ」
 
_______
 
希望を勝ち取りたくば、クリスタルの御心に委ねよ。
導きを受け、長き道のりの果てに全てが一つとなりし時、真の邪なる暗黒は打ち滅ぼされるであろう。
 
_______
 
「全てが一つ?」
「結構ややこしい話なんですよ。リップルスターの砕かれたクリスタルの事など、色々と・・・」
「しかしまぁ、真のってどういう事でゲしょうかねぇ?BBBだけじゃ無いんでゲスか?」
「そんなはずありません。この石版の通りなら、正しき暗黒とは我々の事で間違いないでしょう。本当に一体―――?」
 
少佐の視線がラージクリスタルの方に向けられた。
妙に先程より光り輝いている異変に気づいたのだ。
 
「・・・ちょっとまずいかもですねぇ」
「あら、何がまずくて?」
 
聞き覚えのある声。
本来、真っ先に捕まえるべきだったあの女。
 
 
「レイチェルゥゥゥ!!!」
「お先に失礼していたわ」
「お前は、さっきの!!」
 
 
何と驚くべき事か、レイチェルはクリスタルのすぐ傍に身を潜めていたようである。
階段の下からは死角になっていたのを良いことに、上手く隠れていたのだ。
 
「なぜ貴様がここにいるのです!!」
「それはワシの台詞ぞい!!」
「ふふ・・・・・・何てこと無いわ、単に埋もれた歴史を掘り起こしたい探究心が、勝手に私を動かしたのよ」
「へえ、貴女らしくないですねぇ?見なさい、ここに歩くスキャンダルがいると言うのに!!」
「なっ、陛下に無礼でゲスぞぉ!!」
 
 
 
「そんな男、悪いけど一面記事の価値すら無いわ。番組一覧表の裏面に載せるのもおこがましいぐらい」
 
 
 
「な、何でぞい!!ワシのような悪の独裁者を前にして!!」
気持ちは分かるが、そこは怒るところじゃないだろうに。
 
「所詮は田舎の小さな支配者。世界を揺るがすほどのスキャンダルなんて皆無よ。だからニュースで報道する気なんて起きないわ」
 
この女も主張がいちいち的確すぎて腹立たしい。
が、これでもあのナイトメア社と関わりを持っていた人物。
よくも簡単にそこまで酷評してくれるものだ。
 
 
 
「ところで少佐サン?さっきの事、忘れて欲しいのかしら?」
「当然でしょう!下劣なマスコミ如きが調子に乗るんじゃありません!!」
「あらあら、軍人さんって怖い怖い。キャー襲われちゃうー」
「くぅぅぅうっ!!」
 
レイチェルの挑発的態度には怒りが湧き上がってくるばかり。
今すぐにでも殴り飛ばしたい所だが、あくまで冷静なエリートとしての面目を優先して堪える。
そんな彼を差し置いて何時の間にか、デデデは階段を勢いよく駆け上がっていた。
 
 
「何を!」
「ワシの宝は誰にも渡さんぞい!!」
 
振り返って放った一声がそれか。
呆れた。
ラージクリスタルの事を何も知らないから仕方ないとは言え、あれを自分の私物としか考えていないのか。
ろくでもない男だ。
どうして今まで玉座から引き摺り下ろされなかったのか、最大の疑問に他ならない。
 
しかし結果的に、今回の大佐の介入は間違っていなかった。
こうして連中に接触する事が無ければ、ラージクリスタルは真の価値すら見いだされることなく、未来永劫愚かな独裁者のコレクションと成り果てていただろう。
 
 
「今すぐクリスタルから離れろぞい!さもなくば痛い目に遭わせてやる!!」
「お言葉には気をつけた方が良いですよ、国王陛下。先程から一連の会話は録音させてもらっているので」
「なっ・・・!?」
「まあ、歴史的価値のあるものを私物化していただけでも十分なスクープになりそうだけど」
「聞いたか、エスカルゴン!?これでワシもゴシップデビューぞい!!」
「何言ってるんでゲスか!陛下の醜態が世界中に曝されるって意味でゲスぞ!?」
 
 
勘違いデデデ、階段下のエスカルゴンに思い切り自慢。
あまりの楽天家ぶりにレイチェルも唖然とする他に無かった。
それはそうだろう、こんなに頭が悪くていい加減で我が儘な指導者など、彼女の記憶にある政治家連中とは全く当てはまらない。
 
馬鹿馬鹿しいやり取りの中、少佐はある事を思い出していた。
レイチェル登場のせいで思考から掻き消されてしまった、本来伝えるべき忠告を。
それは先程変化した、クリスタルの状態。
 
 
 
「二人とも!!そこから離れなさい!!!」
 
 
 
大声で叫ぶ少佐。
しかしクリスタル周辺の二人は、言葉の真意について理解が遅れていた。
それがどんな危険を孕んでいるかも知らず。
 
「え?」
「何ぞい?って、おわあっ!?」
 
突然、眩い光を放ち始めたクリスタル。
あまりに強烈な光の前では、思わず目を瞑る他に取れる行動は無い。
エスカルゴンも目を両手で覆っているため、状況確認など不可能。
ようやく光が収まり、クリスタルの方に目をやった少佐の表情が強張る。
 
 
「・・・・・・やはり・・・・・・・・・・・」
「へ?何が?・・・・・・あ“あ”あ“あぁぁっ!?!」
 
 
過剰なまでに驚くエスカルゴン。
無理もない、眼前に広がる衝撃の光景を目の当りにしては。
先程まで自称ジャーナリストと、それに詰め寄っていた大王は、もう。
 
 
 
 
 
 
此処には、居ない。
 
 
 
 
 
残されたのは、何ら変わらぬ様子で浮遊を続けるラージクリスタルだけ。
開いた口が塞がらないエスカルゴン、一体どういう事かと物凄い剣幕で少佐に問い質す。
 
 
「お前!!これは、一体、どうなっているんでゲスか!!!」
「・・・・・・クリスタルの力ですよ」
「力・・・?」
「私どもの調査で、転送能力を有している事が判明したのです。それも、全く別の星に」
「別の星?じゃあ、陛下がどこに飛ばされたか分かるんでゲスか!?」
「・・・困った事に、クリスタルは非常に気まぐれで。何時、どのタイミングで、何所へ転送するのか、未だに解明されていない事が多すぎるのですよ。
ま、我々が勝手にそう思っているだけでしょうけどね。クリスタルに詳しいリップルスターが一番よく知っているものと思われますが、また一つ問題が。
現在はBBBに占領されており、しかも別の星に設置されたシールド発生装置のせいで近寄れないのです。結局・・・・・・」
「そのBBBってのをやっつけないと、何も分からないんでゲスか?」
「必然的にそうなります―――――――――!!」
 
 
殺気に感づいた少佐。
気絶していたモギーが目を覚まし、自分らに襲い掛かってきたのだ。
逃げると同時にビットでエスカルゴンを引っ張り飛ばし、どうにか突進をやり過ごす。
 
 
「しぶといですね、大して強くも無いくせに!!」
「ああっ、クリスタルが!!」
 
 
猛ダッシュで階段を駆け上がると、ラージクリスタルを手にとって逆走。
そうはさせるものかと、穴の前で少佐が立ちはだかる。
兜の中より複数のビットを放出し、それぞれが何本もの電流で結ばれた。
長方形を成し、逃走を阻むビット群。
 
『モギッ・・・・・・・・・』
 
行きの道を塞がれ、動揺するモギー。
本来の入り口である鉄扉から逃走を試みようと考えるが、自分の体では小さすぎて通れないのは明白だった。
しかもこの部屋、モギーだけでもヒビを入れるのがやっとであるほど壁が堅い。
即ち、逃げ場は完全に失われた。
 
「さ、大人しくしてもらいましょうか」
「クリスタルを返すでゲス!!」
 
ビット群はモギーを取り囲み、じわじわと迫る。
その気になれば直ぐにでも圧殺できるのだが、あえてそうしないのが少佐の悪癖だった。
言い換えれば、サディスト。
 
『モ・・・・・・モ・・・・・・!!』
 
窮地に追い込まれた時、クリスタルが再び輝きを放つ。
転送能力なら倒す手間が省ける、と考えていた少佐の目は点になった。
 
 
 
モギィィィィイィィィィィイィィィ!!!!!!!!
 
 
 
光はモギーの体を呑み込むどころか、逆に光り輝かせていた。
次の瞬間、力任せに振り回した爪が電流の壁をあっさり破壊。
電気を失ったビットは力なく、次々と地に墜ちていく。
 
「なっ!?」
「このような現象、帝国軍のデータにはありません!!まさか、持ち主に力を与えているのですか!?」
 
そうだとすれば、何てパワーだ。
あのビットが織り成す壁は常人の力ではそうそう敗れるものではない。
一体どれだけの電流を流す事が出来ると思っている?
100万ボルトが限界だ。
普通の生き物なら即死であろうそれを、いとも容易く突破しただと?
在り得ない、もはや自分の理解の範疇を超えている。
 
「がはぁっ!!!」
 
思考に耽ったのが命取りだった。
モギーの突進を回避しきれず、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。
壁に叩きつけられ、呻き声を上げる少佐。
 
「大丈夫でゲスか!?」
「ま、まあ、何とか。しかし、掠っただけでこの有り様とは・・・・・・何と恐ろしいパワーアップでしょうか・・・・・・」
 
光り輝く魔獣に目をやると、クリスタルは3度目の輝きを放っていた。
今度は何だ。
転送か、あるいは更に常識外の強化を付与するのか。
 
「あ、ありゃ何でゲス!!」
 
答えは、そのいずれとも違った。
モギーの前の空間が歪み、星型のゲートが出現。
その向こう側には惑星が見えた。
一見すると大地が崩壊し、もはや死せる星と言い表すべきであろうそれに少佐は見覚えがあった。
 
「ゲート・・・・・・あれは、ホロビタスター・・・・・・?」
 
突然、ゲートに向かって風が吹き始める。
否、強い引力が働いていた。
吸い込まれまいと逆らうが、エスカルゴンは成す術もなく引き込まれてしまう。
 
 
おおお、お助けぇ~~~~~!!!!
 
 
手を伸ばして助けを請うエスカルゴン。
残念ながら、起動できるビットの不足でそれは不可能だった。
せめて、あと5,6個が無傷であれば。
 
 
 
 
 
 
あ~~~~れぇ~~~~~~~・・・・・・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
ゲートの向こう側に吸い込まれ、叫び声だけが無情に響き渡った。
もしや、先程の二人も同じ場所へ?
直後、ゲートは閉じられてしまう。
 
『モギィィィィィィィィ!!!!』
 
当の魔獣は気にも留めなかったようで、不可解な現象が収まると直ちに来た道を引き返して行った。
 
 
 
「何だよ、今の音は!?」
「こんなに深いものとは思わなんだ・・・・・・」
「ああっ、遅かったです!!」
 
入れ替わりに扉が開き、ブン、サーチマター、妖精族の少女ら3人が部屋になだれ込んだ。
 
「サーチマター。何故貴方がたまで此処に?」
「いえ、彼女ことリボンが・・・・・・」
「?もしや、リップルスターから逃げたという・・・・・・」
「あっ、帝国軍!!」
「なあ、さっき何が起きたんだよ!?」
 
 
それぞれの会話はまるでかみ合わない。
それよりも、と少佐は兜から無線機を取り出し、先刻の事態を報告すべき相手に伝えようと試みる。
 
 
「何してんだよ」
「しっ!!・・・・・・もしもし、こちらマター少佐。大佐殿!」
 
≪・・・・・・・・・何だ
 
 
表情が凍りつく少佐。
周りの3人はその様子を見て、首を傾げている。
 
不味いタイミングで応答させてしまった。
無線機からは大砲の音や装甲が叩かれるような金属音が聞こえる。
何が起きているのかは知らないが、今の大佐は相当怒っている。
こういう時に迂闊な言動を取ると、かえって逆撫でしかねない。
 
 
「そ、率直に申し上げます!!デデデ城地下でラージクリスタル発見!しかし、BBBの魔獣が強奪に成功してしまいました!!」
≪・・・・・・そうか。それは仕方ないな。今回は予想外の事態が多いようだ≫
 
打って変わって、いつものトーンに戻った大佐。
良かった、若干不機嫌なだけだ。
 
「ラージクリスタルって何だよ、サーチマターさん?」
「後で説明します」
 
「そちらは現在、どうなっておられますか・・・?」
≪天候が回復している。誰の仕業だ、カービィがやったのか≫
 
 
驚いた。
ダークマターの強みであったあの雲を排除するとは。
 
「!!すげぇ!!」
「シッ、お静かに」
「さすがはカービィさん・・・・・・レンズ王女様の見る目は間違っていなかったです!」
 
まだカービィとは断定できないが、これでオボロヅキも程無くして退却を強要されるだろう。
その前に、クリスタルは敵の手に渡ってしまったが。
 
「多分、そうではないかと・・・・・・」
 
 
 
≪・・・では、今後カービィに対する我々の考えを改めなければならんな。検討事項に加えよう≫
 
 
 
隣で小さくガッツポーズするブン。
それはそうだ、カービィの扱いが大分良くなるであろう事を約束したのだから。
 
 
「ところで、大佐殿は現在?」
≪交戦中だ。“例の件”の首謀者にして犯人と、な≫
「えっ!?」
 
更に驚いた。
オボロヅキだけでなく、奴らまでこのププビレッジに。
 
≪此処へ向かう途中で私の『クリメイシェナー』を投下したであろう?今、それに搭乗しているが私の不注意で大破、移動が出来ない――――――≫
≪≪おい、ここを開けやがれ!!ここから引っ張り出してやる!!!≫≫
 
「?今の声は・・・・・・ああ、“例の件”の犯人は確か、忌々しいドブネズミ共の事でしたね」
 
「こいつ!!」
「お止めなさい。彼を怒らせると酷い事になりますよ」
「だけど!!ジョーの事をあんな風に言われて黙ってられるかよ!?」
「落ち着いてください、ブンさん!」
 
 
そう、自分はあの二人をドブネズミと卑下している。
理由は単純だ。
裏社会で這い蹲るように生きている様を言い表しているだけだから。
 
 
≪いい加減抵抗を止めたらどうだ、汚らしい事この上ない、忌々しいドブネズミ共め≫
 
 
此処で大佐の笑えないお茶目が炸裂。
よりによって余計な言葉を上乗せして代弁してしまうとは。
 
 
「ちょっ、何も誇張して伝えなくたって・・・・・・」
≪≪何だとテメェ!!!出て来い、ぶっ飛ばしてやる!!!!≫≫
「ひっ・・・・・・!!」
 
言われているのは大佐だが、自分までびくついてしまった。
 
 
≪ネヴィ・ゲシェナー、ペイトリーエ、そしてクリメイシェナー。私の3大愛機の一つを潰した代償は高くつくぞ≫
≪≪冗談じゃねえ!!濡れ衣着せられたまま死んでたまるかってんだ!!さっきは俺のシリカを傷つけてくれやがって!!!≫≫
「濡れ衣?」
「説明してもらいましょうか、少佐殿?」
「いえ、これはまだ公表できない機密事項で・・・・・・」
≪・・・・・・・・・・・・・・・≫
≪≪おかしいだろ!!何で!何で!!帝国と関わりの持たない俺達が!!!≫≫
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
≪≪テメェらの皇帝を暗殺しなきゃならねぇんだよ!!!!≫≫
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
沈黙する大佐。
自分も同じ事だった。
周りの3人は驚きの表情を隠しきれていない。
 
帝国軍にとって、その叫びは単なる言い訳としか捉えない。
暫定的な事実だからだ。
 
あの状況はマターサ・ジェネラルス揃ってよく覚えている。
玉座の間を兼ねる円卓の部屋。
中央の椅子で、愛用の刀を胸に突き刺されて絶命した皇帝。
そして、我々が駆けつけた時点で屍の前にいたのはたった二人。
 
 
 
 
ナックルジョー。
 
シリカ。
 
 
 
元老院議長カスタールはその日を持って、二人を皇帝暗殺の実行犯と認定。
軍部は公に知られぬよう、極秘裏の拿捕作戦を決行。
 
決定に疑いの眼差しを向ける者は、誰一人としていなかった。
 
 
 
 
 
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